Topic7:産後うつ
夫と私は、周りの親友達から「夫婦仲が良いよね」「羨ましい」「夫が協力的で良いね」とよく言われます。でも私たちのパートナーシップは、初めからこうではありませんでした。ゼロからスタートし、10年かけて、ようやくここまで来ました。私は産後うつを経験しています。産後うつは大きな社会問題のひとつで、10人に1人が経験すると言われています。また、産後うつと診断されないグレーゾーンの方々も含めると、その数はさらに多いと考えられ、自殺、母子心中、虐待など様々なかたちで表面化します。10年前、私もその渦中にいました。
兄の2人の妊娠から出産、新生児期にかけて、夫も私も、当時は「母親が子育ても家事もやるもの」だと盲目的に信じていました。そして未熟な私は「がんばること」=「我慢すること」だと思い込んでいました。これが非常によくなかったのです。妊娠期から体の自由を奪われた(双生児の妊娠はハイリスクのため制限が多いのです)ことを皮切りに、過酷なつわり、ディレクターと部署のリーダーという仕事を手放す底知れぬ不安、長い入院生活、早産、子供の心臓疾患と入院、搾乳、毎日の通院、睡眠不足、過労、栄養不足などなど、数え挙げればきりがないほどの負の側面を、ほとんど吐き出せずにいました。
加えて夫は家にほとんど帰れない多忙プロジェクトの責任ある立場。保育器の中の子供と触れ合える日も、私の退院の日も、仕事の飲み会と二日酔いで忘れるような状態でした。さらに、周囲の目は双生児の可愛さだけに向けられ、「ものすごく幸運ね」「羨ましい」といった言葉をかけられ、私はますます追い込まれました。「幸せそうに演じたい」という謎の呪縛に囚われたのです。
私は完全にぶっ壊れ、産後うつと診断されました。
一番身近な夫と話す機会はたくさんあったはずなのに、うまく話せませんでした。「悲しい」「辛い」「助けてほしい」「理解してほしい」といった感情が、「嫌味」「苦情」「怒り」となって表面化し、夫はそれを「攻撃」とみなし、10倍返しで反撃するという負の連鎖を引き起こしたのです。これ、アルアルだと思うんです。類まれなる鈍感力をもつ夫は、深刻な状況になるまで危機に気付きませんでしたし、パニック状態の私は状況を伝えるスキルを失っていました。
私たちのパートナーシップは非常に未熟でした。
思っていること、感じたことを、言葉にして伝えるというシンプルな行為は、なかなか難しいものです。子育てをしていると、育児と家事の分担、男女の性差や役割など、次から次へと疑問が湧いてきます。これに仕事が加わると、疑問はさらに増えていきます。それらは心の中で渦を巻き、ある日「なんで私ばっかり!」という怒りとなって現れます。この怒りの内側には、悲しさや、自分だけでは解決できない疑問があるのです。本来であれば、怒りではなく、悲しさや疑問を夫にそのまま伝えるべきだったと思っています。
先の体験から、約10年の試行錯誤を経てきたのが今の私です。産後うつと、その要因となる様々な出来事によって、当時の私は失ったものの大きさしか感じることができませんでした。今でも直視できないくらい深い傷もあります。でも、この体験が私の糧になっていることは間違いありません。たくさんのことを学びました。きっと私の学びは、子供の成長にも還元できると信じて前向きにがんばっています。
Topic8:ロールモデル
私の両親は自営業の共働き、叔父夫婦はフリーのアニメーターと公務員の共働きで、仕事と育児を両立してきた偉大な先輩です。ワーキングファーザーという言葉がなかった当時から、叔父はフリーのアニメーターとして活躍する傍ら、育児と家事もこなしていたことは、私の大きな憧れであり、心の支えでもあります。身近に尊敬できるロールモデルがあると、ポジティブな気持ちで工夫を重ねる原動力になってくれると思います。
私はまだまだ試行錯誤の途中ではありますが、このような経験談を様々な立場の方からお聞きして、連載で発信していくことで、読者の皆さんの力になれたらと願っています。
第2回の公開は、2020年1月以降を予定しております。
プロフィール
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南家 真紀子
アニメーションアーティスト
アニメーションに関わるいろいろな仕事をしているフリーランスのアーティストで、3人の息子をもつ親でもあります。
〈仕事内容〉企画/デザイン/アート/絵コンテ/ディレクション/手描きアニメーション。アニメーションとデザインに関わるいろいろ。
makiko-nanke.mystrikingly.com
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