真実に想像力を盛るのが、本来のクリエイターの仕事
野口:先ほど話題に出しました 2008 年の杉井さんとの対談で、山本さんが「実写をトレースして描いたら良くなかった。気持ち良いタイミングじゃなかった」って語っていたのがとても印象に残っています。
山本:『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006)で、主人公のハルヒが他の女子高生たちと一緒に バンド演奏するシーン(※7)があって、そこで ロトスコープ(※8) を使ったことがありました。演奏しているオッサン(笑)のプロミュージシャンをビデオカメラで撮影して、その映像を 1 コマずつプリントアウトして、アニメーターにトレースしてもらいました。そのうちある原画マンに楽器を演奏してる手のアップの原画を担当してもらったのですが、「実写をそのまんまトレースしただけだと、納得いかない」と言われたんです。もちろん、オッサンの手を女子高生の手に描き換えてはいるんですが、それだけじゃなく、タイミングも変えたいと。実際には、実写の方が真実なわけですが、彼女の進言通りにお任せしてみたら実にいい動きになったんです。そのとき「こいつはアニメーターの目を持ってるんだな」って思いましたね。これが 2D と 3D のちがいかもしれないなと。ある種 3D が甘えてる部分じゃないかな。
※7:バンド演奏するシーン
『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006)12 話「ライブアライブ」での『God knows...』演奏シーンのこと。
※8:ロトスコープ
実写映像を 1 コマずつトレースし、アニメーションを作成する手法。忠実に動きを再現する場合もあれば、一見して同じだとは判らないほど、動きをアレンジする場合もある。ライブアクションとも呼ばれる。
野口:3D がモーションキャプチャを信じきってしまうことが、魅力のないアニメーションになる原因ではないかと?
山本:2D だと線 1 本から、全部想像して描かなければいけない。でも 3D って、なんとなく作れてしまって、嘘をついてないから、それで良いんだと思い込んじゃう。確かに、パースもデッサンも嘘はついてない。だから想像力が欠落しちゃうんですよ。でもね、2D のアニメーターは真実を目の前にして乗り越えようとするんです。あえて 3D を批判すると、そういう想像力がシステム上喚起されない部分があるんじゃないかな。一番感じるのは、最近流行りのダンス演出ですね。ほぼ 3D で作ってて、モーションキャプチャのデータをキャラクターに流し込んでる。これ以上の真実はないって思ってるかもしれないけど、そこから想像力を盛るのが本来のクリエイターの仕事なんです。でも、その手前で終わっちゃってる。
野口:僕も最初は気持ち悪いと感じたんですけど、あれは着ぐるみショーだと思うようにしてますね。
山本:2006 年に僕が演出した「ハルヒダンス」を、6 年経った今でも学生が文化祭とかで踊ってくれるのは、そういうことなんだろうなって思います。ハルヒダンス以降、色んなキャラクターがダンスを踊ったけど、火はついてない。自分たちのタイミング、自分たちの気持ち良さ、自分たちの想像力をどこまで盛れるかが、クリエイターの仕事なのに、モーションキャプチャを流し込んで終わってる。
野口:その方法が正しいと信じてるわけですよね。
山本:僕が3D で不満に感じるのは、1 コマ打ち、2 コマ打ち、3 コマ打ち(※9)を混在させられないところです。させようと思えばできるけど、実践している人はほとんどいません。全部 1 コマ打ちか 2 コマ打ちで統一させてる。でも、それをやるとノペッとなってしまう。僕らは タイムシート(※10)への記入を通して体感してるので、3 コマ、2 コマ、1 コマを使い分ける。一見何でもない動きの中にスピードの強弱、抑揚の変化があるんですよ。そういった点で 3D アニメは、失礼ながら勉強の余地があると思います。
※9:コマ打ち
アニメーション表現において、同じ絵を何回表示させるかを示す値。日本の一般的な TV アニメの場合、1 秒間に24枚の絵を表示し、そのうち 3 枚は同じ絵を使う 3 コマ打ちを基本として作られる。
