実は、世界的にもフルCGアニメは未発達
大口:フル CG アニメーションを盛り上げるという意味では、"CG を使っていません" を売り文句にする慣習も大きな障害になっています。
野口:そうですね。「CG はコンピュータ主導だから、簡単に作れてしまう」 という誤解は困ったものです。制作現場ではようやく、その誤解が解けつつありますが(苦笑)。
大口:根底にあるのは、アナログの方がデジタルよりも上位だという意識です。ですが、2D アニメーションでも撮影をはじめ制作工程の随所でデジタル技法が定着しています。CG はデジタルだからダメだというのはナンセンスですよ(苦笑)。
野口:作品を宣伝する上で、キャッチコピーは明確かつ簡潔であることが望まれますが、「CGを使っていません」が転じて、「CGはダメ」に陥りがちですよね。
大口:これは私見ですが、『天空の城ラピュタ』 の劇中後半に登場するラピュタ城内をブロックに乗って移動する描写なんかは、3DCG を活用すればさらに良いアニメーションになったのではないかと思っています。要は適材適所であって、作画か CG かではなく、作品が面白くなればどっちでも良いわけですよね。
野口:そうした新しい、面白い表現に挑戦しようという創作姿勢を保つためにも商業的な成功が必要。そして、日本でそれを実践していくにはブランドを確立させることが鍵となるということでしょうか?
大口:ビジネス的にはそうです。これはアニメに限りませんが、日本では企画がプロデューサー主導ではなく監督主導に陥りがち。一概に否定するつもりはないのですが、後者の場合は作家性や表現力が優れていても、完成が大幅に遅れたり、コストが膨らんでしまったり、難解過ぎて観客が置き去りになってしまうということが往々にして起こってしまう。仮にチャレンジングな企画を進めるとした場合でも、商業作品である限りはプロデューサーが相応にプロジェクトをコントロールする必要があります。
野口:そのプロデュースという観点において、フル CG 作品ではリアルと非リアルどちらの様式を採用するのか、またそのさじ加減がポイントになるわけですが、海外ではどのような傾向にあるのでしょうか?
大口:それを語る上では、『サンダーバード』(1965) に代表されるジェリー・アンダーソンが製作した一連の スーパーマリオネーション(パペットに特撮処理を施し実写のようなリアリティを演出した人形劇)の変遷が興味深いですよ。野口さんは 『キャプテン・スカーレット』(1967) をご存知ですか?
野口:申し訳ないのですが、よく知りません(苦笑)。
大口:いや、知る人ぞ知るという作品なので無理もないですよ。『キャプテン・スカーレット』は、大ヒット作『サンダーバード』の次に製作されたスーパーマリオネーション作品ですが、5 頭身のサンダーバードに対して、7 頭身で細部の造形も実際の人間に近づけたデザインの人形が用いられました。
野口:よりリアルな方向が目指されたわけですね。
大口:そうです。しかし、日本ではサッパリ人気が出ず、本国イギリスでもヒット作とはなりませんでした。2005年には 『新キャプテン・スカーレット』 というフル CG アニメシリーズも製作されたのですけどね。もっと言うと、ジェリー・アンダーソンはその後、スーパーマリオネーションと生身の俳優を共演させた 『ロンドン指令X』(1969) を経て、全編生身の俳優を起用した特撮作品へとシフトしていきました。
野口:それは興味深いですね。リアリティを追求した結果、ライブアクションに行き着いてしまったとでもいうか。
大口:そうなんですよ。僕は、フルCGも似たような試行錯誤を繰り返しているように感じています。例えば、ルーカスフィルム・アニメーションの 『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(2008) はキャラクターデザインとしてもルック的にもリアル度合いのバランスが人形劇に近い気がします。一方で、同じルーカスフィルムの別部門である ILM は、『ランゴ』(2011) で実写VFXのノウハウを活かしたフルCGアニメーションを制作し、第84回アカデミー賞長編アニメ映画賞を獲得しました。
野口:その他にもウェタ・デジタルが 『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(2011) を制作しましたね。
大口:僕はあの作品のことを "初めて不気味の谷を越えたフルCG作品 " であると、高く評価しています。ですが、残念ながら興収面では不調に終わってしまいました(※5)。そうした意味で、最初に話した通り、フルCGの趨勢は何とも言えない状況だと感じています。実のところ、日本に限らず世界的にもフルCGというのは、未成熟な市場なんですよね。1995年(日本は1996年)に世界初のフルCG劇場長編として『トイ・ストーリー』が公開されて以降、長らくピクサーのひとり勝ち状態が続いてきたわけですが、『カンフーパンダ』(2008) の世界的な大ヒット(※6)を機にようやくドリームワークスも世間的に認められつつあるという感じでしょうか。
※5=世界興収約3億7,400万米ドル(約295億円)であるが、製作費が1億3500万米ドルと言われているため、宣伝費などを考慮すると採算割れとする説もある(Box Office Mojo 調べ)
※6=世界興収約6億3,174万ドル(約647億円)の大ヒット(Box Office Mojo 調べ)。2011年には続編『カンフー・パンダ2』が公開された