>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 3 回:大口孝之(映像ジャーナリスト)
第 3 回:大口孝之(映像ジャーナリスト)

第 3 回:大口孝之(映像ジャーナリスト)

ヒットの鍵は、ミラーニューロン?

野口:刷り込みというか、誤った固定観念というものは実に悩ましいですよね。

大口:その通りです。最近では、立体視(S3D)に対してそうした危惧を抱いています。

野口:どういったことでしょうか?

大口:S3D ブームは、1950年代、1980年代、そして2008年から現在まで続く今回と、これまでに 3 度ありました。そして、過去 2 回はおおよそ 4 年で収束してしまいました。「だから、今回の S3D ブームもそろそろ潮時だろう」という風潮があるのですが、立体映像評論家である僕としては「過去の過ちを繰り返すな!」と断固として言いたいのです。

野口:なるほど。

大口:例えば、2011年の国内興収をみてみると、邦画はトップ10にランクインした全作品が 2D版 のみでの公開でしたが、洋画はトップ 5 のうち 4 本が S3D 版でも公開された作品です(※ランキングについては、日本映画製作者連盟発表資料 を参照)。邦画と洋画を合わせた総合興収でみてもトップ 3 のうち 2 本は、S3D 版も公開した作品です。総合第 2 位の 『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』 は、確かに 2D 版の方が動員数が多かったのですが、第 1 位の 『ハリーポッターと死の秘宝 PART2』、総合 6 位の 『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』 は S3D 版の方が動員数で勝っています。つまり、良質な S3D 作品は、しっかりと観客の支持を集めているわけで、2012年は 『アベンジャーズ』 に代表されるように、むしろ 3.5次ブーム とも言える新たな盛り上がりすら感じています。

野口:確かに、ニュースなどをみていると個々の作品の出来映えではなく、総数で判断しがちです。

大口:また、"S3D で観ないと意味がない作品" というものも存在します。『ヒューゴの不思議な発明』(2011) はその典型でしょう。しかし、そういった作品を S3D で観たいとお客さんが思っても、2D で上映している劇場の方が多いという深刻な問題もあります。さらには、導入コストや建物の構造的な問題などで、具体的な名前を出すのは控えますが S3D 上映方式としては難ありのシステムを導入している劇場も少なくありません。

野口:そうした事情を知らずに、S3D はクオリティが悪いと結論づけてしまうのは不幸ですね。何か打開策はあるのでしょうか?

大口:これは 雨宮慶太監督 からの受け売りですが、現行の料金体系とは逆に S3D 版よりも 2D 版の料金を高く設定するという案があります。特にファミリー向け作品で有効ではないでしょうか。要は、ヴァーチャル・プリント・フィー※7)と真逆の発想ですね。S3D 版を観てもらう上で、お客さんに専用メガネをかけてもらうという "負担を強いる" わけですから、決して荒唐無稽な考えではありません。

※7=DLP をはじめとするデジタルシネマ上映設備を劇場に導入するための費用を配給と興業で分担する金融スキーム。頭文字をとってVPFと略記されることが多い。DLP 導入の初期コストを抑えることができるが、小規模な作品や上映館にとっては、アナログフィルム時代よりも高コストになってしまうという問題も指摘されている

大口氏ポートレイト3 大口氏ポートレイト3

 

野口:なるほど。確かに、新しいメディアを育てるのであれば、観客が選択しやすい条件を提示していくべきですよね。では、CG アニメーションの制作者としてはどのように取り組んでいけばよいと思われますか?

大口:S3D とフル CG の双方に共通して言えることですが、"本当に面白い作品" を作りさえすれば、観客は立体視とか、フル CG といったことを意識せずとも素直に楽しんでくれるはず。先ほども話題に出した『塔の上のラプンツェル』は、まさにその好例。プロアマを問わず、あの作品を語る上で、そうした技術面の良し悪しは二の次で、「面白かった」とか「感動した」といった言葉が先にくるはずですよ。もちろん、時間が経った今では色々と評論することは可能です。例えば、「ラプンツェルのキャラクターデザインがリアル調だったら、同じように感動できただろうか?」とかね。

野口:先達に学びながら、そうした試行錯誤を行なっていくことこそが、僕たち制作者の役目でもありますね。

大口:それと、フル CG や S3D の企画を考える場合、どうしても技法や表現に意識がいきがちですが、シナリオがちゃんとしていない限りは、絶対に成功しません 。これは過去の失敗事例をみても明らかです。繰り返しになりますが、S3D で観てもらうにあたり専用メガネをかけてもらうとか、2D 版よりも高い料金で観ていただくといった追加の負担を強いるのであれば、それをどこでリカバーするかといったら、"クオリティ" しかありませんよね。

野口:肝に銘じておきます。その他にもアドバイスはございますか?

大口:これは、僕が大学で講義をする際に必ず話すことですが、デジタルになればなるほど、人は感動しなくなる という現象が確かに見受けられるのです。

野口:そう言われてしまうと、身も蓋もないのですが(苦笑)。

大口:(笑)。その原因について考えていて、これは脳細胞の中に存在する ミラーニューロン という神経細胞が関係しているのではないかと思いました。ミラーニューロンは、いわゆる共感細胞で、相手の行動に対して自分が共感する作用があります。例えば、盲目のピアニストの素晴らしい演奏を目の当たりにすると、多くの人は感動することでしょう。演奏力はもちろんのこと、鍵盤が見えないのに彼がその位置を正確に把握している、つまり大変な努力をしてきたのだ......といったことを、直感で理解するわけですね。もし、これがコンピュータによる自動演奏だったら恐らく感動しませんよね?

野口:ネイチャードキュメンタリーに対する感動に近いですね。ちゃんと現地へ撮りに行っているから、捉えた映像のクオリティだけでなく、その努力を理解して感動するというか。

大口:3DCG をはじめとしたデジタル表現はそこに込められた苦労が伝わりづらい。ハイディテールなモデリングといったことは同業者には伝わりますが、そうした理屈を超えた制作者の熱意が浮き出るような表現であれば、たとえデジタルであっても必ず観客のミラーニューロンを刺激するはずです。

野口:なるほど、今日はたくさんのとても興味深いお話を聞かせていただき勉強になりました。ありがとうございました。

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INTERVIEWER_野口光一(東映アニメーション
EDIT_沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

「10°CAFE」店舗入口

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