3DCGコンテンツの制作を手がけるプロダクションや教育機関にインタビューを実施し、オートデスク製品の導入理由やその魅力を聞く本企画。「TV&FILM業界編」となる今回は総合映像プロダクション太陽企画のCGユニット「+Ring(リング)」に話を聞いた。時代の変化が著しい昨今、TV&FILM業界でのVFXの最前線では3DCGについてどのように考えているのだろうか。
CASE 02:太陽企画/+Ring(リング)
映像技術の革新にはいつも驚かされる。AIによる画像生成、VRやAR、モーションキャプチャ、プロジェクションマッピング、なめらかな流体表現、セルルックアニメーション……。この10年を簡単にふり返ってみただけでも3DCGをとりまく技術革新はめざましく、次々と新たな表現手法が誕生しては我々に驚きと可能性を与えてくれた。
歴史をふり返ってみると、人々は古くから映像技術に驚き魅了されてきたことがわかる。世界初のSF映画と言われ映像表現の可能性を切り開いたジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』(1902)や、およそ100年前の作品とは思えないVFX表現で魅了するフリッツ・ラングの『メトロポリス』(1927)、その他にも現在の映画の礎(いしづえ)を築いた名作の数々からは、映像表現に魅了された人々が絶え間なく技術革新を行なってきた様子が垣間見える。
一度進化したら後退することがないのが技術(テクノロジー)だ。誕生以来、日々アップデートが繰り返されている3DCGは今もなお革新の最中にある技術のひとつである。「CGは常に今が最新で最高の状態なので、”昔のCGは良かった” ということがないんですよね」。そう話すのは、太陽企画/+RingでCGデザイナー・CGディレクターを務める尾﨑岳志氏だ。
「CGって面白くて、ある日突然できなかったことができるようになる瞬間が訪れるんですよ。20年ほどCGの仕事に携わっていますが、今でもたびたびその瞬間が訪れています」(尾﨑氏)。また、同じく+RingでCGディレクターを務める大西 雄氏は次のように話している。「自分が想像した以上の結果が出てくることがあるんですよ。こういうところにもCGの楽しさを感じます」。
できないことができるようになる、想像を上回る結果を返してくる。良い意味で期待を裏切り続ける3DCGが、彼らに愛される理由が分かるような気がする。
■「太陽企画 CGルーム」から「+Ring」へ
本題に入る前に太陽企画について紹介しておこう。同社はCMを軸に幅広い映像制作を手がける総合映像プロダクションとして1968年に設立された。その後、国内でもいち早く3DCGを導入し1986年に「太陽企画 CGルーム」を開設。そして2014年、CGルームはCG制作に特化したユニット「+Ring」に生まれ変わり、3DCGを活かしたあらゆる映像制作を手掛けている。最近では、バーチャルヒューマンの制作やUE4を用いたバーチャルプロダクションによるCM撮影も増えてきたとのことだ。
また昨今ではペーパーレスでの業務をはじめ、グリーンバックでの撮影や3DCGを活用することで小道具や美術といった廃棄物の削減、撮影で使用した備品や消耗品のリユースおよびNPO団体へ寄付、ロケ弁の過剰発注を削減する管理システムの構築、弁当箱にプラスチックを使用しない店舗を選ぶ等、SDGsへの取り組みにも力を入れている。映像制作は何かと資源を消費する。業界をけん引する存在である同社が積極的にこういったアクションを示してくれるのは頼もしい限りだ。
■Mayaによる精度の高いプリビズがもたらすもの
そんな+Ringでは、長年オートデスクのMayaおよび3ds Maxをメインツールに据えて映像制作を行なっている。Mayaや3ds Maxは高いクオリティが求められる3DCG制作には欠かせないクリエイティブツールだが、映像制作の根底にある「予算管理」においても大いに活躍してくれることをご存じだろうか。
予算との闘いを避けては通れない映像制作。事前にカメラワークを決めたり、スタジオに収まるエキストラの人数を割り出したり、3DCGと実写の使い分けを決めたり……。撮影に要する時間やスタジオの大きさを割り出し、見映えをシミュレーションし、シミュレーションを基にプロデューサーやスタッフとイメージを共有して撮影に要する諸々の数字を算出することができるというわけだ。+Ringでは、この「プリビズ」をMayaで行なうことで、効率的な映像制作を実現している。
特にここ数年、事前にMayaを使ったシミュレーションを実施するケースや、3DCGを活用した実写合成の案件が増加してきたと尾﨑氏はいう。新型コロナウイルスの感染リスクを回避するため、リモート撮影が強いられるようになったことが大きな理由のひとつとして挙げられる。「Mayaで制作したVTRコンテを見ながら実際にカメラワークを付けていく場合などでは、現場で回しているALEXA(デジタルシネマカメラ)の設定値と同じ数値をMayaに入力することができるので、リモート作業であろうと撮影現場にいるのと同等の結果が得られます。その他のCGツールではズレが生じがちですが、Mayaによる精度の高いプリビズデータは信頼できます」(尾﨑氏)。