※10:タイムシート
1 秒が24 分割されており、動きのタイミングをコマ数で表現した表になっている。原画と動画の枚数や画の重ね方、カメラワーク、仕上げへの申し送り、撮影時の特殊効果などの情報が集約されている。
野口:もっと勉強すべきだと(苦笑)。
山本:日本の 3D アニメって、どうしてあんなにカメラワークが速いのでしょうかね?「何が何だか良く見えないよ〜」って思っちゃう。もうちょっとゆっくり動かしてもいいんじゃないかな。そういった点をガチで突き詰めていけば、3D アニメの扉が開くんじゃないですかね。でもそうなると 2D に近付いていくので、それはそれで面白くないな(笑)。もしも僕が 3D の監督をやれって言われたら、2D に近付けても仕方ないから、今言った方法論を全部捨てますね。2D のアドバンテージを模倣しても面白くない。3D のアドバンテージを考えようって思うでしょうね。
野口:その裏を言えば、日本なり海外なりでの 3D アニメは、まだ発展しきれてない。着地点がみえていないってことでしょうか。さっき話したように、現在認知されている 3D のアドバンテージは、リテイクが出しやすい、効率的に作れるといった内容に留まっている。表現そのものに直結しておらず、まだそこに挑もうとしていない。
山本:そう。まだまだ未開拓な領域が広いってことに尽きるんじゃないかな。そんな中で、『ブラック★ロックシューター』(2012) の 3D の使い方はなるほど、と思いましたね。今石さん(※11)のアクションを忠実に再現しつつ、さらに 3D で膨らませることができたと思ってます。せめてあっちにいかないと。あのとんでもないパース、とんでもないデフォルメ、とんでもないカメラワーク。特にカメラワークは大きいかな。とんでもないカメラワークを 3D で表現したら、僕たちの想像を超えるものが出てくるに違いないっていう可能性を感じました。僕が 2D で不自由に感じるのはカメラワークの制約なんですよ。どうしてもスクロールになっちゃう。じわ〜っとパースが変化するような見せ方は難しいですから。
※11:今石 洋之(いまいし ひろゆき)
アニメーション監督、アニメーション演出家、アニメーター。最近の代表作は『ブラック★ロックシューター』(2012)CG 特技監督。
野口:3D の才能あるクリエイターが、とんでもない画づくりを考えなきゃいけないと。
山本:実写でもなく 2D でもなく「俺たちは 3D だ。文句あるかっ!」ていう方法論を、自分たちで考え出した時が、3D の変わる瞬間じゃないかな。このインタビューみたいに、2D の監督さんに「3D どうですか?」って聞いてるうちはダメだと思う(笑)。参考程度に聞く分には良いんですけど、腹の中では「何言ってるんだこのやろ~」ってくらいの気概というか、憤りというか、そういうものが出てきた瞬間に変わると思いますよ。
野口:この連載を読んでいる人たちの何人かも、そう思っているはずですよ。
山本:日本の 2D アニメだって、最初から今の文脈があったわけではないですから。ディズニーの影響をもろに受けつつも、それに立ち向かう形で東映動画が設立されて、色んな試行錯誤や葛藤の歴史を経て今がある。そんな歴史を 3D も必要としてるんじゃないかな。
野口:研究や葛藤を経ずに 3D が2D に寄っていこうとしている。そこに問題があるのでしょうかね。
山本:葛藤がないままに、何となく生まれた時から 2D アニメと一緒でしたっていうのは、違うんじゃないかって僕は思いますね。
野口:竹を割ったように語ってくださったので、この後に続く人も本音を言いやすくなっただろうと思います(笑)。今日はありがとうございました。
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INTERVIEWER_野口光一(東映アニメーション)
EDIT_尾形美幸(EduCat)、沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
LOCATION_ENGAWA
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