こんにちは。アニメーションアーティストの南家 真紀子です。第3回 前篇では、バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)の鬼頭雅英さん(ゲームデザイナー/ライター)に、以下の6つのトピックについて伺いました。

トピック1:「子供が生まれたから」
トピック2:育休の「その後」を考える
トピック3:「残業」が誰かの負担になっている
トピック4:コロナ禍の影響の良い面&悪い面
トピック5:育児に期限などない
トピック6:ルールの破綻

前篇に引き続き、後篇では以下の5つのトピックについて伺います。

トピック7:男性にも育児をする権利がある
トピック8:会社の育休アピール
トピック9:育休って仕事に役立つの?
トピック10:子供に勧めたい作品
トピック11:鬼頭さんのマインドマップ

※本記事は、取材時(2020年7月)に伺った情報を基に執筆しています。

TEXT_南家 真紀子 / Makiko Nanke(makiko-nanke.mystrikingly.com
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

▲【左】鬼頭雅英さん/【右】南家 真紀子(Skypeで取材に応じていただきました)

トピック7:男性にも育児をする権利がある

鬼頭雅英さん(以下、鬼頭):私の妻は「男性も育児をする権利があるよね」と言うのです。「だって、育児をしたいでしょ? 自分の子供の世話をしたいという気持ちは、とても当たり前だよ」と。「確かにその通りだ!」と思いましたね。男性は「妻が大変だから、"助けなきゃいけない"」という理由を口にしがちですし、実は以前の私もそういう意識がありました。でもよく考えてみると「大変じゃなかったら助けないの?」「育児に参画しないの?」「自分の子供なのに?」という疑問が生まれます。本質を考えると「助ける」という理由はとても変です。

だって、私は子供に自分のことを「親」だと思ってもらいたいです。なぜか一緒に住んでいるけど、何もしてくれない人、という存在にはなりたくありません。自分の子供を自分で育てたいから育児に参画する、ただそれだけを理由にした方が違和感がありません。

南家 真紀子(以下、南家):鬼頭さんの「子供から親として認識してもらいたい」という言葉は、子育ての楽しい部分だけでなく、大変な部分も担い、毎日子供を見守り、世話をして、初めて「親」として認識してもらえるのだ、という思いを感じます。

鬼頭:その通りですね。楽な部分だけやるのは育児じゃないと思います。例えば「公園の鳩にエサをあげる行為」は、鳩が好きなんじゃなくて、エサやりが楽しいからやっている場合も多いですよね。本当に鳩が好きなら、糞の掃除など、鳩の生育の全てに関わる世話をするはずです。育児の場合はなおさら、子育ての全てをやることに価値があると思います。

でも実は、昔の貴族のように、家事育児の大変な部分を使用人や乳母に任せて、自分は子育ての楽しい部分だけをやる、という生活にも憧れるんです。毎日育児が大変すぎて、ただ可愛いところだけを担当したい、つらいところは全部乳母にやってもらいたい、貴族のような立場になりたい、という憧れが芽生えました(笑)。

南家:わかります。それはきっと育児の大変さを痛感したからこその気持ちですよね。一方で「鳩の餌やり的お手伝い」から脱しない男性もいます。先程の「父親がランチをテイクアウトで買いに行くだけで育児か?」という話(前篇 トピック4参照)も同様ですよね。この現象をどう捉えますか?

