数々のハリウッド映画に携わるビジュアルデベロップメントアーティスト・伊藤より子氏が主催するペインティング・ブートキャンプ『Let’s ART IN 田舎 第4回 2026年 郡上八幡(ブートキャンプ)』が、11月21日(土)〜23日(月・祝)に岐阜県郡上市の郡上八幡で開催される。第1回から好評を博している本ワークショップ。

今回はRiot Gamesで活躍するデザイナー、アイリ・パン氏をゲスト講師に迎え、「キャラクターを軸に世界観を構築するコンセプトアート」を学びながら、美しい水の町からインスピレーションを得たキャラクターを制作する(午前の講義はオンラインでのライブ受講も可能)。

今回、来日を控えたアイリ・パン氏にインタビューし、キャラクターデザイナーを目指したきっかけやキャラクターデザインへのこだわり、アーティストとしてのオリジンについて話を聞いた。本ワークショップのカリキュラムは、アイリ氏自らが組んだものだ。情熱あふれるアイリ氏のキャラクターデザイン論から刺激を受け、オンラインでもきっと多くのものを持ち帰ってもらえるはずだ。

記事の目次
    映画・ゲームのためのキャラクター・コンセプトアート

    Airi Pan(アイリ・パン) 氏

    ロサンゼルスを拠点に活動するキャラクターデザイナー、コンセプトデザイナー、イラストレーター。現在Riot Gamesで働く。映画、アニメーション、ゲームなど幅広い分野で活躍し、これまでに Pixar、Netflix、Activision、Blizzard Entertainment、Warner Bros. などのプロジェクトに参加し、現在も複数の未発表作品に携わっています。アジアとアメリカ、両方の文化の中で育った経験を背景に、ストーリーやキャラクターの個性を大切にしながら魅力的なキャラクターと、その世界観を生み出すデザインを得意としています。また、日々のスケッチや自然、旅、家族や友人との時間からもインスピレーションを得て、自身の作品づくりに取り入れています。 関わった作品:Pixar『Hoppers』, Netflix『The Monkey King』, Riot Games『For Demacia』, Turtle Rock Studios『Back 4 Blood』, Activision『Call of Duty: Black Ops Cold War』他

    きっかけはディズニープリンセス

    CGWORLD(以下、CGW):初めまして、よろしくお願いします。まずは今までどんなお仕事をされてきたのか、アイリさんの自己紹介をお願いします。

    アイリ・パン氏(以下アイリ):私は現在Riot Gamesというゲーム会社で、コンセプトアーティストとして働いています。様々な仕事をしていますが、ひと言でいえばコンセプトアーティストですね。ゲームタイトルのコンセプトアートやイラストのほか、映画やテレビ番組のコンセプトアート、クリエイティブディレクションも手がけていて、自分のアートを活かした仕事をしています。

    幼い頃に中国からアメリカに引っ越して、その頃からポップカルチャーやアートに興味を持ち始めました。

    CGW:コンセプトアーティスト、キャラクターデザイナーを目指したきっかけを教えてください。

    アイリ:私がアメリカに引っ越してきた頃は、英語が話せませんでした。でも当時から、ディズニープリンセスの映画が大好きで、わからない英語でもアニメーションを通して理解することができました。

    同時にアニメ映画は外国からきた自分に、アメリカのカルチャーを紹介してくれるものでもあったんですよね。なので、私がこの業界に興味を持ったきっかけといえば、ディズニーのプリンセス映画だといえますね。

    Zoomでインタビューを受けるアイリ・パン氏
    Zoomでインタビューを受けるアイリ・パン氏

    CGW:私も英語はわからないながら、幼い頃からディズニープリンセス映画を見て歌を歌ったりしていました。親近感が湧きます。

    アイリ:幼い頃は、次のディズニープリンセスを自分でデザインしてみたいとぼんやり思っていたんです。高校の時には医学の道に進もうと考えていたのですが、私の高校にゲームのキャラクターデザイナーが講演をしに来たことがあり、考えが変わりました。

    その人は『Overwatch』(2016年/Blizzard Entertainment)のキャラクターをデザインした人で、私もそのゲームがとても好きだったから、話を聞いて感激したことを今でも覚えています。

    今まではイメージできていなかったけど、実際にゲームのキャラクターをデザインをしている人がいて、その人の話を聞いたことで「よし、私もやってみよう」と思うことができました。

    そこからは一直線にキャラクターデザインの仕事を目指して頑張りました。

    CGW:高校生の時、初めてキャラクターデザイナーという仕事があることを知ったのですね。

    アイリ:そうですね。それまでは、そんな仕事があるってことも知りませんでした。それに、講演をしてくださった方がすごく若い方で、自分よりも5〜6歳ほど年上なだけだったことにも衝撃を受けました。とても親近感を覚えたんです。

    CGW:アジアとアメリカの両方で育った経験は、ご自身のデザインや感性に影響していると思いますか?

