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第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン

第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン

section 03:In-House Technology
画づくりを支えてこその自社開発ツール

最後に、プロダクション・パイプラインを技術面からみていく。MARZA におけるテクノロジーチームの役割は、自社開発ツールによるクオリティと制作効率の向上だという。『キャプテンハーロック』でも大小様々なツールが開発され、アーティストの画づくりに効率化をもたらした。


左から、松成隆正氏、ギデ・ガエトン氏、堀口直孝 CTO、守随辰也氏、脇坂 拓氏、以上テクノロジーチーム中核スタッフ

実データと創造性の架け橋となる

本プロジェクトでは、デザイナー、マネジメント、テクノロジーという、各部門が意見をもちより、ルールを考案し、ルールをサポートするツールが開発されていった。その主たるものが「mzAssetManager」 と呼ばれる Maya 用のシーン管理ツールである。これは全データをワークフローごとに適切に管理し、全てのデータをアセットとして読み込み、保存できるようになっている。そしてワークフローの面では「AssetPack(アセットパック)」と呼ばれる新たな概念が用いられた。例えば、体や服、持ち物といったキャラクターを構成する各種モデルデータをアセット(実データ)として保存し、それらを包括したものを「AssetPack」というデータベース上にしか存在しない"概念"として扱うことで、アーティストが直感的にデータ管理を行うことを可能にした。
「デパートメントによって各アセットの必要なレベルがちがいます。モデリングチームは各パーツレベルでの修正が必要ですが、アニメーションチームではキャラクター全体としてアセットを管理したい。そこで AssetPack を用いることで各チームのニーズに応じてシーンデータを編集できるようになるのです」(堀口氏)。

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PIPELINE DATA FLOW
『キャプテンハーロック』プロダクション・パイプラインのデータの流れを示した図。本作ではアニメーションおよびシミュレーションを終えたデータは「bake」という工程を経て、ポイントキャッシュのような Gto 形式のデータに変換される。それによって前半は Maya データを中心としたアニメーション制作を行い、後半は rig を含まず純粋なジオメトリだけになった Gto データを仲介にして Maya、Houdini、3ds Max、NUKE などでライティング、エフェクト、コンポジット作業を行うことができる。また、この図における bake 以外の工程がそれぞれのデパートメントになっているのがわかるだろう。これだけ多くのスタッフの手を行き来するワークフローだからこそ、テクニカルチームによるサポートが必須と言える

このように"パーツ"(Asset)ごとのデータの管理とそれをまとめる"パーツ"(AssetPack)という、各々のレベルのデータを個々にバージョン管理することで、合理的なデータベースによるファイル管理を実現した。
個々のデパートメント向けにも様々なツールが開発された。「HUBble(ハブル)」は、ライティング作業専用のシーン管理ツール、シーンごとのライティングやレンダリングデータを他のシーンにコピー&ペーストし、Maya のデータを開くことなく直接ディスパッチャーにレンダリングジョブを投げられるというものだ。以前は、各アーティストが Maya のデータをいちいち開いていて、場合によってはシーンが展開されるまで 10 分以上も待たなければいけないこともあったそうだが、HUBble 導入後はデータ展開に要する時間は実質ゼロとなり、ライティングの作業効率は飛躍的に向上したそうだ。
HUBble を開発したギデ・ガエトン氏は、ライティングチームに専従して自らもショットワークを手がけたというが、チームに入り実作業に携わったからこそ、アーティストのニーズを適確に汲んだツールを開発することができたと語っている。これだけ大規模なプロジェクトでは全体的なスケジュールが読みづらく、制作期間の延長やマンパワーによる力技の巻き返し等の問題が発生しやすい。その中で、本作はさほど大きな問題も発生することなく無事完成に至ったという。
「2011 年の夏、プロジェクト開始までがテクノロジーチームの最大の山場でした。それまでの半年間、基幹部分のツール類を開発する時間をしっかりと確保できたことで、本制作時の問題を最小限に抑えられたと思っています」と、守随辰也氏はふり返る。Arnold についても言えるが、本プロジェクトでは一見回り道と思える手間暇を事前に行うことで本制作を効率的に行うことに成功している。
堀口氏いわく、MARZA のテクノロジーチームは、"画づくりを意識できるエンジニア集団"だという。プログラムを書くことが目的ではなく、画づくりにメリットをもたらすことを最優先に考えるからこそ、実用性の高い、デザイナーに歓迎されるツールが開発できるというわけだ。そして、適確な制作管理の下でアーティストたちはいかんなくそのクリエイティビティを発揮していく。これこそが MARZA のハイクオリティな画づくりの根幹となっているのだろう。

