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2月22日〜2月24日の3日間、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013(以下、「ゆうばり2013」) にて、開催された VFX-JAPAN 企画イベント。本イベントは、CG・VFX制作者、業界を支援する団体として昨年3月に発足した一般社団法人VFX-JAPANにより企画され(協賛:京楽ピクチャーズ.株式会社)、日本を代表するVFX映画の上映に加え、さまざまな特別プログラムが催された。その特別プログラムと、3月18日に追加開催された VFX-JAPAN SUMMIT 2013 の模様とあわせてレポートする。

 

VFX-JAPANハリウッドプレゼンテーション

初日となる2月22日に催されたのが、「ハリウッドプレゼンテーション」。開催にあたっては、VFX-JAPAN代表理事である秋山貴彦氏の挨拶から始められ、日本のVFXに対する想いを言葉にし、VFX-JAPAN発足の経緯が語られた。制作者の地位、制作物の権利問題など、さまざまな問題を抱えていることを明かし、その問題を1つ1つ改善したいとの意向を述べた。そして、その上で本場ハリウッドで活躍する日本人トップクリエイターによるプレゼンテーションは、今後の日本のVFXを考えていく上で参考にしたいもの。三橋忠央氏( デジタル・ドメイン )、佐藤篤史氏( ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス )、上杉裕世氏( インダストリアル・ライト&マジック/ILM )の3氏が登壇したプレゼンテーションは、本イベントの大きな見せどころとなった。

ゆうばり2013

左から秋山貴彦氏(VFX-JAPAN代表理事)、上杉裕世氏(インダストリアル・ライト&マジック/ILM)、佐藤篤史氏(ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス)、三橋忠央氏(デジタル・ドメイン)

最初に登壇した三橋忠央氏。所属するデジタル・ドメインでは 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『トランスフォーマー』 などの制作に参加し、ライティング&レンダリング・スーパーバイザーとして、「ライトキット」というライティングシステムの開発をも行なっている。セッションでは、そのライトキットの特徴やアルゴリズムの概要を紹介。3DCGにおけるライティングの重要性、その効果を表す簡単な画像例を挙げ、視覚的にわかりやすく解説を行なったこともあり、ゆうばりへの一般参加者にもCG・VFXの映画制作における役割も伝わったことだろう。セッションの終盤では、日本人クリエイターへのアドバイスとして「日本を出ましょう。そして、日本に戻りましょう(笑)!」という言葉を残した。日本人は勤勉で技術力は高いが、自己主張が苦手な人が多く、仕事とプライベートの切り分けが下手など国民性がある。海外での活動を経て、制作技術だけではなく価値観も持ち帰ってくることで、コンテンツの可能性を広げていくことに役立てるはずと語る。そうした言葉を裏付けるように実際に自身の経験を日本へ還元していく活動にも力を入れ、海外で活躍する日本人アーティストで「魔球ヴィジュアルエフェクツ」というユニットを組み、日本の映画制作に参加している。今後もより積極的に活動する方針と語る氏に、日本VFXの力となってくれることを大いに期待したい。

三橋忠央氏(DD)



三橋忠央氏(デジタル・ドメイン/ライティング&レンダリング・スーパーバイザー)

続いて登壇したのが佐藤篤史氏。現在所属するソニー・ピクチャーズ・イメージワークスではアニメーションスーパーバイザー/アニメーターとして活躍し、近作 『アメイジング・スパイダーマン』 ではスパイダーマンのアニメーションを手がけている。まさに日本を代表するアニメーターである氏のセッションは、ハリウッドへ渡るまでの活動、渡米後所属したプロダクションでの仕事の紹介というかたちで進められた。時間軸に沿って話されたからこそ、佐藤氏自身のキャリアアップ、そしてアーティストとしての目標を鑑みることができた。プライベートも含めた海外生活の写真からは、日本とは異なるゆとりあるアーティストライフが感じられたが、「日本に比べ予算的にも時間的にも余裕がある制作体制/環境ではあります。その反面、与えられた十分な時間を活かし、それ以上のクオリティを追求していかなければなりません。海外ではプロジェクト毎に契約することが一般的で、その中で常に実力を発揮していかなければ次はないというシビアさもあります」と、環境、時間的なゆとりもあるからこその制作物へのクオリティの責任があることも言葉にした。

佐藤篤史氏(SPI)



佐藤篤史氏(ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス/アニメーションスーパーバイザー、アニメーター)

最後を飾ったのが上杉裕世氏。氏のセッションは自身が生業とするマットペインターという職業についての紹介をメインに話が進められた。 『スター・ウォーズ』 シリーズ にあこがれ、学生時代から特撮を活かした映像制作を行なっていたという氏、当時の制作中の写真をふり返りながら、自身の学生時代の経験をまず語ってくれた。「当時の僕はとにかくハリウッド流の映画制作手法を実践することに明け暮れていました。今思えば実際のハリウッド流とは異なる点がありましたが、その頃に手にした『スター・ウォーズ』のアート集から影響を受け、実写をとにかく活かした制作に挑戦していました」。必要な機材を自身の手で作り、限られたリソースの中でマットペイントに果敢な挑戦をしてきたわけだが、当時から海外に渡って映画を作るという意識は高く、マットペインターのロッコ・ジョフレに師事し、そこからアメリカに渡りジョフレ氏のスタジオに勤め、後にILMに入社を果たしている。ILMでは3DCGも活用した新たなマットペイントの手法を追求し、制作に携わった『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』でエミー賞ビジュアルエフェクツ賞を受賞するなど、マットペインターとしてのその活躍にはだれもが注目するところだ。なお、最後の質疑応答の時間には、一般参加者から『スター・ウォーズ』の続編についての質問も挙ったが、業界関係者から専門的な質問が飛び交う中で、こうした質問が挙がることに『スター・ウォーズ』という作品の偉大さを感じる傍ら、制作者の志が映画視聴者へ届いていることも改めて実感することができ、本イベントをゆうばりで開催した意義も感じることができた。

上杉裕世氏(ILM)



上杉裕世氏(インダストリアル・ライト&マジック/シニアマットアーティスト)

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VFX-JAPANアワード 2013

翌23日に催されたのが、VFX-JAPANアワード 2013授賞式。本アワードは、実写映画、劇場アニメーション、テレビ、ゲーム、PV、CM・博展映像の6部門でCG・VFXが効果的に活用された作品を表彰するものだ。全6部門22作品のノミネート作品の中から優秀賞が発表され、授賞が行なわれた。以下、受賞作品(監督・受賞対象者 敬称略)

劇場公開映画部門優秀賞
『ALWAYS 三丁目の夕日'64』
監督:山崎 貴
受賞対象者:VFXスーパーバイザー 渋谷紀世子、株式会社白組

劇場公開アニメーション映画部門優秀賞
『friends もののけ島のナキ』
監督:山崎 貴・八木竜一
受賞対象者:監督 八木竜一、株式会社白組

テレビ番組部門優秀賞
『坂の上の雲 第3部』
監督:加藤 拓・木村隆文
受賞対象者:坂の上の雲 VFXチーム

ゲーム映像部門優秀賞
『Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO』
受賞対象者:プロデューサー 橋本 善久、クリエイティブディレクター 野末 武志

プロモーションビデオ部門優秀賞
『LOVE LIKE ALIENS』
監督・脚本:ラシャード・ホットン
受賞対象者:CG&アニメーションスーパーバイザー 田口健太郎(株式会社白組 )、CGプロデューサー 小川洋一(株式会社白組 )、CGディレクター 井上 敦(株式会社ジェットスタジオ)、CGモデラー(メインキャラクター)山上浩二(有限会社ビーンズマジック)、株式会社ワンダースタンディング、株式会社セブンシャッフルズジャパン、株式会社ジェットスタジオ

CM、博展映像部門優秀賞
『巨神兵東京に現わる』
監督:樋口真嗣
受賞対象者:VFXプロデューサー 尾上克郎、VFXスーパーバイザー 佐藤敦紀、株式会社特撮研究所、株式会社ピクチャーエレメント、モーターライズ、株式会社マーブリング・ファインアーツ、株式会社ミューロン/ローカスト

本アワードを通じて、制作者に対して賞を与えるということが意義のあることは明らかだ。授賞式には、山崎 貴監督、八木竜一監督、樋口真嗣監督らが参加し、その栄誉を喜びの声を上げていたが、前述監督陣に加え、戎谷建二氏(ジェットスタジオ・ディレクター)といった制作者(実作業の担当者)が並んで表彰を受けたことも大きいのではないだろうか。アワードとして第1回ということもありまだ不成熟ではあるが、実制作者に届くアワードになっていくことを期待させるには十分なものだった。今後は、アワードの賞を細分化し、各技術賞を設けることで、より本アワードの意義を増すことにちがいない。

