前回の2回目の連載では、「NVIDIA® DGX Spark™」(以下、DGX Spark)に「NVIDIA® NemoClaw™」(以下、NemoClaw)をセットアップして、ターミナル、Discord、Slackから自分専用AIエージェントを呼び出せるようにするための設定と動作確認を行った。ここまでで「AIエージェントを自分の環境で動かす」準備ができたことになる。NemoClawは、ファイルを読み、コマンドを実行し、成果物を残せる環境を、AIエージェントに与えて作業を行わせることができることが大きな特徴だ。
では、そのAIエージェントに何を任せるとよいのだろうか。第3回では、自分専用AIエージェントでできることを具体的に見ていくことにしよう。ポイントは、AIを単なる相談相手として使うのではなく、操作できるマシン環境と必要なデータを与え、実際の作業を進めてもらう存在として扱うことことだ。
これまでの連載でも何度も述べたが、NemoClawは便利な反面、ファイル操作や外部通信など、利用には注意が必要な点もある。また、すべて完璧に作業をこなせるわけではない。困ったときはOpenAIが提供している「Codex」などのAIエージェントに相談しながら進めるのもよい方法だ。
事務仕事を頼めるAIエージェント
まず最初に試しやすいのは、事務仕事だろう。日々の仕事では、文章を読む、要点をまとめる、タスクを洗い出す、メールや報告書のたたき台を作る、といった作業が何度も必要になる。こういった繰り返し作業は、AIエージェントと相性がよい領域と言える。
たとえば、アクセス可能な作業フォルダの中に、次のようなファイルがあるとする。
・会議メモ
・議事録
・仕様書
・提案書
・調査メモ
・PDF資料
・過去の日報
・プロジェクトのREADME
通常のチャットAIにこれらを読ませるには、人間が必要な部分を探してコピーする必要がある。一方、NemoClawのようなAIエージェントは、許可された作業フォルダの中をAIエージェント自身が確認し、必要なファイルを読みながら作業を進めてくれる。事例として、次のような依頼ができる。
担当者、期限、次に確認すべきことも一緒にまとめて。
専門用語が多い部分は、非エンジニアにも伝わる表現に直して。
ここで便利なのは、AIエージェントが「文章を生成する」だけでなく、「必要な資料を探し、その資料をもとに文章を生成する」こと。出力先をファイルに指定すれば、成果物として作業フォルダに残すことができる。テキストファイルだけでなく、markdown形式のファイル、CSV形式のファイルなどを指定することも可能だ。
重要度が高いものから並べて。
まずは、読み取り、要約、たたき台作成のような低リスクな作業から試していって、成果を確認してから、次のステップに進んでいくとよいだろう。
アプリケーション開発をまるごと頼めるAIエージェント
AIエージェントの力が特にわかりやすいのが、アプリケーション開発だ。
これまでのAIチャットでも、コードの書き方を聞いたり、エラーの原因を相談したりすることはできた。しかし、ファイルシステムや実行環境に接続していないチャットAIは、コードそのものを読んだり、修正したり、テストを実行したりするところまでは担当してくれない。人間がエディタを開き、ファイルを探し、提案されたコードを貼り付け、コマンドを実行し、結果を確認する必要があった。
AIエージェントを使うことで、この流れをまとめて任せられるようになる。たとえば、次のような依頼が可能だ。
修正後にテストも実行して、結果を報告して。
入力フォルダ内のPNGを読み込み、横幅を1024pxにそろえて、outputフォルダに保存するPythonスクリプトにして。
READMEと使い方も一緒に書いて。
このときAIエージェントは、単にコード断片を返すだけではない。既存のファイルを読み、プロジェクトの構造を確認し、必要なファイルを編集し、テストやビルドを実行し、エラーがあればもう一度修正するという作業を進めてくれる。小さなアプリや社内向けツール、検証用スクリプトでは、設計案、実装、README、テストまでまとめて進めてくれるので、これまで費やしていた時間をほかの仕事に割くことができるようになるのだ。
一方で、注意が必要な点もある。AIエージェントはファイルを編集できるため、重要なコードを壊してしまう可能性もありうる。開発に使う場合は、Gitで変更差分を確認できる状態にし、テストを実行し、人間がレビューしてから取り込むところからはじめるとよいだろう。
依頼の仕方も重要だ。いきなり「全部作って」ではなく、次のように段階を分けると進めやすくなる。
①まずリポジトリを読んで、実装方針を説明して
②影響するファイルを一覧にして
③小さな単位で実装して
④テストを実行して
⑤変更内容を要約して