また彼らが手がけた作品の中でも、ドローンを用いた撮影におけるMayaの使われ方がユニークなので紹介しておこう。TOKYOオリジナルMVのKOJOE『Day n Nite』では、世界初のドローンによるモーション・コントロール撮影が行われた。実際のセットと同じ寸法のバーチャルセットを制作し、Mayaで制作したバーチャルセット内に入力した軌道データに沿って、実際のセット内をドローンが飛行し撮影するというものだ。メイキング映像ではドローンを用いた精度の高い撮影の様子を窺うことができる。
■キャラクター表現でも優位性を示すMaya、圧倒的物量を軽々とこなす3ds Max
人物を使った撮影では、いわゆる「グリーンバック撮影」と呼ばれる合成手法が用いられる。昨今の広告戦略ではバーチャルヒューマンの起用が増え、人物の頭部を3DCGで制作したモデルに差し替えるといった案件も増えてきた。彼らが手がけた『Honda ADV160 “DISCOVER NEW EXCITEMENT』のプロモーション映像も、バーチャルヒューマンを用いた制作となった。
前職となるゲーム会社ではキャラクターアニメーションを担当していたという尾﨑氏は、「Mayaはリグやカーブの設定値、編集、インバース・キネマティクス(IK)におけるデータの管理、アニメーションレイヤーなど、アニメーション回りに不随する編集がとにかく優秀なんですよ。他のソフトと比べても、使い勝手の良さは頭ひとつ抜きん出ている印象があります。その他、クロスシミュレーションやXGenでのヘア表現等、キャラクターの描画においてMayaの優位性は非常に高いですね」と高く評価。アニメーションにおいても、Mayaは非常に優秀なソフトだと話している。
かたや3ds Maxでの作業を得意としているという大西氏は、膨大な量のオブジェクトとワイヤーフレームでシーンが構成されていた本件で、3ds Maxのパワーを改めて実感したようだ。「1シーンにビルやライトが膨大に詰め込まれていても、3ds Maxはいつも何とかしてくれるんですよね。リアルタイムで……とは言わないまでも、スムーズにプレビューしてくれるのでとても助かっています」(大西氏)。
そんな大西氏は、3ds Maxの機能の中でも「マテリアルエディタ」がお気に入りだという。「マテリアルエディタでノードの繋がり方を見てみると、マテリアルの明るさやテクスチャ等の関係性が一目瞭然なんですよ。マテリアルエディタの扱いに慣れているスタッフ同士の場合、ノードの繋がりを見せるだけでほぼ説明が不要なほどです」(大西氏)。またノードの間に色調整に関する情報を挟むだけでテクスチャ等の調整が可能になるため、わざわざPhotoshopに戻って作業をする手間を省くことができる。
■3DCGの技術は「常に今が最新で最高の状態」
日々アップデートを繰り返す3DCGが、またひとつフェーズが進んだことを感じさせる ”新たな存在” が登場したと尾﨑氏は話す。「これまではリアルなCG表現を追及する ”職人” がほとんどだったと思うんです。でもここ数年の若い映像作家の作品を見ていると、CGを使って独自性や作家性を表現する人たちが出てきたように感じます。ようやくCGの世界でも ”アーティスト” といえる存在が増えてきて、すごく嬉しいんですよね」(尾﨑氏)。
CGアーティストが登場した背景には、SNSやスマートフォンの普及、働き方や学び方のデジタル化も大きく関与しており、ひと昔前とは比べ物にならないほどCG・映像制作に取り組む環境は整っている。オンラインでCGが学べるチュートリアルやサポートが充実し、学習の過程や作品をSNSで共有することもできる。尾﨑氏の「常に今が最新で最高の状態」という言葉を改めて実感する。
ただ、今でこそ優秀なソフトとして多くのユーザーに支持されているオートデスク製品だが、最初から完璧なソフトだったわけではなかった。「Mayaも3ds Maxも、オートデスクがユーザーの声や要望にひとつひとつきちんと応えてくれて、強いパートナーシップを築いてきたからこそ今の姿があるのではないでしょうか。私にとってオートデスクは、そんな紆余曲折を経て一緒に歩んできたパートナーのような存在なんですよね」(尾﨑氏)。
また「多くのユーザーに支持されている」ということは、情報交換や技術交流も盛んに行なわれているということでもある。大西氏は「オートデスクの製品は歴史があるので、ちょっと探せばいくらでもQ&Aが出てくるんですよね。そういった面でも頼もしく感じています」と話しており、プロフェッショナルたちが日々盛んに情報共有するオートデスク製品の存在を高く評価している。
3DCGの商業利用が始まった1980年代から40年が経ち、どのような表現でもおおむねCGで再現できるようになった。そしてエンターテインメントのみならず、3DCGなしには人々の暮らしが成り立たない時代となり、生活のいたるところに3DCGがもたらす恩恵を見出すことができるようになった。これからますます3DCGのテクノロジーが求められるようになるだろう。我々にどのような驚きが待ち構えているのか。今日まで、3DCGに携わる開発者やクリエイターと共にこの技術の先端で時代を切り開いてきたオートデスク。これからも我々と共に、より良い世界の創造に力を惜しむことはないだろう。
+Ring
TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)