NHN PlayArtとドワンゴが開発・運営を行う大人気対戦ゲームアプリ『#コンパス 戦闘摂理解析システム』を原作に、CGから手描きまで様々なアニメーションスタジオがそれぞれの「ヒーロー」を主人公とした短編アニメーションをつくり上げるという連作企画「#コンパス短編アニメ」。プロジェクトの第1弾として公開された『深川まとい 牡丹』では、アクションゲームが原作だとは想像できないほどのしっとりとしたドラマの人情劇が展開された。この映像がいかにして出来上がったのか、制作スタジオのECHOESを取材した。
INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/ Mitsuru Hirota
●Information
#コンパス 戦闘摂理解析システム
ジャンル:リアルタイムオンライン対戦ゲーム
プレイ料金:基本無料(有料アイテム販売あり)
運営・開発:NHN PlayArt株式会社、株式会社ドワンゴ
https://app.nhn-playart.com/compass/
<1>ECHOESのカラーと企画開発
本作の制作を行なったのは児玉徹郎氏が代表を務めるECHOES。アニメのOP・CM・企業PVなどの短編アニメーションを中心に手がけるCGプロダクションでありつつ、かねてより「世界4大アニメーションフェスティバル受賞をねらう」と意欲の高いスタジオだ。
画像左から 児玉徹郎氏、下崎由加里氏、たかあき氏、明日菜氏、佐山竜希氏(以上、ECHOES)
echoes-echoes.com
本作は、監督をはじめシナリオ・絵コンテ・キャラクター設定・作画・背景を一手に担当した児玉氏を含む、5名の社員と外部スタッフ1名により約2ヶ月半ほどで制作された。同社の特色を児玉監督は「商品性と作品性の間を追求している」と表現する。その意図はクライアントの要望に応えつつも、「個性が否応なしに出てくる」からだという。児玉監督は「キャラクターに個性さえつけてしまえば、それが動機づけになり、あとは喋らせるだけでストーリーが進行する」というかたちで映像をつくり出す。ベテランスタッフの下崎由加里氏も児玉監督からのオーダーに対して「キャラクターのちょっとした癖をモーションで入れてほしいと言われることが多いです。そこでの小芝居といったような遊び心を求められますね」と語る。
そんな児玉監督とECHOESにとって、NHN PlayArtからキャラクターIPを渡され、ストーリー、世界観の構築から自由に行うという映像づくりは驚きの連続だった。当初「自由といってもどうせ後でいろいろ修正させられるんでしょうと思っていたら、本当に自由につくらせていただきました」(児玉監督)と笑う。
#コンパス開発チームのアートディレクターを務めるNHN PlayArt・藤田大介氏は「最初にしっかりとしたドラマの作品をつくっていただいたことで、視聴者や後に続くクリエイターに"『#コンパス』のアニメってこういうのもアリなんだ"、と企画の幅を広げてくれたことは非常に大きかったです」と太鼓判を押した。
本作のオファーは、プロダクションのアサインを一手に引き受けたトムス・エンタテインメントの久保雄輔プロデューサーから届き、夏のイベント(※昨年8月に開催された『#コンパス ライブアリーナ』大阪公演)で初公開したいということから、花火師という設定のまといのキャラクターが選ばれた。
制作は舞台のロケハンからスタート。花火が打ち上がるシーンでは、荒川沿いで開けている河川敷のある場所を選びつつ、そこに架かる鉄橋の骨組みの形状も児玉監督にとっては重要なポイントだったという。また花火師の工房についてはドキュメンタリー映像などを参考に入念なリサーチを進めていった。
<2>プリプロダクション
ストーリーはNHN PlayArtからアドバイスをもらいつつ、開発を進めた。まといが花火師である亡き祖父の背中を追いかけているという設定を基に、在りし日の祖父と幼少期のまといのドラマを描き、彼女がいかにして独り立ちするかを描くことがポイントとなった。
さらに、画面としては打ち上げ花火のシーンも見どころとなる。その場面転換をどのように行うか、児玉監督は考えを巡らせていった。ストーリーは、まといの成長と祖父からの技術の継承をテーマとし、「いかにおじいさんが死に花を咲かせるか」(児玉監督)がドラマのクライマックスとなった。
シナリオが出来上がった後に絵コンテの作業が行われた。コンセプトは「花火づくりの工程」を描きつつ、いかにドラマに仕立てるか。さらに絵コンテにタイミングとカメラワークを付けたVコンテを作成しつつ、キャラクターや背景の制作に取り組んだ。
●脚本
