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第1回:ワーキングファーザーはどこ行った?!

第1回:ワーキングファーザーはどこ行った?!

Topic3:子供の病気

子供の病気や怪我に直面すると、仕事と育児の両立が難しくなりますよね。もちろん、子供の健康が第一です。まずは夫と私の仕事状況をみて、どちらが休めるかを相談します。もしお互いに外せない仕事がある場合は、私の母に依頼したり、病児保育や病児OKのベビーシッターを利用したりすることで乗り切ってきました。

保育園から急遽電話で「熱があるからお迎えにきてほしい」と言われるケースも多いです。自宅で作業する私がお迎えに行くことになりますが、仕事の状況によっては、その後夫に帰宅してもらい、私は仕事に戻る場合もあります。あるいは、子供の看護によって滞ってしまった2日分の仕事を土日にまわし、その間は夫にワンオペで育児と家事を担当してもらう場合もあります。

困ったことに、看護が必要になるのは子供が熱を出した当日だけではありません。インフルエンザなどで1週間近く登園許可が下りない場合は、約1週間分の仕事のスケジュールを調整する必要があります。当初から仕事を目一杯に入れてしまうと、万が一のときに破綻する恐れがあるので、夫と私のカレンダーがビッシリ埋まっているような状態は危ないと思っており、2人の忙しさのバランスを常にザックリと把握しておくようにしています。

Topic4:サポート体制

最近、私の母が私たちの家の近くでひとり暮らしを始めたのを機に、ちょくちょく育児を助けてもらえるようになりました。母は長らく、私の父と、私の祖母の介護に従事しており、常にヘルプをお願いできるわけではありませんでした。介護の役目は終わったものの、母も仕事をもっており、いつでも頼めるわけではありませんが、助かっています。

兄の2人が小さい頃は、ベビーシッターと、区のファミリーサポートをよく利用しました。当時は3DCGスタジオに勤務しており、福利厚生の一環でベビーシッターサービスを割引で受けられたので、すごく助かりました。お迎えにどうしても間に合わないときは、同じ保育園に通う同級生の親友達に兄の2人を一緒に連れて帰ってもらい、夕食までお世話になることが何度もありました。遅い時間に親友達の家まで迎えに行き、親友達と一緒にお酒を飲み始めてしまい、酔っ払って帰宅したことも(笑)。逆に、親友達の子供を預かることもありました。集合住宅の隣のお部屋の方に頼み込んだこともありますし、都内に住む親戚に来てもらったこともありました。お迎え時間に間に合わず、保育園の先生に電話で平謝りしながらタクシーで直行したこともたびたび......。夫と2人で分担するのが筋だとは思いますが、ありとあらゆる手段を使い、ここまで乗り切ってきました。

Topic5:仕事では得られないつながり

同じ保育園に通う同級生の親たち、産後ケアの教室で出会った方々、入院中に出会った方々とのつながりは、私にとって、仕事では得られない貴重なものです。「ママ友」だけでなく、お互いの家族を含めた「ファミリー友」が多いです。出版、TV、IT、広告、教員、映画監督など、様々な分野で活躍しながら、育児との両立を試行錯誤している、まさに同じときを生きる方々です。一緒にキャンプに行ったり、駅伝大会に出たり、家に招いて食事をしたり、飲んだりしています。まさか子供の同級生の父親と、あだ名で呼び合うほど仲良くなれる日がくるとは想像していませんでした。「とても素敵なつながりだなー」と、出会えた方々に感謝しています。彼らと悩みを語り合い、意見を戦わせ、情報を共有してきた経験は、私の視野をとっても広げてくれました。

Topic6:子供に見せたいアニメーション

兄の2人を出産する前から、私は子供向けアニメーションを手がける機会が多かったのですが、子育てを経験し、より「子供向けアニメーション」の意義について深く考えるようになりました。私は子供の頃、数々の美しいアニメーション作品に心を奪われ、影響を受けました。『スノーマン』(1982)、『風の谷のナウシカ』(1984)、『木を植えた男』(1987)などです。もちろんディズニー作品も、日本のTVアニメシリーズや特撮シリーズも、ハリウッド映画も大好きで、多岐にわたる映像作品を楽しみました。当然のように、自分の子供にも、映像作品を楽しんでもらいたいと思いました。

