NVIDIAは12月9日(水)、物理ベースレンダリングをリアルタイムで行うレンダリングソフト『Iray』に関する説明会を開催した。 NVIDIA本社よりバイス・プレジデント プロフェッショナルソリューションである、ボブ・ペティー氏が来日。 Irayのパフォーマンスを、実演を交えて解説し、NVIDIAが目指す未来を語った。

<1> Iray

■Irayが可能にするもの
NVIDIAは、単に高性能のGPU、グラフィックカードを提供するだけではなく、本当の意味でのヴィジュアライゼーションのためのプラットフォームを提供すべきだと考えている。 それはユーザーのデザインや設計のワークフローそのものを最適化し、生産性の向上に貢献するということである。Irayはそのためのソフトウェアだ。

NVIDIAの製品を導入しているメーカーの要望を聞く中で、デザインプロセスにリアリズムを導入できないか、というテーマが出てきた。
これまではレンダリング作業はオフラインで行っていたため、実際に製品としてどういう外観になるか、使用する場面においてどのように見えるか、という点は、機能性と分けて最後の段階で確認しなければならない。
この制約を解消できれば、より早く製品を完成させることができる。

■物理ベースレンダリングを製品開発に活かす
物理ベースレンダリングは、現実の物理現象を計算し、リアルなグラフィックを生み出す。映画・ゲームの世界では、モンスターの肌の表現などで使われてきた。
もちろん製造業のデザインにおいても物理ベースレンダリングを適用できるが、機械のリソースを集約的に使う必要があり、オフラインで分けてやらざるを得ず、デザイナーがインタラクティブに作業することは困難だった。
もし、レンダリングを進めつつデザイナーが修正し、それが即座に反映されればワークフローは効率化され、より自由な発想を広げることができる。

それを実現するのが『Iray』だ。物理ベースレンダリングをインタラクティブに処理するのだ。Irayによって、予測可能なデザインが実現できる。
従来のラスタライゼーションだと無数の線で形状を構成し、照明や窓からの光やその反射まで考慮に入れ・・・、といった、とても複雑な作業になる。デザイナーはシェーダーの掛からない部分、光源など情報を可能な限り省略することでシンプル化しモデリングをせざるを得なかった。
しかし、Irayならば、光源を記述すれば後は反射も含めて計算してくれる。より良い製品をより簡単に作ることができるのだ。

NVIDIAの据え置き型TVデバイス「SHIELD」はIrayを使ってデザインされている。形状そのものや、特徴的な発光部分の色味も、Irayのモデルで確認された。

■Irayの販売形式
プロダクト製品としては新しい形でIrayを提供していく。
Irayは既に様々な3Dモデリングソフトに組み込まれる形で提供されているが、新しいバージョンのIrayを使うには、各ソフトが更新、販売するのを待たなければならない。そのためにはメーカー側の時間と労力がかかる。 しかし各メーカーのバージョンアップの頻度に比べて、GPUの性能はどんどん進んでいる。
ユーザーが最新の技術をすみやかに使えるよう、NVIDIAはIrayのプラグインを提供する。3ds Max用はリリース済みであり、Maya用も12月15日(火)にリリースされた。今後半年で続々とプラグインをリリースしていく。

▶次ページ: パワフルな処理を可能にする『Iray Server』

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<2> Iray Server

■Iray Serverでパワフルな処理を可能に
プラットフォームはどこでも、どんな端末でも、同じデータを扱えるものでなければならない。 ワークステーション、ラップトップ、モバイルタブレット、データセンターからのストリーミング、クラウドからのストリーミング、 といったデバイスに縛られることなく使えてこそ、真のプラットフォームといえる。
『Iray Server』は、ハードウェアではなくソフトウェアである。Quadroなどプロ用GPUに接続して動く。 ネットワーク経由でワークステーションを活用することができ、世界中どこでも、どんなデバイスでも使える。 そして、互いに離れた場所で同じ製品について次々にアイディアを出し合い、作業を進めることができるのだ。

