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Vol.10:キー合成

Vol.10:キー合成

<3>ディスピル

「ディスピル」とは、グリーンスクリーンやブルースクリーンで撮影した場合、対象物にグリーンやブルーが被ってしまうのを取り除く一連の作業過程を指す。例えば、肌は思った以上に、周りの色を反射として拾っていて、特に比較的明るいグリーンスクリーン肌にその色を反映してしまいがちである。そして、それが残ったままで背景と合成してしまうと、どうしても違和感を感じてしまう。さらに、肌だけではなく、白いシャツなどもこれらの色を拾ってしまいがちだ。
また、対象物とそれらのグリーンスクリーンとの境目にはやはりどうしても色が残りがちなので、それを取り除くのもこのディスピルになる。これを解決するために、マットを削ってその部分を取り除こうとすると、対象物のエッジのシェイプが少しやせたり、また、本来はボケ足部分であるはずなのに、削り取ってしまうことで硬い印象になってしまったりする。
私見ではあるが、前述のように、キー合成でおおよそ起こりうる問題のほとんどはこのディスピルを改善することで回避できる場合が多い。

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第10回)

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第10回)

ディスピルをKeylightで行なった例。この場合、Keylightの「Screen Colour」に(0,1,0)を入力している。比較してみると、グリーンが被っていた部分がしっかりとディスピルできているのがわかる

また、ディスピル時の問題としては、抑制したグリーンやブルー部分で明るさが落ちて、元のプレートと比べてその部分が暗くなることがある。その際、ルミナンスバックと呼ばれるその部分に元のプレートと同様の明るさになるような処理をしてやる必要がある場合もある。
主なディスピル効果を得れる手法としては、HueCorrect、Keylight、DespillMadness(フリーのGizmoノード)等を用いた方法が挙げられるが、順に紹介していきたい。

3−1:HueCorrect

HueCorrectを用いると、その名の通り特定の色相(Hue)のみを調整することが可能だ。特にg_sup(もしくはb_sup)を用いると、グリーンスクリーン(もしくはブルースクリーン)時の色被りを良い感じで抑えることができる。これだけでは良い結果が得られない場合は、sat、さらにはgreen(もしくはblue)を用いると良いであろう。ただし、sat、green(blue)は効果が強すぎて結果としてトーンジャンプを引き起こしてしまう場合もあるので、強めに使わずにかすかに使う方が良いであろう(下図)(021.png)。それでも、良い結果を得られない場合は、もう一つHueCorrectを追加して同様の処理をすると効果を得ることもあり得る。

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第10回)

HueCorrectを用いたディスピル例。後ほど説明しているが、HueCorrectのmix luminanceを用いるとルミナンスバックも同時に再現できる

3−2:KeyLight

KeyLightを用いたディスピルは、例えばグリーンスクリーンの場合Screen Colourのgの値に適当な値(1や、0.1など ※)を入力し、それでディスピル効果が弱い場合はDespill Biasでgの値を少し小さくするか、もしくは反対の色のrを少し大きくするかで、ディスピル効果を高めることができる。ただし、やりすぎるとプレートの色を著しく変化させてしまうので注意が必要だ(下図)。
※Screen Colourの値は基本的にはr:g:bで判定されているので、この場合0より大きい数字であれば効果は同じである

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第10回)

KeyLightを用いたディスピルの例。Despill Biasでディスピル度合いを調整できるのはとても便利である。また条件にも依ると思うが、ボクの知っている限りどのディスピルツールよりも強力である

3−3:ルミナンスバック

HueCorrectでもKeyLightでもいずれにしても、ディスピル時にはオリジナルの輝度と比べて、必要に応じて明るさを戻してやる必要がある。代表的な手法としては、ディスピル後の結果とオリジナルプレートの差分の彩度を落として、ディスピル後の結果に加算で戻すといったやり方だ。グリーンスクリーンであれば、前述の差分は抜き取ったグリーン成分となり、この分だけの輝度が落ちているはずなので、この分だけを足し算で戻してやれば良い。ただし、グリーンのまま戻すと結果元に戻ってしまうので、彩度を落とした上で戻している次第だ。

  • 連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第10回)
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ルミナンスバックの例。オリジナルとディスピルの結果を引き算すると、吸い取ったグリーン成分のみが表現できる。また、これが輝度が落ちてしまう原因でもある。そこで、この吸い取ったグリーン成分の彩度を落としてしまって、それをディスピルの結果に足せばルミナンスバックが可能だ

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第10回)

ルミナンスバックの効果例。左がルミナンスバックをする前。右がルミナンスバックした結果。オリジナルと比較してもルミナンスバックした方がトーンが維持されていることがわかる。ぜひ一度試してもらいたい

今回はキー合成に必要な基本的なキー抽出とディスピルについて解説した。重要だといったディスピル部分の解説を簡単に済ませてしまったが、これは次回はこれの続きであるインテグレーションとしてaddtive keyerを紹介する予定だからだ。乞うご期待!

TEXT_テラオカマサヒロ(Galaxy of Terror)
株式会社ギャラクシーオブテラーにて VFX ディレクターとして活躍中。現在は北米に活動拠点を置き、実写合成からフルCGまで幅広いVFX制作に携わっている。
個人サイト「tiraokan.」

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