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第4回:コミュニティの力が働き方を変える(前篇)

第4回:コミュニティの力が働き方を変える(前篇)

トピック3:【変化】「時短勤務にもフレックスタイム制を適用」「在宅でのリモートワーク」

南家:一連の【行動】によって起こった【変化】についても教えていただけますか?

鈴木:私がタスクフォースに提出した意見のひとつが「時短勤務にもフレックスタイム制を適用してほしい」というもので、ワーキングペアレンツコミュニティでは多くの人が切望していました。従来、フルタイムで働く場合はフレックスタイム制が適用されていましたが、時短勤務に切り替えると適用されなくなり、決まった時間に出社・退社する必要があったのです。時間の融通がきかなくなり、多くのワーキングペアレンツが困っていました。

育児をしていると、保育園の登園時に子供がグズるなど、いろんなトラブルが起こるので、どうしても遅刻が増えてしまいます。だから「時短勤務であっても、出社・退社時間の融通がきく制度を適用してもらえませんか?」という意見を出したのです。ちょうど同じ頃、本部長が当時私が所属していたセガ・インタラクティブの杉野社長(※3)に「うちの開発チームの鈴木が、タスクフォースやCEDECでもがんばっているんです。機会があったら、声をかけてやってください」というようなことを伝えてくれました。

※3 現セガ 代表取締役社長COO 杉野行雄氏のこと。当時はセガ・インタラクティブ 代表取締役社長CEO。


その直後、なんと社長から「私にできることがあったら、何でも言ってください」というような内容のメールが届きました。「えー! うそー! 社長からメール来たー!」と、ものすごく驚きましたね(笑)。

せっかくの機会なので「時短勤務にもフレックスタイム制を適用していただきたいです」と、しっかり要望を伝えました。その後、社長は関係各所に対していろんな働きかけをし、わずか半年で実現してくださいました。多くの人が望みつつ、ずっと導入されなかった制度が、わずか半年で導入されたのです。「社長! ありがとうございます〜!」と感謝しましたね。

南家:出産後、仕事に復帰し、少しずつ仲間を増やし、コミュニティをつくり、タスクフォースに参加し、CEDECで登壇もして、という鈴木さんの粘り強い行動が、社長の行動を促し、変化につながったのしょうね。

鈴木:社長は、多くのワーキングマザーがこの制度の導入を望んでいたことを以前からご存じだったそうです。たくさんの声が積み重さなり、機が熟し、変化が起こったのだと思います。

南家:「開発職にも在宅でのリモートワークを認めてほしい」という意見の方はどうなりましたか? コロナ禍の影響で、今では多くのゲーム会社が認めるようになっていますが、当時はそうじゃなかったわけですよね?

鈴木:在宅でのリモートワークのテストは実施されました。ただ「開発職のリモートワークは無理だろう」「環境を整えられない」という意見が多かったですね。それでも「月1回でもいいから、テストさせてください」とお願いして、2018年の12月からやらせていただきました。当時、私の子供は小学校2年生でした。

月1回のテストからスタートし、多くて月4回ほどでしたが、少しずつ回数を増やし、生産性などに問題がないか確認しました。私は復職後もフルタイムのフレックスタイム制、または裁量労働制で勤務してきましたが、リモートワークが可能になれば、フルタイムを維持しながら子供と長く接することができ、時間の融通もきくので、実現を望んでいましたね。

南家:「無理だろう」という意見が多かった理由を教えていただけますか?

鈴木:開発に使うツールの多くは社内での使用が前提になっていて、社外で使えるようにするためには、ライセンスやインフラなど、いろんな要件を見直す必要がありました。また、本来なら社内に留めておくべきデータを社外にもち出すとなると、セキュリティの面でもリスクが高くなります。データは社内に留めておき、社外からアクセスするという選択肢もありますが、ゲーム開発で扱うデータは容量が大きいので、できる作業が限られてしまうという問題がありました。

先のような事情から、社内にいる場合と全く同じ業務をリモートワークでも実施できたわけではないので、テストの時点では、一部のデータだけを切り出して在宅環境にもっていって作業していました。あくまで暫定的な処置という前提だったんです。それでも「週1回、一部のデータだけを切り出して在宅で作業する程度であれば問題ない」ということは証明できました。けれど、当社には「在宅でのリモートワークは、子供が小学校3年生になるまで」というルールがあったんです(※4)。