  • タブレットでカメラのモデルを編集するペティー氏

  • カラーの変更が即座に反映される

■並列処理
説明会で用意されたワークステーションはM6000を複数搭載しており、マシン単体でもパワフルだが、Iray serverと連携させるとさらにパフォーマンスが高まる。GPUの性能を5倍10倍と高めていくことができるのだ。

ネットワーク上のマシンを含め、複数のマシンを接続することができ、より大量のGPUでレンダリングができるのだ。

この技術は電動ドリル、自動車、建築物、と設計するモデルのデータが大きくなればなるほど威力を発揮し、従来よりも高いパフォーマンスを可能にする。

モデルをアップロードすると、回転、色の変更といった単純な変更部分だけの小さなデータを送信する。インタラクティブに画像に反映される。
1つのシステムに複数のGPUが搭載されている場合はもちろん、GPUがひとつでもシステム全体を画像処理に活用することができる。複数のマシンを1つのプログラムに集中投下するのだ。

複数台を用いてそれぞれモデルを作り、最終的にまとめ上げ、それを一昼夜かけてレンダリングするというような、これまでの作業スタイルは、30倍、40倍という効率化によって様変わりするだろう。

■MDL 物理ベースマテリアル
例えば高級腕時計のようなアート性の高い製品をデザインする場合、デザイナーはカスタムシェーダーを作成してから作業する必要がある。しかしMDL(Material Design Language)を使うことで、よりも複雑な形状のモデルも、より簡単に、より美しく作成できる。これも、時間の節約に有効だ。
そして、MDL Exchangeを導入すれば、マテリアル、シェーダーを再定義する手間を必要とせずに複数のアプリでデータを扱うことができるのだ。

▶次ページ: Irayの活用方法

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<3> Irayの活用

■電動ドリル
ワイヤーモデル、簡単なシェーディングによる従来通りのモデリングでも、パーツの整合性や機能は検証可能ではある。しかし製品として重要な外観、見栄えがわからない。 データをレンダリング作業に送ってしばらく待ち、結果を見て変更を加え、またレンダリング、という具合にとても時間がかかるのがこれまでのやり方だ。
Irayにはマテリアルライブラリがあり、200以上のマテリアルが登録されている。色はもちろん、ゴムやプラスチック等素材も設定できるので実物と変わらない写真のようなモデルができる。色の変更も即座に反映される。

マテリアルを変更したりモデルを動かすと、表面がざらつく。リアルタイムで計算しているのがわかる

■建築
Irayは工業製品のみならず、建築の分野でも威力を発揮する。NVIDIA本社ビルも当然Irayでデザインされている。ライティング環境、温度、空気の流れ、音響工学的な面も、検証/確認できるのだ。
本社ビルはガラスが多い設計で、特別に日差しが集中し、空調では対応しきれないホットスポットがあった。そういう問題点の検証と修正が早期に可能になる。
ビルであれ、家であれ、人が心地よくいられる環境を作ることができるのだ。

■死の光線
光の反射を現実のままに計算できるということは、建物内部にとどまらず、外部環境への影響もシミュレーションできる。それは美しい外観を追求するのみならず、安全面でも重要になる。
ロンドンのあるビルは、全体に曲面を描き、屋上側が前にせり出たデザインだった。そのため前面のガラスが凹面鏡のようになっていた。
完成当初は問題がなかったが、夏になると、その巨大な鏡は太陽光を集め、前の道路に駐車していた自動車を燃やしてしまったのだ。
Irayを使えば、建物自体が外部に反射する光も計算できる。年のうち特定の日の日照も計算できる。 ビルのデザインの曲率を緩めるとか、ガラスを反射率の低いものに変更するとか、安全を考慮した変更を事前に施し、このような事故を防ぐことができるのだ。

▶次ページ:ハードウェアのラインナップ

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<4> ハードウェアプロダクツ

■モバイルワークステーション
ハードウェアのラインナップについて、プロダクトマネージャーのシャーラ・ルーラン氏より説明があった。

シャーラ・ルーラン氏/NVIDIAプロダクトマネージャー

NVIDIAはソフトだけでなくハード面の充実も図っており、モバイルワークステーションを大幅に刷新した。最新のMaxwellアーキテクチャーに基づいたもので、ディスプレイに4Kを搭載した製品もラインナップされている。
新しいGPUテクノロジーを導入し、パフォーマンスは2倍になり、エネルギー効率も高まった。今までのワークステーションで行っていたようなレベルの作業もモバイルワークステーションで可能となる。



