記事の目次

    こんにちは。アニメーションアーティストの南家 真紀子です。本連載の第1回では読者の皆様から想像以上の反響をいただき、身の引き締まる思いでした。社会的に注目されている課題だからこそ、第2回もがんばって世に送り出したいと思ってはいたのですが......、珍しく&ありがたいことに重要な仕事のオファーが立て続けに入り、さらに新型コロナウイルス(COVID-19)感染症対策のための学校の臨時休業や外出自粛要請が重なり、脱稿が延び延びになってしまいました。

    仕事と育児の両立の難しさを噛みしめつつ、状況の改善に励んでいる今日この頃です。そんな中でお届けする第2回に登場いただくのは、プラネッタのワーキングファーザーお1人と、ワーキングマザーお2人です。2019年12月に同社を訪問し、三者三様の課題や経験を伺ってきました。その模様を前後篇に分けてお届けしますので、ぜひお付き合いください。

    ※本記事は、取材時(2019年12月)に伺った情報を基に執筆しています。

    TEXT_南家 真紀子 / Makiko Nanke(makiko-nanke.mystrikingly.com
    EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

    今回ご登場いただく、ワーキングファーザー&ワーキングマザー

    • 箱崎秀明さん
      プラネッタ
      (代表取締役/プロデューサー)


      東京造形大学を卒業後、ハドソンに入社。2007年にフリーランスとしてデザイン業務を開始し、2011年9月にプラネッタを設立。現在9期目で、従業員数は18名。事業内容は、ゲーム用3DCG制作とイラストレーション制作。
      <家族構成>
      妻・子供(2歳5ヶ月男児)、共働き


    • 中西優衣さん
      プラネッタ
      (アーティスト)


      大学時代はゲームを専攻。新卒入社した会社でパチンコ遊技機映像用のキャラクターモデリングに携わった後、結婚などの転機を経て、プラネッタに入社。現在はキャラクターモデリングを担当。1人目出産後、約4ヶ月後に仕事復帰。2020年4月に2人目を出産予定。「つわりは終わりました。楽になりました」とのこと。お疲れさまでした!
      <家族構成>
      夫・子供(2歳0ヶ月男児・妊娠6ヶ月)、共働き


    • Tさん
      プラネッタ
      (アーティスト)


      大学卒業後、一般企業に入社。その後ゲーム会社へ転職し、背景モデリングに従事。現在にいたるまで、一貫して背景を担当。正社員・派遣・プロジェクト契約などを経て、プラネッタに入社。出産後、約10ヶ月後に仕事復帰(ご本人の希望で、本名と顔写真は非掲載とさせていただきます)。
      <家族構成>
      夫・子供(7歳男児/小学校1年)、共働き


    ※プラネッタについては、以下記事でも紹介しています。
    ・起業から約10年。CGプロダクション3社の経営者が、これまでと、これからの道のりを語る(前編)(後編)
    ・どこに行けば、キャラクターをつくれますか? No.09>>プラネッタ(前編)(後編)

    「Good & New」ワークで、ポジティブ思考にスイッチ

    南家 真紀子(以下、南家):いろいろなお話を伺う前のアイスブレイクとして、2種類のワークにお付き合いください。ひとつめは「Good & New」というワークです。直近の24時間に起きた「良いこと(Good)」と「新しいこと(New)」を、1分の制限時間内に書き出していただきます。これをやると「Good & New」だけにフォーカスするので、ポジティブ思考になれますし、あまり意識していなかった小さくて身近な「Good & New」を発見できます。自分の意識がどこに向いているかを可視化し、客観視することにもつながる、とても面白いワークなんです。

    ▲左から、Tさん、中西さん、箱崎さん。「Good & New」ワークに挑戦中です


    南家:.........さて、皆さんの「Good & New」はどんな内容でしたか?

