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第6回:布川郁司塾長(ぴえろ)

第6回:布川郁司塾長(ぴえろ)

企画・演出・ストーリーテリングが、コンテンツの成功を左右する

NUNOANI塾の開講期間は1年間で、募集人数は15人程度、隔週土曜日に約半日の講義と実習が行われる。2015年12月現在は、第3期生が受講中だ。アニメを中心とした映像関連の仕事をしている人が受講対象だが、塾生のなかには3DCG制作やゲーム開発に携わっている人もいれば、大手メーカー勤務の人までいるという。「他業種の人や、実務経験がない人でも、一定の基礎映像表現技術があれば入塾を認めています。当塾で伝えていることは、アニメ以外の仕事にも活かせる、ビジネスとクリエイティブを支える本質的な力だと思います」。その証拠に、前述のメーカー勤務の塾生は、布川氏の指導を受けて制作した企画が自社の社長賞を受賞したという。

「先生に聞く。」第6回・布川郁司塾長

同塾の講義は毎回3部構成となっており、第1部では布川氏自身が中心となってプロデュースを教える。実際に企画を立て、それをプレゼンテーションするといった実践的な課題も出されるという。「企画内容はアニメに限定しません。フルCG映像でも、ゲームでも、何でも良いから、オリジナリティのある企画を考えるよう指導しています」。今はオリジナル企画を通しにくい時代だが、たとえチャンスは少なくても、常にオリジナルの発想をする癖を付けてほしいという。

「例えば、電車の横並びの座席に座っている乗客たちを観察すれば、そこから1本のドラマが思いつかないですかと、塾生たちにはそんな話をしています。乗客のなかには、ご老人がいたり、スマフォしか見ていない若い人がいたり、宙を見つめてずっと考えごとをしている人がいたりするでしょう。そういう事象を観察して、組み合わていくなかから、新しい企画が生まれるのです。何もないゼロの状態から、突然素晴らしい企画が生み出されるなんてことは、まずありません」。与えられた仕事を淡々とこなす日々に安住していてもつまらない。チャンスに備えて、常に企画力を磨いてほしいと布川氏は語る。

さらに講義の第2部では、長年ぴえろのヒット作を支えてきた現役のアニメ監督たちが、入れ替わりで演出や絵コンテの実技を教える。第3部では、ストーリーテリングの専門家が、脚本の意図を理解する方法や、演出内容の伝え方を教えるという。

企画・演出・ストーリーテリング、この3つは、アニメはもちろん、様々なコンテンツの成功を左右する大切な要素です。例えば監督には、自分のつくりたいものを追求するだけではなく、つくるために、どうやって制作資金を調達するのか、メディアに対してどう発信していくのかといった知恵も付けてほしい。プロデューサーには、どんなスタッフワークがあって、どうすればスタッフの才能を引き出せるのかも学んでほしい。先の3つの要素を熟知した人が増えるほどに、日本のコンテンツが成功する確率は高くなっていくのです」。

「先生に聞く。」第6回・布川郁司塾長

現在同塾では2016年4月入学の第4期生を募集中だが、今のカリキュラムはまだまだ発展途上なので、来期に向けてさらに改良していきたいという。布川氏を始め、日本のアニメを今日まで盛り上げてきた当事者たちの考え方や技巧に触れ、それらを吸収できる環境は、貴重で素晴らしいと筆者は感じた。同塾の卒業生が、今後の日本のコンテンツ産業に新たなインパクトをもたらし、国内はもちろん、世界にも発信されていくことを期待したい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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