本作の脚本の一部。普段、脚本から書き下ろすことはあまり多くはないという児玉監督だが、本作のようなヒューマンドラマは得意ジャンルだったという
●絵コンテ
脚本を基に作成された絵コンテの一部。藤田氏は「単に会話劇で見せるのではなく、花火制作を通じて2人の関係を語るのが巧いなと思いました。特に花火の玉を回すカットは、物語進行と見映えの美しさを同時に表現した素晴らしい場面」と称賛する
●Vコンテ、アニマティクス
絵コンテを尺に合わせて繋げたVコンテ
簡単なアニメーションとカメラワークを付けたアニマティクス
[[SplitPage]]<3>キャラクター制作
キャラクター制作において、NHN PlayArtから提供された資料は原案イラストやゲーム内のカード、そしてゲーム内のキャラクターモデルだった。ゲームのモデルは様々なスマートフォン機種に対応させるため、ポリゴン数を抑えて構築されているが、映像作品に登場させる上ではブラッシュアップする必要があった。それでも「色や等身があらかじめ決まっていることが指針となり、とてもつくりやすかったです」(児玉監督)という。
ポリゴン数はまとい(成長後)が約15万ポリゴン、祖父や弟子は3万ポリゴン程度。キャラクターモデリングを担当したECHOESの下崎由加里氏は「原案のイラストに沿うように頭身を整えつつ、CGだからこそ表現できる情報量を盛り込みました」と語る。
●キャラクターデザイン
ゲームにおけるまといの全身設定画(左)と、武器の設定画(右)
ゲーム内のカードとして登場するまといの祖父(左)。また、別のカードには特に設定が決まっていない少年キャラクター(右)がおり、それを祖父の弟子という役回りで登場させた
●設定画本作のために描き起こされた幼少期のまといのキャラクターデザイン。場面転換の度に新たな衣装を着せることで、短編でありながらも映像にボリューム感を出している
まといの祖父や弟子の表情は本編より大きめ
●キャラクターモデル
NHN PlayArt から提供されたまといのゲームモデル(左)と、ECHOESで制作した短篇アニメ用のモデル(右)
幼少期のまといのモデル。成長後のモデルからの延長線上で頭身を縮めて可愛さを出していった。可愛さのポイントは瞳孔の輝き。設定上は5~6歳だが、絵面としては10歳ほどで、動きを引き立たせるために情報量を少なくしてある。「アップのシーンが多い作品なので、造形のときから顔の部分にはこだわっています。眼のハイライトは最初から入れたいと思っていました。髪の造形は後ろから見ても前から見ても、絵で描いたようなデザインのあるボリューム感にこだわりました」(下崎氏)
●ペイントオーバーによる修正モデルの修正は、下崎氏がCLIP STUDIOを使用し、ペイントオーバーで方向性を描き入れるかたちで行われた。ECHOESにおいて作画作業も担当する下崎氏ならではのやり方と言える。CLIP STUDIOを使用しているのは、「線を補正したりブラシをコントロールしたりするインターフェイスが使いやすく、入り・抜きの設定や濃さが制御しやすい」(下崎氏)と、使い勝手の良さが大きな理由だという
●ノイズテクスチャによる髪への質感追加
本作のキャラクターはセル調で描かれているが、NHN PlayArtのリクエストにより、鉛筆のようなタッチが追加されている。当初はテクスチャで試みたが、数が多く全てを描ききれないと判断し、3ds Maxのノイズテクスチャを引き伸ばしてグラデーションを乗算することでタッチを加えていった。これは本作ならではの試みだったという
<4>リグ&アニメーション
セットアップは児玉氏とともにECHOESを設立当初から支えるモデラー・CGアニメーターのたかあき氏が担当した。リギングはまず3ds Maxで最小限の骨入れを行い、MotionBuilderで整え、3ds Maxに戻して最後の微調整を行うという手順で進められた。
アニメーションにおいてはモーションキャプチャを使用せず、全て手付けで制作している。「実際に自分で動いて演技を確認しました。日常芝居は良い動きになるまでに時間をかける必要がありました。指先の動きと表情は、特に視聴者が注目する部分なので丁寧につくりましたね」(たかあき氏)。
●リグ
大人まとい(左)と子どもまとい(右)のリグ。児玉監督からは「今回アクションが多いわけではないので、キャラクターの重心や姿勢が映える絵面で、ムダに動きすぎないように」という指示があったという
●フェイシャル
大人まとい(左)と子どもまとい(右)のフェイシャルリグ。表情はMotionBuilderのスライダで骨を1本ずつ制御している
まといの祖父は表情を動かしすぎるとシワが目立つため、表情の変化が少ない。怒る場面ではボーンではなくポリゴンをつくり直すことでシワを増やしている。左:シワの調整前、右:調整後。影は四角のポリゴンを三角に繋いで見せている部分も
