>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 8 回:塩田周三(ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役、プロデューサー)
第 8 回:塩田周三(ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役、プロデューサー)

第 8 回:塩田周三(ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役、プロデューサー)

大規模制作というコンセプトを常に意識している

野口:ポリゴン・ピクチュアズは早い時期から大規模制作という明確なコンセプトを打ち出していて、それを実践できるプロジェクトを積極的に推進してきたわけですね。僕自身、これからの時代の CG プロダクションは得意ジャンルをしっかりと表明していく必要があるのではと感じています。

塩田:本当にそうだと思いますよ。会社を起ち上げた直後はジャンルを問わず仕事を受けざるを得ないでしょうが、自分たちの会社がどんなスタイルで存在していくのかというコンセプトは明確にしておいた方が良いでしょう。我々はここ十数年、大規模制作、量産、ビッグプロジェクトをねらうという方針でやってきている。だからコンセプトに合わせて、大規模制作を担える体制を構築してきました。

野口:分業制を敷き、数多くのスペシャリストを抱えるということですね。

塩田:そうです。量産するなら分業しなくちゃいけないし、スタッフも数百人規模で雇用する必要がある。30 人の会社が量産しますといっても無理ですからね。受注内容に合わせて、会社のスタイルや規模を構築する必要があります。例えばアメリカの Blur Studio は予算規模の大きい様々な作品を手がけていますが、最小限の分業しかしていません。彼らは 80 人くらいのゼネラリスト集団なんですよ。何故かというと、彼らが受注する仕事は基本的に 3 ~ 4 ヶ月単位で制作するからです。このスピードで、高いクオリティの作品をつくっていこうとすると、我々のような完全分業では間に合いません。仮に Blur Studio が手がけているような仕事を我々が受注するなら、汎用的なパイプラインを構築する必要があるでしょう。

塩田周三ポートレイト5

 

野口:アニメーションの話から逸れますが、コンセプトに関連して伺いたいことがあります。ポリゴン・ピクチュアズは VFX の受注を早々に止めましたよね。どうしてでしょうか?

塩田:VFX では世界で勝てないと思ったから止めたのです。アメリカやイギリスで圧倒的に多いのは VFX スタジオですよね。市場を考えると、アニメーションよりも VFX の方が雇用力があります。でも薄利のビジネスで、今後予算が上昇する見通しもない。僕自身に VFX の経験がないこともあって、勝てる気がしないのです。ただし VFX のバックグラウンドがある人、例えば海外の VFX スタジオで経験を積んだ人であれば、日本のプロダクションからでも営業ができると思います。VFX スーパーバイザーの経験があって、現場を知っていて、英語が話せて、ワークフローに精通している人材が必要ですね。そんな人さえいれば、日本人はきめ細かくて真面目だから、もっともっと仕事を引っ張ってこられるはずです。

野口:海外での制作経験があって、海外の人たちとの横のつながりを持っている人なら、受注しやすいのでしょうか?

塩田:友人関係にあるような、信頼できる相手に依頼することはよくありますからね。そうった点で、イギリスのソーホー(※3)の仕組みから学べることは多いように思いますね。Double Negative は、ここ数年でいきなり 1,000人規模になりましたよね。どうして複数の 3DCG プロダクションが共存しながら繁栄できたのか、その要因を分析することは有効だと思います。もともとソーホーには広告代理店が集まっていて、VFX スタジオをつくっていたんですよ。彼らは別々の会社で働いていますが、仕事が終わったらパブで交流しています。仮に日本の代理店や VFX スタジオが 1 箇所に集結していたとしても、どこかの居酒屋に毎晩集まって気軽に交流するかどうかはわかりませんが。

※3:イギリスのソーホー
ロンドンのソーホー(Soho)地区のこと。イギリスの4大 VFX スタジオと呼ばれる The Moving Pictures Company(MPC)Double NegativeFramestoreCinesite をはじめ、様々な映像を制作するプロダクションが数多く集まっている。

塩田周三ポートレイト4

 

野口:日本の場合、皆さん夜も働いてますしね(苦笑)。横のつながりに加えて、ポリゴン・ピクチュアズのような世界標準のパイプラインをつくらないと、海外の仕事を受注するのは難しいでしょうか?

塩田:確かに我々のように TV シリーズを受注するのであれば、規模の大きさやシステムが問われます。でも数カットだけとかセットアップだけといった部分発注であれば、それほど厳密なことは要求されませんよ。むしろ重要なのは、どの程度相手を知っているかどうかという信頼関係です。僕自身、付き合いのあった ILM のディレクターやプロデューサーに連絡をとって、何度もテストを受けた結果、ようやく受注にこぎ着けましたから。

『Michael the Dinosaur』1

ポリゴン・ピクチュアズは、山村浩二監督のアニメーション短編 『マイブリッジの糸』(2011) 製作に参加(出資)。こうした活動からも、アニメ制作会社としてより包括的な事業展開を目指していることが窺える
© 2011 National Film Board of Canada / NHK / Polygon Pictures

野口:会社間のパイプラインの共有に関しては、どう思われますか? 人材流動を促進するには、共有が必要だという意見をよく聞くのですが。

塩田:資本を共有しない限り、会社間のパイプライン共有は難しいと思います。外注の際に外注用のリグを用意して、データを引き戻せるようにする、といったことならやりますけれど。パイプラインには各社固有の癖があります。ソフトウェアやインターフェイス、データの処理方法などを各社で統一させようとすると、会議とやり取りのために長い時間や手間がかかるでしょう。よほどの信頼関係や資本共有がなければ実現は困難ですね。ただし、ワークフローであれば共有できます。日本はまず、世界標準のワークフローの共有から始めた方が良いでしょう。

野口:おっしゃる通り、アニメ業界、VFX 業界を問わず、ある程度のワークフローの共有は必要でしょうね。今日のお話で、塩田さんとポリゴン・ピクチュアズの目指すビジョンがよく理解できました。ありがとうございました。

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INTERVIEWER_野口光一(東映アニメーション
EDIT_尾形美幸(EduCat)、沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
LOCATION_hanabi

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