鬼頭:これについては、私の中にふたつの気持ちが存在します。ひとつ目は男性側を弁護したい気持ちです。完璧な育児ができていないからといって、「育児ができない人」と言われるのは辛いです。自分も含め、男性はどうしても「自分のお腹で子供を育てている女性よりも、育児のスタートが遅れてしまう」というコンプレックスがあると思います。女性と同等にスタートできる人はなかなかいません。どうしても後追いで参画することになり、先にスタートした女性から「あれができない、これができない」と指摘を受けながら取り組むことになるんです。「完璧にできるようになるまで、どうせ褒めてはもらえないだろう」とひねくれてしまうわけです。ですから、減点法ではなく加点法にしてほしいです。今まで何もしなかった父親が、ランチを買いに行ってくれたんだから、過去に比べれば良くなったじゃないか、という発想です。

ふたつ目は、ひとつ目と正反対です。優しく受け止めて加点してあげたい気持ちとは裏腹に「文句を言いたくなる」気持ちです。多くの女性がこちらの感情をおもちでしょう。私は、この感情になる機会が多いのでよくわかります。

例えば、加点法の立場に立つと、「育休を1ヶ月とりました」と言う男性に対し、「よかったね〜。それだけでも妻は助かるはずだよ。育休ゼロよりずっとマシだよ」と褒めたくなります。一方で「1ヶ月やそこら育休を取っただけで......」とイラッとくる自分もいるわけです。

南家:育児にしっかり参画している人ゆえの、アルアルですね。ちなみに、鬼頭さんが男性の立場を代弁してくださったのと同様に、女性の立場を代弁すると「女性も完璧な育児なんてできない」わけですよ。しかし古い慣習のもと「女性」という理由だけで「完璧な育児を求められる立場」に置かれ、その社会的圧力の中で必死で取り組むことになります。だからきっと他者(とりわけ男性)を、厳しい目で見るのでしょうね。男女にかかわらず、育児にしっかり参画している人は、きっと心にこういう葛藤が芽生えます。「毎日育児に向き合い戦っている自分を、誰か褒めてほしい。なのに誰も褒めてはくれない。にも関わらず、自分より明らかに努力の足りない人を、なぜ褒めなければならないのか」と。

鬼頭:こういう葛藤は、期待値に対して足りているか、足りていないか、の話でしょうね。「父親がランチを買いに行っただけで褒められる現象」は、不良少年がネコを可愛がっていたら「本当は優しい人なのね」となぜか評価が上がる現象と同様ですね(笑)。きっとその父親への期待値はほぼゼロだったのでしょう。期待値が低ければ、小さなことでも褒められます。世の中、まだまだ父親への期待値は低いです。だから、私の立場は得ですよ。母親の皆さんから常に褒められます。その瞬間はイイ気分ですが、ふと気付くんです。「男だから言われたんだな」と。残念ながら育休を男性が取得することは「特別」だと思われてしまっています。実際、育休取得した女性に対して「すごいですね!」と褒める人は少ないですよね。でも男性だと驚かれる。期待値が低いというのはそういうことです。

南家:確かに、そもそも自分に期待されているレベルが低いとわかったら、微妙な気持ちになりますよね。本連載の第2回で取材した箱崎さん(プラネッタ 代表取締役/プロデューサー)も同様の発言をなさっていました(第2回 後篇 トピック7参照)。母親と対等に家事育児をしている父親が感じる、アルアルですね。育児に参画する父親を「褒めること」は良いことだと思いますか?

鬼頭:男性としては、褒められること自体は嬉しいです。「褒める」方法論は間違っていないと思います。実際、初めは家事育児が上手くできないですから、優しい言葉の方が受け入れやすいです。例えばアルバイト初日を想像してください。優しい言い方の方が、指導が上手く進みますよね。表面的にはそういうレベルの話だと思います。ただ、表面だけでなく、その背景まで深く考えた場合には、父親と母親に求められる慣習的な役割の差に関する根深い問題を感じます。

トピック8:会社の育休アピール

南家:本連載の第1回公開後、「男性の育休取得者がいるので、ぜひ当社を取材してほしい」という趣旨のお申し出を数社からいただきました。もちろん、大変ありがたく感じていますし、育休取得率の増加を応援しています。しかしながら、実質的な内容に関わらず、数字を強調することに疑問を感じるようになりました。男性の「育休取得率」「人数」「期間」といった数字は表面的な現象に過ぎず、本旨はもっと先にあるからです。あえて厳しい言い方をすると、育休の「数字」アピールの内容によっては、会社の意識の低さが露呈する気もします。ゲーム業界やCG映像業界で働く若い世代の方々は、会社の「男性育休アピール」をどう捉えればいいと思いますか?

