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第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(前篇)

第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(前篇)

こんにちは。アニメーションアーティストの南家 真紀子です。本連載では、CG業界で働くファーザー&マザーへのインタビューを通して、いまどき家族の課題と解決策を探っていきます。第3回に登場いただくのは、バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)の鬼頭雅英さんです。在宅勤務の時間を割いて、オンライン取材に応じてくださいました。その模様を前後篇に分けてお届けします。ぜひお付き合いください。

※本記事は、取材時(2020年7月)に伺った情報を基に執筆しています。

TEXT_南家 真紀子 / Makiko Nanke(makiko-nanke.mystrikingly.com
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

今回ご登場いただく、ワーキングファーザー

<プロフィール>
鬼頭雅英(バンダイナムコスタジオ・ゲームデザイナー/ライター)
大学卒業後、1998年にナムコへ入社。家庭用ゲーム機のソフト開発にゲームデザイナーとして参加し、その後アーケードゲーム機のディレクター・プロデューサーを経験。最新作『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』ではゲームデザイナー兼ライターとして参加した。第一子誕生時に1年半、第二子誕生時に半年の育休を取得。合計2年の育休経験あり。

<家族構成>
妻・子供(5歳男児・年長、4歳女児・年少)、共働き

<最近のお子さんたちの様子>
兄:『あつまれ どうぶつの森』(Nintendo Switch)で、虫や魚を捕まえてたぬきちに見せびらかすのが好き。人見知りがなく、知らない子ともすぐ友達になれる。
妹:口が達者でおしゃべりが上手。お世話好きで、保育園の先生のような口調で家族の世話を焼いたり、お手伝いをしたりしてくれる。

▲【左】鬼頭雅英さん/【右】南家 真紀子(Skypeで取材に応じていただきました)

「なぜ長い育休を取ったのですか?」

本連載の「第1回:ワーキングファーザーはどこ行った?!」掲載後、たくさんの反響と共に「ワーキングファーザーはここにいますよ!」と挙手してくださる方々や、ワーキングファーザーに関する多数の情報をお寄せいただき、本当に感謝しております。その中で「合計2年の育休を取った男性がいるので取材してみては?」との情報をいただきました。

でも、その言葉に私はやや懐疑的な気持ちでした。なぜなら「育休取得」は当たり前であってほしく、昨今「取るだけ育休問題」もありますし、育休という表面的な現象だけでは取材対象として不十分と感じています。男性の育休の期間が非常に短い現状をかんがみると、その期間の「長さ」は少し興味を惹かれますが、各ご家庭や保育園の事情にもよりますし、一概に「長い=素晴らしい」とは限りません。そこでまず、育休の経緯をお聞きすべく「なぜ長い育休を取ったのですか?」という質問をさせていただきました。

鬼頭さんからのご返答は「子供が生まれたから」でした。

それはとても当たり前かつ核心を突いたご返答で、私は大変嬉しい気持ちになり、もっとお話を聞いてみたいと思ったのでした。

トピック1:「子供が生まれたから」

南家 真紀子(以下、南家):まずは、2人のお子さんの誕生時に、鬼頭さんが取得なさった育休期間を教えていただけますか?

鬼頭雅英さん(以下、鬼頭):1人目の長男のときが約1年半です。というのも、0歳ではなく1歳で保育園に入りましたので、必然的に育休期間が長くなりました。2人目の長女の時は、0歳で入園したので育休期間は半年です。入園時は、まだ月齢も小さく不安はありましたが、1人目の経験値もありましたし、入園時期が遅れると保育園に入れないリスクが高まるので、0歳での入園を決めました。こればっかりは本当にタイミングですよね。

南家:なるほど。鬼頭さんの育休取得期間は、世の多くの女性と同じように、子供が生まれてから保育園に入園するまで、ということだったのですね。また「子供が生まれたから」という、シンプルで当たり前な取得理由がとても嬉しく、興味を惹かれました。

鬼頭:「なぜ長い育休を取ったのですか?」という質問をされるたびに、それはまあ「子供が生まれたから」だよなと、シンプルに思います。もう少し丁寧に答えると「自分と妻と、2人でちゃんと子育てしたいと思ったから」です。実は当初、南家さんの人柄を存じ上げない状態で紹介者を通じて「なぜ育休を取ったのですか?」「育休を取って仕事に役立ちましたか?」という質問だけを受け取ったものですから、私としてはどう答えたものかと悩みました。

残念なことに「男性が育休を取るには何か理由(大義)がないとダメ」という考えの方々がいらっしゃいます。そういった方々へ向けて、男性の育休を後押しするために「育休は仕事に役立つ」などの宣伝文句や、仕事と結びつく理由を引き出すための取材なのでは? と感じたわけです。

「なぜ長い育休を取ったのですか?」「育休は仕事に役立ちましたか?」といった質問は、皆さん悪意なく、むしろ善意で興味をもって聞いていると思うので、神経質な反応をするのはよくないなと思うのですが、男性が育休を取るとなぜか「理由」を聞かれることはすごく不思議に感じます。「子供が生まれたから」という理由だけでは不十分でしょうか? 職場においては、子供が生まれるとわかったら自然に育休の話に進む、という状況であったらいいなと思います。

私はそもそも育休を取りたかったですし、家事育児の物量を考えたら、夫婦一緒に取り組まないと、妻1人に任せて生活するなんて無理だろうと予想していました。私たちは祖父母と同居していません。保育園へ通うようになってから、祖父母に助けてもらう機会が増えてはいますが、子供が生まれたばかりの時期は、基本的に夫婦が自宅で24時間対応をしなければいけない状況で、私の育児への参画は必然でした。だから私の返答は「子供が生まれたから」なのです。

南家:でも、「育休を取った理由」に対する鬼頭さんのお返事が、もっともらしい理由の羅列ではなかったことが私は嬉しかったんです。男性の育休取得の理由が「子供が生まれたから」ではダメ、なわけがないですよね。その理由が一番大切です。BNSには、ほかに同様の育休を取得した男性はいらっしゃいますか?

鬼頭:当社で育休を1年以上取得した男性は私が初めてだそうですが、私の取得後に同じく1年ほどの育休を取得した同僚がいました。まだ年単位の取得事例は珍しい状況ですが、1〜3ヶ月程度の育休を取得する男性は多いです。「男性はまったく育休が取れない」といった、ブラック体質の会社のような状況ではありません。社内のパパママ用Slackチャンネルでは、育休取得期間についての意見交換がされていますし、男性の意識は昔よりだいぶマシになったのではないでしょうか。社外においても、男性の育休取得者が増えたなという体感はあります。男性の育休取得率データを見ても、ここ数年で数%取得率が上がっています。それでもかなり低い数字ですが。

参考:男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について(令和元年7月3日 厚生労働省資料) www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/consortium/04/pdf/houkoku-2.pdf

南家:育休を取得する本人だけでなく、育休を許可する側(上司世代)の意識改革も必要だと思いますが、変化は感じますか?

鬼頭:変化はあると思います。ただ「育休が取れない」ケースがあるとしたら、それは彼らの「意識」以前に「構造」の問題があるのではないかと感じます。例えば長時間労働に頼った働き方、育休のタイミングで人が抜けると業務が破綻するような構造です。5人の部署の内、1人が育休を取得したいと想定しましょう。今まで5人全員が残業していた業務量を4人で負担するなんて不可能ですよね。実際問題、人員を補填することができないと仕事は回らないし、もし急遽人員を補填したとしても、その人員を育休終了と共にあっさり辞めさせるのか、という悩みが生まれます。そういう硬直的な組織構造が、育休取得を困難にしているケースが世の中によくあると聞きます。

おそらく「意識の問題」だけで語れない部分が存在しているんだと思います。育休が取れない会社の方々の全てが「ハラスメントを行う悪人」で、「悪意をもって」育休取得を阻んでいるわけではないでしょう。そういう意味では、当社は構造上育休がとりやすい環境と言えます。プロジェクト制なので、状況に応じて人員の出入りをフレキシブルに扱いやすいのです。年度に縛られることもありません。


南家:育休取得者が増えているBNSでは、何かしら構造上の改善が行われたのでしょうか?

鬼頭:昔からプロジェクト制なので、あまり構造の変化はないですね、あれ? じゃあうちの会社の場合は意識の問題だったのかな?(笑)

トピック2:育休の「その後」を考える

南家:既に育休が取得しやすい環境であるBNSにおいて、次の課題だと感じることはありますか?

鬼頭:「育休から復帰した後」ですね。育休取得が実現したとしても、復帰後「育児をしながら働く」というフェーズに入ってからの方が、より様々な課題に直面すると思います。保育園に子供を預けると、例えばお迎えの1時間ほど前に退社する必要があり、時短勤務になりますよね。制度上、時短勤務は可能ですが、実際の仕事においては繁忙期になると時短勤務時間内に業務を処理することができず、無理が生じます。そして仕事を人に振れなければ、残業が必要になります。しかし、残業が必要だからといって子供を夜の10時まで保育園に預けられるかというと、それはできないですよね。

「育児をしながら働く」を実践している方の多くがこの課題に頭を悩ませるわけです。そして残念ながら、現状、この課題に必死で取り組んでいるのは主に「母親」なんですよ。私はそこには疑問を感じます。「父親」の方は、ごく短い育休が終わってしまえば普通に夜の10時まで残業して働き続ける人がいます。でも、育休が終わったら子育ても終わり、じゃありませんよね? 育休は、子育てにかかる時間の長さを思えば、ごく短い期間にすぎません。3ヶ月の育休でチヤホヤされている男性に対し、イラっとする女性がいるのも当然ですね。

南家:おっしゃる通りです。

鬼頭:ですが、これを解消するにはやはり「長時間労働」の問題がついて回るんですよね。長時間労働をベースに業務が成り立っているようなケースでは、子供のお迎えのために早く帰ることは困難です。また困ったことに、育休を許可した上司であっても、当の本人は育児を配偶者に任せて朝から晩まで働いている、という矛盾したケースもあります。こんな状況では、育休後のノー残業はもちろん、継続的な育児への参画は難しいでしょう。育休取得よりも難しい課題かもしれません。

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トピック3:「残業」が誰かの負担になっている

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