2026年11月13日(金)に劇場公開される『楽園追放 心のレゾナンス』。5つのティザーPVには、新たな主人公・ガブリエルたちの物語への期待を膨らませる映像が詰まっている。その舞台裏を聞く後編では、ラグエルの大胆な表情づくりに注目。東映アニメーションの新チーム・NOISEが、3DCGの固さを超え、キャラクターの魅力を引き出す工夫を紹介する。
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INFORMATION
『楽園追放 心のレゾナンス』 ティザーPV
2026年11月13日(金)劇場公開
監督:水島精二
脚本:虚淵 玄(ニトロプラス)
企画・製作:東映アニメーション
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モデルやリグの制約に囚われず、表情の魅力を高める
CGWORLD(以下、CGW):カットのディレクションでも、そうした画の印象を重視するのでしょうか。
荻田直樹氏(以下、荻田):3D作品において、3Dならではの固さが際立ってしまうのは、形も動きも正確すぎることが主な原因です。モデルやリグの制約を言い訳にしていては、画づくりの可能性を狭めてしまう。与えられた機能を使うだけでなく、アニメーター自身がカットを良くするための手段を考えて、実現する姿勢を歓迎したいです。
CGW:第3弾のラグエルの表情変化も、リグだけで表現できるものではないですよね?
荻田:モデルが仕上がった段階で、実際に動かして表情集をつくり、崩し具合やキャラクター性を水島監督に確認しました。監督から「もっと崩して良し!」というお墨付きをもらえたので、さらに思い切った表情付けをしています。
久目健人氏(以下、久目):モデルやルックの情報量が前作から増えているので、動いたときの表現も、それに合うものにしていく必要がありました。
荻田:ラグエルはキービジュアルだけだと、ミステリアスで静かな性格に見えるかもしれませんが、本編ではにぎやかに動くキャラクターです。第3弾では、モデルの形を正確に保つことより、彼女がどんな性格で、今はどういう気持ちなのかが観客にきちんと伝わることを大切にしました。
CGW:本カットの担当アニメーターに指示を出す際には、どんなことを意識しましたか?
荻田:セカンダリのテイク1段階で、すでに良い表情が付いていたので、さらに印象的にするための参考を提示しました。伝えるときには、各フレームに直接描き込んでいます。その方が、表情をどこまで崩したいのか、どんな勢いで動かしたいのかを具体的に共有できます。
CGW:本作のリグには、どの程度の機能を盛り込んでいますか?
久目:基本となるモーフターゲットに、細部を調整するジョイントやコントローラを組み合わせています。加えて、目元のシワや口の周囲の線などをオブジェクトで用意し、表情に合わせて表示をON/OFFできるようにしました。ただ、顔の各頂点を個別に動かせるほど大量のコントローラは設けていません。機能を増やしすぎると処理が重くなりますし、操作もモデリングに近い複雑さになります。表情づくりに必要な機能を備えつつ、アニメーターが扱いやすいリグにすることを意識しました。
荻田:まずは用意されたリグを動かして、どこまで表情をつくれるか試しました。その中で、意図しない方向へ引っ張られたり、不自然なシワが寄ったりする箇所を確認して、久目さんに修正を相談しています。ただ、2Dペイントで仕上げられる部分まで、全てリグで対応してもらったわけではありません。
久目:荻田さんは、大きく崩した表情を自分で描けるので、そこは任せています。実際に動かしてもらった結果を基に、対応が必要と判断した箇所だけ、ボーンやコントローラの位置を調整したり、補助機能を足したりしています。
CGW:カットごとの表情づくりでは、どこまでモデルの形を崩したのでしょうか。
荻田:第3弾のカットのラグエルの頬は、撮影するカメラから丸く、可愛く見えるように変形させています。別の角度から見ると不自然な形でも、カメラから見てねらった表情になっていればいいんです。ただ、本作のモデルには、立体感や柔らかさを出すための微妙なグラデーションを適用しています。形を大きく崩すと、それが不自然な陰影として現れることがある。そういうときは、グラデーションを消したり、上から描いて整えたりします。通常の顔では効果的な陰影も、デフォルメした表情では邪魔になるので、形と一緒に調整しています。
CGW:荻田さんは、もともと作画の経験があったのでしょうか。
荻田:3D出身ですが、作業中に「ここは描いた方が早い」と感じる場面が何度もあって、必要に迫られて身につけました。メカフォールン大型の変形時に走る電撃エフェクトも、CLIP STUDIO PAINTで描いています。最初は3Dでつくったのですが、電撃の形や跳ね方が、ほしいものとちがったんです。この規模なら、3Dで調整を重ねるより、描いた方がねらった表現に早く近づけられると判断しました。
[第三弾ティザーPV]慌てふためくラグエルを、表情と髪の大胆な誇張で可愛くダイナミックに描く
画の魅力を支えるモデルの設計と、最後まで磨き続けるためのしくみ
CGW:モデルやルックの開発では、どのような方針を立てたのでしょうか。