鬼頭:「育休が取りやすくなった現状」はポジティブに捉えていいと思います。なぜなら以前は「育休が取れる」ということが会社アピールになるという発想すらなかったからです。それが最近になって「ワークライフバランスを考えている会社です」という言葉がイメージアップになる風潮が出てきました。良い会社の定義が少しずつ変わってきた証拠だと思います。その変化自体は良いことです。

一方で、実質的な内容に踏み込んで捉えることも必要でしょう。就職・転職希望者が「この会社は、仕事と子育ての両立を実現できる体質・構造だろうか?」と知りたい場合には、「何時に帰れますか?」と聞くのがいいと思います。これは「男性の育休取得率」よりも的確な質問です。

これまでお伝えしてきた通り、「育休」で育児は終わりません。育休取得は当たり前で、大切なのは「子育てしながら、継続的に働ける環境か」という点です。「育休取得率が高いですよ!」とアピールしている会社でも、「育休が終われば通常勤務に戻り、平均2〜3時間は残業しています」という実態があるなら、その会社で働きながら育児をすることは困難です。夫婦で家事育児を対等に分担し、共にキャリアを築いていくことは不可能でしょう。ですから「育休が取れますか?」よりも「何時に帰れますか?」と聞いた方が本質に迫れると思います。

その質問に対する答えが「法律に従って、年間残業を720時間以内にしています」というものなら、まずいかもしれません。「そもそも720時間は多すぎるんだって!」と突っ込みたいです(笑)。法律で認められた上限ギリギリの時間ですからね。それを言っちゃうということは、「当社はギリギリまで働いてもらいますよ〜!」という宣言をしていることと同様になってしまいます。家事育児と仕事を両立できる環境とはとても言えません。

会社に対して「どれだけ本気で長時間労働を抑える気があるのか」を問うていくことは、子育てに関わらず、ワークライフバランスにおける重要なポイントだと思います。「会社側のアピールに惑わされず、しっかり質問していきましょう」と、世代を問わず伝えていきたいです。

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トピック9:育休って仕事に役立つの?

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トピック9:育休って仕事に役立つの?

南家:あえてお聞きしますが、実際のところ育休経験が仕事に役立ったことはありますか?

鬼頭:これまでお伝えした通り、育休を語るとき、「それが仕事に役立つかどうか?」を問うことに意味はないと思います。この意見に高尚な理由はなくて、ただ実際に自分が育児に参画してみたところ「これ、仕事と全然関係ないぞ」と思っただけです(笑)。「子供向けのゲームを思いつくんじゃない?」といった意見はよく聞くのですが、育休中の乳児の世話はそんな次元ではありません。1日中、赤ちゃんを抱っこして、ミルクをあげて、オムツを変えて、の繰り返しです。そういう行為が、ゲームデザインの仕事に直接的に役立つことはないので、育児と仕事を無理に結びつけようとは思いません。

ただ、価値観は広がります。これまでの人生の中で、赤ちゃんという存在や、育児という行為に触れてこなかったので、それがどういうものなのかを体感しながら学びました。そして住んでいる地域とのつながりが芽生えました。これまでは自宅と最寄り駅を往復するだけでしたが、駅の反対側にある商店街やスーパーにも足を運ぶようになりました。さらに「多忙な育児の中で、せめておいしいランチが食べたい!」という思いから、お気に入りのカフェを地元で見つけたり、地元の様々な場所を散策したりしました。

近所の子育て仲間など、育児に参画していなければ知り合う機会がなかったであろう人々にも出会い、仲良くなりました。そして、これらの発見や出会いが、自分の価値観を広げてくれました。この価値観の広がりは、直接的ではないけれど、ぐるっと回って仕事に影響するかもしれませんね。

南家:育児中、SNSやスマホゲームに救いを求める心情については、どう思いますか?