スタッフ

 

VFX-JAPANシンポジウム

日本のVFXが世界レベルになるための戦略会議としてシンポジウムが開催された。海外からは初日に登壇した三橋氏、佐藤氏、上杉氏、日本の監督として、樋口真嗣氏(『のぼうの城』/映画監督』)、荒牧伸志氏(『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』/映画監督)、ナビゲーター秋山氏によるディスカッションの予定であったが、授賞式で訪れた山崎 貴監督も飛び入り参加するというサプライズもあり、冒頭から盛り上がりをみせた。

「ハリウッドから見た日本は?」「日本から見たハリウッドは?」という双方の視点から制作に関わる討論を行なわれたが、まず論点となったのが制作者の待遇/制作環境。初日のプレゼンテーションにあったように海外はデザイナー/アーティストの待遇、作業スペースも含め、責任範囲などで日本に比べ優遇されているが、そうした環境の中での制作物へのクオリティをどう還元しているか、日本にそうしたものを持ち込むことができるかということであった。「根本的な制作に関わるものがちがうので、採り入れることが正しいというものではないのでは?」という三橋氏の言葉をはじめ、現状ではパイプラインも含め安易にハリウッドを見習うということが正しいわけではないという意見が多かった。そうした点から「制作環境を論じる前に、日本の映像コンテンツのマーケットをいかに広げていくかを考える」という方向に話がシフトしていった。

国内で成功を収めている監督陣が壇上にあがっていたが、日本での成功をどう広げるか、また世界の市場をどのようにとっていくべきなのか、という点で続いて議論がなされた。そうした中で荒牧監督が日本のアニメーションを世界に広げる活躍を見せているが、「僕自身は海外でも活躍しているという目で見られていますが、ある一定の層でしかという認識をしています。一部のマーケットである程度の結果を出せているに過ぎません」と荒牧氏。ただしそこには可能性があることに違いないとの意見も飛んだ。大局的には世界で受け入れられるようなコンテンツをどのように企画し、あるいはどうのようにとってくるかというアプローチ、反対に日本の優れた技術をどう輸出するかというアプローチの2つの方向性を採っていく必要性が論じられた。

もちろん、こうした場で話されたことがすぐに実践できるというわけではないが、問題をテーブルに上げ公にしていくことで、業界の意識統一に働くことに繋がるだろう。次の機会ではコンテンツ制作の流れを明らかにした上で、テーマを絞った議論が求められるだろう。こうして「ゆうばり2013」で行なわれた全3日間のプログラムが盛況のうちに幕を閉じたが、イベントを通じて日本のVFXの魅力を感じることができるとともに、VFX-JAPANの発足理由に関わる問題も再認識することができたのではないだろうか。

TV アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』 TV アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』
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VFX-JAPAN SUMMIT 2013

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭関連行事として VFX-JAPAN SUMMIT 2013 が3月18日東京(オーディトリウム渋谷)にて開催された。「ゆうばり2013」での盛況を受けての追加公演ともなるプログラムであったが、基調講演、VFX-JAPANアワードノミネート作品の特別上映会、ノミネート作品のVFXのメイキング、シンポジウムの4部構成となった本イベントは、業界関係者を多数招待して、一歩進んだという感を受けた。

基調講演には、坂口 亮氏(デジタル・ドメイン)が登壇し、ハリウッドでも問題となっている制作者の待遇、環境についての話にも触れ、映像作品が作られる流れ、工程を詳細に挙げ、どのような問題を抱えているかを言葉にした。アカデミーを受賞するプロダクションが潰れる状況がここ数年続いているが、ビディングによる制作請け負い価格が年々減少し、プロダクションが負担をしている現状を明らかにした。こうした問題提起が同日の最終プログラムのシンポジウムでも意見交換された(後述)。

