NHN PlayArtとドワンゴが開発・運営を行う大人気対戦ゲームアプリ『#コンパス 戦闘摂理解析システム』(以下、『#コンパス』)を原作に、CGから手描きまで様々なアニメーションスタジオがそれぞれの「ヒーロー」を主人公とした短編アニメーションをつくり上げるという連作企画「#コンパス短編アニメ」。
プロジェクトの第3弾として公開された『魔法少女リリカルルカ』は、まるで最初からTVシリーズとして存在していたかのような説得力のある演出ぶりで観る者を驚かせた。この作品はいかにして生まれたのか、前作『Voidoll irregular』に続いて制作を担当したトムス・ジーニーズに話を聞いた。
INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/ Mitsuru Hirota
●Information
#コンパス 戦闘摂理解析システム
ジャンル:リアルタイムオンライン対戦ゲーム
プレイ料金:基本無料(有料アイテム販売あり)
運営・開発:NHN PlayArt株式会社、株式会社ドワンゴ
https://app.nhn-playart.com/compass/
<1>魔法少女アニメのお約束をそのまま短篇に
再生を始めるやいなや魔法少女アニメのクライマックスが始まり、エンディングのダンスへ。そして予告篇にエンドカードまで付くというお約束を踏襲し、ファンを喜ばせた短編映像『魔法少女リリカルルカ』。企画の最初にあったのは、今回の主役であるキャラクター「リリカ」の、原作ゲームにある魔法少女アニメ設定を活かした「いわゆる女児向け魔法少女アニメのエンディングにあるダンス映像」だった。
そのアイデアを軸に「エンディングの前後の部分である物語本編の終盤と次回予告&エンドカードもくっつけて、魔法少女アニメの番組フォーマットの一連をパロディにした短編映像はいかがでしょうか?」と提案したのはトムス・ジーニーズのなべしげ(渡辺誠之)監督だ。「ダンス映像だけだとプロモーションビデオ的に見られてしまいがちですが、それを番組フォーマットの形にすることで、『魔法少女リリカルルカ』というシリーズのキャラクターとして彼女たち生きてくるんです。それにゲームのユーザーさんに、設定やゲーム中のテキスト内で示される"リリカルルカ"という架空のシリーズがどういう作品なのかを実際に見てもらいたかったんです」(なべしげ監督)と、意図を語る。
では、その「物語本編の終盤」をどんな内容にするか。そのアイデアのヒントは意外なところからもたらされた。原作ゲームに登場するキャラクターのひとり、マルコス'55は「リリカ」の大ファンという設定で、彼はゲーム内で「リリカ覚醒回は何回見ても最高だよ!」というセリフを口にする。そこから、実際の「リリカ覚醒回」とはどんなものだったのだろうかと、「本編終盤」の部分への採用が決まった。内容としてもバトルアクションあり覚醒による衣装チェンジありと見どころが満載だ。短編映像ではルルカから登場し、リリカは遅れて現れるという演出も、原作では主人公のリリカよりもルルカの方が人気キャラという設定を踏まえたもので、ファンに対する心配りが行き届いたものだ。
映像制作を行なったトムス・ジーニーズは、『Voidoll irregular』も担当したスタジオ。『Voidoll』の制作終盤と並行して本作のプリプロダクションが行われていった。制作は2018年6月からプリプロダクションを進め、7月にダンスシーンのモーションキャプチャーの撮影、7〜9月に制作を行なって9月に納品というスケジュール。『Voidoll irregular』も約4ヶ月スピーディーな制作体制だったが、『リリカルルカ』はそのときの経験を踏まえ、さらに短期間での制作が進められ、完成した短編映像は昨夏に開催されたイベント「#コンパス ライブアリーナ愛知」で初めてファンに公開された。
写真左から 圓谷章吾氏、岩井文吾氏、小笠原俊介氏、なべしげ氏、島田洋平氏、肖 雨青氏、中田英輔氏
トムス・ジーニーズ
jinnis.com
『#コンパス』開発チームのアートディレクターを務めるNHN PlayArt・藤田大介氏は「ひとつの題材を咀嚼して、4分の物語にまとめられたことが素晴らしく、良い意味で実時間以上の密度を感じさせる短編映像になりました。またリリカの表情やエフェクトなどにおいても細かい作業をしていただき、質の良い作品に仕上がったと思います」と語る。次ページからは、この作品がどのように作られていったのかメイキングを追っていく。