鬼頭:SNSやスマホゲームがストレス解消になっているという状況は、自分の育児経験を通じて、大変理解できました。赤ちゃんを抱っこしながらでも、スマホの画面なら見られます。親指1本でできる操作で、ストレスの解消方法を探すわけですよ。

SNSには「育児の辛さを共有している人たち」が沢山いますよね。「こんなに辛いのは自分だけじゃないんだ」とSNSを通じて救われている人がどれほど多いかを実感しました。例えば、育児が辛すぎて、自分の子供を床に叩きつけたいという衝動に駆られた方がいました。でもそれは決してもってはいけない感情だから、自分の頭がおかしんじゃないか。自分がおかしい人間だから、そういうことを考えてしまったんじゃないかと、誰にも言えない気持ちを抱えて自分自身を責め続け疲弊していたのです。でもSNSを通じて、自分と同じ境遇で、同じような悩みを抱えている人の存在を知って救われる、というようなケースを見てきました。

SNSを通じて、自分は異常ではないということ、育児に疲弊すると、愛情と同時に負の感情も芽生えることもある、ということを知れば、安心して冷静に対処できます。自分を責め続ける負の連鎖から救われ、そして子供の命も救われるわけです。

同じくスマホゲームも救いになると思うのです。ゲームは「生きていく上で必要ないもの」と言われがちですが、育児の真っ只中、隙間時間で親指1本しか使えない状況の人たちが、ゲームによってそのストレスを解消できているわけです。そういう大切な事実を、ゲームをつくったスタッフの方々にも知ってもらいたいと思いましたね。あなたのつくったゲームは、育児中の辛い状況下にある人たちに楽しんでもらえていて、ある意味、人を救っているのだと。

南家:最近『あつまれ どうぶつの森』(Nintendo Switch)をプレイする息子さんを見て、気付きがあったそうですね。

鬼頭:5歳(年長)の息子は、平仮名とカタカナの簡単な文章なら読めますが、ゲーム中に表示される言葉は言い回しが難しく、読解できないことが多いです。「読んで!」とせがまれるので、キャラクターの台詞にボイスがついていたり、「文章の読み上げ機能」があったら良いなと思いました(笑)。また「見せびらかす」コマンドを息子が喜んで使っていることに驚きました。大人の発想だと、ゲーム中のキャラクターに自分のアイテムを見せびらかす行為に意味があるとは思えませんよね。でも息子は、自分のアイテムを見せびらかし、キャラクターに拍手してもらえることをとても喜んでいるのです。「このコマンドに、こんなすごい価値があったのか!」と、息子の反応を通じて発見することができました。

島の名前をつけるとき、このゲームでは「ユーザーが自分の好きな名前を入力する一方で、ほかのキャラクターも名前の候補を出し、結果的にユーザーの名前に最も多くの票が集まり、多数決で島の名前が決定する」という演出がなされています。大人は「そういうプログラムでできているんだな」とドライに理解するだけです。けれども息子は、目を輝かせ、自分の名前が多数決で選ばれたことを喜んでいたのです。プログラムされたキャラクターとの会話であっても、息子の心の中ではマルチプレイなのです。

南家:ゲーム内で子供の自己肯定感が高まるのは興味深いです。ここまでお聞きして、育休という短期間では仕事への直接的な影響が生じずとも、育児全般を広い視野で見ると、新しい価値観や新しい視点を得て、かなり仕事に影響してくる様子が伺えます。

鬼頭:私も話していてそう感じました(笑)。赤ちゃんを泣き止ませるテクニックは全然仕事に役立たないですが、価値観が広がれば広がるほど、仕事への影響範囲も広がっていく感じです。そういう意味では役立っていますね。私の業種においては、いろんな世代や立場のユーザーを理解することにつながると思います。

南家:「育児」と「仕事」の両方をやってみて、感じたことはありますか?

