>   >  『#コンパス』短篇アニメ制作部:初めて描かれる「ゲームシステム内部」を舞台に展開するアクションムービー/#02『Voidoll irregular』by トムス・ジーニーズ
初めて描かれる「ゲームシステム内部」を舞台に展開するアクションムービー/#02『Voidoll irregular』by トムス・ジーニーズ

初めて描かれる「ゲームシステム内部」を舞台に展開するアクションムービー/#02『Voidoll irregular』by トムス・ジーニーズ

<2>プリプロダクション

メインシステム内部のデザインはまず渡辺監督がアイデアを膨らませてラフスケッチを描き、中田氏がイメージボードを3ds Maxで仮組みして具現化するという手順で行われた。3Dで組むメリットは、イメージボードの段階からレイアウトのテストをしたりカメラアングルを検討したりできる点。いわゆる2D的な嘘がない状態で組み上がっていくため、モデリングの際にも齟齬を少なく構築することができる。 Photoshopで画像に加筆をしてやりとりを重ねることも珍しくなかったという。

NHN PlayArtからはVoidollのモデルデータや背景など各種3Dデータも提供された。開発の仕事であってもデータが社外に貸し出されることは一般的に少ない。「ハッキングされたところを他のヒーローたちが助けるというカットを作りたい」と渡辺監督が相談したところ、テクスチャの作成や各世界が侵略される際のシーンの提供まで協力をしてもらえたという。しかもこのシーンは本作のためにプログラマーが組んで別のビルドを作成したという手の込みようだ。これらの協力もあり、ゲームのビジュアルに近いものを作ることができたと渡辺監督は語る。

●Voidollのルック検討

左:ゲーム版のVoidollのキャラクターイラスト/右:ゲーム版の設定デザイン画

本作におけるVoidollのルック検討画像。最初に提出した画像(左上)は光沢が多数入ったCGらしいルック。次はセルルックに反射を抑えたパターン(右上)。決定稿はその中間の少し光沢が入ったルックに決まった(左下)。「普通のセルテイストだとデジタル感がどうしても弱くなってしまうので、キャラクターはセルに加えてグラデーションベースの質感やリフレクションを与えたCGっぽさを少し残した表現をご提案いただきました」(藤田氏)

●Voidollのモデル比較


左からゲーム用のモデル、MMD配布モデル、本作用のモデル。ゲーム用モデルは様々なスペックのスマートフォンに対応させる必要があるため、ディテールを省略した比較的ローポリゴンのモデルになっている。MMD向けはそれよりもやや高精細なモデルで、これをもとに本作用のモデルを制作した。目の部分に透明のカバーをつけることでディテールアップしている

●コアシステムのデザイン


本作の舞台となった『#コンパス』のコアシステムのデザインにあたって、渡辺監督が起こしたアイデアスケッチ。「システムの核となるキューブの周りにたくさんのモニタが浮かび、それぞれのモニタ内でバトルが行われている。バトル終了後、バトルのデータがポータルキーの形でキューブに向けて打ち出されるというイメージです」(渡辺監督)

渡辺監督のスケッチを基に、中田氏が制作したラフデザイン。初稿(左上)では非常線のモチーフやモニタ表現に漢字を用いていることが見て取れる。その後渡辺監督とのやりとりを経て2稿(右上)、3稿(左下)とブラッシュアップを重ねていったが、ギミックやオブジェを排した白く整然としたクールなイメージの方針は初期から変わりがない。また、キューブのデザインは初期の時点でほぼ固まっていたことがわかる。「キューブ表面のパターンは、ハッキングされて光が広がっていくという演出を見せたかったので電子基板のような光の筋を入れてもらいました。その後、テクスチャを描いて貼り付けてデザインをハッキリとさせています」(渡辺監督)。「3Dでランダムにキューブを作る機能があり、それでパターンを出したら基板っぽく格好良くなりました」(中田氏)

上記のラフ作成を経て、NHNに提出されたデザイン。左が通常時、右がハッキングを受けた異常時のイメージ。「『#コンパス』はシンプルなデザインを基本として、遠景は情報量を減らす等の工夫もしていますが、近景になる部分では基盤を見せるなど適切な密度で環境を表現することで、『#コンパス』らしさとアニメとしてのクオリティを両立していただきました」(藤田氏)

●完成した設定画

コアシステムのイメージボード。当初は白+Voidollのカラーである水色が正常な状態で、ハッキングを受けると赤系のカラーリングに変わるというアイデアだったが、『#コンパス』のゲームは青チームと赤チームに分かれて戦うルールのため赤色を異常とすることは避けたいというNHN側からの要望により、異常状態は紫色+ブラックライトのような色合いに変更された。ゲーム中でも毒の表現が紫で表現されるため、ネガティブなイメージとも合致した。「ブラックライトはVoidollの蛍光色が目立つ色。この空間にVoidollを入れると目の青色がより強調され、全体的に赤色にするよりもキャラクターが映える空間になりました」(渡辺監督)


  • ポータルキーの設定画。『#コンパス』は、ステージ内に配置された5つのポータルキーを赤・青の2チームに分かれたプレイヤーが奪い合うというゲームであるため、プレイヤーにもお馴染みのアイテムだ。本作に登場するポータルキーはゲームのステージに登場するモデルよりも複雑な機構になっている。挿し込まれるとアームが起き、台座が45度回り、シリンダがロックされるという段階を踏んだアクションをみせる。これはハッキングを受けたキーをVoidollが踏んで挿し込むカットやその後のハッキングが進んでいくシーンで、手順を追うことで印象的に見せるための工夫だ

  • 敵キャラクター「イレギュラー」の設定画。『#コンパス』作中のVoidollの世界には液体金属のキャラクターが存在しており、それをアレンジしてイレギュラーのキャラクターとした。決定稿となったAはNHNでも満場一致だったという。「磁性流体に磁石を近づけるとトゲトゲした形状になる動画を、アニメーションのリファレンスにしました。Voidollは目がマンガっぽい挙動をするため、それに合わせてあまりメカメカしくない方が世界観に合うのではと考えました」(渡辺監督)

●シナリオ


  • Voidollは口パクがないキャラクターということもあり、ギリギリまで『#コンパス』プロデューサー・林 智之氏による台詞の推敲が行われた。画像はシナリオの一部。青字は1回目の推敲、赤字は2回目の推敲のもので、念入りに監修が行われているのがわかる。「Voidollのセリフはちょっと上から目線の言葉のように聞こえますが、それはAIだから単純に感情なくズバズバ言ってしまっているという設定です。これは一歩間違うと、とてもヒドいことを言ってしまっているように捉えられかねません。その微妙なさじ加減は林にしか分からないので、しっかり監修をさせていただきました」(藤田氏)

●Vコンテ

渡辺監督によるVコンテ。一般的なアニメーション制作の作業ではシナリオから絵コンテを起こし、その後アニメーターがレイアウト作業を行う流れだが、この作品では絵コンテが描かれず3DCGでVコンテが制作された。「制作する相手は皆3Dのスタッフですのでコンテの段階からMaya上で組んで、レイアウトの一歩前まで行いました。尺も出してPremiereでオフライン編集、仮のボイスまで収録してしまいます。ここまでで2週間くらいです」(渡辺監督)。Vコンテでの作業は効率面だけでなく、演出においても効果を発揮。「クライマックスで流れるメインテーマは、当初は決めていなかったのですが、Vコンを作っているときに思いついて、すぐに当ててみました。聴きようによってはコミカルに感じられる曲ですが、上手く曲がハマり感動的なシーンを構築することができました」(渡辺監督)

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