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    NHN PlayArtとドワンゴが開発・運営を行う大人気対戦ゲームアプリ『#コンパス 戦闘摂理解析システム』(以下、『#コンパス』)を原作に、CGから手描きまで様々なアニメーションスタジオがそれぞれの「ヒーロー」を主人公とした短編アニメーションをつくり上げるという連作企画「#コンパス短編アニメ」。

    プロジェクトの第5弾として公開されたのは『桜華忠臣 Axis』だ。世界征服を目指す妖怪軍の総帥・桜華忠臣が、裏切り者を討伐する美麗なアクションアニメ。これまでの「#コンパス短編アニメ」とは趣を異にする、作画のアニメーションであるのが特徴だ。監督とキャラクターデザインは第4弾『CALL OF JUSTICE』を担当したハイパーボールGODTAIL。CGツールをメインに使用してきたアーティストが作画アニメーションのディレクションを手がけるのは、アニメ・CG業界でも珍しいケース。その制作プロセスを見ていこう。

    INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充/ Mitsuru Hirota

    ●Information
    #コンパス 戦闘摂理解析システム
    ジャンル:リアルタイムオンライン対戦ゲーム
    プレイ料金:基本無料(有料アイテム販売あり)
    運営・開発:NHN PlayArt株式会社、株式会社ドワンゴ
    https://app.nhn-playart.com/compass/

    <1>「#コンパス短篇アニメ」シリーズ初の作画アニメーションへの挑戦

    『#コンパス』ヒーローの中でも屈指の美形で妖術使いのアタッカーキャラクター・桜華忠臣。ゲーム公式設定では「総帥と呼ばれるこの男の素性は決して口にしてはいけない」とある、謎多き人物だ。そんな彼の軍人要素をフィーチャーし、モチーフカードに描かれた"忠臣"たちとともにキャラクターの背景を浮かび上がらせるドラマが作り上げられた。また、本作には忠臣と世界観がリンクしているグスタフが登場することも原作ファンには堪らない展開で、2018年12月23日(日)の「#コンパスフェス 2nd ANNIVERSARY」で初公開された際には涙を流して喜んだファンもいたという。

    制作陣は、「#コンパス短篇アニメ」シリーズ第4弾『CALL OF JUSTICE』を手がけたハイパーボールの山下敏幸氏が脚本とディレクションを担当。キャラクターデザインは同じくGODTAIL氏が務めている。

    本作はひと目見てわかるように、これまでの「#コンパス短篇アニメ」シリーズでは初となる作画で制作されたアニメーションだ。山下氏が『CALL OF JUSTICE』と続けて制作するなか、それぞれに映像作品としての特徴を表現し、忠臣というキャラクターの魅力を引き出すため、NHN PlayArtと共に検討した結果、この表現手法が採られた。

    作画の制作には、テレコム・アニメーションフィルム(以下、テレコム)の大ベテラン演出家・富沢信雄氏、『ルパン三世 PART5』などの作画監督・高田洋一氏をはじめとしたテレコムの多くの制作スタッフが参加。本編は実尺約5分全100カット。この作画以降の工程を約2ヶ月間でフィニッシュするというスピード感で制作が行われた。「作画のアニメーションは、ギリギリまで原画さん動画さん、演出がクオリティアップのための努力をしてくれて、最後に僕のところに来るので、バトンを繋いでいるという意識がより強かったです」と語る山下氏。本作ではほとんどのカットの撮影まで担当し、仕上げていった。次項では取材を基にした具体的な制作工程を紹介していく。


    ▲前列左から 藤田大介氏(NHN PlayArt)、山下敏幸氏(ハイパーボール)、三皷梨菜氏(ハイパーボール)、田中奈都湖氏(テレコム・アニメーションフィルム)、GODTAIL氏

    <2>プリプロダクション

    山下氏が本作のシーンとして真っ先に想起したのが、忠臣のテーマソング『残響』の置きどころだ。作中では敵軍本部に乗り込むタイミングでイントロが始まり、爆発とともに熱いビートが展開し、歌に乗せた大立ち回りのシーンが視聴者を鼓舞する。この見せ場を中心として、月夜叉やゲネラール、そしてケルパーズとのシーンや、総帥らしい演説シーンを入れ込み、全体のプロットを構成していった。一般的なアニメ制作工程では次はシナリオ作成になるが、本作では三皷梨菜氏(ハイパーボール)がプロットから直接絵コンテ制作を行なった。この時点で約150カットと想定を大幅に超過していたため、シーン単位で整理をする必要があり、脚本家の峰岸 瞳氏がシナリオのかたちに落とし込んだものをベースに調整していった。

    『#コンパス』原作のキャラクターイラストは緻密に描かれているため、作画アニメーションで動かすためには線の量を整理する必要がある。GODTAIL氏はこれまでオリジナルキャラクターのデザイン経験はあったが、本作のような集団で作る作画アニメ用に落とし込むデザインはあまり手がけたことがなかったため、その塩梅に悩んだという。特に忠臣は「爪」と呼ばれる肩の装飾や軍服などディテールが多いキャラクターで、「アニメーションさせてくれたのは作画スタッフの努力の賜物」とGODTAIL氏は語る。

