NHN PlayArtとドワンゴが開発・運営を行う大人気対戦ゲームアプリ『#コンパス 戦闘摂理解析システム(以下、#コンパス)』。今年8月より、この作品のキャラクターを拡張する短編アニメプロジェクトが好評展開中だ。このプロジェクトの特徴は、ゲームに登場する「ヒーロー」と呼ばれるキャラクター10人それぞれが主役の短編アニメを、様々なクリエイターがそれぞれ独立した10本の作品に仕上げるところ。
その内容も非常に自由度が高く、現在公開されているものだけでも人情ドラマからCGバトル、魔法少女アクションまで非常に多彩で、クリエイターが伸び伸びと表現しており見どころが満載だ。本連載では全10話のメイキングを紹介していく予定だが、まず連載スタートに際して、この企画がどのようにして成立したのかを、作品の見どころと共に#コンパス開発チームのプロデューサー林 智之氏と、アートディレクター藤田大介氏に聞いた。
INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/ Mitsuru Hirota
【#コンパス】プロモーションームービー【NHN PlayArt x niconico】
●Information#コンパス 戦闘摂理解析システム
ジャンル:リアルタイムオンライン対戦ゲーム
プレイ料金:基本無料(有料アイテム販売あり)
運営・開発:NHN PlayArt株式会社、株式会社ドワンゴ
https://app.nhn-playart.com/compass/
<1>「自由につくって」とアニメ制作を委ねることができた理由
――スマートフォン用ゲーム『#コンパス』のヒーロー10人の短編アニメを、それぞれ異なるスタジオと映像クリエイターが制作するという意欲的な取り組みですが、この企画の成り立ちについて、まず教えていただけますか?林 智之氏(以下、林):『#コンパス』のゲーム制作においては、キャラクターの設定は開発チームやボカロPさん、絵師さんとの共同作業で内容を考えながらつくっていたのですが、作中に明確なストーリーはつくっていなかったんです。それがユーザーさんに愛されるに従って、より深く世界観やキャラクターのことを知りたいというお声をいただくようになりました。ではそれに応えようということで、この企画がスタートしました。
――ストーリーを最初からゲームに組み込まなかった理由はなぜでしょうか?
林:これは僕のゲームクリエイターとしての考えに基づくものでした。『#コンパス』というアプリは、何でもかんでも詰め込むのではなく、あくまで対戦をするために起動させてほしいという思いがありました。でも、キャラクターのことをもっと深く知りたいというお声があるのであれば、アニメというゲームの外側の媒体を使ってそれぞれのヒーローたちの世界を描くのはアリだろうと考え、今回チャレンジしたというかたちです。
――そうすることによって、ゲームとしての作品性を担保しつつも、ユーザーによりキャラクターを愛してもらえる広がりを生み出せるわけですね。異なるクリエイターで10本のアニメをつくるというコンセプトはどのようにして決まりましたか?林:『#コンパス』はゲームの成り立ちからして様々な絵師さんやボカロPさんと一緒につくっていくというコンセプトがあったので、アニメでもいろいろな方の表現で世界をさらに広げていこうと考えました。10本の中には複数本を手がけるスタジオさん・監督さんもいらっしゃいますが、それぞれ独自の解釈も加えながら映像化していくというところは元々の『#コンパス』のコンセプトに沿ったものになっていると思います。
――多様性が原作ゲームにも内包されていたから、アニメでもこれだけ自由にできたんですね。
林:はい。映像をご覧になっていただいておわかりのように、とても自由につくっていただいています(笑)。
――アニメーションを制作するスタジオとキャラクターの組み合わせはどのように決めていきましたか?林:CGクリエイターの方とは個人的なレベルでのお付き合いはありますが、弊社としてアニメーションを製作したことはなかったので、まずはトムス・エンタテインメントさんに総合的なプロデュースに立っていただきました。その上で、キャラクターと雰囲気をリストにしてご相談し、トムスさんに作風が合致するスタジオを探していただきました。
――作品のテーマや大枠はどの段階で?林:それはケース・バイ・ケースですね。打ち合わせで盛り上がったネタをそのまま採用したこともあります。現在公開中の第1作『深川まとい 牡丹』、第2作『Voidoll irregular』、第3作『魔法少女リリカ☆ルルカ』については、比較的きちんと打ち合わせで詰めていった作品だと思いますが、まだ公開していない作品の中にはスタジオさんの個性が大爆発してVコンテを見るだけで開発陣が大爆笑するようなものもあるのでご期待ください(笑)。
――そんなにノリが良いというのは、先方にとっても感性を刺激する企画だったんですね。林:基本的に、ものづくりをしている人はみんな自由につくりたいと思うんです。でも普段はなかなかできないことが多いでしょうから、楽しくやってもらえるのが一番だと。今回、「自由にしてください」と言うと、逆に「良いんですか?」と聞かれることが多々ありました(笑)。
――自社のIPを「自由に」と相手に委ねるというのはなかなかできることではないかと思うのですが、この作品ではなぜそれが可能だったのでしょうか?林:皆さん考え方は本当に様々だと思いますが、僕の場合は軸の部分がブレなければ、皆さんがその世界でどのように遊ぼうとも、それは『#コンパス』だと思ってもらえるという謎の自信があるんです(笑)。軸さえブレさせなければ、という信頼の下に皆さんに委ねているというイメージです。
藤田大介氏(以下、藤田):僕も長くゲームをつくっていますが、そこをガッチリ統一すると一定のクオリティにはなる一方、それでヒットがヒット以上のものになることは稀なんです。でも『#コンパス』は意外なところから満塁ホームランになることがあって、予測できないところが個性や面白さにつながっている気がします。
――「軸をブレさせない」というのは、作品の軸でしょうか、それともキャラクター単位の軸でしょうか?
