AI映像制作会社が、VFX・CGアーティストの採用を始める理由。全編AIのCM案件の依頼が急増している今こそ「AIだけでつくれない完成度」にこだわる。
株式会社まんなか(以下、ManNaka)は、CHホールディングスのグループ会社として2025年10月に設立されたAI映像スタジオだ。全編を生成AIでつくったCMや、撮影した映像とAIでつくった映像を組み合わせた作品を手がけ、クラウドAIサービスと社内に構築したローカルAIの両方を使い分けている。2026年7月には、俳優・タレントの顔や機密性の高い案件を専門に扱うチーム「Facial VFX Lab」を立ち上げた。そのメンバーは5年前からVFXの作業にAIを組み込んできた。
今回ManNakaが募集するのは「AI・VFX映像制作者」。ただし必須条件はAIの経験ではなく、実写映像のコンポジット、オンラインエディター業務、3DCG制作のいずれかの実務経験だ。全編AIのCM案件が急増するなかで足りていないのは、生成する人ではなく、AIが生成した映像を「チームが目指す品質へ仕上げられる人」だという。
本記事では、代表取締役の野村篤史氏とAI supervisor兼VFX supervisorの兼子研人氏に、全編AIでCMをつくる現場の実際、つくり手にとっての将来性とマイナス面、活躍している人の共通点、求める人物像と入社後の取り組み、そして会社の概要と強みを聞いた。
プロフィール
野村篤史氏
株式会社まんなか 代表取締役
兼子研人氏
株式会社まんなか
AI supervisor兼VFX supervisor
ManNakaとCHホールディングスについて
――本日はよろしくお願いいたします。まずは、ManNakaならびにおふたりの自己紹介をお願いいたします。
野村篤史氏(以下、野村):まんなか代表取締役で、ディレクターも務めています。ディレクターとしてはフリーランスで10年以上、CMの企画から演出までをやってきました。
「まんなか」は、2025年10月に設立したAI映像スタジオです。社員は現在10名で、CHホールディングス(映像制作、CG・VFX制作、Web、空間デザイン、XR・VR、撮影技術など、さまざまな専門分野を持つクリエイティブ企業群で構成されたホールディングカンパニー)に所属しています。事業は2つあり、ひとつはAIを使用した広告映像の企画と制作で、企画から完成までを、ディレクター、プロデューサー、AIクリエイターで行なっています。全編AIでつくる案件もあれば、撮影した映像とAIで生成した映像によってつくる案件もあります。
もう1つが2026年7月に開始したFacial VFX Labといいまして、こちらは「俳優・タレントの顔」と「極秘案件」を扱う専門のチームです。こちらは、広告案件だけではなく映画やドラマにも参加しています。
兼子研人氏(以下、兼子):AI supervisorとVFX supervisorを兼任しています。ManNakaに入社する以前から、映画やCMで、俳優の顔を若返らせる、老化させる、怪物にする、といったフェイシャルVFXを専門にしていました。VFX作業にAIを取り入れはじめたのは5年前からになります。AI supervisorとしては、ManNakaとFacial VFX Labの両方のAI映像制作、ローカルAIの構築、モデルの選定、新技術の検証なども行っています。
全編AIでCMをつくる現場では、どんな方法が採用されているのか
――「AI映像スタジオ」とのことですが、具体的にはどのような案件を手がけられているのでしょうか?
