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第2回:山口 聡先生(ACW-DEEP)

第2回:山口 聡先生(ACW-DEEP)

自分を表現できる力は、どの業界に行っても必要とされる

様々なモチベーションの学生が混在するクラスなので、全員が授業について来られるよう、楽しくやることを大切にしていると山口氏は語る。
「脱落者を出さないため、退屈させないために、実習中心の授業にしています。加えて、基本的なことしかやらせないようにもしています。ただし、高みを目指す学生が飽きてしまわないよう、手間をかけるほど良くなる課題を設定しています」。

例えばモデリング実習の場合は、スイープやベベルといった便利な機能の使用を禁じているという。「3DCGの本質を理解してほしいので、最初のモデリングでは、ポリゴンの点や面の1つ1つを自分の手で編集することを必須にしています。ポリゴンとは何か、法線とは何かを座学で長々と語るよりは、実際にポリゴンを分割したり、ライトを置いてシェーディング結果を見たりしながら、体感することも重視していますね」。

「先生に聞く。」第2回・山口 聡先生02

また、モチーフには、コップや鉛筆といった実在する"固い"物体を選んでいるそうだ。
「人間などの"柔らかい"ものをモデリングしたがる学生もいますが、すごく難易度が高いですから、たいていは完成しません。だから授業時間内でやらせることはありませんね。どうしてもつくりたい学生は、勝手に自主制作でつくって、完成したら見せに来てくれます(笑)」。

アニメーション実習の場合は、山口氏がつくった簡素なロボットのポリゴンモデルを全員に配布し、それを使った映像を制作させるという。
「企画書、絵コンテ、プリビズ、本制作からなる一連のながれを全員にやってもらいます。特にこだわって教えているのは見せ方ですね。学生たちは写真やイラストの制作には慣れているので、おさまりの良い静止画をつくることは得意なのです。でもカメラを動かすと、それが崩れていく人が多い」。
こうやった方が観客に伝わりやすい、このカットを入れた方が気持ちが良いといったことを、学生の表現したいものを考慮しつつ、アドバイスしているという。

  • 山口 聡先生
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中央工科デザイン専門学校における山口先生の授業風景

さらに、完成した映像をクラス全員の前で発表することも必須にしているそうだ。
「最初は自己紹介すら満足にできない人もいます。でも、自分を表現できる力は、どの業界に行っても必要とされます。3DCGよりも、むしろそちらの指導の方に力を入れています」。

発表の際には、どんなに自分の作品が拙いと感じたとしても、いかに素晴らしいかを語るよう指導しているという。「大人になるということは、嘘をつくことだからと教えています(笑)。たいていの学生が、自分で自分を褒められなくて苦労するのですが、駄目出しはするなと言っています。同じように、他の人に対する駄目出しも禁じています。何故こうしたのかと責めるのではなく、こうしたら良いのではと、プラス志向の意見をいえるようになってほしいのです。その姿勢は、アーティストやデザイナーだけでなく、設計でも、営業でも、販売でも、どの職種でもプラスに働きますから」。

「先生に聞く。」第2回・山口 聡先生03

学校教育では、多様性に満ちた志向の、技術や知識レベルにバラツキのある学生を対象とする場合が多い。それに戸惑いつつも、全ての学生にとって価値のある授業を展開しようと試行錯誤を続けている山口氏。プリビズ・スーパーバイザーとしてだけでなく、講師としての活動にも、ひき続き注目していきたい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

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