    アイリ:もちろん、双方のカルチャーからとても影響を受けていると思います。アメリカの学校での美術の学び方はハイパーリアリズム(写実的)で、油絵を実践したりもします。それと並行して、中国人の先生から水彩画も学んでいました。

    『Riftbound』(2025年/Riot Games)というゲームのAhriというキャラクターコンセプトを描く際に、その時に習った水彩画の手法を使って描きました。ただ、実際にトラディショナルな筆と紙で描いたわけではなく、Photoshopで描いていますけどね。

    CGW:ご自身のルーツである中国の文化から学んだものが、実際のお仕事に活かされているんですね。PixarやNetflix、Riot Gamesなどで様々なジャンルの作品に関わっていますが、一番印象に残っている作品はありますか?

    アイリ:Riot Gamesのバーチャルアイドルグループ「K/DA」のカムバック作品『FIRESTARTER』のミュージックビデオですね。今年11月に開催される世界最大規模のeスポーツイベントに向けて制作したものでもあります。

    『League of Legends』というゲームをベースにしたNetflixのアニメシリーズ『Arcane』(2021年)の制作チームが、現在Riotで一緒に働いているチームなんです。そのチームでこの作品を制作しました。

    K/DA - FIRESTARTER(Official Music Video)

    また、K/DAとLouis Vuittonのコラボレーションによるアートブック『Travel Book Tempo Point』のアートディレクションも担当しました。

    Louis Vuitton「Travel Book Tempo Point」

    他の作品だと、ディズニー&ピクサーの『Hoppers』(2026年/邦題:私がビーバーになる時)も印象に残っている作品のひとつです。この作品ではコンセプトアートを担当して、監督とも近い距離で仕事をすることができて良かったですね。すごく可愛い映画です。

    キャラクターの“ストーリー”をいかに落とし込むか

    CGW:キャラクターデザインやコンセプトアートを制作する際のこだわりはありますか。

    アイリ:私がBlizzard Entertainmentで働いていた頃にキャラクターデザイナーから学んだことが、私の基本になっています。それは「キャラクターはストーリーを持っている」ということ。

    かっこいい、綺麗、可愛いといった表面的な魅力だけではなく、例えば彼・彼女らが持っているもの、着るものや身につけるもの一つひとつに至るまで、それを持つ意味がある。そのキャラクターにとって必要なもので、それを持っている背景があるかどうかが問われるんです。

    キャラクターデザインはプラクティカル(実用的)であり、ストーリーの中で“生きた”デザインでなくてはならない。それが私の一番大切にしているこだわりです。

    アイリ氏のキャラクターデザイン
    アイリ氏のキャラクターデザイン

    CGW:そうしたキャラクターのバックボーンをどのように決めていますか?

    アイリ:どんな感情を伝えたいか、で決めています。例えば、騎士のキャラクターを考えるとします。強いのか、怖いのか、優しいのか、繊細なのか。たくさんの形容詞を出して、プレイヤーがこのキャラクターをどんなふうに受け止めるのかを、ビジュアルで伝えられるようにしなくてはいけない。キャラクターの性格や感情を伝えられる表現を探ることが重要です。

    CGW:旅行などからキャラクターのインスピレーションを得ることもあるとうかがっていますが、最近キャラクタークリエイションに影響を与えたできごとはありましたか?

    アイリ:最近だと、チベットに旅行したことですね。チベットのラサにあるジョカン(大昭寺)という寺院に行ったのですが、そこにあった柱がとても印象的で。寺院の中にある短い一本の柱に、巡礼者の歯が入っていたんです。

    昔のチベットでは巡礼は徒歩だったため、寺院にたどり着くまでに亡くなる方も多かったのだそうです。亡くなった方は寺院まで来られないため、代わりに歯だけを持ってきて寺院の中に安置するという風習があったと聞きました。その話に感銘を受けて、巡礼者の歯を盗もうとするヴィランをデザインしました。チベットの巡礼にまつわる歴史に、とてもインスパイアされましたね。

    チベット写真
    チベットの旅行にて撮影した写真(本人撮影)

    チベット旅行キャラクターデザイン
    巡礼者の歯を盗もうとするヴィラン

    紅葉舞う郡上八幡でのワークショップ

    CGW:今回のワークショップは郡上八幡という土地で行われますが、どんなところに魅力を感じて選びましたか?

    伊藤より子氏(以下、伊藤):今までいくつかの土地でワークショップを開催してきて、常に新しい開催地の候補を探してきましたが、なかなか全ての条件に合う場所がなくて。郡上八幡は、岐阜の城下町としてたまたま知った場所です。

    初めて訪れて、とても素晴らしいところだと思いました。ウォーカブル(歩き回れる)であること、景色が綺麗であること、そしてこぢんまりしていること。そんな条件にぴったり当てはまったのが郡上八幡でした。城下町で谷があり、お城もあり、川がいっぱいあって、とてもチャーミングな土地です。町の人たちが、自分の町を誇りに思っているのがとてもよくわかるんです。

    季節が秋なので少し肌寒いかもしれませんが、紅葉の季節で、紅葉のお祭りもあるそうです。紅葉を眺めながら、3日間キャラクタークリエイションに取り組みます。

    岐阜県郡上八幡の風景(伊藤氏撮影)
    岐阜県郡上八幡の風景(伊藤氏撮影)

    CGW:3日間の講座の内容を教えてください。

    アイリ:ワークショップでは、自分の思想(フィロソフィー)や考えをどうデザインに落とし込み、それをつくり込んでいくかを学びます。先に言っておくと、今回のワークショップはキャラクターだけで終わりではなく、キャラクターをつくり込んだうえで、それを“場所”に落とし込みます。

    伊藤:今までのワークショップでは背景を描くことが多かったのですが、今回はキャラクターを含めた全体、つまりコンセプトアートを描きます。キャラクターが存在する世界のコンセプト作りを、郡上八幡の歴史と背景を使ってやっていきます。これはアイリさんの案なんです。自分の思想や考え方をつくり込み、それをキャラクターに組み込んで、郡上八幡という現実世界の舞台を世界観に落とし込んでいきます。

    インタビューを受ける伊藤より子氏
    インタビューを受ける伊藤より子氏

    CGW:3日間でコンセプトアートが完成するまで行うわけですね。

    伊藤:3日間は短いので、もちろん完成できない可能性もあります。その場合は、後でアイリさんが受講生に宿題を出すので、受講で得たノウハウを使ってぜひ完成させてもらいたいですね。オンラインの受講者にも同じように宿題が出されます。(任意)

    CGW:受講生にどんなことを学んで帰ってほしいですか?

    アイリ:新しい場所、実際の土地に行って、自分なりの発見をしてほしいです。クリエイターをしていると、情報はインターネットやテレビで得られるので、家にいることが多くなってしまう。もちろんそこから学べることもありますけど、やっぱり外に出ると、いろいろなものに影響を受けたり、感化されたりすることがあると思うんです。

    AIが普及してきた現代では、いかにオリジナルなものをつくれるかが重要ですよね。自分が現実の場所に行って、自分が感じたことをどうキャラクターに落とし込むかは、人間にしかできない大切なクリエイションです。オリジナルなものを生み出すには、現地に行って何かを発見することが大切。オンラインの受講生にも、そうした大切さを感じてもらえたら嬉しいです。

    CGW:受講生の方にメッセージをお願いします。

    アイリ:今回の講座は、キャラクターをどういうふうに背景に入れ込むかがメインのトピックになります。世界観とともに、キャラクターデザインもしっかり作り込む。そのキャラクターをどういうふうにレイアウトに入れ込むのか、どうポーズを作るのか、といったノウハウも3日間のカリキュラムに入れる予定です。

    様々なレベルの人が受講すると思いますが、みんなに伝わるようにフォローアップしたいし、受講後にパワーをもらえるような講座にしたいです。受講者それぞれのスタイルを大切にしながら、皆さんがキャラクターデザイナーとして誇れる作品をつくれるよう、全力でサポートします。

    伊藤:この講座のカリキュラムは、アイリさんが今回のために特別に組んでくれたものなんです。ここでしか受けられないコースを、私も楽しみにしています。

    CGW:アイリさん、伊藤さん、本日はありがとうございました!

    Information

    映画・ゲームのためのキャラクター・コンセプトアート
    歴史ある水の町・郡上八幡を舞台に、キャラクターを軸に世界観を構築するコンセプトアートを、Riot Gamesのデザイナーであるアイリ・パン氏から3日間で学びます。毎朝の講義とデジタルデモに加え、午後は郡上八幡の町を歩きながらスケッチ。町並みや文化、風景からインスピレーションを集め、ひとつのキャラクターとその世界観を発展させて、完成形に近いコンセプトアートを目指します。
    ※本講座は『Let’s ART IN 田舎 第4回 2026年 郡上八幡(ブートキャンプ)』のオンライン配信版です。

    カリキュラム
    Day1:デザインの基礎
    Day2:スケッチ・ラインアート・衣装
    Day3:色・環境・ペインティング・業界の実践
    ※講義の内容は変更になる場合があります

    開催日時:2026年11月21日(土)~23日(月・祝)9:00~12:00
    ※ライブ配信は午前の講義のみ。午後のデモンストレーションは後日編集して配信します
    配信方法:Zoom
    アーカイブ配信:あり(3か月間)
    価格:38,500円(税込)
    主催:blue gradation, Inc.
    販売:ボーンデジタル

    講座の詳細はこちら

    TEXT_戸崎 友莉
    EDIT_西原 紀雅