    また、忠臣の顔については「主人公っぽいけれども、ちょっと悪そうなところが難し」く、リテイクがくり返された。さらに、「額の感じをどのように出すのかが難しかった」とのこと。本作の場合、影付けの設定が通常の作画アニメとは異なるため、作画監督の高田洋一氏が全てのカットに対して修正の段階で影を入れるという方法で統一を図った。また、高田氏は忠臣から見て敵方にあたる共和国高官たちをデザインし、GODTAIL氏の妖華帝国軍キャラクターと世界観を合わせるかたちで線の多いキャラクターに仕上げた。

    絵コンテもキャラクターデザイン同様、作画アニメで制作する上でのフォーマットが存在する。例えばセリフ尺の書き方やアングルの付け方のほか、「カットとカットがきちんと繋がってみえるよう、キャラクターの向きや位置の整合を取る必要があります」(田中奈都湖氏/テレコム・アニメーションフィルム)。三皷氏の描いた絵コンテに対して演出の富沢氏が解釈・補完するかたちで整えた。「王道のアニメーションに仕上がった感じがします」と、山下氏は語る。

    ●シナリオ&絵コンテ

    ▲プロットから絵コンテを描き、シナリオに戻して修正を行なったものから新たに構成された絵コンテ。演出意図は絵で示されたり、文字で書かれたりもしている。原作ゲームと合わせたポーズを取るカットでは参考の画面キャプチャが貼られるなど、様々な素材が活用された絵コンテ

    ●Vコンテ

    ▲絵コンテを演出尺に合わせて編集、仮の音声とカメラワークをつけたもの

    ●原作ゲームのキャラクター設定


    • ◀原作ゲームのカードイラスト。キャラクターデザインを担当したのはりゅうせー氏。妖術の黄緑色の光が桜の花弁に反射し、彼のイメージを作っている


    ▲原作ゲームにおける忠臣の設定画。頭身がデフォルメされることが多い『#コンパス』でも8頭身の格好良さが特徴。表情のほか「目を開いて見下すように笑う」というキャラクター性もこの時点で言及されている。肩パーツにも細かな装飾が施されている

    ●GODTAIL氏によるキャラクターデザイン

    ▲忠臣のキャラクターデザイン。忠臣は軍服のデザインや"爪"によって、左右が非対称のキャラクター。立体感のある服の影付けが特徴だ。「デザインのポイントは目。総帥としてのワルさを感じさせるよう形をシャープにしつつ、男性キャラでも成立するようなセクシーさのあるまつ毛にしています」(GODTAIL氏)。「『#コンパス』はヒーロー全員が主人公という位置づけなので、悪そうな要素も個性として捉えています」(NHN PlayArtアートディレクター・藤田大介氏)

    ▲忠臣の部下ゲネラールのデザイン画(左)、原作に登場するカード「妖軍一統ゲネラール」(右)。原作の参照元はこのカード1枚のみ。GODTAIL氏の得意とする無骨なキャラクターで、腕と脚の筋肉の誇張ぶりがデザインとして活きている。「悩むことなくデザインできた」(GODTAIL氏)という

    ▲忠臣の部下月夜叉のデザイン画(左)、原作に登場するカード「妖炎参謀月夜叉」(右)。同じく原作の参照元はこのカードのみ。「女性キャラクターは作中の華。顔が可愛くないといけないので特に気を配ります」と、GODTAIL氏。表情集は実際に使われるカットを絵コンテで参照して描いていった。当初はスカートではなくパンツスタイルだったとのこと

    ▲忠臣の部下として動く目玉の妖怪集団ケルパーズのデザイン画(左)、原作カード「無限軍旅 ケルパーズ」(右)。ケルパーズは大勢登場するので「キモかわいい」サイズ感を模索した結果、このサイズ感(150cm)に。服のサイズはやや大きめ。「忠臣に無理難題を言われてあたふたしていても、戦ったら実は怖いという感じを出したかったので軍団で歩くカットをつくりました」(山下氏)


    ▲キャラクター対比表。作画アニメは大勢のアニメーターがカットごとに描くため、設定から身長対比を精密に作る必要がある。これが守られていないと屋内のシーンではすぐに視聴者に違和感を与えてしまうことになる。原作では身長データは公開されていないため、これはあくまでアニメ制作のための設定とのこと

    ●イメージボード


    ▲原作ゲームの忠臣ステージ「妖華帝都ケルパーズの散歩道」。大正時代を想起させる建物や車両がみられる。夜空の月はモチーフとしてイメージボードにも描かれている


    • ▲作品の舞台イメージを共有するために描かれるイメージボード。この絵が作中の背景美術として使われることもある

    ●美術設定


    • ▲妖華帝国本部室。忠臣の総帥机が奥に、手前には臣下の作戦用の大きな机がある。調度品の中には妖刀やちょうちんも。下図は切り返し

    • ▲忠臣が演説を行なった本部集合場所。明かり取りは少なく、燭台があり不気味な雰囲気を醸し出している


    • ▲大正の陸軍本部をイメージした建物。施設周りは森に囲われ、戦闘機の格納庫や電波塔もある設定

    • ▲本編で戦闘がくり広げられる作戦司令室。作画アニメ制作においてインテリアある室内での戦いは、位置の整合性を取る物量が多くなるため制作難度の高いものになる。煙の演出で調整した部分も