久目:水島監督と話し合い、前作のファンが見たときに、『楽園追放』の続編だとすぐ感じられるルックを目指しました。前作の制作当時は、セル調の3Dキャラクター作品そのものが珍しかったのですが、今は画としての美しさや情報量も求められます。そこで、前作の印象を保ちながら、髪や顔、身体などにわずかなグラデーションを加え、立体感や柔らかさを少しずつ増やしていきました。
CGW:ご自身以外の作業者や協力会社と、モデルの品質をどのように揃えていきましたか。
久目:作業前に、モデリングの注意点を実例と共にまとめた資料を、社内と協力会社の担当者へ渡しています。チェックで心がけているのは、最初のテイクで修正点を出し切ることです。直してもらう度に新たな要求を足していては、相手は作業の見通しを立てられず疲弊します。テイク2以降は、最初の修正指示と意図がずれた部分のみを調整し、細部を詰めていく。テイクを重ねるごとに手を入れる部分が減り、完成に近づいていくのが理想です。また、修正指示はテイクごとに記録し、担当者と共有していました。これは、双方が修正の経緯を確認するためのものです。次のテイクが届いたら、過去の修正指示と照らし合わせて確認し、漏れがあれば該当箇所のリンクを送る。どの指示に対応してほしいのか、具体的に示せるようにしていました。
CGW:カット制作が始まってからも、モデルの調整は続いているのでしょうか。
久目:はい。特定のポーズで形が破綻したり、ある角度から見ると不自然な影が出たりと、実際に動かしてレンダリングしてみないとわからない問題もあります。NOISEは立ち上がったばかりのチームで、本作用に初めて開発したツールやしくみも多かったので、カット制作と並行して改良を重ねました。第2弾の頃から、アニメーターが不具合や要望を直接記入できるスプレッドシートを使っており、それを確認しながら、今も調整を続けています。
荻田:1、2カットだけに限定した修正なら、アニメーター側で対応します。でも、同じ問題が10カット、20カットと続くなら、毎回直すより、共通のしくみで解決した方がいい。第5弾のジャケット内部の影も、複数カットで問題になったので、久目さんに対策を相談しました。
久目:モデルやしくみの調整では、時期も重要です。例えば、出力するレンダリング素材の構成まで変えると、すでに制作が進んでいる多くのカットに影響します。修正によって得られる効果だけでなく、他のカットにどれだけ影響が出るかも見て、制作終盤では既存素材やしくみの範囲で解決する判断もしています。
CGW:撮影工程での画づくりを見据えて、素材の出力時に工夫したことはありますか?
久目:当初は、3D空間内でのライティングによる影と、テクスチャで描いた固定影を、ひとつのマスク素材にまとめていました。ただ、荻田さんから個別に調整したいという要望があり、分けて出力するようにしています。After Effects(以下、AE)上でそれぞれ調整できれば、終盤まで画を詰められます。
CGW:前作ではAE上でシーン色を適用していましたが、本作も同様のフローですか?
久目:はい。3D側ではノーマル色でレンダリングし、AE上でシーン色を適用するながれは前作と同じです。シーン色は、完成した背景美術に合わせて色彩設計が決めるので、その決定を待たずに3Dのレンダリングを進められるのが、このフローの利点ですね。ただし、前作のしくみをそのまま流用したわけではなく、今作の素材構成に合わせて設計し直しています。色彩設計の野地弘納さんはアニメCGの経験が豊富で、技術的な相談もしやすかったので、試行錯誤を重ねながら一緒に詰めていきました。
影とハイライトをマスク素材で管理し、After Effects上での安定した画づくりに活かす
大江嵐丸氏:本作は全体で約1,700カットあり、今も各セクションが最後の仕上げに取り組んでいます。水島監督の下、チーム一丸となって、劇場へお届けする画を磨いているところです。
野口光一氏(以下、野口):PVを観て期待してくださっている皆さんに、完成した作品をお届けできるよう、最後までしっかり仕上げていきます。
CGW:本編の見どころについても、差し支えない範囲で教えてください。
荻田:劇中でも特に重要な空間は、まだ公開していません。PVでお見せしたレーダーアレイ群廃墟や縦穴とは別の見せ場もあるので、そこは劇場で楽しんでいただきたいですね。
CGW:第3弾の縦穴でアーハンを追いかけるリビルダーは、ぶよぶよした不定形の動きが印象的でした。第5弾では、リビルダーディベロプメントリードとして多家正樹さんのお名前がクレジットされていましたね。
野口:実質、多家さんがひとりで開発しており、今年のマチ★アソビでも本人に少し解説してもらいました。それも見どころのひとつです。
荻田:多家さんには、後日リビルダーだけで30ページくらい語ってもらいましょう(笑)
CGW:ぜひ、劇場公開後にじっくり伺いたいです。今回紹介しきれなかった工夫も含め、本格的なメイキングを掘り下げる機会を楽しみにしています。まずは11月13日(金)、劇場でガブリエルたちの物語を見届けたいと思います。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.339(2026年11月号)
特集:ゲームグラフィックス 2026
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:144
発売日:2026年10月9日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota





