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第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(前篇)

第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(前篇)

トピック3:「残業」が誰かの負担になっている

南家:男性の育休取得者が増えて、やっと次のステージが見えてきましたね。子育てと仕事の両立を目指している方々は、「時間の価値」を強く認識し、限られた時間内に高い集中力で生産性の向上に取り組んでいます。でも逆に、生産性が労働時間に比例するケースもあります。このジレンマをどう考えていらっしゃいますか?

鬼頭:私も妻も、毎日がタイムアタックです。常に限られた時間内で仕事を終了せざるを得ない状況下で、いかに生産性を上げるか必死です。時間に非常に厳しい意識をもつようになり、とにかく毎日一所懸命にやっていますので、ダラダラした会議は本当に勘弁してほしいと思っています。育休取得者が増えて、この意識の持ち方や経験を共有できる人が増えていくのはいいことですね。

一方で、労働時間が長ければ長いほど成果物が増える、というのは当たり前のことだと思います。時短勤務や定時帰宅の人がどんなに生産性を上げても、毎日3時間残業している人との成果の差を埋めることは難しいと感じます。自分が身を置くゲーム制作の現場でも、なんだかんだで時間をかけるほどモノが良くなっていく現実を見てきました。そうして時間をかけてできた成果物は、例えば天才的な誰かが半分の時間でまったく同じものをつくれるか、というと無理なんです。実のところ天才的な人ほど、長時間労働によってその天才的な才能を発揮し、それが成果物に大いに貢献している場合があります。

だからここはもう、ドライに「ルールづくり」で解決すべきだと思います。つまり、長時間労働をしないルールにするんです。"毎日2時間皆が残業することを前提としたスケジュール"ではなく、"皆がノー残業でプロジェクトを完遂するスケジュール"を立てるという、ごく基本的なことです。

「時短勤務って、定時より2時間短いだけでしょう」と言う人がいますが、実質は2時間じゃないんですよ。定時後に何時間も残業している人が多い中で、定時よりさらに2時間も短いわけですよ。ヘタしたら周りの方々の半分くらいの勤務時間です。人事評価はどうするんですか? 労働時間が倍もちがう人たちをどう業務に割り振るんでしょうか? どっちの人員がプロジェクトにほしいですか? など疑問や問題が発生しますね。だからルールづくりが重要です。

南家:同感です。でもときに「あと3時間残業すれば解決するんだよなー」という場合もありますよね?

鬼頭:実際問題、私も「どうしても間に合わない」事態に直面することがあります。その際は、妻と相談の上で残業します。でも、私がその1〜2時間の残業をしている間、家事育児の負担が全て妻1人にかかっていくわけですよ。ですから、残業というのは、単に自分の時間を1〜2時間消費するだけでなく、さらに妻に1〜2時間の余計な負担をかける時間なんです。その時間、妻はワンオペで全てに対応しなければいけません。残業というのは子育て家庭にとって大きな負担であり、使いたくない手段です。残業の重みを強く感じています。

南家:「残業している時間、それが誰かの負担になっている」という認識を、男性である鬼頭さんが言葉にしてくださる意義は大きいです。残念ながら世の多くの夫(父親)には、その認識がないと思われるからです。私の夫もそうでした。誰かに諭されたわけでもなく、その認識にいたった理由として、育休取得は影響していると思いますか?

鬼頭:育休はひとつのキッカケでしかないと思います。男性が育休を取るとなぜか大ごとになって、こういう取材依頼が来るわけなんですけど(笑)、育児全体で考えると、育休なんてものすごく小さなほんの一部です。女性の場合は産休どころかそれ以前の妊娠期から、既に大変なわけですよね。なのに、男性は子供が生まれた"後"に育休を取り、さらにほんの短い育休の終了と共に育児の役割が完了したことになっている。そんなわけないですよね?!

私はそもそも、育休終了後も継続的に家事育児を平等に分担しながら生活したいと思っていました。初めはなかなか分担も上手くできなかったです。妻より知識が少なかったですし、母乳育児の役割は分担できないですしね。でも何年もかけて子育てしていると、もちろん一通りのことはできるようになりますし、必要なときにワンオペで家事育児を担うことも可能です。私も毎日家事育児を負担することが基本の生活ですから、もし残業するとなると、本来私がやるべき家事育児を誰かに任せることになる、という意識にいたるのは当然だと思います。

南家:非常に当たり前のことをおっしゃっていますよね。鬼頭さんご夫婦のように、共働きの家事育児においては、その認識が当たり前であってほしいと思います。どうしたら「当たり前」になっていくでしょうか?

