シリーズ第5弾で秦が迎え撃つのは、高さ40m級の国門・函谷関へ押し寄せる50万の合従軍。漫画原作ならではのダイナミックな設定に実写映画としてのリアリティを吹き込んだ、Spade&Co.のVFXワークに迫る。
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原作:原 泰久「キングダム」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:佐藤信介/脚本:黒岩 勉、原 泰久/音楽:やまだ 豊/VFXスーパーバイザー:小坂一順、奥村陽介
製作:映画「キングダム」製作委員会/製作幹事:集英社 日本テレビ放送網/制作プロダクション:CREDEUS/配給:東宝、ソニー ・ ピクチャーズ エンタテインメント
ⓒ 原泰久/集英社 ⓒ 2026映画「キングダム」製作委員会
新たな仲間を加え、ツール&パイプラインも改良
大ヒットシリーズ新章の幕開けとなる『キングダム 魂の決戦』では、国門・函谷関(かんこくかん)を舞台に、秦と合従軍の攻防が描かれる。VFXを統括したのは、過去4作から続投のSpade&Co.。興収80億円超の前作『キングダム 大将軍の帰還』では、第48回「日本アカデミー賞」特別賞にも輝いたVFXチームにとっても、本作は大きなチャレンジになったという。
「当初、佐藤信介監督からは『函谷関のスケール感にリアリティを込めたい』『フルCGの群衆クオリティをさらに上げたい』とのリクエストをいただきました」と、小坂一順VFXスーパーバイザーはふり返る。
「現実的な城壁の高さは10m級ですが、本作の函谷関は40m級。さらに周囲をより高い山に囲まれているため、どうしても壁が小さく見えてしまいます。この非現実的な設定をいかにリアルに描くかが最初の課題でした」と、木川裕太CGスーパーバイザー。最終的には、CG上では60mや80mなどと見え方ありきで柔軟に画づくりが行われた。
もう1つのチャレンジ、50万規模の合戦に向けては、脚本を基にした戦局マップとビデオコンテで各軍の位置関係や動きを整理。さらに作業効率を高めるにあたり、チェックツールとレイアウトツールが新規開発された(後述)。
また本作では、4作目までセカンド助監督を務めていた奥村陽介氏が、小坂氏と共にVFXスーパーバイザーを務めている。「その働きぶりに惚れ込み、三顧の礼をもって迎えました」(小坂氏)。
「日本の映画制作ではVFXの重要性が増すのは確実なので、演出側もCGの知識を深めるべきだと思い入社しました。本作ではARFinderで距離感やアングルを確認しつつ、監督や撮影部との連携を心がけました」(奥村氏)。
VFXショット数は4作目と同程度だが、3DCGの割合は大幅に増えた。「これまで積み上げてきた監督との信頼関係によって、こういう表現も可能なはずと、VFXチームを信じていただけたのが大きいと思います」と、塙 芽衣VFXプロデューサー。新たな仲間を加えながら、着実に体制を強化していることが伝わってきた。
VFXスタッフ(一部)
<左から>VFXスーパーバイザー 奥村陽介氏、山﨑桂一氏、平田 涼氏、VFXスーパーバイザー 小坂一順氏、VFXプロデューサー 塙 芽衣氏、茂木凌雅氏、佐々木 渚氏
<前列・左から>浦野菜々子氏、正木里桜氏、新谷真生氏、平位瑞希氏、CGスーパーバイザー 木川裕太氏、リード・モデリング・アーティスト 大場勇作氏、朴 英雄氏、佐竹思文氏、成生佳穂氏。<後列・左から>吉宗 蒼氏、上林亮也氏、増渕航也氏、神永遼一氏(フリーランス)、李 達氏、田口 拓氏、鈴木睦英氏、CGスーパーバイザー 林 優佑氏、瀬尾 翔氏、リードTD 塚原大輔氏、大塚 翔氏、リード・エンバイロンメント・アーティスト 太田弦希氏、Pauline Vattebled氏、大谷謙悟氏、陳 俊奕氏、モデリング・スーパーバイザー 紙谷瑛彦氏(Cafe Group)、茂山幸志郎氏
<前列・左から>髙栁優斗氏、家田哉佑氏、久保田瑠生氏、コンポジティング・スーパーバイザー 白石哲也氏、宮下清歌氏、江部佳奈恵氏、宮本美貴氏、上田春寧氏。<後列・左から>出石涼太氏、倉嶋泰生氏、松尾大輝氏、服部政哉氏、米屋侑哉氏、浅川翔太氏、芝 那々子氏、丸 晴凪氏、小野晃義氏、池田峻一朗氏、加藤晃介氏(フリーランス)、木下悠生氏、深谷聡則氏(フリーランス)