    箱崎秀明さん(以下、箱崎):ちょうど昨日、入院していた父が退院したので、会社を休んで実家に行ってました。だから仕事以外のことを書き出しています。「元気だったなー」とか、「退院できてホッとしたなー」といったことですね。

    ▲箱崎さんの「Good & New」ワーク。「じいじ元気」「ばあば ほっとした」とのこと。それは良かった!「ゲームできた」というのも「Good」です。真ん中の絵は、箱崎さんとお子さんですね


    中西優衣さん(以下、中西):子供のことしか書き出せませんでした(笑)。自分が帰宅してから夫が帰ってくるまでの間に起きた、子供のことばかり。夫の帰宅までが長いので、いろんなことがあるんです。

    南家:子供のことが「Good」として出てくるのは良いことですね。

    中西:もう可愛くてしょうがないんで(笑)。

    ▲中西さんの「Good & New」ワーク。こちらは真ん中にお子さんの絵が描かれています


    Tさん(以下、T):8割が家のこと、2割が会社のこと、という割合でした。

    南家:ワークを通して、自分の中のバランス感も見えてきますよね。

    ▲Tさんの「Good & New」ワーク。真ん中の絵はご自身でしょうか?「おむかえまにあった」「せんたくほせた」といった子供や家事のことが半分以上を占める一方で、「しごと提出できた」といった会社のことも書かれています

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    「マインドマップ」ワークで、各々の思考を見える化する

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    「マインドマップ」ワークで、各々の思考を見える化する

    南家:もうひとつ「マインドマップ」ワークにもお付き合いください。「ワークライフバランス」をテーマに、5分の制限時間内で、自分が思いつくトピックを書き出していただきます。この後のインタビューでは、ワークを通して引き出されたトピックについて伺っていきます。そうすることで、各々の課題に寄り添ったインタビューにできればと思っているんです。「まとめよう」「整理しよう」と張り切る必要はありません。思いついたトピックから書き出して、どんどん枝を伸ばして、自分ならではのツリー構造にしてください。混沌としていたり、ぼんやりしていたりする思考を見える化することで、話のきっかけが得られれば充分です。

    ▲「マインドマップ」ワークに挑戦中のTさん。思い付いたトピックを、放射状のツリー構造として書き出していくので、思考の過程をたどりやすく、見落としがちな細かいトピックまで洗い出せます。パートナーにもマインドマップをつくってもらうと、相手の思考を理解しやすくなります。私は、産後鬱になっていたときに、産後ケア事業に取り組んでいるマドレボニータというNPO法人からマインドマップの使い方を教わりました。出産後の女性には、フィジカルなケアに加え、混沌とした思考を言語化するコミュニケーションスキルも必要だと教わり、目からウロコが落ちる思いでした


    南家:さて、どんなトピックが出てきましたか?

    中西:今すぐ考えなきゃいけないことがいっぱいで、現在進行形のトピックばかりが出てきました。「子供が生まれたらどうしよう!」「あれもこれも決まってない!」という感じで、課題がいろいろあるんです。

    ▲中西さんの「マインドマップ」ワーク。「ワークライフバランス」がテーマなので、中央にシーソーが描かれています。仕事のこと、家のこと、子供のこと、実家のこと。いろんな課題が山積していることが伝わってきます


    T:あっちのトピックにも、こっちのトピックにも、「おかね」が出てきました(笑)。

    南家:わかります!

    ▲Tさんの「マインドマップ」ワーク。四方に伸びるツリーの先に必ず現れる「おかね」というトピック。老後にしろ、子供にしろ、娯楽にしろ、仕事にしろ、蓄えが気になりますよね

    トピック1:仕事をどんどん任せたい

    箱崎:私の場合は「仕事をどんどんまかせたいな」というのが最初に出てきました。私が抱えている仕事をほかの人に渡すことで、各々の仕事量のバランスをとりたいという思いがあるのに加え、その仕事をやることで、任された人が成長し、次のステップに進んでくれればという思いもあります。どちらかというと、後者の思いの方が強いですね。会社がステップアップするためには、そこで働く人の成長が不可欠です。新しい仕事を任せることで、その人が成長できれば、会社も成長し、巡り巡って私自身のワークライフバランスの実現にもつながると思っています。