林:僕はゲームづくりの人間なので、どちらかと言うと作品の軸が頭の中に1本、筋としてあるかなと思っています。キャラクターの絵と表現の部分に関しては、いろいろな方に任せているイメージですね。
――その軸というのを言葉で表現することはできますか?林:上手く説明できないのですが、いつもスタッフに言っている言葉を使うと、「僕の好き嫌い」が基準です(笑)。僕がずっとゲームをつくってきた人生の好き嫌いの結晶です(笑)。キャラクターの原案を説明したときにスタッフから「これは誰がターゲットなんですか?」か聞かれることがあるのですが、その答えは「僕が好きなんです」と(笑)。
――(笑)。アニメーションの方では先ほどの「ブレなさ」をどのように差配しているのでしょうか?
林:最初に用意するのは、僕らが過去に見てきたアニメ作品のこういった表現が良かったというお話をしたり、こういう表現や雰囲気がお客さんの感覚に近いのではないだろうかというオーダーを、本当に素人目線でお伝えして、あとはキャラクター資料をお渡しします。
その後スタジオさんから上がってきたプロットや絵コンテを見て、どうしてもズレていたら直してもらいますが、それ以外は「これは感想なので、入れるか入れないかはお任せします」というような言い方で、こっちの意見を聞かなくても良いですよという前提でオーダーをさせていただいています。それを節目節目でお話しさせていただく感じです。
――資料というのはどのくらいの分量でしょうか?林:3~4行くらいのメモとか、落書きレベルのラフとかその程度です。『まとい』でいえば、ゲームの中では表現していないけれども、頑張って花火職人になろうとする見習いの女の子という設定ですので、「とにかく頑張っている感じを出したいです」くらいの言い方ですね。
――このキャラクターの何を描きたいのかという大目標を。林:そうですね。あと、ゲーム内のカードにまといのおじいちゃんが出てくるので、その背中を追いかけていることを描いてほしいというお話をしました。それ以外のまといの幼少期をどれくらい描くか、大人になってからをどのくらい描くかは監督に采配していただきました。
――尺に決まりはあったのでしょうか?林:一応、3~5分程度でとはお話しさせていただいています。参加いただいているスタジオさんは普段TVアニメを作られているところが多いので、尺がカッチリ決まっていなくて良いんですかと聞かれます(笑)。
――そのくらいゆとりがあるわけですね。クリエイター側も良い意味で時間に縛られることなく、もう少し感情を乗せたいと思えば伸ばすことができますね。林:はい。監督の演出プランに沿ってつくっていただいて構いません。
藤田:TVアニメ1話分以上の手間をかけて、豪華につくってもらっています。
林:締切についてもスタジオさんがギリギリまでつくりたいというのであれば待ちます。第1作『深川まとい 牡丹(以下、まとい)』は、8月の「#コンパス ライブアリーナ」というイベントで初公開したのですが、完成データを前日に大阪会場でダウンロードしました。リハーサルギリギリです(笑)。ネットで公開するのはさらにその1週間後で、その間にも手を入れて完成度を上げていきましたね。
――ルックやモーションキャプチャなどについても全てスタジオ側にお任せですか?藤田:印象がちがう場合はアドバイスをしますが、基本的には大筋をお任せしています。
林:年齢観がちがっていたら、もう少し大人びた感じを出して下さいと言うくらいですね。「この線がどうこう」といったことは言いません。
――映像クリエイターはのびのびとモチベーション高くできるんですね。林:そう思っていただけていると嬉しいですね。
藤田:逆に言うと、「好きにしていい」と言われている側は実力を問われているわけですから、適当なことはできないと思います。自分が同じ立場だったら言い訳がきかないですし(笑)。
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<2>クライマックスシーンを"創作"し、大反響に
<2>クライマックスシーンを"創作"し、大反響に
――お2人から見て、現在公開中の3作品それぞれの魅力や、ムービーになったことによってより深く描かれたキャラクターの部分について教えていただけますか?藤田:まず、『まとい』の方から話すと、これまで『#コンパス』で見せていなかった世界観を最も出した作品になっています。「おじいちゃんとの別れ」というキーワードからここまでつくっていただきました。カードに登場する屋形船もすごく効果的に入れていただいて、『#コンパス』の世界を使いつつ、まだゲームでは見せられていなかったものを描き出していただいたという感じです。
藤田:ルックもそれに合わせた少し柔らかい線にしていただき、屋台が並ぶ風景では色鉛筆タッチの温かみを入れていただいたり、花火をかき混ぜるときの色の粒がぐるぐる回るところとか、何気ない演技や描写ひとつひとつ丁寧にやっていただいています。
