【バーチャルプロダクション】確かな実績と抜群の安定性。角川大映スタジオがVPオペレーションマシンにBOXX「APEXX T4 PRO」を選んだ理由とは?
映画、ドラマ、CM、MVなど数多くの映像制作を支えてきた角川大映スタジオが、バーチャルプロダクションスタジオ事業に力を注いでいる。2024年4月に旧No.Cスタジオをバーチャルプロダクション対応の「C∞/シー・インフィニティ」へとリニューアル。そんな同スタジオは2026年6月、Unreal Engine 5による背景送出のメインマシンとして、BOXX Technologiesのワークステーション「APEXX T4 PRO」を新たに2台導入した。汎用サーバにはない映像送出特化の設計が、決め手だったという。角川大映スタジオ VFX・バーチャルプロダクション室の中核スタッフに、選定の理由と現場での効果を聞いた。
美術部とのシームレスな連携が大きな強み。角川大映スタジオのバーチャルプロダクション
——まずはお2人の現在の業務内容を教えてください。
VFX・バーチャルプロダクション室 テクニカルディレクター 諏訪芳彦氏(以下、諏訪):テクニカルディレクターを務めています。スタジオ全体の技術統括やシステム設計、リアルタイムCGの技術検証、トラブルシューティングなど、技術面全般のリードを担当しています。
これまでITインフラや衛星放送の送出システム構築に始まり、映像、放送、リアルタイム技術を横断したシステムインテグレーションに25年以上携わっています。デジタルシネマ制作を経て、リアルタイムCGやAR技術の開発に注力していました。
インフラからフロントエンドまでを横断してきた経験が、複合的な環境であるバーチャルプロダクション(以下、VP)に活きています。
VFX・バーチャルプロダクション室 VPプロデューサー 佐藤祐輔氏(以下、佐藤):私は2024年4月のバーチャルプロダクション本格始動時から参画し、VPプロデューサーを務めています。
主な役割は、VP撮影における総合窓口として、社内のVPチームと外部の撮影チーム、協力会社の間に立ち、円滑な進行をサポートすることです。
バーチャル背景を構成するデジタルアセットの調達・管理から、VPスタジオの環境構築・管理までを担っています。元々はスタジオ運営課で照明機材の管理を担当しており、その経験を活かして現場での撮影・照明面のアドバイスも行なっています。
——改めて、角川大映スタジオについて教えてください。
佐藤:当社は、1933年日本映画株式会社の多摩川スタジオとして建設されて以降93年間、調布の地で映像作品を作り続けてきた、日本でも希少な撮影所です。
現在では、大小9つのスタジオを擁し、映画、テレビドラマ、CM、MVなど数多くの映像制作を支えています。当社は、長い歴史の中で伝承されてきた社内美術部の技術力によって生み出される、クオリティの高いリアル美術セットの制作に最大の強みをもっています。
バーチャルプロダクションでは、その伝統的な美術セットの奥に最新のデジタル背景を映し出します。「手前のリアルセットと奥のデジタル背景を、質感や光の繋がりまで緻密に噛み合わせる」といった社内美術部を持つからこそ可能となる、この「リアルとデジタルの融合」が、当スタジオならではのアドバンテージです。
——VPスタジオの仕様についてもお聞かせください。
諏訪:C∞/シー・インフィニティは旧No.Cスタジオを全面リニューアルした空間で、面積は167坪(550㎡)、幅20m×奥行27.5m、高さはキャットウォーク下で8mあります。
メインLEDウォールには、横幅15m×高さ5mのソニー製「Crystal LED VERONA」を採用しました。当スタジオが国内で最初に導入したパネルです。このメインLEDは電動ウインチによる吊り下げ昇降式で、約2.2mの範囲で高さを変えられます。その意図については、後ほど詳しく説明します。
VPスタジオの開設にあたっては、ソニーPCL様に協力をいただきました。半年間にわたる検証作業に加え、開設後もスタジオ運用の支援や技術スタッフの教育まで継続してサポートいただいています。
【Studio Spec】
<スタジオ>
面積 550㎡(167坪) W:20.0m × D:27.5m × H:8.0m
電気容量 130kw(100V/200V併用)
<LEDディスプレイシステム>
LEDパネル W:15,000mm × H:5,000mm
解像度 W6,480 × H2,160 pixel
画素ピッチ 2.31mm
最大輝度 1,600nits
設置 ROUND2.5° ※吊り下げ昇降式(可動域約2,200mm)
送出システム IC-VFX:Unreal Engine 4.27/5.1/5.2/5.3対応
映像送出 ソニーPCL「ZOET 4」
プロセッサー Brompton 4K Tessera SX40
トラッキングシステム Mo-Sys「Star Tracker Max」
撮影カメラ ソニー「VENICE 2」
現場ニーズを汲んだ、角川大映スタジオ独自のこだわり
——先ほど挙げてくださった、メインLEDの昇降システムについて詳しく教えてください。
諏訪:メインLEDは12台の電動ウインチで吊り下げていて、最大2.2mの範囲で上げ下げできます。これにより、カメラを上に振った煽りの構図でもパネルを上げることで見切れないようにしたり、リアルな美術造形をステージに配置する際にLEDを上方へ逃がすといった調整が可能です。
さらにメインLEDは、2.5度の緩やかな曲面形状に組んであるのでカメラを左右に振った際にはバーチャル背景を自然な見た目のまま回り込んで撮影できるようにもしました。いずれも長年の実写撮影の経験を活かした工夫です。
佐藤:ほかにも天井には横6.0m×奥行7.0mの昇降式LEDパネル、サイドには横3m×高さ4mの可搬式パネルを2式配備しています。いずれもBOE製で、2026年4月に増設しました。天井パネルは最大輝度5,400nitsと屋外撮影に近い明るさが出るため、日中シーンの照明として被写体に自然に馴染みます。
諏訪:天井とサイドのパネルは、フレームインする背景を映す用途よりも反射光などの環境光となるバーチャル背景を映す用途で使うことが多いですね。
例えばクルマの撮影では、ボディへの映り込みをCGで後から足すのは大変ですが、これらのLEDパネルにバーチャル背景を映すことでリアルに表現できます。動的なライティングにも対応できるので、乗り物の走行シーンであれば流れる街並みや街灯の反射やテカリを撮影した画に込めることができます。
——キャットウォークは、どのような用途で利用するものですか?
諏訪:キャットウォークとは、スタジオの天井付近に設けられたスタッフが移動するための足場です。劇場や工場などの施設にも同様の設備がありますが、撮影所では主に照明部が利用しています。
例えば、照明ライトを吊ってキーライトなどをつくっています。また、アクション部では人物をキャットウォークから吊るし、飛ぶアクションなどを行なっています。
新設のバーチャルプロダクション対応スタジオで、キャットウォークを備えた例はほとんどありません。C∞/シー・インフィニティ独自の魅力のひとつです。
佐藤:キャットウォークは耐荷重も十分にあるため、アクション部が演者をワイヤーで吊り、LEDに背景を映せば、空を飛んでいるように撮ることもできます。
天井高も8mあるので、ステージに大きなセットを入れられますし、ロングボディのハイエースを乗せられる大型エレベーターも備えているため、大型のクルマを使った撮影にも対応できます。
——先ほど投影していただいた教会のバーチャル背景など、背景アセットの拡充では群馬県、Preferred Networksとの協業を進めているそうですね。
諏訪:バーチャルプロダクションが広く使われるには、多種多様なアセットを用意することが重要です。
なかでも、インカメラVFXに必須となる3Dの背景シーンを、いかにコストパフォーマンスを高めながら手早く用意できるか。これが、従来の映像制作現場の方々にVPを使ってもらう上での大きなポイントになります。
そこでわれわれは、Preferred Networks様と協業して、3D Gaussian Splatting(以下、3DGS)による実在ロケーションのCGアセット制作に力を注いでいます。
3DGSは、現実空間を3Dデータ化するリアリティキャプチャの手法のなかでも、近年特に注目を集めています。例えばNeRFは1ピクセルを描画する度にニューラルネットワークの推論という重い計算を必要としますが、3DGSは3次元のガウス分布という数式で空間を表現するため、より高速に処理できます。またフォトグラメトリーが苦手とする透過や反射の質感を、高いクオリティで表現できる点も利点です。
佐藤:アセットライブラリーの充実を目指し、今年度からは、群馬県内のロケーションをVP用素材として3Dデータ化するプロジェクトが始まっています。このデータを、より多くのクリエイターに活用してもらうことで、弊社のアセットライブラリーの充実に留まらず、群馬県の知名度向上やロケ誘致の拡大等の効果も見込んでいます。
汎用サーバにない、ハイエンドGPUを搭載できる映像送出特化の構成にも対応〜BOXX「APEXX T4 PRO」を選んだ理由〜
——角川大映スタジオでは、VPオペレーション用マシンとしてBOXX製ワークステーションを使われているそうですね。どのような点が決め手になりましたか?