<1>大規模制作を支えた新たなパイプライン
大物量を捌く〜パイプラインの刷新とチェックの自動化〜
全体的なスケジュールとしては、2023年8月頃の始動後、プリプロ約11ヶ月、撮影約6ヶ月、ポスプロ約1年をかけて完成したという。この長期にわたる制作を根底で支えたのが、パイプラインの刷新だ。その基盤は2作目〜4作目の制作に合わせて2020〜2021年頃に構築されたものだが、その後、レンダラをV-RayからArnoldに移行し、Pythonのメジャーバージョンも2から3へ上がるなど、技術的な前提が大きく変化していた。
そこでリードTD 塚原大輔氏を中心とするTDチームは、Publisher/Importerを担うインハウスパイプライン「SP Pipeline」(開発中)、モーションキャプチャデータを管理するデータベース「spDatabase」などを整備。
「データ量が2作目、3作目、4作目の制作を経て雪だるま式に増えていきました。5作目の制作でも過去のデータをどう扱うかという問題が必ず発生するので、そうした点も考慮しながら設計しました」(塚原氏)。
過去作では命名規則や仕様のばらつきからデータを流用しづらかった反省を踏まえ、命名規則の統一とアセット階層の規則化も徹底された。
チェックフローの効率化も重要なトピックである。コンポジティング・スーパーバイザー 白石哲也氏が中心となり、Nuke StudioとFlow Production Tracking(以下、Flow PT)を自動連携させるツールが新規開発された。
「とんでもない量のチェックをしなければいけない。上がってきたものはタイムラインに並べて一連のながれで見ないと結局わからないものが多いので、いかに効率的にタイムラインに並べるかをまず自動化しました」(白石氏)。
具体的には、Nuke Studio内でクリップにタグを付ければ結果が自動的にFlow PTへ反映され、リテイクや監督OKの通知が即座に各担当者へ届くしくみだ。「監督チェック中でも、監督がOKと言った瞬間に白石が操作して、各担当者に通知が届きます。前作からだいぶ改善されました」(塙氏)。
さらにアーティストへのショットアサインもNuke Studio上で行えるようにした。「同じアングルや同じ見せ方をしなければいけないカットを誰にアサインするかは、意外とバラバラになりがちです。カットバックの関係をNuke Studio側で確認しながらアサインできるようにしました」(白石氏)。
効率化の波は納品業務にも及ぶ。監督チェックのたびにバージョンが更新される膨大なカットを納品するにあたり、従来は手作業だったリスト作成も自動化されたという。まさに縁の下の力持ちである。
インハウスパイプライン「SP Pipeline」
チェックツール群
<2>函谷関&咸陽のエンバイロンメント
東京23区に匹敵する広大な地形を、ハイディテールに描くために
エンバイロンメント関連で新規に作成されたアセットは、「函谷関の城壁」「函谷関周辺の地形」「秦の首都・咸陽(かんよう)」の3つに大別される。
函谷関の城壁は、CafeGroupの堀越涼平氏が担当。セットエクステンション用のバリエーション対応も含め、アセット単体としては最も長期間にわたってブラッシュアップが重ねられたという。函谷関周辺の地形については、CafeGroupから出向したモデリング・スーパーバイザー 紙谷瑛彦氏が全体を監修。中国でのロケ撮影で取得した現地の測量データを基に全景をレイアウトし、Gaeaでエロージョン(侵食)などのディテールアップを施した上で、Height FieldとしてHoudiniへ受け渡すワークフローを新たに構築した。
「秦軍20万と合従軍50万が戦いをくり広げる舞台になるため、函谷関の地形サイズは約30×17km(約510km²)に達しました。これだけ広大なアセット全体をショットワークで扱うのは不可能なため、26のチャンク(chunk)に分割した上で、各ショットに必要な地形だけをAlembic形式でHoudiniに読み込むようにしました。地形が広大な一方でショット数もとにかく多かったので、ベースとなる全景データでは極力ディテールを削らず、ショットワーク用に読み込む際にデータの最適化を行うフローを採りました」(紙谷氏)。
