ブームになるにはある程度の"物量"が出てこないといけない
野口:今また、CG アニメの新しい波が来ているのではと感じています。10年ほど前にひとつの波があったと思いますが、残念ながら定着しませんでした。最近、2D ルックで作画をリプレイスするものや、『frends もののけ島のナキ』(2011) のような作品も出てきたので、ようやく日本でも CG アニメが定着していくのではないかなと感じているのですが、木村さんはどのように思われますか?
木村:様々な要因があると思いますが、ひとつはコストが下がったということでしょうか。ブームになるためには、ある程度の物量が求められるわけなので、その意味では各制作現場にて爪に火をともすようなコスト削減に取り組みながら作っていくしかないのでしょう。観る側は作画とか、CGとか、そうした部分を選定基準にしているわけではなく、"面白そうなら観る" というスタンスのはずなので、その意味でも同時多発的に面白い作品をたくさん作る他ありませんから。ただ、懸念しているのはつまらない作品が増えてしまった時に、その理由がストーリーや演出ではなく、CG のせいだと思われてしまうこと。観客の目が肥えてきたとき、「CG だからイマイチだったね」と言われないようにしないといけません。その意味では逆にハードルが上がっているような気もします。
野口:木村さんは輪郭線のある 2D ルックはお嫌いですか? 今までやっていらっしゃらないと思うのですが。
木村:2D ルック自体が嫌いなわけではないですよ。ただ、個人的にトゥーンシェーダは 3D が透けて見えるので不自然に感じてしまうのです。
野口:なるほど。ですが、アニメ業界全体としてはツールの進化やノウハウが蓄積されたこともあり、そうした不自然さが大分解消されてきたことで作画のリプレイスという切り口から 3DCG が受け容れられつつあるように感じます。
木村:現役の CG 制作者としては 2D と 3D 双方の特性を理解した上で 3D ならではの利点を追求したいと考えています。作画の良さはカットごとにベストなアングルやディフォルメができるところだと私は思います。3DCG の場合、ある角度からは良くても別の角度からはイマイチに見えたりしてしまう。アニメ的にはこうなってほしいというお約束みたいなものに十分対応できない。いや、物理的には可能ですが、とても面倒な作業が必要になってしまいます。
野口:まさにそうした手間が、最近はツールの進化によって大分効率良く行えるようになってきたように思うのですが?
木村:それでも、現場では相応の手数をかけているはずですよ。もちろん、そうした手間暇を受け容れつつ、観る側の期待に上手く応えていかなければならないという面も確かにありますね。
野口:3DCG でやる時には特にということでしょうか?
木村:3DCG で陥りやすいのが、こっちから見れば反対はこう見えるというパターン。あくまでも結果であって、作り手が "こうしたい" という意図を持って描いたわけではないという安易さが透けて見えてしまうと、凄く冷たい感じがするのです。別にそういうものを求めているわけではなくて、"この時には、こう見えたい" というものを作らなければいけないのに、モデルは完璧だからどこから見ても大丈夫、ということに安心してしまう危険があります。
野口:なるほど。ところで、以前から CG を使っていないことを宣伝文句にしてしまいがちです。CG だから、デジタルだからダメみたいな意識が固定化してしまうのは、CG アニメの可能性を潰してしまうと思われませんか?
木村:それは本当に残念なことです。音楽でもシンセサイザーが出てきた時、電子音的だからと嫌う人がいたし、シンセサイザーは使ってないというのが売り文句にされることもありました。でも、いつの間にかシンセかどうかなんてどうでもよくなっている。結局、アニメーションはストーリーそのもので勝負するしかないはずなんです。絵画でも作品の良し悪しをアクリルとか油絵とか、そういうことで拘る人はいないわけだから。
野口:どうしたらたくさんの人が CG アニメを観てくれるのでしょうね。
木村:そうですねえ。最近感じるのは、生まれた時から CG アニメが目の前にあって育った今の若い人たちと、僕らとでは見え方がちがうんじゃないかということです。世の中の見え方にしても作品の感じ方にしても同様で、まったく同じものを見ていても、若い人の方が感動の度合いが大きかったりするじゃないですか。
野口:わかります。当社の作品で、現在放送中の『スマイルプリキュア!』エンディングのダンスアニメーションが好例です。プロデューサーたちは CG アニメが受け容れられるのか心配していたのですが、当の子どもたちはすんなり受け容れてくれています。ゲーム世代でポリゴンを見慣れていると CG には違和感がないのかもしれませんね。