>   >  いまどきCG業界のワーク&ファミリー:第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(後篇)
第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(後篇)

第3回:男性の育休に「理由」も「期限」も必要ない!(後篇)

こんにちは。アニメーションアーティストの南家 真紀子です。第3回 前篇では、バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)の鬼頭雅英さん(ゲームデザイナー/ライター)に、以下の6つのトピックについて伺いました。

トピック1:「子供が生まれたから」
トピック2:育休の「その後」を考える
トピック3:「残業」が誰かの負担になっている
トピック4:コロナ禍の影響の良い面&悪い面
トピック5:育児に期限などない
トピック6:ルールの破綻

前篇に引き続き、後篇では以下の5つのトピックについて伺います。

トピック7:男性にも育児をする権利がある
トピック8:会社の育休アピール
トピック9:育休って仕事に役立つの?
トピック10:子供に勧めたい作品
トピック11:鬼頭さんのマインドマップ

※本記事は、取材時(2020年7月)に伺った情報を基に執筆しています。

TEXT_南家 真紀子 / Makiko Nanke(makiko-nanke.mystrikingly.com
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

▲【左】鬼頭雅英さん/【右】南家 真紀子(Skypeで取材に応じていただきました)

トピック7:男性にも育児をする権利がある

鬼頭雅英さん(以下、鬼頭):私の妻は「男性も育児をする権利があるよね」と言うのです。「だって、育児をしたいでしょ? 自分の子供の世話をしたいという気持ちは、とても当たり前だよ」と。「確かにその通りだ!」と思いましたね。男性は「妻が大変だから、"助けなきゃいけない"」という理由を口にしがちですし、実は以前の私もそういう意識がありました。でもよく考えてみると「大変じゃなかったら助けないの?」「育児に参画しないの?」「自分の子供なのに?」という疑問が生まれます。本質を考えると「助ける」という理由はとても変です。

だって、私は子供に自分のことを「親」だと思ってもらいたいです。なぜか一緒に住んでいるけど、何もしてくれない人、という存在にはなりたくありません。自分の子供を自分で育てたいから育児に参画する、ただそれだけを理由にした方が違和感がありません。

南家 真紀子(以下、南家):鬼頭さんの「子供から親として認識してもらいたい」という言葉は、子育ての楽しい部分だけでなく、大変な部分も担い、毎日子供を見守り、世話をして、初めて「親」として認識してもらえるのだ、という思いを感じます。

鬼頭:その通りですね。楽な部分だけやるのは育児じゃないと思います。例えば「公園の鳩にエサをあげる行為」は、鳩が好きなんじゃなくて、エサやりが楽しいからやっている場合も多いですよね。本当に鳩が好きなら、糞の掃除など、鳩の生育の全てに関わる世話をするはずです。育児の場合はなおさら、子育ての全てをやることに価値があると思います。

でも実は、昔の貴族のように、家事育児の大変な部分を使用人や乳母に任せて、自分は子育ての楽しい部分だけをやる、という生活にも憧れるんです。毎日育児が大変すぎて、ただ可愛いところだけを担当したい、つらいところは全部乳母にやってもらいたい、貴族のような立場になりたい、という憧れが芽生えました(笑)。

南家:わかります。それはきっと育児の大変さを痛感したからこその気持ちですよね。一方で「鳩の餌やり的お手伝い」から脱しない男性もいます。先程の「父親がランチをテイクアウトで買いに行くだけで育児か?」という話(前篇 トピック4参照)も同様ですよね。この現象をどう捉えますか?

鬼頭:これについては、私の中にふたつの気持ちが存在します。ひとつ目は男性側を弁護したい気持ちです。完璧な育児ができていないからといって、「育児ができない人」と言われるのは辛いです。自分も含め、男性はどうしても「自分のお腹で子供を育てている女性よりも、育児のスタートが遅れてしまう」というコンプレックスがあると思います。女性と同等にスタートできる人はなかなかいません。どうしても後追いで参画することになり、先にスタートした女性から「あれができない、これができない」と指摘を受けながら取り組むことになるんです。「完璧にできるようになるまで、どうせ褒めてはもらえないだろう」とひねくれてしまうわけです。ですから、減点法ではなく加点法にしてほしいです。今まで何もしなかった父親が、ランチを買いに行ってくれたんだから、過去に比べれば良くなったじゃないか、という発想です。

ふたつ目は、ひとつ目と正反対です。優しく受け止めて加点してあげたい気持ちとは裏腹に「文句を言いたくなる」気持ちです。多くの女性がこちらの感情をおもちでしょう。私は、この感情になる機会が多いのでよくわかります。

例えば、加点法の立場に立つと、「育休を1ヶ月とりました」と言う男性に対し、「よかったね〜。それだけでも妻は助かるはずだよ。育休ゼロよりずっとマシだよ」と褒めたくなります。一方で「1ヶ月やそこら育休を取っただけで......」とイラッとくる自分もいるわけです。