諏訪:2024年4月のC∞/シー・インフィニティの始動に合わせて「BOXX APEXX T4L」を4台導入しました。確かなパフォーマンスが確認できたので、今年5月にはさらに「BOXX APEXX T4 PRO」を2台を追加導入して体制を強化したところです。
大手PCベンダーの製品も検討しましたが、ラックマウント運用の汎用サーバはあっても、現在採用している「NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell」シリーズのようなハイエンドGPUを搭載し、映像送出用途に最適化されたモデルは見当たりませんでした。
そこでたどり着いたのが、BOXXのAPEXX T4シリーズです。最終的な決め手は、Sony Pictures Studiosなど海外大手スタジオのVPステージで、すでに豊富な導入実績があったことでした。
APEXX T4シリーズは、映像制作を前提としたGPU配置とエアフロー設計により、サーマルスロットリングの心配が極めて少ない。大容量の電源設計によって、高消費電力のハイエンドGPUを搭載しても余裕をもって安定稼働します。過酷な制作現場で揉まれてきた、高いクロックで安定動作させるBOXXの技術力が決め手になりました。
——バーチャルプロダクション用途で、マシンを選定する際に重視するポイントを教えてください。
諏訪:大きく分けて、安定性、PC性能、拡張性の3点です。最も重視するのは、現場を止めない絶対的な安定性です。
VPの撮影現場でマシントラブルが起きると、出演者を含む多くのスタッフの拘束時間を無駄にしてしまいます。どれほど高負荷が続いても落ちない、熱暴走しないという信頼性が最優先されます。
2つ目は、大型LEDへ高解像度・高フレームレートでリアルタイムに描画しきるには、GPUの高い計算能力が欠かせません。映画やドラマで使う3D背景は、一般的なゲーム用データとは比較にならないほど巨大なため、超高解像度のテクスチャや高精細アセットを丸ごと飲み込む大容量VRAMも必要です。
さらに、GPUへ命令を送る前段階でボトルネックを生まないためのCPUのシングルコア動作周波数の高さや、巨大なプロジェクトを読み込む大容量のメインメモリ(システムメモリ)も不可欠です。
そして3つ目は、拡張性です。インカメラVFXでは、LEDウォールとカメラのシャッタータイミングを1コマのズレもなく一致させる同期が極めて重要になります。
これを実現するには、メインGPUに同期用ボードやキャプチャーカードを物理的に隣接させて装着できる、優れた内部設計が必須となります。
くり返しになりますが、これら3つの要件を満たしていたのが「APEXX T4 PRO」でした。
——新たに導入された「APEXX T4 PRO」2台のスペックを教えてください。
諏訪:CPUは「AMD Ryzen Threadripper PRO 9975WX」、メモリは256GB、GPUは「NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Max-Q Workstation Edition」を搭載しています。ストレージはPCIe Gen4のM.2 NVMe SSD 2.0TBを2基。さらに、同期用にNVIDIA RTX PRO Syncを載せています。
2024年に導入した「APEXX T4L」は、RTX 6000 Adaを搭載していましたが、新たに導入した「APEXX T4 PRO」はRTX PRO 6000 Blackwell搭載なのでVRAMが96GBへと倍増し、描画速度も大きく向上しています。
角川大映スタジオ導入マシンの主要スペック
- CPU
AMD Ryzen Threadripper Pro 9975WX(4.0GHz 32C/64T TDP 350W)
- GPU
NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Max-Q WorkStation Edition 96GB DP × 4 PCI Express 5.0(300W)
- メモリ
256GB(64GB x 4)ECC Registered DDR-5600
- ストレージ
M.2 SSD 2.0TB NVMe ※PCI-Gen4 x 2
- その他
NVIDIA RTX PRO Sync 搭載
導入後はトラブルゼロ。優れた冷却性能と電源の余裕が高負荷のVPオペレーションを支える
——BOXXマシンは現在、どのような使い方をされていますか?
諏訪:Unreal Engine 5によるバーチャル背景を制御するマシンと最終的な映像送出用マシンとしてフル稼働しています。
VP用のバーチャル背景(3Dシーン)の作成には、Unreal Engine 5が業界標準ツールになっています。また、2D(動画)を背景にして合成するスクリーンプロセスでは、LEDパネルに安定して送出させるにはメディアサーバも不可欠です。C∞/シー・インフィニティではソニーPCL様が開発した「ZOET 4」を採用しています。
諏訪:VPの現場では、アクションシーンなどカメラを大きく動かす撮影も行われます。
インカメラVFXでは、実写カメラのパンやティルトの動きに応じて3Dシーンをリアルタイムに描画するため、カメラが速く大きく動くほど計算の負荷が増し、フレームドロップが起きやすくなります。
そのため、カメラの画角外をカットする視錐台カリングをタイトに調整して負荷を抑えています。
3DGSは広帯域なVRAMアクセスを要求するため、GPUの性能をフルに引き出せるBOXXの設計が、このカリングの最適化効果をさらに高めてくれている印象です。
APEXX T4シリーズの優れた冷却性能によって、NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Max-Qの性能が存分に発揮できているところだと思います。
——最新の「APEXX T4 PRO」と「APEXX T4L」を、どのように使い分けていますか?
諏訪:基本的に全てのマシンを同期させて動かすため、1台だけ性能が高くても、最終的なパフォーマンスは最も低いスペックのマシンに合わせられてしまいます。
そこで、中央正面のLEDウォールのみを使い、より高精細なシーンを構築するため、新たに導入した APEXX T4 PRO を中央正面LEDの描画専用として割り当てています。
——「APEXX T4 PRO」導入後の、現場スタッフからの評判を教えてください。
諏訪:実は2024年に「APEXX T4」シリーズ導入以降、ハードウェアに起因するトラブルが一度も発生していません。この点に尽きます。
どれだけハイスペックでも、現場で熱暴走したり、インカメラVFXの同期がズレたりしては意味がありません。BOXXのマシンは長時間のVP撮影でも、常に余裕のある冷却能力と電源供給によって、安定したフレームレートを維持し続けてくれています。
佐藤:VPはリアルな美術セットだけでなく、デジタルによる操作が介在する以上、マシン起因のトラブルは大きなリスクになります。私たちVPチームが原因で撮影を止めることは、決して許されません。
だからこそ、長時間の連続運用でもハイパフォーマンスを保ち続けるBOXXマシンの「安定性」が重要になるのです。
次なる目標は、VAD体制の確立。日本の映像制作に根ざしたバーチャルプロダクションを目指す
——最後に、当面の目標を教えてください。
佐藤:さらに大規模かつリアルタイム性の高いバーチャルプロダクションに挑戦したいと考えています。
まずは3DGSによるアセットを数多く用意すること。そして将来的には、VAD(Virtual Art Department)体制を確立して、自社でもバーチャル背景を柔軟に作成していける体制を整えたいと思っています。
佐藤:あわせて、撮影前のプリプロダクションにも力を入れたいですね。
VPでは、プリビズが非常に重要だと個人的に考えています。UEやCGセットを活用して、打ち合わせの段階で「ここにクルマを置いて、こう撮ったらどう見えるか」といったシミュレーションを行う。VPが知られてきたとはいえ、まだ経験したことのない方は多くいらっしゃるので、プリビズのメリットを通じてVPへ誘致していけたらと考えています。
諏訪:海外ではVADという体制が一般的になりつつありますが、日本ではなかなか定着が難しい面があります。その中で、日本の映像制作に向いたVADとは何かを研究していきたいです。
角川大映スタジオには長年培ってきたリアルな美術造形の知見があるので、そのノウハウを上手く活かした、独自の体制を築けないかと考えています。
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TEXT & EDIT_NUMAKURA Arihito
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