>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 6 回:山本 寛(監督・演出家)
第 6 回:山本 寛(監督・演出家)

第 6 回:山本 寛(監督・演出家)

3D というものに、僕らはまだふり回されている

野口:アニメと実写は、それぞれ違うものだと?

山本:そうですね。同じ舞台芸術だからって理由で、小劇場、歌舞伎、能、ミュージカルを一緒にするようなものですよ。ならないって(笑)。どれが偉いという話ではなく、違う文脈で受容されるものです。最近、コンテクストって言葉をよく使うんですよ。コンテクストのあまりに違うものを一緒にしようとするのは難しい。これは 斎藤 環(※6) さんの考え方ですけど、アニメはハイコンテクストで、実写はローコンテクスト。ハイとローの違いは、わかりやすさですね。アニメの方が情報量が少ないから、わかりやすい。あるいは抽象的な表現に向いている。実写はカメラを回した瞬間から、予想していないものまで入ってくる。だからこそ複雑怪奇な表現に向いている。

※6:斎藤 環(さいとう たまき)
精神科医、評論家。漫画やアニメーションなどを精神分析の立場から解釈している。

野口:コンテクストの違いを認識するべきだと?

山本:そう。はっきり分ける必要はないですけど、無理やりドッキングさせても観客には受け容れられない。例えばアニメでローコンテクストをやるとかね。この考え方は凄く腑に落ちるんですよ。同じことが 3D と 2D のアニメにも言えるんじゃないかな。

野口:3D はローコンテクストだけど、ちょいハイコンテクスト寄り、みたいな感じ?

山本:この考え方で言うとそうですね。どっちが良いかではなく、違うものだという認識でもってスタートしないと、いつまでたってもお互い得をしないんじゃないかな。僕も昔から 3D をよく使いますけど、あくまで補助的な用途なんです。3D を差別しているわけではなく、違うものだと認識しているからです。作画主体のアニメにおいては、3D は補助的な意味しか持てないんだと。ホントに 3D を活かしたいなら、フル 3D でやりますよ。なんで今、日本で 3D が流行っていないかというと、ちゃんと使いこなせていないから。そこに尽きますね。3D というものに、僕らはまだふり回されているんじゃないかな。

野口サンジゲン さんが得意としているような、フラットな3D 表現は突破口になりませんか?

山本:ああいう歩み寄りは成功しているとは思います。ただ、それがホントの 3D の活かし方なのかなと、疑問に思いますね。日本のアニメは 2D 全盛なので、3D の方が否応なく 2D の質感に寄っていかざるをえない。それはある意味悲劇ではないかと。僕らがデジタルや 3D の恩恵を受けまくっているのは間違いないんですけどね。

山本 寛ポートレイト2 山本 寛ポートレイト3

 

野口:デジタルだと何回でも修正できるから、監督のイメージに近づけやすいんじゃないですか?

山本:ええ、何度も修正させてもらってますよ。セル画の時代と比較すると、リテイクが出しやすくなった。ホントの意味での映像演出まではいかないけど、撮影さんが動画や仕上げまでやってしまうようになって凄く助かってます。それに、重いセル画を運ぶ必要もなくなって、データを送るだけで済むようになった。

野口:3D だとデータの使い回しができるから、シリーズものには向いてるって意見もよく聞きますね。

山本:そう、恩恵はいっぱいもらってる。でもね、「それで、いいのか?」って。効率のためだけの 3D、効率のためだけのデジタル。ありがたいんですけど、その状態に 2D 側も 3D 側も安穏としちゃってるように感じる。それが 3D の発展を妨げてるんじゃないかなっていうのが僕の意見です。

野口:山本さんとしてはフラットな絵が好きだから、補助的な用途以外では 3D を使わない。3D を活かしたいなら、3D ならではの表現を追求するべきだと?

山本:僕は 3D を飛び越えて、実写にいっちゃったんですよね。フラットから立体性にいく過程で、その間にある 3D を選ぶ必要性を感じなかった。ピクサーの作品は好きですけど、「時代はこれだー!」とまでは感じないですね。正直言うと、あれで日本のアニメが脅かされるとは思えない。3D アニメが勢力を広げて、2D アニメが自然淘汰されるといった事態は起こらないだろうと。2D と 3D は、全然違うジャンルのものだから。

野口:2D、3D、実写だと、山本さんが 1 番やりたいのはどれですか?

山本:今は意地で 2D と言いますね(笑)。もう一本当てないと、死ぬに死ねない。アニメでもうひと山、目にもの見せてやるって意気込みで今はやってます。でも、やりたい企画は実写寄りのものが多いです。「お前は自由だ。数十億使って好きにやって良い!」って言われたら即「実写やります!」って答えますけどね(笑)。

野口『CASSHERN』(2004)『300 〈スリーハンドレッド〉』(2007) みたいなものをやろうとは思いませんか?

山本:さっき言ったように、コンテクストをまたいで何かをやろうとは、もう思わないんですよ。プロデューサーの意向もあって 『私の優しくない先輩』 でも、相当またいだんですけどね。結果として、変な映画ができちゃったなあと思ってます。

野口:ところで山本さんは監督であり、アニメ会社の経営者でもあるわけですが、どうして会社を作られたのですか? フリーっていう選択肢もあったと思うのですが。

山本:自分のチームを作っておきたかったんです。僕は結構人見知りなので、毎回違う制作現場で、初顔合わせのスタッフとやっていくのはしんどいなと思ったんですよ。自分の勝手知ったるスタッフを配置しないと、自分が納得できるクオリティを実現できない、というのもありますね。

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