林:『まとい』では僕と藤田がこっそり声優デビューしているんですよ(笑)。弟子役で「親方、ヘイ」といったセリフとか、花火が上がって歓声を上げているところです。そこは4人同時に録ったのですが、アドリブで言ってくださいと言われたので、全員一斉に「おお~」と声を揃えてしまうという、素人らしさあふれる語彙力を展開してしまいました(笑)。
――続いて、第2作『Voidoll irregular(以下、Voidoll)』はいかがでしょうか?藤田:『Voidoll』の方は、『まとい』とは逆に、すでに『#コンパス』にある世界観を膨らませていただいたというかたちです。というか、僕らが曖昧に設定していた『#コンパス』のシステムをビジュアライズしていただいたという(笑)。あとはやはり空間の使い方や戦闘のカット割りがとても格好良くて、何回でも観たくなりますね。構成としても4分の中で起承転結がキチンとされているのでそこも見どころのひとつだと言えます。
林:『#コンパス』のバトルの外側の電子世界を描いているので、ゲームに通ずるところがありますね。普段スマホでバトルをしているときも、その先にはこういった世界があるのかなと想像しながらプレイしてもらえるといいですね。
――では最後に、一番の話題作『魔法少女リリカ☆ルルカ(以下、リリカルルカ)』についてお願いします。最初に見たときはいきなりのクライマックスで何かのまちがいかと思いました(笑)。林:これは『#コンパス』の「マルコス'55」というキャラクターが『魔法少女リリカ☆ルルカ』の主人公である「リリカ」を大好きだという設定で、作中に「リリカ覚醒回は最高だったよな」というセリフがあるんです。それを本当につくろうと(笑)。
藤田:最初はエンディングのダンスだけつくろうとしていたのですが、それだけだとあまりにプロモーションビデオになりすぎるかなと思って。
林:そこで最終回の1話前のラストシーンをつくって、そこからエンディングのダンスになだれ込もうというアイデアがあり、先ほどのマルコスのセリフから組み上げていったというわけです。
――それまで存在していなかった架空のアニメの最後の部分だけでこれだけ視聴者の感情を掴むというのは、非常に演出力を求められるつくりだと思います。藤田:リリカもルルカも一瞬の表情や0.5秒くらいのカットも本当に細かく良い表情をつけていただきました。実尺は3分半なのに長く感じるのは、それだけしっかりと密度がある内容だからだと思います。制作は『Voidoll』と同じ渡辺誠之監督(トムス・ジーニーズ)なんですよ。
藤田:『リリカルルカ』は『Voidoll』のときとルックを変えていただいているんです。『Voidoll』の方はデジタル空間なので質感があるメタリックで実写っぽい感じに。こちらはアニメ寄りで髪も手描きっぽい感じに寄せてくれています。同じスタジオにもかかわらず、世界観に合わせて毎回丁寧に変えてくれています。
林:リリカのダンスはモーションキャプチャで撮ったのですが、普段から『#コンパス』のイベントに出てくれている仮面ライヤー217さんという方がもともとリリカを大好きだったので、彼女にモーションをお願いしました。大好きな人につくってもらうとより良くなるということは『#コンパス』では良くあることなんです。その"大好き感"を見てもらいたいですね。あと、リリカの方がちょっとだけ下手に、でも頑張って踊っているんですよ。そんな2人のちがいを観ていただければと思います。
――ムービーによってさらに作品の世界観やヒーローのキャラクター像が広がりましたね。林:今後もアニメをあと7本制作して、「そこからゲームにフィードバックされるものも出てくるかもしれないね」という話はしているのですが、それを決め込んでつくるとスタジオさんも窮屈ですし、ねらいすぎで面白くないので、「生まれたらいいね」くらいの感覚ではいます。
――今後の制作が決まっているスタジオさんを教えていただけますか?
藤田:トムス・ジーニーズさんでもう1本、『メガロボクス』の森山 洋監督が2本、残りはCGの制作会社さんで最終調整の段階です。
林:一応、最初に『まとい』を発表した2018年8月から、1ヶ月に1本ずつと言っていたので。毎月ではないかもしれないけど、平均して1ヶ月に1本出ていた計算になるように帳尻を合わせられれば(笑)。
――この記事で短篇をきっかけに『#コンパス』を知った方にその面白さをご紹介いただけますか?藤田:アニメの方はゲーム本編を補完するエピソードなのですが、アニメも単独で楽しめるようにつくっていますので、アニメを見て好きになって下さった方はぜひゲームも遊んでいただければと思います。
林:世界観が多様なので、それぞれのお客さんに合うキャラクターを見つけていただければと思います。対戦ゲームというところで、ドキドキするかもしれませんが、対戦をやったことがない人にも遊びやすくつくっているので、最初は気軽に遊んでいただければと思います。むしろそういう人にこそやっていただきたいゲームだと思います。