<2>プリプロダクション
プリプロダクションは『Voidoll irregular』同様、美術設定の中田英輔氏がなべしげ監督の右腕となって奮闘した。中田氏の仕事はステージ周りにとどまらず、ルルカと、エボリューション(覚醒)リリカ、ボスキャラのキャラクター設定まで行なった。リリカは『#コンパス』のカードイラストを設定として利用しているが、カードには背面図がないため、立体的な図面はデザイン側で独自に構造解析をする必要があったという。制作においてはNHN PlayArtからさまざまな参考画像が提供された。「ダンスステージなど、自分が苦手としていた分野のモチーフの引き出しが増えていきました。ダンスステージの細かい部分のデザインも注目していただければ」(中田氏)と語る。
●キャラクター設定
左:原作ゲームのカードイラスト、右:左からエフェクトの描き込みを外し質感の参考としたもの
ルルカの頭部の設定。ルルカの設定は新規で起こした
覚醒リリカの設定画。この設定を起こした段階では、リリカが覚醒するときに年齢や頭身が上がると決まっていなかったので、普段のリリカのままのプロポーションでデザインされている
●ステージ設定
-
中田氏が制作した、ボスステージのラフ。当初、ステージは四角だったが、実際のカットを想定したレイアウトテストを踏まえて、円形のステージに変更された -
ボスステージの時計ギミック。歯車の廻る順番と機構まで設定されている。時計のメカニカルな雰囲気や質感に注目したという
-
ダンスステージのラフ(昼)。当初はファンシー・ポップ路線だったが、それではあまりにも子ども向けすぎるということで、中田氏の得意とする硬質なイメージや魔法アイテムをデザインの中に採り入れていった。映像では外周にゲームの「グレートウォール」を背景の一部として使っている -
ダンスステージのラフ(宇宙)。歌の後半に登場する。2人がそれぞれ乗る小型のステージのアイデアは当初から監督にあったもの
モーションアクターは、仮面ライアー217氏が担当。1人でリリカとルルカの動きを、それぞれ左右反転して演じ、撮影した。リリカは「一生懸命練習しているけど踊りは下手」という設定のため、モーションキャプチャにおいてもリリカの側は敢えてややドジっぽい感じの踊りを披露してもらい、それを撮影したという。「リリカとルルカを別テイクで収録しましたが、ダンスがばっちりシンクロしていて驚きました」(藤田氏)。
●Vコンテ
モーションキャプチャを撮影した後、監督がラフモデルでレイアウトを決め、カメラワークを付けたVコンテを作成。その後、アニメーション作業へと移り、モーションやカメラワークの調整が行われていった
●エンドカード&ロゴ
-
エンドカードのラフスケッチ。5人の魔法少女の集合絵がテーマで、中田氏はそこから戦隊シリーズのパロディを発想し展開していった -
エンドカード完成画像。爆発は書き割りで修繕の跡があるなど、全体的にギャグテイスト
[[SplitPage]]
<3>モデル
本作でも『Voidoll irregular』同様、NHN PlayArtからゲーム版のリリカのモデルデータが提供されている。VoidollはMMDモデルからプロポーションの変更はほとんどなかったが、リリカの場合はカードイラストに寄せつつアニメ映像向きにプロポーションの調整を行なっている。モデラーの作業に対し監督が3Dデータを直接チェックするというかたちで作り上げていった。「提供されたモデルのカラーイメージがしっかりしていたので、完成までは早かったです。CGとアニメの中間地点ではなくアニメの映像を、と目標がハッキリしていました」(なべしげ監督)。
●モデルリリカのモデル
左からゲームモデル、MMDモデル、短篇用モデルの比較。ゲームの場合はやや引きのショットで見られることが多いため、シルエットを印象づけるようなプロポーションに設定されている
ルルカのモデル
リリカとルルカの比較。ルルカはリリカよりも若干身長が高い設定であるため、プロポーションも合わせて調整している
覚醒リリカのモデル
リリカと覚醒リリカの比較。覚醒リリカは、通常のリリカから年齢と頭身を上げている
●背景モデル
-
- ダンスステージのモデル。背景の陰影や光沢などの質感は、ライティングではなくテクスチャで表現している。その方がアニメの美術に近いイメージで描けるからだという。ダンスステージは、空背景と宇宙背景の2種類のテクスチャを準備した
ダンスステージは、空背景と宇宙背景の2種類のテクスチャを準備した
左:ラスボスステージのモデル/右:ラスボスステージ完成画像
