トピック5:経営者から見た、仕事と育児の両立
南家:ゲーム業界やCG業界は、経営者や役員に占める女性の割合が少ないこともあって、仕事と育児の両立に対する理解や支援がまだまだ不十分だと感じています。そんな中で、箱崎さんは経営者であると同時にワーキングファーザーでもあるので、仕事と育児の両立という課題にどう向き合っているのか、ぜひお話を伺ってみたいです。
箱崎:私自身、10年以上前には現場でバリバリ制作に励んでおり、終電帰りはもちろん、徹夜も当たり前にやっていました。ただ、そういう働き方は今後衰退していくだろうなと思ったんです。だから当社を立ち上げるにあたり、長時間労働を前提としない、効率の良い働き方をする会社にしたいと思いました。例えば、手作業でチクチクとモデリングするだけではなく、プラグインを使うことで、早く正確に制作できる方法を取り入れたりしています。最初から仕事と育児の両立を目的にしていたわけではありませんが、結果的に、両立しやすい働き方を目指すことにもなっていると思います。
南家:私もかつては会社に寝袋を持ち込んで、仮眠しながら夜通し制作したりもしていました(笑)。当時はそれが当たり前でしたが、徐々に世の中の考え方が変わってきましたね。
箱崎:最近は、学生さん向けの会社説明会で「何時に帰れるんですか?」という質問を受けることが増えてきました。勤務時間を明確にしておかないと、有望な若手が応募してくれないようにも感じています。そういう背景もあって、当社の新人には「入社1年目は残業NG」というルールを課しています。「10時〜19時の勤務時間の中で、仕事を終わらせる術を身に付けてください。残業したい場合は、残業の理由をちゃんと上司に説明してください」と伝えています。加えて、退社前にその日の作業報告書を制作し、何の作業に、どれくらいの時間をかけたのか、ふり返ってもらうようにしています。それに上司も目を通し、時間をかけ過ぎている作業があれば、その理由を確認したり、相談にのったりするようにもしています。
南家:新人が定時で帰ることをルールとして定めているのは画期的だなと思います。本来であれば、一番帰りづらい立場ですよね。
箱崎:その影響なのか、先輩や上司も早々に切り上げて帰る社風になってきました。22時には、会社に誰もいないという日も珍しくありません。私自身もなるべく早く帰るようにしていますが、遅くまで残っているスタッフがいれば「最近どう?」と声をかけて、個人的な相談にのったりすることもあります。
南家:経営者としては、残っているスタッフのことも気になりますよね。
箱崎:2人だけだから話せることもあるので、最後の施錠まで見届ける日もあります。とはいえ、私がバリバリ働いていた時代と比べれば、帰りやすい雰囲気になっていると思います。実際のところは、中西やTに聞いてみないとわかりませんが(笑)。
T:新人向けのルールを、中途入社や派遣社員の人たちにもわかりやすく明示すると、さらに帰りやすくなると思います。たまに理解していない人もいますから。
箱崎:確かに......伝え方を見直してみます。ちなみに、新人の中には、勤務が終わった後も会社に残ってツールの勉強をしたり、デッサンをしたりする人もいます。社内の環境を使って勉強したい、自主制作したいといった自分への投資は、申請があれば認めるようにしています。人によっては「時間に縛られず、気が済むまで制作したい」と思うかもしれませんが、会社の仕事としてやる場合は「この時間内で完了させる」というように、事前に制作時間を決めて取り組んだ方が、良いものができると思っています。そのためにも、作業時間を曖昧なままにするのではなく、最初に完成までの時間の使い方を考え、予定通りに終わるよう仕事を組み上げていく習慣を新人のうちに身に付けてほしいのです。
南家:作業時間を意識することの大切さは私も実感しています。実は、先ほどの2種類のワークには「限られた時間内で集中して思考する」ことのトレーニングという側面もあるんです。仕事と育児を両立しようとすると、時間の使い方を工夫せざるをえないですから。例えば、子供のお迎え時間までに退社しなければいけないとなれば、効率化を考えますよね。
中西:実際、産休前に比べれば、自分の仕事をかなり効率化できていると思います。「以前は時間があることに甘えていたんだな!」と、今ならわかります。
南家:例えば「大好きなアーティストのライブに行くから、17時に退社しなければいけない。チケットも購入してある!」となれば、絶対に仕事を終わらせますよね(笑)。だから、その気になればできると思うんです。
箱崎:確かに(笑)。当社の場合、子供のいる男性は私だけなんです。でも既婚男性はいますし、未婚者もいずれ子供をもつかもしれません。そうなったときに「社長は育児を理由に遅刻や早退をしていたから、自分も同じようにして良いんだよな」と考えてほしいので、「子供の予防接種に行ってから出社します」、「今日は妻の帰りが遅いから、早退して子供を迎えに行きます」というように、育児にまつわる事情をあえてスタッフにも伝えるよう心がけています。社長がそういう姿勢でいれば、男女を問わず育児に取り組みやすい雰囲気になるんじゃないかと思うんです。とはいえ、休む理由を伝えたくない人もいると思うので、どこまで自分がプライバシーを公開するのか、試行錯誤中です。
T:育児はともかく、共有カレンダーに「ライブに行くから早退します」と書いてあったら、真面目な人は微妙な顔をするかもしれませんね(笑)。
中西:それは「私用」で良いんじゃないですか?「子供の誕生日」とかであれば、微笑ましいですが(笑)。
箱崎:そうですね。その辺も探っていきます(笑)。いずれにせよ、遅刻や早退、休みの連絡を入れる際に「すみません」と書かないよう心がけています。実際には申し訳ない気持ちになりますが、育児も私用も、悪いことではないので、ほかのスタッフに後ろめたく感じてほしくないんです。
南家:素敵な心がけですね。箱崎さんが率先して取り組むことで、ほかのスタッフも育児や私用のスケジュール調整がやりやすくなると思います。
前篇は以上です。後篇の公開は、2020年5月以降を予定しております。
プロフィール
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南家 真紀子
アニメーションアーティスト
アニメーションに関わるいろいろな仕事をしているフリーランスのアーティストで、3人の息子をもつ親でもあります。
〈仕事内容〉企画/デザイン/アート/絵コンテ/ディレクション/手描きアニメーション。アニメーションとデザインに関わるいろいろ。
makiko-nanke.mystrikingly.com
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