すべてのOEM製品がこのラインナップに対応しており、Maxwellアーキテクチャーに基づいている。


■ワークステーション
ワークステーションではM6000がフラグシップとなる。デザインワークス、ソフトウェア開発キットに多くのリソースを注ぐことで、現在100以上あるプロ用のアプリケーションをさらに増やしていく予定だという。
現状、ローエンドの製品はKepler、ハイエンドの製品Maxwellアーキテクチャーにもとづいていて、混在しているが、今後ローエンド製品もMaxwellに移行していく予定である。さらに上位の究極的なパワープラットフォームとしては複数のGPU搭載している製品もある。

NVIDIAは、常に世界最大のGPUであり続けるべくQUADROを進化させ、提供していく方針だ。



■カードスロット
シングルカードスロットのNVS810はスケーラブルなビジュアライゼーションのための新しいプロダクツである。
NVS810は30Hzの4Kディスプレイなら8つ、60Hzの4Kディスプレイなら4つをサポートできるシングルスロットカードである。1台のワークステーションにNVS810を複数搭載することもできる。

デジタルサイネージ、インタラクティブディスプレイは、これから、とくに日本で有望な領域だが、将来的には、壁に直接画像が表示されるようになっていく。美術館、アミューズメント、学校、会社でもそういう方式が普及していくだろう。
そして、20K×12K、40K×16Kといったレベルの精密な画像が、インタラクティブに処理され、表示されるのだ。

▶次ページ:ビジュアライゼーション技術がもたらすもの

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<5>ビジュアライゼーション技術がもたらすもの

■VR/ARの課題
VR/ARといえば、ゲーム、映画の世界で活用されてきた。NVIDIAは大型の壁、洞窟を利用した投影などプロ用VRをリードしてきた。また、VR用ヘッドセットも続々と登場している。


VR/ARがさらに発展するには、技術的な障壁を超えなければならない。両目それぞれに、2Kや4Kの画像を毎秒90フレームも表示しようとすれば、より大量の高速処理が必要になるのだ。
そのためにも、NVIDIAは、Quadro、Iray、MDLによってVRアプリケーション開発者のためにより強力な開発環境を提供し、VRの進化を加速させたいと考えている。

■VR/ARが作る未来
VR/ARはゲームだけのものでも製造業デザイナーだけのものでもない。それによって消費者も恩恵を受ける。
例えば、車のショールームに行って、自分の家の前や近所でその自動車を置き、走らせてみることができる。映画を観ながら、あなただけの観たい場面に入っていける。『スター・ウォーズ』を観ていて、オビ=ワンと握手する、ということもできる。
バーチャルトレーニング、バーチャル外科手術ということも可能になるだろう。


こうしたVR技術を実現しようとすると、より厳密な正確さが求められ、リアリティの要求水準が非常に高くなる。好きなものを好きな様にデザインできると同時に、その現実的なコスト計算も同時にやってしまう、というような機能も求められるかもしれない。
そして、リアルタイムのレイトレースを組み込み、完全なバーチャルリアリティを実現することがビジュアライゼーションの究極的な目標だ。

  • ボブ・ペティー氏
    バイス・プレジデント-プロフェッショナルソリューション

    ビジュアライゼーション、ハイパフォーマンスコンピューティング、マルチタッチテクノロジーの経験を25年間も積み、今はNVIDIAのプロフェショナルソリューションのバイス・プレジデントとして活躍している。

    NVIDIAで務める前はTouchShareのCEOとしての経験もあり、そこではマルチタッチハードウェア会社を地理空間的コラボレーションとビジュアライゼーションを中心とした SaaS ソフトウェア会社へと変身させた。TouchShare の前は Perceptive Pixel の CEO でもあり、 マイクロソフトに買収された時も会社全体を見事に導いた。それ以前には Silicon Graphics にて経営管理に従事。

TEXT & PHOTO 横小路祥仁