鬼頭:この意識をもつには、もうただ家事育児をやっていくしかないと思います。私も子供が生まれる前は、育児についてまったく知識がありませんでしたし、家事育児を担っている人の気持ちもわかりませんでした。多くの人がそうだと思います。だから、まず育休を取得して、取得だけでなくしっかり実質的な家事育児に平等に参画して「ああ、こんなに大変なんだ」と経験することで、やっとわかってくるんです。基本の大変さを知っていると、例えば「1人の子育てでこんなに大変なのに、双子だったら死ぬほど大変だぞ」というように、他者への気遣いも生まれるわけです。

他人事ではなく自分事だと思えるかどうかです。何事も経験って大切で、知識だけでは解決できないですよね。実質的に経験していない人に「なぜわからないんだ」と怒っても、過去の自分がそうだったように、経験していないことはわからないんですよね。

トピック4:コロナ禍の影響の良い面&悪い面

南家:現在、コロナ禍の影響で自宅で過ごす時間が増え、男性が家事育児の「経験」をする機会も増えたはずです。良くも悪くも、これまで見えてこなかった部分が明らかになる期間でしょうね。鬼頭さんのご家庭ではどういう影響がありましたか?

鬼頭:この期間によってわかり合えた家庭、わかり合えないと気付いた家庭、様々でしょうね。私の子供たちも一時期保育園の登園を自粛し、かつ夫婦共にテレワークをすることになりました。設備的な環境は整っていますが、子供が2人いる中ではテレワークであっても実質的な作業はできません。どう分担して仕事時間を捻出するか妻と相談しました。

私たち夫婦の場合は、1人は仕事をし、もう1人はその間の家事育児を担い、それを時間交代制にしました。これまで以上に、時間と内容の分担を明確にする必要がありました。妻は朝5時から朝食までとその後の午前中勤務、私は午後から夕食までの勤務としました。実質稼働できた時間はそれぞれ1日4〜5時間でした。結局、明確に切り分けできない家事育児や、一緒に対応せざるを得ない時間も発生しました。また外出できない子供たちは体力が消費されず、やたら早朝に起きてしまうなど通常はあり得ない対応も必要になりました。でも良いこともあります。これまでは、お迎えから夕食準備までは一番大変な作業にもかかわらず、比較的妻にお願いすることが多かったのです。テレワークになったことで、その時間に私も家事育児に参画できるようになったのは良かったです。保育園の送り迎えも、今は私が担当できています。

南家:この状況下でなければ、お迎えから夕食の時間は、多くの家庭では父親が残業で家に居ないですよね。それが夫婦2人で対応できるようになり、さらに家族全員で夕食を食べることが可能になったご家庭は多いかもしれません。コロナ禍の影響とはいえ、ある意味大きな改善ですね。

鬼頭:そう思いたいのですが、残念なことにせっかく父親が在宅しているのに、なんだか世の中上手く機能していないんだな〜と感じたエピソードがあります。TV番組で「ステイホーム期間中在宅している父親が、家族のランチをテイクアウトで買いに行く」という企画を観ました。普段は何も家事育児をしない父親が、家族みんなのランチを「買いに行ってくれる」と。「おい! 買いに行くだけかよ!」「つくれよ!」と夫婦で突っ込みましたね(笑)。もちろんTVの企画自体は飲食業の応援的意味合いなどがあるとお察ししますが......。


南家:家にいるだけで何もしない父親、これはまさに「取るだけ育休」と同じ状態ですね。先ほど「意識はあれども、構造上男性が育児に参画できない」背景を取り上げましたが、面白いことにこの現象は、全く逆のパターンです。「構造上、自宅に居ることが可能になったにもかかわらず、育児に参画する意識がない」。

鬼頭:本当ですね。結局、「意識」も「構造」もどちらも必要なんでしょうね。意識の方の課題としては、残念ながら「家事育児は女性がやるもの」という考え方をなかなか切り替えられない人がいらっしゃると思うんですよ。今までに染み付いてしまった考えの切り替えが難しい気持ちは、わからなくもないですけどね。

南家:鬼頭さんが「考えの切り替え」をしたのはいつでしたか? 育休中ですか?

鬼頭:私の場合は、育休を取る前から家事育児をすると考えていたので、育休を取ると同時に切り替わったわけではありません。それでは遅いですよね。育休取得を前提にした仕事の調整は少し前から必要ですし、権利があるとは言え、軋轢を残した状態で育休に入ることは誰も望んでいないはずです。私は育休自体がそれほど大袈裟な人生の転機やキッカケになるとは捉えていませんでした。

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