●テクスチャ
ハイライトや陰影はテクスチャに描き込んでいる。Mayaのレンダーレイヤーで各素材を分けて出力しているので、テクスチャはベースカラー、影マスク、光沢、ラインマップ等レイヤー分けされたPSDデータで編集しやすいようにしている。左:リリカの髪テクスチャ、右:ルルカの髪テクスチャ
背景テクスチャ。こちらもベースカラー、影マスク、光沢等レイヤー分けされたPSDデータで編集している
<4>リグ&アニメーション
フォーマットのパロディから始まった本作だが、内容についてはあくまでオリジナルの映像作品として表現を突き詰めていく必要があった。ダンスシーンにおいては「最初はキャラクターらしさや性格があまり盛り込まれておらず、記号的だった」と監督は語る。そこでリリカの場合であれば踊るときの一生懸命な表情を突き詰めていくことで、キャラクターらしさを生み出していった。アニメーターの小笠原俊介氏は「みんなが応援したくなるような表情づくりを目指した」と語る。一方、ルルカは落ち着いている表情が多い。ダンスシーンではカメラへの目線送りから彼女の余裕ぶりが垣間見える。「可愛い表情を見せつつ、カットが終わるくらいのときに『見えちゃった』みたいな感じ」(小笠原氏)を出すのがポイントだったという。
なお、ダンスシーンでモーションキャプチャが使われているのは先述の通りだが、それ以前のバトルシーンでもモーションキャプチャの撮影を行なっている。これはVコンテ用のリファレンスで、監督が自ら演じた。なお、本編の動きについては小笠原氏が手付けで制作している。また、髪の毛の揺れは作業効率を考えつつシミュレーションを使い分けている。ダンスではシミュレーションを使用し、めり込みが起きないようリガーの岩井文吾氏が調整を行い、固めに設定。バトルシーンでは手付けで丁寧に付けている。なお、スカートやリボンはどちらもシミュレーションだ。
●リグ
リリカのリグ、左からトムス・ジーニーズのリグシステムで使用される標準リグ、リリカの体型に合わせて設定したリグ、各補助リグを追加したもの
右の赤いジョイントは、モーションキャプチャとセカンダリシミュレーション用のジョイント。このジョイントの動きをリグのコントローラに反映させ、オフセットにより最終的な動きをつける
●フェイシャルリリカのブレンドシェイプ
左:リリカの表情。自分なりに頑張ろうとしている表情を出すのがリリカらしさ/右:ルルカの表情。ルルカはお姉さんらしさを出している
●アニメーションのながれ
Mayaの作業画面
この短編のファーストカット。ルルカが不意を突かれ驚く表情がアニメーションの作業が進むにつれ緻密になっている。眉や口、瞳孔の動きに注目
●揺れもの
シミュレーションによる髪、スカートなどの揺れ
手付けによる髪の揺れ
[[SplitPage]]<5>エフェクト
『Voidoll irregular』同様、本作もアニメ調のルックであるため、作画素材による2Dエフェクトが活用された。前作同様に2Dエフェクト作画はrapparu氏が担当。ステッキなどから出る光のエフェクトについてはコンポジットの島田洋平氏が制作した。
●作画素材を用いた2Dエフェクト
【A】社内アニメーターが3DCGで作成したアタリのエフェクト
【B】【A】を下絵にrapparu氏が制作した作画素材
【C】色分けされた【B】の作画連番に、グローなどのエフェクトを重ねて完成
●キラキラエフェクト
<6>コンポジット
髪の光沢については、テクスチャで処理を行なっている。影も当初はテクスチャを貼っていたが、揺れた際に貼り付いて不自然に見えたため、ライティングでの処理に変更した。また、手足についても常に影が落ちている箇所はテクスチャで処理し、ライトの方向ではない影が入る箇所については島田氏がカット単位でライティング調整を行なった。
●リリカの素材
●影の調整
あおりのカットでは、カットによって顔が丸く見えてしまうためテクスチャ+ライトからのシャドウで顔をシャープに見せるよう調整している。左:調整前/右:調整後
●ラインの入り抜き
前作のVoidollにはなかった表現として、本作ではキャラクターのラインに入り抜きを加えている。【A】入り抜きなしで、そのままコンターで出力した場合/【B】入り抜きを指定する白黒マップ。白が細く、黒が太くなるようにテクスチャを作成/【C】【B】のマップを適用して出力した場合/【D】完成画像
NEXT >> #04 『CALL OF JUSTICE』 by ハイパーボール
近日公開予定!