    ▲箱崎さんの「マインドマップ」ワーク。箱崎というお名前にちなんで「ハコ」からツリーを伸ばしたとのこと。「仕事をどんどんまかせたいな」「リーダーの育成」「社内の制度ととのえ、チーム作り」など、経営者ならではのトピックが目を引きます


    箱崎:今は目先の仕事に時間をとられがちで、会社が抱えている本質的な課題に手をつけられずにいるんです。経営者として真っ先にやらなければいけない課題に早く着手するためにも、仕事を任せることが必要だろうと思っています。

    南家:ご自分の仕事をほかの人に任せることで、会社の成長を促すと同時に、自身のワークライフバランスも実現させたいということですね。現在の箱崎さんは、ワークとライフ(ファミリー)のバランスにどんな課題を感じていますか?

    箱崎:基本的に朝は私が子供の面倒を見ており、起床から、朝ご飯を食べさせて保育園に送り届けるまで、一通り担当しています。夜のお迎え以降は妻の担当ですが、南家さんは、この連載の第1回で「『迎え』の負担の方が大きい」と書かれていましたね。どちらかというと、朝はやることが少ない一方で時間に追われがちで、夜はやることが多い一方で時間の余裕はあるように思います。ただ、妻に週5日の「迎え」を任せきりにするのは確かに負担が大きいと思うので、週1日くらいは早く帰り、一緒に家事育児をすることを以前は心がけていました。

    南家:「以前は」ということは、今は......。

    箱崎:最近はちゃんとできていないなと、どうにかしたいなと、このインタビューをきっかけに認識を新たにしています(汗)。それに、昨日は実家に行った後、妻と2人で家事育児をしたので、万事がスムーズに進行しました。「週1日くらいは、これができると良いな」と改めて思いました。

    南家:このインタビューが記事になることで「週1日は早く帰ってね!」というプレッシャーが、さらに大きくなりますね(笑)。

    箱崎:そのくらいのプレッシャーがある方が、好都合です(笑)。2人で家事をやれば、早く子供を寝かしつけられて、2人の時間が確保できますよね。いつもよりゲームもできるかもしれない(笑)。ワークとライフのバランスをとるためには、自分が早く帰ることも必要なんだと思います。

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    トピック2:子供の睡眠時間が短い

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    トピック2:子供の睡眠時間が短い

    南家:中西さんの家庭も「迎え」は妻の担当ですか? 先ほど「夫の帰宅までが長い」と語っていましたが......。

    中西:はい。「迎え」は私の担当で、朝は夫に全部任せています。当社の定時は10時〜19時(休憩1時間)ですが、私は出社時間を8時に前倒ししており、保育園の登園時間より前に家を出る必要があるんです。仕事は17時きっちりに終わらせ、お迎えに行ってから帰宅し、子供と遊んだり、ご飯を食べさせたりします。

    南家:勤務時間を8時〜17時に前倒しすることで、フルタイムを実現しているわけですね。パートナーの帰宅は何時ですか?

    中西:早いときは20時くらいですが、遅いと23時になることもあります。夫が帰宅したら、子供をお風呂に入れてもらい、その間に食器洗いなどの残りの家事をする、というのが普段のながれです。夫の帰宅が遅いと、お風呂以降の全ての予定が後ろ倒しになるので、まだ2歳児なのに0時頃まで起きていることに慣れてしまいました。お昼寝をしているから大丈夫かなと思いつつ、ちょっと不安に感じています。

    南家:専門家によると、2歳児なら睡眠時間は11~14時間必要なんだそうです。本来の概日リズム(circadian rhythm)に合わせて、就寝時間を正常化してほしいなと強く思います。私の双子の息子は先天的に自律神経が弱く、症状によっては登校できないこともあるんです。ただ、自律神経を正常な状態に戻す手段は、薬を除くと生活習慣の改善だけなんです。医師から「就寝時間が遅いと、自律神経が乱れて症状の悪化につながります」と忠告されたこともあり、すごく気にするようになりました。パートナーの帰宅時間は非常に重要な課題ですね。