南家:育児にしっかり参画している人ゆえの、アルアルですね。ちなみに、鬼頭さんが男性の立場を代弁してくださったのと同様に、女性の立場を代弁すると「女性も完璧な育児なんてできない」わけですよ。しかし古い慣習のもと「女性」という理由だけで「完璧な育児を求められる立場」に置かれ、その社会的圧力の中で必死で取り組むことになります。だからきっと他者(とりわけ男性)を、厳しい目で見るのでしょうね。男女にかかわらず、育児にしっかり参画している人は、きっと心にこういう葛藤が芽生えます。「毎日育児に向き合い戦っている自分を、誰か褒めてほしい。なのに誰も褒めてはくれない。にも関わらず、自分より明らかに努力の足りない人を、なぜ褒めなければならないのか」と。

鬼頭:こういう葛藤は、期待値に対して足りているか、足りていないか、の話でしょうね。「父親がランチを買いに行っただけで褒められる現象」は、不良少年がネコを可愛がっていたら「本当は優しい人なのね」となぜか評価が上がる現象と同様ですね(笑)。きっとその父親への期待値はほぼゼロだったのでしょう。期待値が低ければ、小さなことでも褒められます。世の中、まだまだ父親への期待値は低いです。だから、私の立場は得ですよ。母親の皆さんから常に褒められます。その瞬間はイイ気分ですが、ふと気付くんです。「男だから言われたんだな」と。残念ながら育休を男性が取得することは「特別」だと思われてしまっています。実際、育休取得した女性に対して「すごいですね!」と褒める人は少ないですよね。でも男性だと驚かれる。期待値が低いというのはそういうことです。

南家:確かに、そもそも自分に期待されているレベルが低いとわかったら、微妙な気持ちになりますよね。本連載の第2回で取材した箱崎さん(プラネッタ 代表取締役/プロデューサー)も同様の発言をなさっていました(第2回 後篇 トピック7参照)。母親と対等に家事育児をしている父親が感じる、アルアルですね。育児に参画する父親を「褒めること」は良いことだと思いますか?

鬼頭:男性としては、褒められること自体は嬉しいです。「褒める」方法論は間違っていないと思います。実際、初めは家事育児が上手くできないですから、優しい言葉の方が受け入れやすいです。例えばアルバイト初日を想像してください。優しい言い方の方が、指導が上手く進みますよね。表面的にはそういうレベルの話だと思います。ただ、表面だけでなく、その背景まで深く考えた場合には、父親と母親に求められる慣習的な役割の差に関する根深い問題を感じます。

トピック8:会社の育休アピール

南家:本連載の第1回公開後、「男性の育休取得者がいるので、ぜひ当社を取材してほしい」という趣旨のお申し出を数社からいただきました。もちろん、大変ありがたく感じていますし、育休取得率の増加を応援しています。しかしながら、実質的な内容に関わらず、数字を強調することに疑問を感じるようになりました。男性の「育休取得率」「人数」「期間」といった数字は表面的な現象に過ぎず、本旨はもっと先にあるからです。あえて厳しい言い方をすると、育休の「数字」アピールの内容によっては、会社の意識の低さが露呈する気もします。ゲーム業界やCG映像業界で働く若い世代の方々は、会社の「男性育休アピール」をどう捉えればいいと思いますか?

鬼頭:「育休が取りやすくなった現状」はポジティブに捉えていいと思います。なぜなら以前は「育休が取れる」ということが会社アピールになるという発想すらなかったからです。それが最近になって「ワークライフバランスを考えている会社です」という言葉がイメージアップになる風潮が出てきました。良い会社の定義が少しずつ変わってきた証拠だと思います。その変化自体は良いことです。

一方で、実質的な内容に踏み込んで捉えることも必要でしょう。就職・転職希望者が「この会社は、仕事と子育ての両立を実現できる体質・構造だろうか?」と知りたい場合には、「何時に帰れますか?」と聞くのがいいと思います。これは「男性の育休取得率」よりも的確な質問です。

これまでお伝えしてきた通り、「育休」で育児は終わりません。育休取得は当たり前で、大切なのは「子育てしながら、継続的に働ける環境か」という点です。「育休取得率が高いですよ!」とアピールしている会社でも、「育休が終われば通常勤務に戻り、平均2〜3時間は残業しています」という実態があるなら、その会社で働きながら育児をすることは困難です。夫婦で家事育児を対等に分担し、共にキャリアを築いていくことは不可能でしょう。ですから「育休が取れますか?」よりも「何時に帰れますか?」と聞いた方が本質に迫れると思います。

その質問に対する答えが「法律に従って、年間残業を720時間以内にしています」というものなら、まずいかもしれません。「そもそも720時間は多すぎるんだって!」と突っ込みたいです(笑)。法律で認められた上限ギリギリの時間ですからね。それを言っちゃうということは、「当社はギリギリまで働いてもらいますよ〜!」という宣言をしていることと同様になってしまいます。家事育児と仕事を両立できる環境とはとても言えません。

会社に対して「どれだけ本気で長時間労働を抑える気があるのか」を問うていくことは、子育てに関わらず、ワークライフバランスにおける重要なポイントだと思います。「会社側のアピールに惑わされず、しっかり質問していきましょう」と、世代を問わず伝えていきたいです。

次ページ:
トピック9:育休って仕事に役立つの?

その他の連載