続いて、VFX-JAPANアワードノミネート作品の特別上映会、ノミネートされた2作品のVFXメイキングが催された。20作品をこえるノミネート作品のダイジェスト/メイキング映像の上映会は非常に濃厚な時間。日本のVFXの質の高さを伝えるのに十分なものだった。また続くメイキングセッションでは神風動画の水崎淳平氏によるEXILE 『BOW&ARROWS』MVとオムニバス・ジャパン西田 裕氏による映画『BRAVE HEARTS 海猿』の2つのメイキング解説が行なわれたが、発想とVFXの技術力の高さを裏付けるものであった。

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画像左:EXILE 『BOW&ARROWS』MVのメイキング解説の様子、画像右:映画『BRAVE HEARTS 海猿』のメイキング解説の様子

最終プログラムであるシンポジウムには、坂口 亮氏(米国アカデミー賞科学技術賞 受賞者)、樋口真嗣氏 (『のぼうの城』、『巨神兵東京に現わる』映画監督)、水崎淳平氏(EXILE『BOW&ARROWS』神風動画 代表)八木竜一氏(『friends もののけ島のナキ』映画監督)、山崎 貴氏(『ALWAYS 三丁目の夕日』映画監督)、モデレーター秋山貴彦氏(一般社団法人VFX-JAPAN 代表理事)が登壇。基調講演にて話された海外プロダクションで抱える問題に目を向けた上で、作品制作の流れ、日本のVFXの方向性、プロダクションの運営を議論する場となった。言うまでもなく海外映画作品と比べ、日本映画は予算は少ないが、規模の大小はあるにせよ制作物に対して適正な価格がついていないことは同じく問題とされている。そうした中で、日本はガラパゴス化された制作体制をとっている。
坂口氏は、「ノミネート作品の上映とメイキングを見て、期間とバジェットから考えて、日本には優れた制作力があることはまちがいないと思いました」と語り、「ビディングのない受注関係で成り立っている制作体制を不思議に思う」とも口にした。それに対して、参加した日本の監督陣からは「もともともバジェットは確かに少ないですが、ある程度適正に近い状況ではやれていると思う」と口を揃えた。本イベントに参加した監督陣がもともと制作者として活躍し監督を務めるようになったことが、VFX制作コストを理解した制作を行なっていることに繋がっているのではないだろうかという意見がなされた。

このテーマを経て、先のゆうばりで行なわれたシンポジウムでも議論された「市場を広げる」というテーマにも話が広がった。日本のVFX技術は海外でも通用することが確認された上で、「日本の優れた技術をどう輸出するか」について考えることとなったが、「日本のプロダクションがビディングによる海外の仕事をとることは可能だと思いますが、そこに危険性を感じる部分もあります」と坂口氏。日本のプロダクションが参画することで海外作品の制作費の低減を進めてしまう可能性があるということだ。
また、国策を通じて税制優遇を利用する手段なども論じられたが、実際にそうした制度を利用してバンクーバに拠点を構えるプロダクションもすでにあり、その方針すらも市場を崩壊させることに繋がっている部分もあると坂口氏は言葉にする。「クライアントから流れる制作費ですが、税制優遇をうけた場合にも実質的に特をするのはプロダクションではないという問題があります。ビディングによる価格低下を負担しているのはプロダクション側であり、クライアントが確保する制作費の低減は進んでしまうのです」。そうしたことから、プロダクションがコンテンツホルダーになり成長をすることが重要となるという意識のもと、シンポジウムは幕を下ろした。

スタッフ

 

「ゆうばり2013」にて開催されたシンポジウムから、東京で開催されたシンポジウムへと続いたが、問題がより核心に迫りつつあることは大いに見て取れた。VFX-JAPANが継続しイベントを開催していくことで、今後も議論が成熟していくことになるだろう。また、こうした活動を続けるにあたっては、業界関係者が本団体を支援し、協力し合うことが必要となる。今回の特別プログラムに協賛した京楽ピクチャーズ.株式会社をはじめとして、イベント開催を契機に多くの企業が協力の手を挙げたこともひとつ前進した証ではないだろうか。次回のイベントを楽しみにしたい。

◆関連URL

・「VFX-JAPAN SUMMIT 2013」
http://vfx-japan.com/isfst0318/
・「VFX-JAPAN アワード2013 優秀賞発表」
http://vfx-japan.com/award2013result/
・「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」
http://yubarifanta.com/index_pc.php
・京楽ピクチャーズ.株式会社
http://www.k-pic.co.jp
・一般社団法人 VFX-JAPAN
http://vfx-japan.com/