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第8回:白井暁彦先生(神奈川工科大学)

第8回:白井暁彦先生(神奈川工科大学)

デザインとは、つくり手の意図が伝わるよう設計すること

先に紹介した"感じること"ができたら、次は"設計すること"を学んでほしいと白井氏は続ける。「"設計"をカタカナで表現すると"デザイン"です。デザインは、絵を描くことだと勘違いしている学生も多くいますが、つくり手の意図が伝わるように設計されていなければ、デザインではありません。どうやったら自分の感じたことが他人に伝わるか考えてほしいし、つくる仲間や使う相手に、言語や文化を超えて、伝える術を身につけてほしいのです」。

言うまでもなく、論文執筆においても、自分の考えが人に伝わるように設計する力は不可欠であり、それは一朝一夕に身につかない。「学生たちは、3年生の冬までに自分が所属する研究室を決定します。その時点では、論文に匹敵するような長さの文章を書いたことがないという人がほとんどです。正しい日本語とは何か、伝わる日本語とは何か、基礎から1つ1つ指導していく必要があります」。

「先生に聞く。」第8回:白井暁彦先生

ここ最近の白井研究室では、執筆経験の浅い3年生に、4年生の執筆途中の論文を校正させているという。「3年生に見せる前に、まずは私が4年生に対して基本構造の設計を指導します。論文内の論理展開に飛躍や矛盾があれば指摘し、大まかな章立てを決め、重要な図もつくらせます」。そうして屋台骨が組み上がった後、まだまだ日本語の誤りが各所に残っている段階で3年生に校正させるのだという。

「多くの3年生は初見で誤りを発見できず、"何も直すところはありません"といいます。そんな彼らの目の前で、私が5秒くらいでササッと赤入れをして、彼らに朗読もさせてみて、自分自身の日本語の違和感に気づいてもらいます。その体験を通して、日本語の美とは何かを"感じてもらう"ことが重要なのです」。留学生ならともかく、なぜ、日本人学生が日本語の誤りを発見できず、正しい日本語で伝える力が弱いかというと、感じていないからだと白井氏は語る。

「我々日本人は生まれてから今日まで、日本語だけに囲まれて、"過保護"な環境で生活してきたと仮定します。本や雑誌、マンガ、ゲームといった"製品"に出てくる日本語は、非常に綺麗に校正されています。ボタンをバシバシ連打して流し読みされてしまうゲームの日本語が、どれだけのコストをかけてつくられているのか、考えたこともないでしょう。しかし自らが表現者になるならば、それを感じる必要があるのです」。このような指導の甲斐あって、"白井研究室の卒業生は日本語力が高い"と就職先の管理職や経営者から褒められることが多いという。

「先生に聞く。」第8回:白井暁彦先生

「最初のうちは多くの学生が、そもそも何を伝えたいのかすら認識できていません。けれど、将来ものづくりに携わりたいなら、伝える力はとても大切です。今の社会では、短い期間と少ない予算のなかで結果を出すことが求められます。自分の考えや、つくるための方法を周囲に伝え、効率よく動いてもらわなければ、目標の達成は難しいでしょう」。だからこそ、白井氏は卒業論文のクオリティに決して妥協しないという。

「"もう駄目だ!"と思ったら、早めに白旗を上げるよう4年生たちには伝えています。"本当に美しい論文"や"白井研究室の難易度"を理解しても、スキルをともなわずに自分の美意識だけが高まってしまうと、絵と同じで中々書けなくなってしまいます。そんな時に"ギブアップ!"を宣言して師匠に助けを求めることも大事なスキルであり、良い経験となります。限界まで煮詰まったところで、達人に目の前で、真っ白からの構築方法(メソッド)を示してもらえれば、次はもっと完璧なアウトプットを素早く出せるでしょう。そうなれば、さらにその上が目指せます。自分が書いたと胸をはって言いたいなら、妥協せず自分の弱さを認め、ゼロから学んでほしいのです」。

"妥協を許さない"という言葉を、今も昔もゲーム会社の多くが口にする。しかし、妥協をプレイヤに見抜かれたゲーム会社の多くが世の中から消えていった。一方で、妥協を許さなかったゲーム会社も、コストの増大、スタッフの離散などのダメージを受けて消えていったと白井氏はふり返る。「妥協はしてもいいのです、何に妥協を許さない仕事が自分に向いているのか? それを早く見つけられた人ほど、ストレスなく充実した人生を送れるのではないでしょうか。できれば大学生活のうちに、それを見つけてほしいですね」。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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