<5>背景&エフェクト
本作は短編ながら場面転換の多さが特徴で、それぞれの場面で季節感あふれる描写が行われている。これは実際の花火工房の営業サイクルとも関連している。花火工房では、夏の花火の打ち上げに備え、乾燥している冬の間に試作品をつくったり仕込みを行なったりするのだという。そうした様子もリサーチの結果、作品に採り入れられている。背景づくりにおいては、冬の空気感を出す際に青みを加えたり、夏の空には雲が抜けているイメージを表現したりしている。また冬の日を表す影の濃さなども特徴だ。
花火工房の室内は、実際は可燃物を置かず非常に簡素なつくりになっているが、画面上では演出として畳や障子を配している。火薬調合をする板張りの部屋の壁に飾られている火薬の配置図が、曼荼羅にも見える絵柄になっているのも監督のちょっとした遊び心だ。
●背景モデル
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- 背景のモデル(上)と完成した場面写真(下)。実際の花火工房でも門には花火の筒が置いてあるそうで、それを再現している。冬のシーンでは門の横に雪だるまが置かれている。不自然なものやワンポイントのカラーを置くことで単純な背景に面白みをもたせキャラクターを引き立たせることができるという
花火の筒のモデル(左)と完成画像(右)
●カメラマップ
●花火エフェクト
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【E】 - 本作のもうひとつの主役とも言える花火は、商用の動画素材【A】をAfter Effectsに配置し【B】、グローをかけたりスピードを調整したりすることで表現している【C】。【D】は完成画像。また、花火打ち上げのカットでは、Particularを用いて火花の軌跡を描いている【E】
<6>コンポジット
コンポジット(カメラワーク)と編集は下崎氏がメインで担当。下崎氏がこの工程を手がけるのは今回が初めてのことで、児玉監督やたかあき氏のアドバイスの下作業を行なっていった。「この作品はストーリーがきちんとあるため、そこでの感情を描くにはどのような表現をすれば良いかをじっくり考える必要がありました。スケジュールは迫っていたのですが、楽しみなプロセスだったので、ギリギリまで粘って取り組みました」(下崎氏)。
●キャラクター素材
キャラクター1体につき、ベースカラー、ライン、影、髪のタッチの4つの素材を出した。After Effects 上で Pencil+ 4 ラインの編集を可能にするプラグイン「Pencil+ 4 Line for After Effects」を使用することで、調整の効率が大きく向上したという。「編集の段階でラインを調整できるようになり、レンダリングを何度もせずに済みました。コンポジットをしながら、アップと引きのカットそれぞれでラインの太さの調整ができるので、イメージ通りに行きやすかったですね」(下崎氏)
●コンポジット工程とカットごとの調整オープニングのまといが顔を上げるシーンと、弟子がまといの祖父に意見するシーンの制作のながれを示す。素材を並べてレンダリングし、足りない部分の素材を足すという作業をくり返して作り上げた。背景の点滅やコントラストには注意したという。他にも髪の毛の細さや眼のハイライトを揺らすなど、細かなこだわりが多数詰め込まれた
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近日公開予定!