鬼頭:「どんなに理不尽な仕事でも、赤ちゃんよりはマシ」ということです。育児中の私にとって職場は、育児から解放される場所です。職場に着くと「会社にいる時間だけは育児のことを忘れよう」という気持ちになるんです(笑)。仕事に行くことで子供と距離を置くことができ、自分を取り戻した気持ちになります。もし誰にも子供を預けずに、マンツーマンで自宅育児を続けていたら、きっと頭がおかしくなってしまいます。孤独な育児に苦しんでいる女性の状況を理解しました。同時に「なんて仕事は楽なんだろう!」と感じたのです。それに比べて、子育ての辛さといったら......。睡眠時間を削られ、要求はひどく理不尽で、かつ解決が難しいことばかりです。

男性の中には「専業主婦の妻が家事育児全般を担い、夫は会社に勤めてお金を稼ぐ。これは平等な役割分担でしょう」と言ってしまう人がいますが、私は仕事の方が楽だと感じます。もちろん大変な職場にお勤めの方もいらっしゃると承知していますし、一概には言えませんが、「一番大変な労働は "育児" です」と言いたくなります。そうまで感じる人がいることは、育児経験のない人たちにも知っておいてほしい事実です。


南家:育児と仕事の両立を実践している鬼頭さんが言うと、とても説得力がありますね。

トピック10:子供に勧めたい作品

南家:子供に勧めたい作品、鬼頭さんが幼少期に影響を受けた作品について教えてください。

鬼頭:最終的には自分自身で好きなものを見つけてほしいですが、それ以前に「どうやったら、そんな作品に出会えるのか」が子供にはわからないはずです。例えば、面白い作品にはまり、同じ体験をしたいと思ったとき、次の面白い作品に出会うための手助けをしたいと思っています。同じ作家、同じジャンルの関連作品を探す方法や、通販サイトで探す方法、自分と同じ趣味のレビュアーの推薦作品から探す方法など、いろんな手段があります。そういう探し方や、たどりつき方を伝えてあげたいです。

高校時代の私は、邦画ってつまらないと感じていました。ハリウッド映画は面白いのに、邦画の何が面白いんだろうと。でも、当時の私が見た作品が、たまたまつまらない作品だった、というだけのことなのです。また、周囲からお勧めされた本は、いわゆる「名作」と評されるものばかりでした。「名作」と言っても、高校生が見て面白い作品とは限りません。例えば国語の教科書に載るような作品であっても、自分は興味がもてなかったのです。人に勧められた名作よりも、自分が面白いと感じるものを探したい、と私は思っていました。

一度「面白い!」と思える作品に出会えば、そこから興味が広がり、ほかの作品も読むようになりました。古い作品も、「当時の人は、これを面白いと思って読んでいたのかな?」という視点で楽しめるようになり、やがて名作と言われるものにも手を出すようになりました。私には、自分の好みとマッチングする作品の探し方や、作品の楽しみ方に関する経験値があるので、それを子供に伝えてあげたいです。そうすれば、過去の自分のような食わず嫌いを起こすことなく、様々な作品に触れる機会をつくってあげられるのではと考えてます。

そして、私の人生でナンバーワンの漫画は『14歳(フォーティーン)』(楳図かずお/小学館/1990〜1995)です。保管してあるのでいつか見せてあげたいのですが、タイミングが非常に悩ましいです。早く見せすぎると、絶対拒絶反応を起こすでしょうから(笑)。

南家:今の子供に与えたい、未就学児向け作品はありますか?

鬼頭『こどものとも』といった福音館書店の月刊絵本を与えています。とても薄い絵本ですが「なぜ毎月こんな良質な本をつくれるんだ!」と驚かされる内容です。私が子供の頃、親が同じものを定期購読してくれていて、本棚の下の2段が絵本でビッシリ埋まっていたことを覚えています。子供たちも喜んで読んでいて、読書の楽しさを知るきっかけになったと感じます。

ちなみに、自分の仕事柄、子供がゲームをやることにあまり抵抗感はないですが、やらせすぎないように心がけています。『あつまれ どうぶつの森』などは内容が平和で安心できますね。

南家:ゲームと言っても幅広いですから、中には残酷で暴力的な表現のものもありますよね。子供に与えるものの内容を気にしますか?

鬼頭:もちろん暴力的なコンテンツは与えないよう心がけています。でも、例えば「人を殺すゲームをプレイする子供は、将来、人を殺す人間になる」とは思っていません。では、なぜ暴力的なコンテンツを与えないのか、と考えたところ、実は客観的な理屈があまり見つからないのです。ただひとつ明確に存在するのは「自分の子供が、人を殺すゲームを楽しんでプレイしている姿を見るのは、"私が" 不快になる」という気持ちです。「人を傷つけたり殺したりする行為は、悪いことです」という道徳観を子供自身が理解できるまでは、暴力的なコンテンツを与えるのは不安です。

香川県では、「ゲームは1日1時間」というゲーム依存症規制条例が4月に施行されました。賛成している親も一定数いるようです(※)。条例の内容は置いておくとして、賛成する親の気持ちは一部わかります。というのも親になって初めてわかったのですが、「子供が自分自身でゲーム時間を制限できるように促すためのコスト」はすごく高いのです。当たり前ですが「止めろ止めろ」と言っても止められないですよね。子供に対しあの手この手で自分の行動をコントロールするよう促すのですが、結局は叱ることになったりします。各家庭が負担するコストたるや、大変なものですよ。「条例で決まっているんだからゲームを止めなさい」と言いたくなる気持ちもわかりますし、それで解決するなら楽ですよね。ただ実際には、なかなかそれだけでは解決しないと思いますが。

※「ゲーム規制条例案に賛成が49.75%?子育て世代の親に子供のゲームのプレイ時間について聞いた結果を発表」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000052686.html

鬼頭:ゲームをする子供の「言葉遣い」も心配になります。ゲームに興奮すると「クソ」「死ね」といった言葉がボイスチャットで飛び交うということもよく聞きます。ゲーム中の暴力表現よりも、友達に対する汚い言葉遣いや乱暴なコミュニケーションの方が気になります。

「人を殺すゲームをプレイする子供は、将来、人を殺す人間になる」とは思いませんが、「ゲーム中で汚い言葉遣いをする子供は、日常的に汚い言葉遣いをする人間になる」のではないかという不安はあります。

トピック11:鬼頭さんのマインドマップ

▲本連載の第2回と同様、鬼頭さんにも「ワーク&ファミリー」をテーマにしたマインドマップを作成していただきました。私が取材に取り入れているマインドマップのワークでは、ひとつのテーマを決め、5分の制限時間内で、ご自身が思いつくトピックを思いつくままに書き出していただきます。「まとめよう」「整理しよう」という意識は不要です。美しいマップをつくる必要はありません。思いついたトピックから連想して別のトピックを書き出し、さらにまた連想を広げていく、という風にどんどん枝を増やしていきます。結果的に、そこにはオリジナリティ溢れるツリー構造が生まれるはずです。このワークには、混沌としていたり、ぼんやりしていたりする目の前の状況や自分の考えを見える化する効果があります


南家:鬼頭さんは仕事と育児のバランスを日々考えていらっしゃるはずですが、マインドマップでは家事の項目が少ないですね。そんな中で「片付け・掃除」だけがなぜピックアップされたのでしょうか。