ショットワークでは、リード・エンバイロンメント・アーティスト 太田弦希氏が函谷関シーンを牽引。寄りのショットでは手前の地形のみをハイポリ化し、スキャンテクスチャとディスプレイスメントでディテールを追加した。
「地球の成り立ち的にありえない山になっていると、どうしてもミニチュア感や作り物感が出てしまうときがある。そこはかなり苦労しました」(太田氏)。
戦場を見下ろす広角のショットではマットペイントも活用し、最奥にマットを差し込むことで広大な中国の大地を描き出した。 序盤に登場する咸陽のコズミックズームバックは、本作で最も規模が大きく尺も長いカットとなった。こちらはショットアーティスト 陳 俊奕氏が背景構築からショットワークまでを一手に引き受けたという。近景は手作業のレイアウト、遠景はHoudiniのプロシージャルな配置で効率的に構築した。
「1カットだけですが、『オンセット→アセット→エンバイロンメント→ライティング→FX→クラウド→コンポジット』と、トータルでかなりの人数がバトンをつないでつくり上げていった実感がありました」(陳氏)。
プランニング
オンセットでの対応
函谷関のフィールド全景
近接戦闘から大規模の戦闘描写まで
咸陽の街並み
<3>50万規模で、より複雑な演技を実現〜兵士の群衆表現〜
合戦シーンは、将軍たちの近接戦闘と兵士たちの群衆表現という2つの柱で成立している。前者を支えた本作初の試みが「グリーン馬」だ。実際の馬では危険なアクションに対応できず、駆動式の「メカ馬」では3次元的な動きに対する制約が大きい。そこで用意されたのが、全身をグリーンの布で覆った馬型のメカである。これを操演部が操り、俳優はその上に騎乗してアクションを実演。その実写プレートに対して、CG馬へとリプレイスを施す手法だ。
「正直、CG的には実写プレートの動きに合わせるほかないので、やってみないとわからず不安しかありませんでした。ですが、操演チームが良い感じに馬を動かしてくれていたので、その動きに合わせて丁寧にCGアニメーションを重ねていきました」(木川氏)。躍動感を高めるにあたり、手綱をフレーム単位でリプレイスするなど丁寧なVFXワークが施されている。
群衆表現の土台となるのが、大量のアセット群である。旗だけで約70種、武器約90種、キャラクター約70種。トータルで300点以上におよぶ衣装・小道具・かつら等を、フォトグラメトリーからモデル化。
「ゲームキャラクターレベルの大物量だったので、システマチックなフローを組みました」と、リード・モデリング・アーティスト 大場勇作氏。
この量産を可能にしたのが、TDチームが開発した支援ツール「spLuke」である。フォトグラメトリーの写真フォルダを指定し、タスクを登録するだけで、RealityScanによるメッシュ化までを自動処理する。これにより、従来8時間で10件程度だった処理が1日30件以上にまで向上。「退社前にセッティングを終えれば、翌日出社する頃にはメッシュ化まで終わっている。作業効率を劇的に高めることができました」(大場氏)。
さらにCG兵士のループ感を減らすため、同じ衣装でも顔や体型、着崩し、汚れのちがうバリエーションモデルが各軍に用意された上で、Houdini側で顔と体格のランダマイズも施された。
群衆表現は、待機・乱戦・状態遷移の3種に大別してHDA化。エージェントキャッシュはアニメーションとキャラクターを分離した構造に再設計され、武器や旗、顔、体型などのレイヤー化によってデータ量を抑えつつバリエーションを確保した。過去4作までに作成した分も合わせると約3,000にのぼるモーションデータは、データベースで一元管理され、検索性も大幅に向上したという。
「敵軍の騎馬が突進してくると、それを避ける兵もいれば、はね飛ばされる兵もいる。走りながら目の前の敵と格闘を始める、といった具合に、本作には状態遷移の効果が発揮された群衆ショットが多く登場します。ぜひ劇場のスクリーンでご覧ください」(塚原氏)。
300点以上ものアセット制作
レイアウトツール「KDM Layout Tool」
戦闘シーンの群衆表現
INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito