ユニティちゃんのキャラクターデザイナー ntny 氏しげる氏が制作したワンダーフェスティバル 2014[夏]出展ガレージキット『ユニティちゃん』。本誌『CGWORLD vol.194』の特集記事連動企画第二弾として、企画の始まりからモデルのブラッシュアップまでを紹介する。

企画のはじまり

フィギュアが活きる、躍動感のあるポージング /~2014年4月

模型ディーラー 7144 の代表しげる氏は、キャラクターものやデジタルによる原型制作を増やしたいと考えていた。そんなとき、以前からの 3DCG 仲間であった ntny 氏がユニティちゃんのキャラクターデザインを手がけていることを知り、ファミレスで 2D も 3DCG も両方使える ntny 氏にユニティちゃんを題材としたガレージキット制作の話をもちかける。ポージングはアートログのイラストから「どうせ作るならと、立体感と躍動感があるものにしました(下イラスト)。ユニティちゃんはゲーム開発向けのキャラクターなので、様々な角度から画面に映ることも考えられます。海外での使用も考慮し、足を上げても大丈夫なようにインナーにはスクール水着を着せることにしました。ガレージキットも通常の衣装とスクール水着の両方を楽しめるようにしています」と ntny 氏。「制作期間はほとんどありませんでしたが、衣装の再現も細部まで手を抜かずにこだわりました」としげる氏。こうして、キャラクターデザイナーが自ら原型を手がける『ユニティちゃん』のガレージキット制作がスタートしたのである。

ガレージキット『ユニティちゃん』

ベースモデルを作ろう

「Metasequoia→ZBrush」ツールと仲良くなろう /4月26日

当初から ZBrush の使用は想定していたものの、所有はしていたが放置状態だったため、現在のバージョン確認から行うような手探りのスタートであったという。まず ntny 氏が Metasequoia で人型の素体モデルから大まかなポーズを付け、決まったところで ZBrush へインポートする。しかし慣れない UI には苦戦し、機能もあまり知らず、DynaMesh を実行して結合してしまったボディと腕の接触部分を分離する方法がわからないというトラブルに。そんなときはしげる氏が機能を調べて ntny 氏に返答するという繰り返しだったそうだ。直接作業をしていた ntny 氏は「操作にも慣れて、ZBrush と仲良くなれそうだと思いました」と話し、対照的にしげる氏は「僕はまだ仲良くなっていない!」とひと言。特に、モデルを切ったりポリゴンの穴を埋めたりする Split Hidden、Close Holes を発見したことで ZBrush と仲良くなれたという。また「2D 経験者なら、Dam Standard ブラシがあれば何とかなりますよ!」と ntny 氏は力強く語った。

ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』

①アートログのデザインを参考に、Metasequoia を使用して素体モデルにポージングをさせる。これを ZBrush にインポートし、体型に沿ってインナーのスクール水着をスカルプトしていくが、ボディと腕の接触部が結合してしまっておりつまずいたという②。ここで Split Hidden、Close Holes を知ることで解決、分離に成功する③ 。こうして 1~2 日でベースの水着素体が完成した④

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モデルのブラッシュアップ 1

基本機能を駆使してモデルを作り込む /4月27日~29日

スクール水着のモデルが完成すると、その上に大まかなデザインを下描きし、服と髪の作成に入る。髪はまずシリンダを置いて伸ばし、本来はベンドしたかったが当時はまだ方法がわからなかったため、Move ブラシで徐々に動かしながら形を整えていったという。ntny 氏はこの時点で ZBrush を使用し始めてたった数日、数種類の機能だけでここまでのモデルを作成したことは驚きである。様々な機能を駆使すれば工程や時間を短縮できるが、最低限の機能さえあれば形にすることができるという証明でもあろう。筆者も ZBrush を寝かせてしまっていたが、話を聞いてもう一度使ってみようという勇気をいただいた。ベストに関しては中を空洞にする方法がわからなかったため、Metasequoia でベースを作成し、ZBrush にインポートして形を整えていったそうだ。やはりわからないことだらけだったというが、その度にしげる氏に相談をし、しげる氏が回答することで、ntny 氏はモデリングに集中できたとのこと。しげる氏はさながら ntny 氏専用のホットラインのようだ。その甲斐あってわずか数日でモデルはほぼ完成した。

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①ベースのスクール水着モデルにラフデザインを描く/②Metasequoia で大まかに作成したベスト/③シワなどの細かい部分まで作り込み、ほぼ形が整ったモデル/④〜⑥ラフをベースに ZBrush 上でシリンダを配置、Move ツールで徐々に曲げながら形を整える。ntny 氏はシリンダから作ったとさも簡単に話していたが、シリンダからここまで形を作り込むのは相当大変な作業であっただろう。ZBrush を使い始めて数日でここまで作るのはもはや神業だ

カラーリング

学ぶことで次なるステップへ /4月30日~5月12日

ほぼモデルが完成したところで、告知用にオブジェクトに直接ペイントできる ZBrush のポリペイントでカラーリングが施された。この段階ではまだ中途半端だったため、公式サイトの発表では、肌の色以外は単色の状態に留められている。また、告知の際に「ワンダーフェスティバルで"販売"」と記載したことが、後々スケジュールが危なくなったときでも完成させなければならないと後押しになったという。一方で「ポリペイントしたことで完成した気分になってしまい、以降の作業が一気に遅くなってしまったんですけどね」と ntny 氏は苦笑した。

その後、ZBrush の機能を学ぶために 2 人は ZBrush の講座などに出席、勉強を始める(後述)。先述の通り、最低限の機能を覚えればある程度のものは作成できるが、効率良く、綺麗に作るためには様々な機能を知る必要がある。まず使い始めることで必要な機能がわかり、さらに学ぶことで次なるステップへ進めるのだ。

ガレージキット『ユニティちゃん』

全身に ZBrush のポリペイントで色を塗っていく。大まかに下地の色を塗っただけだが単色よりイメージがはっきりした。後工程に控えている細かなパーツなどの設定では、この色分けが大まかなパーツ分割の参考にもなる

ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』

<左>ポリペイントにて目などの表情も描き込んでみる。実際のガレージキットでは出力後に描き込むが、モデルの雰囲気やイメージを掴めるようになった/<中>カラーリングすることで、髪のわずかな歪みも見えてくる/<右>衣装の裾を外になびかせたかったが当時は方法がわからず苦戦。後に勉強会で出会った榊馨氏(@sakaki_kaoru)に Move モードで Alt を押しながらドラッグするとベンドできると教えてもらい解決したという

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Unity にモデルをインポート

立体造形とゲームで同一モデルは使えるのか

モデルをブラッシュアップするかたわら、作成した『ユニティちゃん』のモデルを Unity に読み込み、フィギュアの監修ができたら面白いのではと、Unity へインポートしてみたという。実際に試してみると、Unity で読み込めるポリゴン数の上限が 65,535 ポリゴンだったため、読み込んだ時点で自動分割されることがわかった。この話を聞いた海外の Unity スタッフからゲームで使えないかという声もあったというが、『ユニティちゃん』はあくまでガレージキット用に作成したモデルであり、使用するにはポリゴン数の制限や作り替えが必要となってしまうため、今回はゲームでは使えないと判断したが、このような展開はたいへん興味深い。余談になるが、ゲームのコントローラなどを用いた ZBrush 用のショートカットデバイスを作成し、ntny 氏のモチベーションを維持したという、しげる氏の多才さに驚かされた。

ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』

モデルのブラッシュアップ 2

機能を学習し実践で身に付ける /5月1日~6月12日

5 月に入るとワンダーフェスティバルの当日版権本申請がある。原型写真の提出など準備に追われる時期であり、ディーラーとして何を出展するかアナウンスするタイミングでもある。その後、スクール水着・衣装それぞれの正面、右、左、後ろの 4 面図を用意し、ガレージキットの組み立てと塗装のできるフィニッシャーさんを探し始める。このあたりはディーラーの代表を務めるしげる氏がネットワークやノウハウをもっていたため、ntny 氏は安心してモデリングに注力できたそうだ。同時に 3DCG に造詣が深いぐるくん氏(@gurukun237)主催の「ゆるゆる ZBrush 勉強会」に参加し、プロ原型師である榊馨氏に疑問点を片っ端から質問し、その場で次々と解決してもらったとか。例えばベンドする方法、スムージングで境界を綺麗にする方法、マスクのショートカット、虫眼鏡ツールなど。そこで学んだことを活かして、完成に向けさらにモデルをブラッシュアップしていったという。

ガレージキット『ユニティちゃん』

これまで作ったモデルを細かくブラッシュアップしていく。塗り分けることを考えるとモールドや段差が必要になるが、ntny 氏のこだわりとして、もともとの設定で存在しない形状をフィギュアであっても追加しないということは譲れなかったため、デカールを使用することになった

ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』 ガレージキット『ユニティちゃん』

①Transpose でベスト以外を不透明表示した状態/②髪の情報量を増やすために枝毛などが足された/③画面上は凹んで見えても実際に出力した際は予想以上に埋もれてしまうため、かなり強めに凹ませる必要がある。逆に眉毛などの凸部分も、見えている以上に強めに盛らないといけない。瞳は出力した際の基準の位置がわかるように、瞳孔の中心も立体的に作成している/④Unity のロゴが使われたファスナーチャーム。当初は小さすぎて複製や組み立てどころか、指で持つことすら困難だったため倍の大きさとなった

ユニティちゃんライセンス

 SpecialThanks

この記事は、
ユニティちゃんライセンス
で提供されています

TEXT_平 将人
PHOTO_弘田 充、大沼洋平

ntny氏&しげる氏

スタッフ

<上>左から、ntny 氏(ユニティ・テクノロジーズ・ ジャパン合同会社)、しげる氏(ディーラー 7144 代表兼、引きこもりニート)

<下>ntny 氏の作業風景


 
 
ユニティちゃんオリジナルレジンキット サイン付き
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7 月に開催されたワンダーフェスティバル 2014[夏]にて、ディーラー 7144(ナナイチヨンヨン)より出展されたユニティちゃんのガレージキットを特別にプレゼントします! ユニティちゃんのキャラクターデザインを手がけた ntny 氏が自らデジタル原型を担当した逸品ですよ。ワンフェスでは完売してしまった超人気作品! 今回はなんと ntny 氏&しげる氏の直筆サイン入りでお届けします!

応募先:www.wgn.co.jp/cgw/cgatweb
提供元:7144
締切:2014年10月10日(金)
※画像は彩色見本です。プレゼントは未塗装未組み立てになります
※プレゼントに応募するには、まず「ワークス オンラインブックストア」サイトで会員登録を行い、ユーザー ID を取得してください。その上で本誌プレゼントページに記載されている今月号のパスワードにてログインして、アンケートに御協力いただき、ご応募をお願いします
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