野村:文字通り、「AIを使った映像を作る」案件を手がけています。たとえば自動車のCMで、実写で撮影した最新車種の映像と、すでに廃盤になってしまった車種をAIを活用して再現した映像を組み合わせるような案件ですね。これまではそうした「部分的にAIで補った映像」の案件が多かったのですが、2026年に入って「全編AIでCMをつくってほしい」という依頼も急激に増えています。全編AIでも、CG・VFX・コンポジットなどの技術を組み合わせ、最終的に人の手で品質を高めています。
野村:また、「全編をAIでつくる」という案件も変化してきており、少し前までは「AIで何かできませんか」という相談レベルの話でしたが、いまは尺もカット数も決まった、具体的な制作案件として来ます。
企画コンテとビデオコンテをAIでつくってほしいという依頼も増加しており、ディレクターである私自身がそうしたコンテをAIで生成することも増えてきました。
――野村さんご自身も手を動かされているんですね。
野村:はい。「つくりたい画」をいちばんはっきり持っているのはディレクターなので、本人がAIに指示を出せる方が再現性も高く、品質や速度にも直結すると考えて、私自身も通常のディレクター業の中で生成作業なども行なっています。
おかげさまで、会社全体ではAIを活用しても追いつかないほどの依頼数になりました。特に人手が足りないのは、AIで生成する工程ではなく、その後ろにある、AIで生成した映像を、AIでつくったと分からない状態にしたり、ManNakaが目指す品質まで高めたりする工程です。
「AIでつくったこと」ではなく映像としての完成度を求められる時代に備えて、このブラッシュアップの工程を担うスタッフを新たに迎えることにしました。
――AI映像制作は、どのように行われているのですか。
兼子:先ほどの野村の通り、「全編をAIでつくる」といっても、生成した映像をそのまま納品するわけではありません。出力された映像を確認し、必要な調整を加えながら、求められる品質まで手作業で仕上げていきます。
こうした工程では、AIの操作だけでなく、映像を見て何を直すべきか判断する力も必要になります。
ManNakaには、社内に構築したAI(以下、ローカルAI)による画像生成・動画生成と、クラウド上のAIサービス(以下、クラウドAI)による生成の、両方を使える環境があり、お客さまのご要望と制作内容を踏まえて、この2つを使い分けています。
広告代理店やクライアントから「このAIモデルを使ってほしい」「このモデルは使わないでほしい」という指定を頂くこともありますし、逆に私たちから内容に合わせて提案することもあります。どのAIを使うかは、「お客さまが重要視している要素」「つくろうとしている映像の内容」「納期」「予算」の4つで決めていて、場合によってはCG・VFX・レタッチ・撮影などAI以外の制作方法も組み合わせて提案することもあります。
――ローカルAIとクラウドAIは、どう使い分けているのですか。
兼子:主に、お客様からのデータの取り扱いに関するご要望と、作る映像の内容によって使い分けています。ローカルAIは社内のネットワークとは別の、オフラインの環境で運用していて、機密情報、企業のIP資産、俳優・タレントの顔などは、ここで守られています。使うAIモデルは「オフライン環境で動く」「商用利用できる」の二つを満たすものに限り、外部API経由でしか使えないモデルも、外部のGPUサーバーも使いません。
クラウドAIと比較して生成スピードなどの面でマイナス面がありますが、預かったものを社外に出さないために、ローカルAIでの映像制作を選んでいます。その他、自分たちが欲しい機能を、自分たちでつくって組み込めるカスタマイズ性の高さからも、ManNakaのクリエイターはローカルAIを好んで使うことが多いです。
Facial VFX Labのメンバーは5年前に自作したプログラムをいまもローカルAIで動かしていますし、それとは別に、ComfyUI上で商用利用可能な複数のモデルに自作のカスタムノードや機能拡張を組み込んで、自分たちの欲しい画をつくるための環境を整えています。ローカルAIは初期投資こそ高額ですが、ランニングコストは主に電気代ぐらいです。
野村:とはいえ、ローカルAIには使えるようになるまでの初期投資と、構築して運用する人の負担があります。ManNakaにはCMディレクターが2名、プロデューサーとプロダクションマネージャーが合わせて6名いて、彼らもAIで画像や動画を生成していますが、その全員にローカルAIを構築して運用してもらうのは現実的ではありません。
なのでディレクターやプロデューサーは、Magnific、Runway、Higgsfield、Adobe Fireflyといった、数多くのクラウドAIを使っています。
――ローカルAIとクラウドAIの両方を使えることは、ManNakaの強みになっているわけですね。課題はありませんか?
兼子:課題として大きくなっているのが「最新技術の調査と検証の負担」ですね。ManNakaが目指していることを理解して、AIの調査と検証を行い、それを実案件の成果に結びつけ続ける。そこには、どうしても意志を持った人間が必要です。
AIのモデルもサービスも新しいものが出続けています。いまはクラウドAIの調査と検証を私ともう1名が担当し、ローカルAIの調査と検証は私が1人で担当していますが、複数のAIに手伝わせても、通常の案件と並行で検証を進めるのは無理が出はじめています。
