>   >  戦記『キャプテンハーロック』:第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン
第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン

第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン

section 02:Management
長期的かつ安定的にハイクオリティを保つために

続いて、『キャプテンハーロック』の組織編成とプロダクション・マネジメントをみていこう。近年、3DCG 表現の高度・複雑化に伴い、制作進行の重要性が高まっている。本プロジェクトにおいて、MARZA はどのような管理体制を構築・運用していたのだろうか。


左から、宮本 佳プロダクション・マネージャー、三井智博氏、千葉隆司氏、森下健太郎氏、橋本典明氏、高橋あゆみ氏、槇野厚一郎氏、以上マネジメントチーム中核スタッフ

1 日のワークフローを明確に定め制作を安定化させる

クランチタイムは 150 名規模に達したそうだが、平均して約 100 名ほどの組織を、宮本 佳プロダクション・マネージャーの下に 7 名のプロダクション・アシスタントが 1 ~ 2 つのチームの進行管理をみるかたちで制作が進められた。
「当初は、Excel ベースでアセットや進行の管理を行なっていました。ですが、約 1,400 ショットという物量と各ショットに付随するあらゆる情報を管理し、共有する上ではどうしても限界がある。そこで途中から Shotgun を導入したのです」(宮本氏)。

Shotgun は、Double Negative/ダブルネガティブBlue Sky Studios/ブルースカイ をはじめ欧米の名だたるスタジオでも導入されている、映像制作に特化した Web ベースのプロジェクト管理ツールだ。アクセス権限に応じて、カットの情報や進捗、工数管理が行える。さらに、ユーザーごとのタスクの振り分けや進捗確認を関係者間で共有しながら制作が進められるようにもなっている。
「その他のツールも検討したのですが、イニシャルコストがかかり過ぎたり、柔軟性にかける、という問題がありました。その点、Shotgun は映像制作に特化して開発されているため、スムーズに導入することができました」(宮本氏)。

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『キャプテンハーロック』組織図
全 12 部門に分かれて、約 100 名の規模で制作が行われた。注目したいのはアートとレイアウトが部門として確立されていること。スープが立っていない部門は竹内氏が直接監修した。アートワークに特化したチームを設けることでルックデブやコンセプトデザインを明確にし、本制作においてデザイナーが補完しなければいけない曖昧な部分を減らすことができる。そしてレイアウト部門を構えることによって、まずアニマティクスを作成し監督の OK をもらうことで、アニメーション工程における尺や構図の変更を極力減らすことができる。こうしたワークフローは日本ではまだ馴染みのない部分だが、制作規模が大きくなればなるほど、各チームの担当領域を明確にすることで生産性を上げることが可能になるのだ

さらに検索とフィルタリング機能が強力なこともメリットだという。
「Shotgun では一元的にデータベースで全ての情報を管理しているので、ヒューマンエラーによる情報のいきちがいや、申し忘れといった問題を格段に減らすことができました」(森下健太郎プロダクション・アシスタント)。
そして創り出される表現だけではなく、制作スタイルもワールドクラスが意識された。「監督チェックは週 2 回でしたが、何らかのデイリーが社内の 200 インチスクリーンの試写室で行われていました。そのほかにも、各チーム内でのチェックが日々で行われていましたが、チェックシステムを明確に定めることで 1 日のタイムテーブルにルールが生まれ、時間単位で行動ができるようになりました。われわれマネジメントチームにとっても格段に状況を把握しやすくなりましたね」(宮本氏)。
制作後半には、一部のショットワークを韓国の AZworks が担当することになったのに加え、外部パートナーが MARZA 内で作業を行うための サテライトオフィス と呼ばれるスペースが設けられたが、Shotgun をベースにした管理システムを構築したことで、最後まで過度なオーバーワークを生じさせることはなかったという。

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1.Shotgun 特有の「チケット」、「ノート」によるデータ管理
Shotgun では全ての情報を「チケットとノート」と呼ばれるデータで管理しており、全チケットとノートに ID が付加される。この仕様によって全てのデータが一元管理され、データの検索やソート、各データの関係付けが容易に行える。また、各ユーザーごとにアクセス権限が設定できるため、ユーザーごとのコスト管理まで行えるほか、外部パートナーとのやりとりもシームレスに行える

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2.スケジュール管理機能
各ショットの作業内容を基に生成されたガントチャートの例。作業工程ごとにスケジュールを作成し、各カットの進捗状況をひと目で確認できる。また、用途に応じてサムネイルを表示してデザイナーにとって見やすくしたり、全体の進捗状況だけを表示してマネジメント側から見やすいようにしたりといった変更も容易だという。映像制作用途に特化したShotgunならではの強みと言えるだろう

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3.レビュー機能「Screening Room」
Shotgun 上のレビュー機能の UI。ユーザーごとにコメントやチェックバックが簡単にできる仕様となっている。動画の編集も手軽に行えるため、監督に提出するためのデータの選定から再生まで、効率良く動画データの準備が行える

Column
データからみる『キャプテンハーロック』

少し視点を変えて、統計データから『キャプテンハーロック』がいかにハイクオリティに仕上げられているかみてみよう。右に載せた数値は、本プロジェクトではテクノロジーチーム(後述)を率いた堀口直孝 CTO から提供されたもの。さすがは、Arnold というレイトレーサーによるフル 3DCG アニメーション長編といったところだろうか。
「サーバを調べたところ、本プロジェクトで作成された、OpenEXR ファイルは約 5 千万ファイルありました。消したものや、作業中に作られたものを含めたら 1 億ファイルに達していたと思われます」(堀口氏)。

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