    中西:はい。私1人で子供をお風呂に入れて、家事もやって、寝かしつけまでするのは難しいので、なるべく早く帰ってきてほしいなと思います。子供がいると、すぐ寄ってきて周りをウロウロするので、家事をやろうにも危なくてしょうがないんです。夫が帰宅したら子供の相手を任せられるので、その間に大急ぎで家事をやるようにしています。それに、うちの子供は家族3人が川の字に並んで寝ないと落ち着かないんです。小さい頃からそうしてきたので、それが当たり前になっていて「並んでないと嫌だ!」と言って寝てくれません。

    南家:パートナーも横で寝ないと、起きちゃうわけですね。子供の毎日って、いわゆる「ルーティンワーク」が基本ですから、それが習慣になっているとしたら、当面は1人で寝てくれないでしょうね......。小さい頃に身に付けた生活習慣が、小学校に入学しても続いていくから、早い段階で生活リズムを整えることが大切なんだなと、自分の息子を見ながら実感しています。パートナーの職業は何ですか?

    中西:ゲーム会社のプログラマーで、サブリーダーを務めています。だからα版の完成前などは仕事が詰まりやすく、帰宅時間の遅い日が続きがちです。

    南家:ゲーム業界やCG業界は、夫の帰宅時間が遅くなりがちですよね。その結果、妻が1人で家事育児をすることになり、子供の睡眠時間にも影響してくるというのは私も思い当たるふしがあるので、すごく興味深いです。家事育児を2人でできると、手数が「倍」になるから、早さが全然ちがいますよね。

    箱崎:.........うぅっ (ーー;)。


    南家:一般論として言ったつもりなんですが、箱崎さん個人へのプレッシャーがますます大きくなっちゃいましたね(苦笑)。すいません!

    中西:(笑)。4月には2人目の子供が生まれるので、どうなるんだろうと今から不安です。

    箱崎:1人目が、良いお兄ちゃんになってくれるといいですね。

    中西:そうですね。ゴミ捨てだったり、簡単な用事だったり、今も教えたことは自分でやってくれるので、今後の成長が楽しみです!

    トピック3:仕事の時間が限られている

    南家:中西さんの「マインドマップ」で、「しごと」の先に「時間がかぎられてる」と書いてあるのが気になります。私も常に同じことを感じているので。

    中西:1人月分の勤務時間があるものの、今はアートディレクターとしての管理と、アーティストとしての制作の両方をやっているので、仕事が溢れがちです。とはいえ残業はできないから、溢れた分を自分が手を動かすことでカバーするのは難しいです。管理のスキルを上げてカバーできるようになりたくて「マインドマップ」には「出世したい」というトピックも書き出しました。

    南家:具体的には、どんな仕事を担当していますか?

    中西:キャラクターのモデリングからウェイト付けまでをセットで担当しています。アニメーションもやりたいという気持ちはあるのですが、時間は有限なので、アートディレクターとして、モデリングからアニメーションまでの全工程を統括できるようになりたいと思っています。

    南家:職人のように制作に注力する働き方ではなく、アートディレクターとして指示を出す働き方にシフトすることで、担当工程を広げたいというわけですね。

    中西:そうです。制作に注力するだけだと、時間が足りなくてモヤモヤするので、アートディレクターになることで「自分の手」を増やそうと考えています。

    南家:その考え方は、よくわかります。

    トピック4:自分の適性、自分の年齢、子供の成長

    南家:Tさんの「マインドマップ」では、「しごと」の先に「スキル」「集中力」「あたま」と続いていますね。

    T:ちょっと老化が始まっていて(笑)、管理の仕事は向いてない、集中力が続かない、頭が動かない、目も悪くなってきた......みたいな感じで、自分の適性やら年齢やら課題は多いですね。どうにかしたいです。管理の仕事の大切さは理解できますし、実際にやらせてもらったこともあるんですが、私には制作の方が向いているなと思ったので、今は制作だけをやらせてもらっています。

    南家:現在の勤務時間はどうなっていますか?

    T:出社は9時頃、退社は16時頃です。私の息子は発育が遅れ気味で、体が小さいんです。小児科の先生からは「睡眠を10時間はとるようにしてください」と指導されています。登校時間から逆算すると20時には寝かせないといけないので、16時には退社して、学童保育までお迎えに行くようにしています。息子は小学校の1年生ですが、この季節だと17時でも真っ暗ですから、お迎えが必要ですね。

    南家:お子さんの特性に合わせて、退社時間を16時にしているわけですね。パートナーの帰宅時間は遅いですか?

    T:遅くなりがちですね。夫はイベント運営会社に勤めており、帰宅が0時を過ぎたり、土曜や日曜も仕事があったりという状況なので、息子と接する時間が朝しかないんです。だから息子の登校時には途中まで夫が付き添っています。

    南家:パートナーの仕事がそういう状況だと、ワンオペ育児になることが多そうですね。

    T:そうですね。今はそれほど大変ではないですが、息子なりに社会と1対1で接するようになってきたので、小さいときとはちがう「事件待ち」のような状態になっています。息子が外で何かを起こしたら自分が出向くという感じで、昔とは悩みの内容がちがってきました。

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    トピック5:経営者から見た、仕事と育児の両立

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    トピック5:経営者から見た、仕事と育児の両立

    南家:ゲーム業界やCG業界は、経営者や役員に占める女性の割合が少ないこともあって、仕事と育児の両立に対する理解や支援がまだまだ不十分だと感じています。そんな中で、箱崎さんは経営者であると同時にワーキングファーザーでもあるので、仕事と育児の両立という課題にどう向き合っているのか、ぜひお話を伺ってみたいです。

    箱崎:私自身、10年以上前には現場でバリバリ制作に励んでおり、終電帰りはもちろん、徹夜も当たり前にやっていました。ただ、そういう働き方は今後衰退していくだろうなと思ったんです。だから当社を立ち上げるにあたり、長時間労働を前提としない、効率の良い働き方をする会社にしたいと思いました。例えば、手作業でチクチクとモデリングするだけではなく、プラグインを使うことで、早く正確に制作できる方法を取り入れたりしています。最初から仕事と育児の両立を目的にしていたわけではありませんが、結果的に、両立しやすい働き方を目指すことにもなっていると思います。

    南家:私もかつては会社に寝袋を持ち込んで、仮眠しながら夜通し制作したりもしていました(笑)。当時はそれが当たり前でしたが、徐々に世の中の考え方が変わってきましたね。

    箱崎:最近は、学生さん向けの会社説明会で「何時に帰れるんですか?」という質問を受けることが増えてきました。勤務時間を明確にしておかないと、有望な若手が応募してくれないようにも感じています。そういう背景もあって、当社の新人には「入社1年目は残業NG」というルールを課しています。「10時〜19時の勤務時間の中で、仕事を終わらせる術を身に付けてください。残業したい場合は、残業の理由をちゃんと上司に説明してください」と伝えています。加えて、退社前にその日の作業報告書を制作し、何の作業に、どれくらいの時間をかけたのか、ふり返ってもらうようにしています。それに上司も目を通し、時間をかけ過ぎている作業があれば、その理由を確認したり、相談にのったりするようにもしています。

    南家:新人が定時で帰ることをルールとして定めているのは画期的だなと思います。本来であれば、一番帰りづらい立場ですよね。

    箱崎:その影響なのか、先輩や上司も早々に切り上げて帰る社風になってきました。22時には、会社に誰もいないという日も珍しくありません。私自身もなるべく早く帰るようにしていますが、遅くまで残っているスタッフがいれば「最近どう?」と声をかけて、個人的な相談にのったりすることもあります。