AIでの映像制作に将来性はあるのか。つくり手にとって利益になるのか、幸せな現場なのか
――AIでの映像制作の依頼は、この先も増加すると予想されていますか。
野村:弊社の現状としてお伝えすると、全編AIで制作したCMだけでなく、企画コンテやビデオコンテをAIで作ってほしいという依頼も増えています。CM案件の入口から出口までを担当できるようになったのは、スピード、柔軟性、費用の3つの面で、依頼主に利益を提供できている結果だと思っています。
このまま「依頼」として増加し続けるかどうかは分かりませんが、映像制作でAIを使うこと自体は当たり前になっていくと思います。
――つくり手の側にとっては、どうでしょう。
兼子:私とスタッフの実感として、「作業の負担が減ってよかった」「完成度を上げる時間ができて、お客さまに喜ばれるだけでなく、自分も満足できるものがつくれるようになってよかった」という恩恵は、確かにあります。
ただ、これから入社する方のために、マイナスと思われる点も正直に話しておきます。私はこれまで、お客さまに見せる前にいろいろな案をつくり、自分でひとつに絞り込んで、その「ベストなひとつ」で喜んでもらう、驚いてもらうことを楽しみにしてきました。その楽しみは、減りました。残念ではあります。でも、AIの利点の1つは「様々な案をつくって、その中から選べること」です。私の楽しみよりもお客さまの満足度が上がる方向に働くなら、受け入れるしかない。
もう1つ。「AIなら簡単に早く安くできるでしょ」と思っている方からの依頼もあります。そういう仕事は、最初はモヤモヤした気持ちから始まることが多いです。ただ、そういう方を驚かせて喜んでもらうという新しい楽しみができたと考えています。
現在どんな人が活躍しているのか。今回の採用で、どんな人を求めているのか
――実際に、ManNakaのAI映像の現場で活躍しているのは、どのような人ですか。
兼子:実写映像の合成やレタッチを業務で担当していた人です。ManNakaとFacial VFX Labが求める品質の合格ラインを手作業でもつくれる人は、「どのAIを導入すべきか」「どう使うか」を適切に判断できると考えています。
兼子:私たちは多くの作業をAIに担わせようとしていますが、人が担った方がいいと考えている仕事がふたつあります。「判断をすること」と「人とコミュニケーションをとること」です。新しく入社される方には、その素地を期待していますし、入社後にも伸ばしていってほしいと思っています。
――今回の採用で、具体的にどんな人に来てほしいですか。
兼子:一例を挙げると、「CGかVFXの作業をしてきた方で、すでにAIを実務に取り入れている方、あるいは取り入れたいと思って勉強している方」。もうひとつは、「誰にも頼まれていないのに、好奇心が強いために、新しい技術の収集・調査・検証を貪欲にやっている方」です。どちらも、「主体的にAI活用の一歩目を踏み出した人」というイメージです。
――兼子さん自身も、今年6月にManNakaへ転職されたとのことですが、入社の経緯をおうかがいできますか。
兼子:ManNakaに入社する前はCG・VFX制作会社で働いており、Facial VFXを専門にしていました。2019年からディープラーニングを学び、2021年からVFX工程にAIを導入し、AIとCG・VFXの技術を組み合わせた作業を行なっています。担当していた映画のプロジェクトが終わる4月に転職することは決めていたのですが、最後まで「AI映像制作会社」に行くか、「CG・VFX制作会社で、AI活用に前向きな会社」に行くか、迷っていました。
CG・VFX制作会社で経営に近いポジションにいて感じていたのは「CG・VFXの業務で業績が良いのに、いますぐAI主軸の制作体制へ大きく舵を切ることは、できれば避けたい」ということです。いずれはAI主軸になるとしても、いまではないし、本音では「もっと先であってほしい」と感じていました。
ですが当時は「1日の大半でAIに関わっていたい」という想いが強かったこともあり、最終的に、AI映像制作会社を選びました。入社して4か月目ですが、あの選択は正しかったと思っています。毎日AI漬けで、楽しいです。
――募集要項では、必須条件を「実写映像のコンポジット」「オンラインエディター」「3DCG制作業務」のいずれかの実務経験としています。この条件の理由を教えてください。
兼子:その経験を通して、撮影された映像やCG映像を加工し、加工したと分からない状態に仕上げられる技術を身につけている方であれば、私たちのAI映像制作の中でも活躍できると考えたからです。また、画面設計やレイアウトの能力、レンズや照明などの知識も活かしてほしいと思っています。CM案件や映画案件の進め方の経験とノウハウも活かせます。
――AI映像制作の実務経験は必須ではない、と。
兼子:はい、必須条件にはしていません。
歓迎条件に「クライアントワークでのAI映像制作経験」を入れています。「クライアントワーク」に限定しているのは、趣味でAIで画像や動画を生成している人と、クライアントワークでAI映像制作を行なった人では、あきらかな能力差があると感じているからです。クライアントワークでは、依頼主から使用する素材が指定されたり、細かい修正にも対応しつつ納期を守る必要がありますから、趣味とは異なる技術を持っているはずだと考えています。
――入社後は、どんな流れで仕事を覚えていくのでしょうか。