※4 テスト期間を経て「育児・介護支援」を目的とした在宅勤務制度が会社に正式導入されました。ただ、育児短時間勤務も含めて「育児」と認定されるのが小学校3年生までの子供がいる家庭となっていたため、子供が小学校4年生になるとリモートワークが利用できなくなる状況でした。


リモートワークを続けるうちに子供が3年生になり、進級後も制度を活用したかったので適用範囲の延長を何度か相談しましたが、社内規程をすぐに変更することが難しく、進展がない状況でした。そして、来月から4年生になるという2020年3月、コロナ禍の影響で小学校が一斉休校になったのです。この時点では緊急事態宣言が発令されておらず、会社は通常勤務の状態で、私は週1回のリモートワーク中でした。

南家:突然の一斉休校は、小学生のいるご家庭に深刻な影響を与えましたね。

鈴木:はい。一斉休校に対応しなければいけない一方で、所属部署からは「リモートワークは生産性が下がるから、なるべく控えてほしい」と言われました(苦笑)。当時は、現在ほどリモートワーク環境が整っていなかったのです。小学校併設の学童保育も閉鎖になり、民間の学童保育で8時から19時まで預かってもらいました。夫婦交替で定時退社して迎えに行きましたが、連日長時間預けることになって、1ヶ月で15万円以上かかりました。経済面、体力面、精神面の全てにおいて本当にきつかったです。「この状態がずっと続いたらどうしよう......」と不安でたまりませんでした。

南家:その状況はつらかったでしょうね。そんな中、2020年4月7日に7都道府県(東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡)で緊急事態宣言が出されました。その結果、在宅でのリモートワークが一気に推進された......というながれでしょうか?

鈴木:はい。リモートワークを始めてから約1年半、一斉休校の開始から約1ヶ月のタイミングでした。しかも暫定的な処置ではなく、長期運用を前提にしての推進だったので驚きました。ITサポート担当の方々がものすごくがんばってくださり、インフラやセキュリティが強化されていきました。社外での使用を想定していなかった各種ツールも、全て社外で使えるように調整され、リモートワークの生産性はどんどん上がっていったんです。

南家:鈴木さんの所属はアーケードゲーム開発チームなので、家庭用ゲームやスマホゲーム以上にリモートワークへの対応が難しかったのではないでしょうか?

鈴木:実機(筐体)での確認が必要な場合は、今でも出社する必要がありますね。ただ、それ以外の業務の多くはリモートワークで対応できるようになりました。私たちのチームに限らず、ゲーム業界では「データ容量的にかなり重い」「セキュリティが厳しい」などの理由で社外にもち出せないものがあるので、苦労している方が多いと思います。

ただ、当社にはアグレッシブなプログラマーがいて「自宅PCからでも、社内PCを経由すれば実機にアクセスできるはず」と言って、実機のリモート操作に無理やり取り組んでいました(笑)。こんな状況であっても、開発メンバーはいろんなアイデアを出し合って、前向きに行動していますね。

南家:コロナ禍であっても、ポジティブにアイデアを出し合う開発メンバーの存在は本当に頼もしいですね。また結果として、お子さんが小学校4年生になった現在も、在宅でのリモートワークが続いているわけですよね?

鈴木:はい! 子供が小学校から帰宅して、宿題に取り組んでいる様子をそっと見守りながら働けるので、本当に助かっています。塾や習い事の送迎、小学校の面談やPTAの当番などにも離席して対応できます。おかげで、世に言う「小4の壁」も乗り越えられそうです。この経験を通して、在宅でのリモートワークによって、ワークライフバランスが整うことを強く実感しています。



前篇は以上です。後篇の公開は、2021年6月以降を予定しております。

プロフィール

  • 南家 真紀子
    アニメーションアーティスト

    アニメーションに関わるいろいろな仕事をしているフリーランスのアーティストで、3人の息子をもつ親でもあります。
    〈仕事内容〉企画/デザイン/アート/絵コンテ/ディレクション/手描きアニメーション。アニメーションとデザインに関わるいろいろ。
    makiko-nanke.mystrikingly.com

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