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ある shot での Subscribe レベルから Scene File への展開例(Scene Construct)
『キャプテンハーロック』制作データの管理概念図。「Asset」は、Layout 用、Animation 用、Lighting 用など用途別に用意されている。さらに部位ごとのジオメトリやシェーダなどに細分化され、それぞれのバージョンが DB によって管理されている。それらの膨大な Asset をデザイナーが集めてシーンを構築することはほぼ不可能なため、実際には 1 つのキャラクターなどを構成するのに必要な Asset を集めたものを「AssetPack」と呼ばれる DB 上にだけ存在する抽象単位としてバージョン管理、アプルーブの管理、データチェックなどを行なっている。また、各ショットの DB にはどのキャラクターが何体必要なのかなどが管理されている「Subscribe 情報」というものが登録されており、これらのSubscribe 情報と AssetPack 情報から、Layout 用、Animation 用、Lighting 用など用途別の具体的な Asset ファイルに瞬時にブレイクダウンすることができるようになっている。パイプラインではこの仕組みを利用し、「Scene Constructor」と呼ばれるツール(「mzAssetManager」を構成する1ツール)を使用することによって、自動的にデパートメントごとに必要な Asset を集めたシーンファイルを Maya を介することなく生成することができる。また、そのままレンダリングサーバにジョブ投入することも可能なので、Lighting などでは、Maya のファイル I/O 時間をスキップしてアーティスティックな作業に集中することができる環境を実現している

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インハウスツール 1:harvester
「harvester」と呼ばれる約 1,000 台のレンダリングサーバを統括的にコントロールするために開発されたディスパッチャーの UI(左図)。各ジョブがサブジョブのディペンデンシーをもちながら、スレッド数、メモリ使用量、ライセンス数などのリソース管理を行い、効率的にディスパッチを行えるようになっている。パイプラインではデータ変換や 出荷作業など、ファイル I/O に時間を消費してしまう作業の多くが harvester によって処理されている。右図グラフは、その稼働状況や CPU 稼働率などを監視しているグラフ(グラフ上段)とジョブ数の変化グラフ(グラフ下段)。一気に大量に投入されたジョブが、時間経過と共に効率的に消化されている様子が見てとれる

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インハウスツール 2 mzAssetManager
Maya での作業環境。各ショットの Subscribe 情報を登録する UI(上図右上)と、その情報と AssetPack 情報を使用して実際のシーンファイルを Construct する UI(上図左上)。Construct 時に別バージョンを使用してシーンファイル生成を行いたいなどの細かい要求にも応える。そして、デザイナーのファイル I/O を担う AssetManager の UI と作業画面(上図下段)

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インハウスツール 3:HUBble
HUBble と呼ばれる Lighting 作業用の Scene Constructor の UI。HUBble では、シーン生成はもちろん、シェーダアトリビュートやレンダリング設定などをショット間でコピーしたり、harvesterにレンダリングジョブを投入したりと、煩雑になりやすいショット作業を統合的に効率良く行えるようになっている。また、それらの作業は Maya のファイル I/O を介さずに行えるため、大量のレンダリング作業をストレスなく行うことができる

TEXT_谷口充大(テトラ
PHOTO_大沼洋平

『キャプテンハーロック』

映画『キャプテンハーロック』

2013年9月7日(土)全国ロードショー
原作総設定:松本零士
監督:荒牧伸志
脚本:福井晴敏、竹内清人
アニメーション制作:東映アニメーション、MARZA ANIMATION PLANET
harlock-movie.com
© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners

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