鬼頭:ただただ「片付けと掃除」ができていないんですよ。毎日「やんなきゃなあ......」と思いつつ、できない。もう諦めているにもかかわらず「やんなきゃ」というプレッシャーがあって、頭から離れないんですよ。その結果、ここに言葉として出てきたわけです。食事、洗濯、保育園の準備、風呂洗いなど、毎日必ずやらなければいけないタスクに追われる中で、片付けと掃除をやる時間なんて、ないですよね?! 共働きで家事育児を分担しているご家庭は、皆さんどうしているんだろうと気になります。全部はできない中で、どの家事を諦めるかというと「片付け・掃除」になりますよね。食事や洗濯を諦めるわけにはいかないですから。

南家:激しく同意です(笑)。

鬼頭:しかも私の場合は、さらにカブトムシの世話が加わりましたからね。


南家:そうなんですよ。鬼頭さんのマインドマップの1/4は「カブトムシ」です。家事、育児、仕事、と並列にカブトムシ(笑)。

鬼頭:正直、脳味噌の30%くらいもっていかれてますね。始まりは、子供と一緒にカブトムシ釣りで釣った数匹でした。子供が興味をもったので、環境を整えたところ、卵を産み、36匹の幼虫になりました。成虫になった後は個別の容器に移して飼育しています。もう業者のような体制です。保育園つながりでほかのご家庭にいくつかお譲りしたりもしました。

今は17匹ですが、最大で20匹いました。1匹ずつ個別の容器に入れており、全部に餌を与える作業に最短でも15分かかります。ほかの家事育児もありますから、餌やりの15分は大きな負担です。それを毎日やるわけですからね。ケースのおがくずや土を変えるときは、さらに負担が増えます。

たまに、成虫がケースから逃げちゃう事件も起きるんです。そうなると、家のどこかに潜む成虫を探さなくてはいけません。昼間は動かない性質なので見つかりにくいですが、夜になると動き出して音を立てます。どこからともなく聞こえてくるカサカサ音に耳をすまし、一生懸命探します。

先日は、納戸の中の備蓄用飲料水の箱の中に入り込んでしまい、ペットボトルを噛んで穴を開けていました。ペットボトルから水がピューっと漏れていたのでびっくりしましたね。なんでも噛んじゃう性質みたいですが、ペットボトルに穴を開けるほどの力があるとは思いませんでした。ちなみに、ほかにカニとバッタもいます。

南家:家事育児と仕事の両立が大変な中、これほどの手間と時間をかけるカブトムシ(とカニとバッタ)の飼育って、鬼頭さんにとって、実は負担ではなく「癒し」なのかなと思いました。

鬼頭:確かに、飼っているうちに可愛くなってきたということはあります。

南家:鬼頭さんのお子さんも興味津々ですか?

鬼頭:それが全然興味ないんですよ! でも触るのは楽しいみたいです。たまに「カブトムシタイム」と称して、カブトムシを体に乗せたりしているんですが、それによってカブトムシが弱ってしまうので、結局私の方から「あまり触らないで」と言ってしまい、どうしてこうなった......という感じです(笑)。家に大量のカブトムシがいるにもかかわらず、駄菓子屋でおもちゃのカブトムシを買ったり、『あつまれ どうぶつの森』でカブトムシを捕まえたりして喜んでいます。その程度の興味なので、子供がカブトムシの世話をすることはありません。

南家:これは、子供がきっかけで始まったけれど、親がはまってしまうという、アルアルかもしれませんね。

鬼頭:あ、それですね。子育てをしていなければ、生物を飼う機会はなかったですから。でも決してはまっているわけではないんですよ。これも家事の一環という認識です。とはいえ、もう手が回らない状況なので、妻からは常々「どっかに逃してきて」と言われています(笑)。



プロフィール

  • 南家 真紀子
    アニメーションアーティスト

    アニメーションに関わるいろいろな仕事をしているフリーランスのアーティストで、3人の息子をもつ親でもあります。
    〈仕事内容〉企画/デザイン/アート/絵コンテ/ディレクション/手描きアニメーション。アニメーションとデザインに関わるいろいろ。
    makiko-nanke.mystrikingly.com

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