ですが、私は保育園の先生から注意を受けることになります。「お母さんね、自分が映像の仕事してるからって、子供たちにTV(映像作品全般)はあまり見せないように」と。自分が一生懸命取り組んでいる仕事が、子供たちに悪影響だと注意を受けるのは悲しいことでした。

注意の理由は、アニメーションの内容というよりも、目の負担と、脳が必要以上に刺激されて覚醒してしまい、寝つきが悪くなることへの心配などでした。それともうひとつ、映像作品は子供へのアプローチが一方的で、子供自身が想像を膨らませたり考えを巡らせたりする余地がなく、書籍と比べると教育的価値が低いと考えられていることも知りました。

この経験は「親として、子供たちに与えたいアニメーションって何だろう?」と深く考えるきっかけになりました。

例えば、ひとくちに「アニメーション」と言っても範囲は広いですよね。その中には、子供向け作品だけでなく、大人向けの娯楽作品も多く含まれるので、性的表現や暴力的表現の扱いは、特に気をつけて考えなきゃいけないと思いました。さらにジェンダーバイアスや、人種や文化のちがいにも思いを馳せるようになりました。

そんな思いでもって世の中のアニメーションを見渡してみて、ふと気付いたのです。特に日本のアニメーション作品の多くで「母親が働いていない」ことに。子供と一緒にアニメーションを楽しみたくても、そこには自分たちと同じ境遇の家族がいません。時代のながれに日本のアニメーション制作者の意識が追いついていないのかも知れないと感じたりもしました。でもきっと、これから制作現場にワーキングファーザー&マザー世代が増えることで、もっと多様な家庭環境の設定が当たり前になっていくんだろうなって感じてもいます。

私たちのような、アニメーション制作に関わりかつ保護者でもある立場は、アニメーションが子供に与える影響を深く考えることができる貴重な立場だと思うので、この課題に向き合うとってもいい機会だと思います。

そして私は、アニメーションによって子供たちの想像力を引き出すことはできると思っています。それが可能な美しい作品に自分自身も影響を受けたひとりなので「世の中には子供や家族に寄り添ってつくられた素晴らしい作品がたくさんある」ってことを、保育園の先生はもちろん、保護者の方たちににも認識してもらえるように、自分にできることをやろうと思うにいたりました。

「子供と家族に届ける自分なりのアニメーションをつくろう」と奮起した私は、フリーランスになってから初めての自主制作に取り組み、『Good Night』という6分22秒の短編を2018年に完成させました。本作のストーリーを考えるにあたっては、子供の成長に寄り添うような、自然な日常を意識しました。

▲『Good Night』トレーラー


そして、私の考える「今の子育ての自然な日常」が世の中に受け入れられるかどうかを試すため、世界中のコンペティションに応募しました。その結果、自分でも驚くほどの数の映画祭で『Good Night』が上映され、様々な国の、様々な文化圏の方々に共感してもらえたのです。「貴女の考えや発想は間違っていない」と言われたような、温かい気持ちになりました。また、子供を想い育む気持ちは国も文化も言葉も簡単に超えられることや、子育てに共感してくれるファミリーが世界中にいることを知り、私の視野は広がりました。

サンフランシスコの子供映画祭(Bay Area International Children's Film Festival)では、3人の父親がそれぞれベビーカーに子供を乗せて楽しそうに会場を移動している様子を見ました。現地では、そんな自然で美しい景色を何度も見ることができました。初めて目にしたときには「すごい。日本と全然ちがう!」と驚いてしまった自分がすごく悲しかったです(涙)。

各国の映画祭では、作品内容に応じた年齢制限がしっかり明示されていました。映画祭の主催者が、どんな内容、どんなストーリーが、どんな年齢の子供にふさわしいか、丁寧に選んでいることが伝わってきました。その意識は「アニメ」とか「子供向け」といったザックリしたレベルのものではありませんでした。認知症、貧困、両親の離婚など、社会が抱える課題を描く作品も多く選ばれており、映像がもつ教育的側面もしっかり考慮されていました。映画祭によっては、学校教育の一環として、子供たちが遠足のように先生に引率されて来ている場合もありました。「TVは見せないように」と言われる日本との意識の差は歴然でした。この経験を通して、アニメーションの仕事をしながら子育てをすることの意義を、私は強く実感できました。子供に良質な作品を届けるためには、仕事の経験と、子育ての経験の両方が不可欠だと感じました。

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