兼子:まず、ManNakaでのAI映像制作の基礎を習得してもらい、案件に参加してもらいます。その後、AIで生成した映像を加工して納品するところまでを体験してもらいます。AIに関する各種サービスや機能を使いこなせるようになることを目指しつつ、新しいAIの技術や新サービスの調査や検証にも参加してもらいます。早い段階から案件に参加して、それと並行しながらAIについて深く学んでいくことになります。
野村:職種名を「AI・VFX映像制作者」にしたのは、これまでご紹介したとおり、AIクリエイターとVFXアーティストの職域が混ざっていくと考えているからです。コンポジターがAI生成も担当する、CGクリエイターがAIの検証もする。そういう活動の広がり方を表しています。
変化の激しいAIを扱う会社として、将来をどう見ているか
――AIは変化が激しい状況かと思います。AI映像制作会社として、どのような変化を予想し、どのような対策を考えていますか。
野村:目標の品質を上回るものが安定してつくれるようになり、一連の業務の多くをAIに担わせられるようになったら、その先は、依頼者にはたらきかける時間、依頼者のことを考える時間を増やしていけます。依頼者からもっと喜ばれるようになれば、仕事そのものがますます楽しくなるし、AI映像のつくり手になりたいという人も増えて、良い循環が始まっていくと考えています。
兼子:AIの技術だけでなく、AIのサービスも新しいものが出続けます。案件によっては、Adobe FireflyやHiggsfield以外にも、新しく登場した生成プラットフォームを使うことを求められる。どれも操作画面が独自なので、「せっかく覚えたのに、また覚えなきゃいけないの?」と嫌になる人もいると思います。その点について、私たちは、変化を受け入れて対応していくために、技術の本流を学び、度々そこに立ち返るようにしています。アプリケーションやプラットフォーム、AIモデルが新しいものに切り替わっても、本流の技術や機能は残り続けることが多いからです。
――「参加するにはまだ早い」「もう遅い」と迷っている読者もいると思います。
野村:参加するのに早くもないし、遅くもありません。まさに今が、参加するのにちょうどいいタイミングだと思います。
ManNakaとCHホールディングスについて
――ここで改めて、ManNakaについて詳しく教えてください。
野村:オフィスは、渋谷区元代々木町にあり、CHホールディングス系列の制作会社と同じフロアをシェアしています。
――実績はどこで見られますか。
兼子:Facial VFX Labのウェブサイトに載せていますので、ご覧ください。
noteにも不定期で投稿していて、そこでもFacial VFX Labの仕事について情報発信を行なっています。
ManNakaとFacial VFX Labの強み
――改めて、御社の強みを教えてください。
野村:3つあります。1つ目は、ディレクターがAIを自分で扱うこと。企画・演出とAIの操作が同じ頭の中にあるので、修正の往復が少なく、納期が短い。2つ目は、先述のとおり、ローカルAIとクラウドAIの両方を持っていること。どちらかが規約変更やサービス停止で使えなくなっても、制作を止めずに済みます。3つ目が、最後に手で仕上げるチームがあること。ここが今回の募集そのものです。
――兼子さんから見た強みは何ですか。
兼子:メンバー全員、AIを使ってきた年数より、企画・演出・撮影・編集・VFXを担当してきた年数の方が長いことです。依頼主に喜んでもらうため、いい作品にするためであれば、AIだけで完結することに誰もこだわっていません。そして、AIが生成した映像間で揃っていない顔や質感などを、柔軟に調整していくことができる点は強みです。
――最後に、読者へ一言ずつお願いします。
野村:AIに関心はあるが、あまり詳しくない方も、ぜひご応募ください。
兼子:映像制作が変わっていくことを一緒に楽しんでいきましょう。
――本日はありがとうございました。
採用情報
株式会社まんなか(ManNaka Inc.)
mannaka.studio
mannaka.studio/facialvfxlab
■募集職種
AI・VFX映像制作者
■必須条件
以下のいずれか
・実写映像のコンポジット業務経験
・オンラインエディターとしての業務経験
・3DCG制作の業務経験
■歓迎条件
・クライアントワークでのAI映像制作経験
■待遇
・各種社会保険完備
・交通費全額支給
・映画代精算を全額会社負担
・CH9 holidays(9日間連続で休みを取らなくてはならない制度)
・年1回の決算賞与
■休日・休暇
週休2日(土日)、祝日、夏期、年末年始、GW、有給休暇、慶弔休暇
■雇用形態
業務委託契約(試用期間3~6か月。正社員への登用あり)
■勤務地
東京都渋谷区元代々木町(CHホールディングス内)
■勤務時間
10:00〜19:00
※専門業務型裁量労働制の対象となる場合があります(詳細は面談時に説明)
■給与
年収:350万円〜700万円
※前職および年齢・経験・能力を考慮の上、決定いたします
■応募方法
mannaka.studioに記載されたメールアドレス宛に、履歴書と職務経歴書、そして実績集もしくは作品集をお送り下さい
(お送りいただいたデータは返却できませんので、ご了承ください)
■選考フロー
1.書類選考
2.1次面接(対面、もしくはリモート)
3.技術確認と2次面接
4.選考結果の通知
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)