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第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(前篇)

第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(前篇)

トピック5:育児に期限などない

鬼頭:ある男性が「どのくらいの期間、育休を取得するべきですか?」と尋ねたことがありました。それに対し知り合いの女性が、母親の立場としては「最低3ヶ月はとってほしい」と答えていました。でも、彼女はかなり遠慮して「3ヶ月」と答えたんじゃないかと想像します。もっと長く、自分と同等に取得してほしい、育休に関わらず今後もずっと対等に育児に参画してほしい。そう考えるのが当然だと思うからです。「どのくらい取得するべきですか?」という聞き方が、彼女に「3ヶ月」という返答をさせてしまったわけです。「育休」言い換えれば「育児」に、期限はないですよね。だから私は育休の期間について議論したり、その理由を求められたりしたときは、どう答えるか悩みます。

逆に、「1ヶ月育休を取ります」と宣言する男性がいるとしたら、その1ヶ月で何をするつもりなのか、考えてほしいと思います。1ヶ月という育休は、出産後の産褥期だけを助ける期間と言えるでしょう。助けがゼロの状態と比べたら意味のある1ヶ月です。でも何度も言うように「育児」は育休と同時に終わりませんよね? 子供が自立するまでの期間、ずっと続きます。であるなら、1ヶ月の育休が終わった後、どのように育児をしていくのか。それを考えておく必要があります。男性も長期的な視野をもち、育休を検討するべきではないでしょうか。

南家:話を進めれば進めるほど、「育休」だけに注目することがいかに無意味かということがわかりますね。

鬼頭:私は保育園の入園システムについての知識が足りず、長男が12月生まれというタイミングもあったので、0歳での入園を見送り、1年後の1歳での入園を選択しました。さらに慣らし保育の1ヶ月も考慮し、5月に復帰したため、結果的に育休期間が長くなりました。ただ、そもそも育休に期限を設けることに疑問をもっていたので、当初から可能な限り取得しようと決めていました。

慣らし保育なんていう期間も、もちろん最初は知らなかったわけですよ。でも経験していく中で、入園後の最初の1ヶ月なんて、大変すぎてまったく通常勤務なんて無理だということがよくわかりました。さらに保育園の入園システムって非常に複雑ですよね。こんなに難しい手続きを多くの家庭では母親だけで対応しているわけで、よくやっているなと驚きました。


トピック6:ルールの破綻

南家:保育園の入園と職場復帰に関しては、制度上少し破綻していると感じる部分もあります。自治体によっては、4月1日からフルタイムで復帰するという申請でないと、保育園に入園できません。しかし、4月1日の入園初日から子供がフルタイムで登園できるわけがありません。通常は慣らし保育という期間があります。4月1日から親がフルタイムで働くのは非常に困難です。入園申請上必要な書類をつくるのとは別に、職場では実態に即した調整が必要です。制度上の問題に気付きつつも、利用者側がなんとか上手にやりくりしながら運用しているという印象です。

鬼頭:制度は完ぺきとは限りませんから、会社の担当者にその辺の理解があって融通が利くといいですね。男性の育休取得手続きも、これどうすればいいんだ? と思うときがありました。例えば、社内向けの申請書では「育休を開始する日付」を明記し、「その日付の1週間前まで」に提出することになっていました。私は、子供が生まれた日から育休が取りたかったのですが、出産日は出産日にならないとわかりません! 1週間前に書類を提出することは不可能です。これどうすればいいんだ? となりました。

幸い当社の人事は私の問い合わせに対して柔軟に対応してくれて、出産日から取得できる当社独自の特別休暇制度の利用を勧めてくれたり、書類の提出から承認までの時間を通常より短くしてくれたりしたので非常に助かりました。出産の実状と制度がマッチしていないことがあるのは、男性による申請が少なくルール上の問題に気付く機会が足りないのかもしれません。女性の場合は、産休(産前産後休業)制度との兼ね合いで出産日の変動に対応できるしくみなので問題ないのですが、男性には産休のしくみがないんですよね。

*現在、男性の産休制度新設の動きがあるようです。
参考:男性の「産休制度」新設の動き...「収入減」「マイナス評価」懸念をどう払拭する?(2020年8月6日) news.yahoo.co.jp/articles/6a1f11c1b45415ebc108122ded274a0590df4667

南家:妊娠が確定すると、実際の出産日の目安として「出産予定日」というものが産院で決定します。それはあくまで「予定日」で、日付が前後する可能性が高く、また早すぎることも遅すぎることも命に関わる危険な状況です。そんな不安な時期が「予定日」周辺には必ず存在しています。また、出産直前の陣痛や、病院への移動の判断などの瞬間は、最も緊張が高まりますよね。その瞬間が「予定日」に来るとは限らず、母体や胎児の状況によっては何日も前から緊張状態が続くわけです。その一番センシティブな時期を妻が1人で乗り越えるとなれば、ワンオペで出産ギリギリまで家事育児に追われる、急な変調により自宅で倒れる、移動が間に合わず緊急出産にいたるといった危険な事態の発生が容易に想像できます。

そうして出産した後に、夫が「さて育休を始めようか」という意識では、もう完全に遅すぎますよね。出産日から開始する男性の育休ルールでは、これらの問題に対応できません。出産予定日以前、遅くとも1週間前から、出産に向けての様々なサポート、およびそれを支える男性の休業制度が必要なんですよね。

鬼頭:それは確かにその通りですね。私も第一子のときは知識が足りておらず、生まれた瞬間に自分が休業する準備ができていれば大丈夫だと考えていました。でも、出産前の「病院に行く」という行為が、ひとつの大変なイベントとして存在するのだと経験を通して知りました。幸運なことに、長男が出産予定日当日に生まれ、かつ妻がしっかり準備をしていたおかげで、手続きにおいて大きな混乱はありませんでした。しかし男性の方は、出産前の準備に対する認識がすっぽり抜け落ちてしまいがちですね。ですから、予定日より前から夫が休業できるしくみがあるといいですね。そうすれば急な変調にも対応できると思いますし、出産直前の危険な状況の中、家事育児を1人で背負っている女性の負担を軽減することができるでしょう。



前篇は以上です。後篇の公開は、2020年11月以降を予定しております。

プロフィール

  • 南家 真紀子
    アニメーションアーティスト

    アニメーションに関わるいろいろな仕事をしているフリーランスのアーティストで、3人の息子をもつ親でもあります。
    〈仕事内容〉企画/デザイン/アート/絵コンテ/ディレクション/手描きアニメーション。アニメーションとデザインに関わるいろいろ。
    makiko-nanke.mystrikingly.com

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