●揺れもの
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髪、服などの揺れものは、MotionBuilderでボディモーションを作成した後、3dx Maxのスクリプトで揺らしている。その後MotionBuilderに戻して修正を行い、さらに3ds Maxで調整する。布地が突き出してしまう部分はポリゴンを編集して直す必要があったという
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- たかあき氏がこだわったカットは、先ほど藤田氏が絶賛していた「花火の玉を回すカット」。「火薬の粘土的な硬さが表現できているか」が、地味ながら苦労したポイントだったという。実際の工房では1色ずつ火薬をつくっていくそうだが、演出上の意図からカラフルにしている。それまで日常芝居を丁寧に積み上げてきたからこそ、派手な色合いが大きく映える画面となった
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<5>背景&エフェクト
本作は短編ながら場面転換の多さが特徴で、それぞれの場面で季節感あふれる描写が行われている。これは実際の花火工房の営業サイクルとも関連している。花火工房では、夏の花火の打ち上げに備え、乾燥している冬の間に試作品をつくったり仕込みを行なったりするのだという。そうした様子もリサーチの結果、作品に採り入れられている。背景づくりにおいては、冬の空気感を出す際に青みを加えたり、夏の空には雲が抜けているイメージを表現したりしている。また冬の日を表す影の濃さなども特徴だ。
花火工房の室内は、実際は可燃物を置かず非常に簡素なつくりになっているが、画面上では演出として畳や障子を配している。火薬調合をする板張りの部屋の壁に飾られている火薬の配置図が、曼荼羅にも見える絵柄になっているのも監督のちょっとした遊び心だ。
●背景モデル
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- 背景のモデル(上)と完成した場面写真(下)。実際の花火工房でも門には花火の筒が置いてあるそうで、それを再現している。冬のシーンでは門の横に雪だるまが置かれている。不自然なものやワンポイントのカラーを置くことで単純な背景に面白みをもたせキャラクターを引き立たせることができるという
花火の筒のモデル(左)と完成画像(右)
●カメラマップ
●花火エフェクト
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【E】 - 本作のもうひとつの主役とも言える花火は、商用の動画素材【A】をAfter Effectsに配置し【B】、グローをかけたりスピードを調整したりすることで表現している【C】。【D】は完成画像。また、花火打ち上げのカットでは、Particularを用いて火花の軌跡を描いている【E】
<6>コンポジット
コンポジット(カメラワーク)と編集は下崎氏がメインで担当。下崎氏がこの工程を手がけるのは今回が初めてのことで、児玉監督やたかあき氏のアドバイスの下作業を行なっていった。「この作品はストーリーがきちんとあるため、そこでの感情を描くにはどのような表現をすれば良いかをじっくり考える必要がありました。スケジュールは迫っていたのですが、楽しみなプロセスだったので、ギリギリまで粘って取り組みました」(下崎氏)。
●キャラクター素材
キャラクター1体につき、ベースカラー、ライン、影、髪のタッチの4つの素材を出した。After Effects 上で Pencil+ 4 ラインの編集を可能にするプラグイン「Pencil+ 4 Line for After Effects」を使用することで、調整の効率が大きく向上したという。「編集の段階でラインを調整できるようになり、レンダリングを何度もせずに済みました。コンポジットをしながら、アップと引きのカットそれぞれでラインの太さの調整ができるので、イメージ通りに行きやすかったですね」(下崎氏)
●コンポジット工程とカットごとの調整オープニングのまといが顔を上げるシーンと、弟子がまといの祖父に意見するシーンの制作のながれを示す。素材を並べてレンダリングし、足りない部分の素材を足すという作業をくり返して作り上げた。背景の点滅やコントラストには注意したという。他にも髪の毛の細さや眼のハイライトを揺らすなど、細かなこだわりが多数詰め込まれた
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近日公開予定!