    南家:経営者としては、残っているスタッフのことも気になりますよね。

    箱崎:2人だけだから話せることもあるので、最後の施錠まで見届ける日もあります。とはいえ、私がバリバリ働いていた時代と比べれば、帰りやすい雰囲気になっていると思います。実際のところは、中西やTに聞いてみないとわかりませんが(笑)。

    T:新人向けのルールを、中途入社や派遣社員の人たちにもわかりやすく明示すると、さらに帰りやすくなると思います。たまに理解していない人もいますから。

    箱崎:確かに......伝え方を見直してみます。ちなみに、新人の中には、勤務が終わった後も会社に残ってツールの勉強をしたり、デッサンをしたりする人もいます。社内の環境を使って勉強したい、自主制作したいといった自分への投資は、申請があれば認めるようにしています。人によっては「時間に縛られず、気が済むまで制作したい」と思うかもしれませんが、会社の仕事としてやる場合は「この時間内で完了させる」というように、事前に制作時間を決めて取り組んだ方が、良いものができると思っています。そのためにも、作業時間を曖昧なままにするのではなく、最初に完成までの時間の使い方を考え、予定通りに終わるよう仕事を組み上げていく習慣を新人のうちに身に付けてほしいのです。

    南家:作業時間を意識することの大切さは私も実感しています。実は、先ほどの2種類のワークには「限られた時間内で集中して思考する」ことのトレーニングという側面もあるんです。仕事と育児を両立しようとすると、時間の使い方を工夫せざるをえないですから。例えば、子供のお迎え時間までに退社しなければいけないとなれば、効率化を考えますよね。

    中西:実際、産休前に比べれば、自分の仕事をかなり効率化できていると思います。「以前は時間があることに甘えていたんだな!」と、今ならわかります。

    南家:例えば「大好きなアーティストのライブに行くから、17時に退社しなければいけない。チケットも購入してある!」となれば、絶対に仕事を終わらせますよね(笑)。だから、その気になればできると思うんです。

    箱崎:確かに(笑)。当社の場合、子供のいる男性は私だけなんです。でも既婚男性はいますし、未婚者もいずれ子供をもつかもしれません。そうなったときに「社長は育児を理由に遅刻や早退をしていたから、自分も同じようにして良いんだよな」と考えてほしいので、「子供の予防接種に行ってから出社します」、「今日は妻の帰りが遅いから、早退して子供を迎えに行きます」というように、育児にまつわる事情をあえてスタッフにも伝えるよう心がけています。社長がそういう姿勢でいれば、男女を問わず育児に取り組みやすい雰囲気になるんじゃないかと思うんです。とはいえ、休む理由を伝えたくない人もいると思うので、どこまで自分がプライバシーを公開するのか、試行錯誤中です。

    T:育児はともかく、共有カレンダーに「ライブに行くから早退します」と書いてあったら、真面目な人は微妙な顔をするかもしれませんね(笑)。

    中西:それは「私用」で良いんじゃないですか?「子供の誕生日」とかであれば、微笑ましいですが(笑)。

    箱崎:そうですね。その辺も探っていきます(笑)。いずれにせよ、遅刻や早退、休みの連絡を入れる際に「すみません」と書かないよう心がけています。実際には申し訳ない気持ちになりますが、育児も私用も、悪いことではないので、ほかのスタッフに後ろめたく感じてほしくないんです。

    南家:素敵な心がけですね。箱崎さんが率先して取り組むことで、ほかのスタッフも育児や私用のスケジュール調整がやりやすくなると思います。



    前篇は以上です。後篇の公開は、2020年5月以降を予定しております。

    プロフィール

    • 南家 真紀子
      アニメーションアーティスト

      アニメーションに関わるいろいろな仕事をしているフリーランスのアーティストで、3人の息子をもつ親でもあります。
      〈仕事内容〉企画/デザイン/アート/絵コンテ/ディレクション/手描きアニメーション。アニメーションとデザインに関わるいろいろ。
      makiko-nanke.mystrikingly.com

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