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    <3>凄腕の作画アニメーターによるアクションシーンと撮影による仕上げ

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    <3>凄腕の作画アニメーターによるアクションシーンと撮影による仕上げ

    作画の制作フローは一般的な作画アニメに則って行われている。すなわち、絵コンテ、レイアウト、原画、作画監督修正、動画というながれだ。テレコムのデジタル作画班はCLIP STUDIO PAINTを使用。一方で半数程度は紙での作画を行なっている現状だ。

    アクションシーンが多い本作。テレコムからはアクションアニメが得意なアニメーターが多く参加した。そうした中で作画監督を務めた高田洋一氏はまさに八面六臂の活躍。「手が空いているときは、『もっとキャラクターを掴むために』とおっしゃって、前半は原画から作監作業までお一人で担当されました」(田中氏)。

    後半のバトルシーンでも、「絵コンテに『一気に敵を蹴散らす忠臣。アクションはゲーム動画を参考に』と、忠臣っぽく、間にキックを入れてくださいと書いたら、とても格好良いものに仕上げてくれました。ご覧になったファンの方もそれに気づいて喜んでくれたのが嬉しかったですね」(山下氏)。

    エフェクトについては、作画で描くカットとデジタルのコンポジットで処理するカットとを使い分けている。「例えば煙が上がるカット。ここは作画でないと良さが出ないので、描いてもらっています」(山下氏)。

    撮影(コンポジット)は、100カット中80カット分をハイパーボールが担当。「キャラクターのグラデーションや作中の空気感を決めるのは撮影の力。ディレクターの自分が撮影まで担当することで、当初から作りたかった映像のかたちに仕上げることができました」(山下氏)。

    また、撮影を担当することで制作自体への意識にも影響があったようだ。「これまでの素材を受け取って仕上げる最後の工程なので、責任重大。妥協や言い訳はききません。皆さんのタスキを受け取った感じがして、自分だけでではなく、大勢で作っているという実感がありますね」(山下氏)。「これまで作画のアニメのお仕事でもアニメーターさんや背景さんにお会いすることはなかったのですが、今回は全員打ち合わせで顔を合わせている人たちばかりで、進行状況も肌で感じましたし演出の富沢さんにもとても助けていただきました。タスキの重みを感じるお仕事でした」(三皷氏)。

    ●c009:忠臣に詰め寄る月夜叉


    • ▲【A】レイアウト。キャラクターを画面フレーム内でどのように置くかを確認するための絵。背景の原図もアニメーターが描く

    • ▲【B】原画。一般的にキャラクターの動きのキーとなる絵で、これを基に動画スタッフが中間の絵を描く(このカットの動画は口パクのみ)


    • ▲【C】作画監督による原画修正(デジタル)。修正は最小限に行われている。ここでは髪の毛の形と顎、まつ毛のニュアンス、鼻頭のシワなどに修正が入れられている

    • ▲【D】完成カット。背景は【A】の原図を基に美術スタッフが描き、合成する

    ●c060:ゲネラールの反撃


    • ▲【A】レイアウト。こちらは背景ナシのカット

    • ▲【B】GODTAIL氏による表情集。作中でキーとなる表情は絵コンテで当該カットを見てまとめて描かれた。本作のアニメーターはこれを参考に表情を描いた


    • ▲【C】原画。レイアウトと比べて顔の向きや体の躍動が大きくなっている

    • ▲【D】完成カット。各所に撮影処理が乗り、迫力が増している

    ●c074:ケルパーズの行軍


    • ▲【A】レイアウト。コピー&ペーストで処理するため位置関係を伝える内容

    • ▲【B】原画(ケルパーズ1体分)。画面には映らなかったが銃や下半身も描かれている


    • ▲【C】完成カット。撮影で上下の動きを付けて迫りくる様子を表現している

    ●c088:グリート拘束呪式解放を放つ忠臣


    • ▲【A】レイアウト。この時点では掌の口がリアル寄りだった

    • ▲【B】GODTAIL氏による表情集。ゲネラール同様、絵コンテのカットから表情集を描き、それを参考に作画監督が喜怒哀楽を描いた


    • ▲【C】原画。レイアウトの段階で描き込むか、原画の段階で描き込むかはそれぞれのアニメーターの流儀による

    • ▲【D】修正原画。目頭がやや細くなり、口がやや小さめに。鼻筋のラインを立てている


    • ▲【E】完成カット。掌の撮影処理を見ると影付け指定の重要さがわかる

    ●c100:ラストカット


    • ▲【A】エンドロールが終わった後、闇の中から浮かび上がるグスタフ。世界観設定上、重要なキャラクターでファンサービスを込めて登場させた。1カットのみの登場のため、原画はGODTAIL氏が担当。本編画面上では映っていない部分も描かれている

    • ▲【B】完成カット。目と指の撮影処理で恐ろしさをより際立たせている

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