このように段階を分けることで、AIエージェントの判断を途中で人間が確認できるようになる。
毎日の業務をこなすAIエージェント
AIエージェントは、単発の依頼だけでなく、毎日の業務をこなすのも得意だ。
たとえば、毎朝の情報収集、日報の作成、ログの確認、ファイルの整理、定期レポートの生成など。これらは1つ1つは難しくないが、毎日の作業に時間を取られてしまう。しかも、手順が決まっているわりに、完全な単純作業というわけでもない。昨日との差分を見る、異常値を見つける、報告に必要な形に整える、といった判断が含まれるからだ。
AIエージェントを使うことで、たとえば次のような作業を依頼できる。
・毎朝、指定フォルダのログを確認して異常をまとめる
・毎日夕方、作業メモから日報を作る
・毎週月曜、先週の議事録から未完了タスクを整理する
・毎月、売上CSVを集計してレポートを生成する
・定期的にフォルダを整理し、古いファイルを一覧化する
・SlackやDiscordに実行結果を通知する
ここで重要なのは、AIエージェントを「人間が呼んだときだけ動くもの」から、「決まったタイミングで動くもの」に変えることだ。たとえば、毎日の作業メモが`daily/`フォルダに保存されているなら、夕方に次のような処理を実行するように指示できる。
完了したこと、未完了のこと、明日やることに分けてdaily_report.mdに保存して。
最後にSlackへ要約を投稿して。
この依頼を毎回手で入力してもよいが、よく使う作業であれば、まず「スキル化」しておくと便利だ。さらにNemoClawの定期実行と組み合わせることで、毎日決まった時間にその作業を自動で行わせることも可能になる。
スキルは「その仕事をどう進めるか」を覚えさせるものだ。定期実行は「いつ動かすか」を指定するものになる。毎回長い指示を書くのではなく、「日報を作って」と言えば、どのフォルダを読むのか、どの形式で出力するのか、どこに通知するのかをAIエージェントが理解できるようにしておくということだ。
たとえば、次のようなルールをスキルとして用意できる。このように決めておけば、AIエージェントは毎日の作業を同じ形式で処理できるようになる。
・出力はreports/YYYY-MM-DD-report.mdに保存する
・見出しは「今日やったこと」「困っていること」「明日やること」にする
・個人情報や未公開情報はSlackに投稿しない
・Slackには3行以内の要約だけを投稿する
この事例にあるように、通知まで含めて定型化すると、日々の業務フローにAIエージェントを組み込みやすくなるだろう。ただし、最初からこうした外部サービスへの参加を推奨するわけではない。まずはローカルの安全な作業から始めて、外に書き込ませる場合は、何を書き込ませるのか、どの情報を外に出してよいのか、どこまで自律的に動かすのかを慎重に決める必要があるので、その点は覚えておいてほしい。
また定期実行では、人間が見ていない時間に動くこともありえる。削除、送信、デプロイ、課金につながる操作は、人間の承認を必要にするのがよいだろう。
実際にスキルを書くときは、専用フォルダの中に`SKILL.md`を用意し、そこに「いつ使うスキルなのか」「どのファイルやツールを参照するのか」「どの順番で作業するのか」「どの形式で結果を返すのか」「守るべき注意点は何か」を文章で記述する。特別なプログラムを書くというより、AIエージェントに毎回伝えている作業手順や好みを、再利用できる形で残しておくイメージだ。
詳しいスキルの書き方は、以下の著者のWeb記事で解説している。OpenClawの記事だが、スキルの考え方はNemoClawでも同様だ。
社内データを外に出さずに仕事を任せられるAIエージェント
自分専用AIエージェントをローカル環境で動かす大きな理由の1つが、データの扱いになる。仕事で扱う情報の中には、外部のクラウドAIにそのまま送れないものも多い。
・社内資料
・顧客情報
・未公開の企画書
・契約書
・ソースコード
・障害ログ
・会議メモ
・研究データ
ただ、これらをAIに読ませたい場面は多くある。要約したい、検索したい、矛盾を見つけたい、過去の経緯を調べたい、報告書にまとめたい。しかし、情報の性質上、外部サービスに丸ごと送ることはできない。
NemoClawを「DGX Spark」のような自分の管理する環境で動かすことで、ファイル操作、検索、前処理、ログ保存、スクリプト実行を手元に置けることになる。必要な情報をローカルで処理し、外部に出す情報をできるだけ少なくする、という設計が可能だ。たとえば、次のような使い分けが考えられる。
・ファイルの読み取りや検索はDGX Spark上で行う
・外部検索やクラウドAIに渡す検索語には、顧客名や未公開プロジェクト名などの秘密情報を入れない
・機密情報を含む原文は外に出さない
・処理ログを残し、どんな処理を行ったかを後で確認できるようにする
・重要な送信や投稿は人間の承認を必要にする
現在DGX Spark上で動かせるローカルLLMは、クラウドで提供される最上位の大規模モデルと比べると、推論能力、長文理解、複雑な指示への追従で差が出るため、すべての知的作業をローカルだけで完結させるのは、まだ難しい場面もある。
そのため現実的には、ローカル環境とクラウドAIで役割分担する形が扱いやすいと言える。クラウドAIを使う場合も、検索語、プロンプト、添付データに秘密情報が混ざらないように確認し、高度な推論や文章生成だけを任せる形にすることが重要だ。
将来的に、DGX Stationクラスのより高性能なローカルAI環境が個人や小規模チームでも使いやすくなれば、より多くの作業をローカル側で完結できるようになるだろう。ChatGPT級のAIを手元の環境で動かし、機密性の高い資料、コード、議事録、顧客情報を外に出さずに扱う。これは、自分専用AIエージェントの今後の大きな方向性の1つとなっている。
AIエージェントを仕事に使う上で大切なのは、「便利だから何でも読ませる」ことではない。どの情報を読ませるのか、どこまで外部に送るのか、どの操作に人間の承認を必要とするのかを決めることが重要だ。
身体を持ったAIエージェント
ここまでは、ファイル、コード、チャット、定期業務の領域で動くAIエージェントの事例を見てきた。しかし、AIエージェントの進化は、画面の中だけにとどまらない。
たとえば「Reachy Mini」のような小型ロボットは、AIを身近に感じるためのインターフェイスだ。PCの画面上のテキストだけでなく、声、表情、首の動き、カメラを使った反応を通じて、AIエージェントの存在を感じることができる。
現時点では、こうした小型ロボットは「作業を代行する手足」というよりも、「AIと人間の間にある親しみやすいインターフェイス」としての意味合いが大きいと言える。
一方で将来的には、AIエージェントがより実用的な身体を持つようになることが期待されており、さまざまな企業が開発を進めている。移動ロボットやロボットアームと組み合わさることで、AIが画面の中で判断するだけでなく、現実世界の物や場所に作用して、仕事を進めることができるようになることが期待されている。
・部屋の状態を確認する
・物を探す
・軽いものを運ぶ
・片づけを手伝う
・機器の状態を見に行く
・現場の写真や映像を確認する
・人間に声をかけて確認する
もちろん、ロボットを動かすには、画面内のソフトウェアだけの場合よりも、さらに厳しい安全設計が必要だ。
「Reachy Mini」のような机の上に置いたロボットが、音声で日報を読み上げる。Slackに届いた重要な通知を伝える。こうした「身体を持った通知役」から始めるだけでも、AIエージェントの存在感は大きく変わるので、ぜひ試してみてほしい。
自分専用AIエージェントを育てる
自分専用AIエージェントは、最初から何でもできる万能AIとして扱う必要はない。むしろ、自分の仕事に合わせて少しずつ育てていくことが大切になる。
まずは、失敗しても影響が小さい作業から始めよう。要約、下書き、タスク整理、README作成、ログの確認などの作業だ。次に、よく使う依頼をスキル化する。さらに、定期実行やSlackやDiscord連携を使って、毎日の業務の中に組み込んでいく。
スキルは、一度作って終わりではない。実際に使ってみると「このファイルも読んでほしい」「説明はもっと短くてよい」「この形式で出力してほしい」といった気づきが出てくる。そうした気づきを、毎回プロンプトに書くのではなく、スキルに追記していく。すると、AIエージェントは次に同じ作業をするとき、自分の好みや仕事の進め方に合わせて動きやすくなるのだ。
この積み重ねによって、AIエージェントは単なる汎用チャットAIではなく、自分の作業環境、自分のファイル、自分の進め方を理解した存在に近づいてくれることだろう。
連載のまとめ
3回目の今回は、自分専用AIエージェントでできることを具体的な事例としていくつか紹介した。
全3回の連載で、「NemoClaw」と「DGX Spark」を使って、自分の環境で動くAIエージェントを作る方法を解説した。NemoClawとDGX Sparkを組み合わせることで、AIエージェントを自分の作業環境の近くで動かせる。資料整理、開発、定期業務、機密性の高いデータの扱い、そして将来的なロボット連携まで、自分の仕事に合わせて使い道を広げていくことができる。
まずは小さく始めていこう。最初は1つのフォルダ、1つの定型作業、1つのスキルからでも十分役立つ。そこから、自分の仕事に合わせてAIエージェントを育てていくことが、「NemoClaw」×「DGX Spark」の大きな価値になるのだ。
TEXT_布留川英一 / Hidekazu Furukawa