>   >  先生に聞く。:第9回:糸数弘樹先生(CGオンライン アカデミー)
第9回:糸数弘樹先生(CGオンライン アカデミー)

第9回:糸数弘樹先生(CGオンライン アカデミー)

物事の理屈を言葉で解説してもらうと、一気に理解が深まる

現在は数多くの教育機関でCGを教える糸数氏だが、自身がArt Center College of Designで学んでいた当時はプロダクトデザインを専攻していたという。「とても勉強熱心な校風で、多くの学生が夜遅くまで黙々と制作に打ち込んでいました。この時代に学んだ、辛抱強くて真面目なクラフトマンシップ(職人気質)や、ドローイングなどの表現の基礎はCGの仕事にも活かされています」。

前述の"理屈を言葉で解説する"姿勢を最初に学んだのもArt Center College of Designだったと糸数氏はふり返る。「例えば光について解説する講義では、真っ暗な部屋で1つだけライトを点灯し、白い石膏の球体を照らしながら、陰影ができる理屈を解説してくれました。ひとくちに影(Shadow)といっても、球体と床が接する部分にはオクルージョン・シャドウ(Occlusion Shadow)とよばれる特に暗い影ができる、球体によって光がさえぎられてできる影はキャストシャドウ(Cast Shadow)とよぶ......というように、光が物体に与える様々な影響を1つ1つ分解して解説してくれたのです」。

渡米前、糸数氏は琉球大学などでデッサンや絵画の教育を受けていたが、その大半は感覚的で、言語化されていない曖昧な解説だった。「物事の理屈を言葉で解説してもらうと、一気に理解が深まり、視界が開けます。カレッジの先生に加え、就職後に出会った監督やアーティストたちの多くが、理屈を言葉でしっかり解説できる方々でした。彼らに師事できた私は幸運だったと思います」

糸数氏が最初の職場であるWarner Bros. Imaging Technologyに入社したのは1993年で、当時のCG制作は手探りの連続だったという。「初期の頃はワークフローが確立されておらず、サブディビジョンサーフェス、スカルプトツールといった便利な技術や道具もありませんでした」。ポリゴンだけで滑らかな曲面を表現するとレンダリング負荷が高いため、メカもキャラクターもNURBSを使ってモデリングしていたと糸数氏はふり返る。

「今と比べればツールの使い勝手は悪かったものの、ブラッド・バード、グレン・キーンといった優れた監督やアーティストと直接言葉を交わし、フィードバックをもらえる環境は非常に素晴らしかったですね。"なるべく少ない面で、綺麗な形を表現する"という姿勢も、この時代に身につけました」。今はコンピュータもソフトウェアも処理能力が上がっており、大量のポリゴンを使ったキャラクターでも短時間でレンダリングできる。しかし、ポリゴンの点や面が少なければ少ないほど、破綻の少ない自然なアニメーションをつけられるという。

今は講師が仕事の中心だが、モデラーとしての勉強も続けていると糸数氏は語る。「2Dのデザイン画から3DCGのモデルをつくることがモデラーの仕事です。ただし、モデリングに必要な全ての情報が2Dで表現できるわけではありません。2Dの絵を解釈し、足りない情報を自分で考えて補完することも、モデラーの大切な仕事です」。

そして、キャラクターのデザイン画を"解釈"するにあたり、必要となるのが解剖学だという。「解剖学という理屈を踏まえてデザイン画を解釈すれば、説得力のある、破綻のないモデルを制作できます。例えば、骨格を意識しているモデラーと、意識していないモデラーとでは、キャラクターのモデルを斜めから見たときのシルエットが大きくちがいます。私はWalt Disney Animation Studiosへの移籍後に、キャラクターのモデリングを始めました。解剖学の勉強を始めたのもほぼ同時期で、グレン・キーンなどの指導を受けながら今日まで独学を続けてきました。まだまだ新しい発見があるので、今後も勉強を続ける必要があります」。

2016年3月からは、株式会社GUNCY'Sが運営する人材育成事業である、CG BOOSTERのスーパーバイザーにも就任し、さらに活躍の場を広げつつある糸数氏。より一層活発に、CGの楽しさを若い世代に発信してくれることを期待したい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

その他の連載