リアルタイムレンダリングを活用した高品質CG制作を得意とする「SAFEHOUSE」が、昨年末にモーションキャプチャスタジオ「DEFCON ZERO」をオープン。設立の背景を取材し、その意図や目的、そしてどのような利用ができるのかについて聞いた。
Information
DEFCON ZERO
〒101-0054
東京都千代田区神田錦町 2丁目5-16
名古路ビル新館3F
defcon-zero.com
クリーンアップの手間を減らし、クリエイティブに集中できる環境を
CGWORLD(以下、CGW):今回、自社のモーションキャプチャスタジオを設立なさったということで、その経緯や意図などについて教えてください。
由良浩明氏(以下、由良):もともとは社内の需要がきっかけで 、自分たちで自由にコントロールできるモーションキャプチャスタジオを用意したいと考えていたんです。
海外のスタジオでリモート収録するか、国内の他社スタジオさんで収録するかなどいろいろ検討しましたが、結局、自社でスタジオをつくることを選択しました。
由良浩明/Hiroaki Yura
株式会社SAFEHOUSE
代表取締役社長/プロデューサー
音響監督として、Blizzard Entertainment作品をはじめとした数々の人気ゲーム開発に携わる。ヴァイオリニストとしても長年活動している他、海外での人脈やPRには定評があり、ゲーム業界のみならずアニメ・映像業界でもプロデューサー業を経験。日本が発信するコンテンツとクリエイティブ力に対して強い魅力を感じる一方、CG制作分野において飛躍の余地があると感じ、2019年1月より株式会社SAFEHOUSEを起ち上げた。
safehouse.co.jp
由良:スタジオの設計は、当社の3DCGアーティストであるソヘイル・モハマッドが担当しました。彼はCrytek、AMDなどでR&Dを経験し、『ウィッチャー3 ワイルドハント』(2015)のアニメーションディレクターを務めたこともあり、テクノロジーや機材、パイプラインの構築に精通しています。
CGW:設計にあたっては、どのようなコンセプトで進めましたか?
由良:ビジネスではお金のことも大事ですが、それよりも大事なのは時間であると考えています。
ことモーションキャプチャに関しては、キャプチャデータをクリーンアップする作業にかける時間は有意義ではないと考え、ソヘイルと一緒にクリーンアップ作業が非常に軽く済むようなスタジオを検討しました。
その結果として、初期投資を多くしカメラ台数を増やしたというのが、ここの設計コンセプトです。
由良:あとは、グループ会社のオーディオスタジオWHISTLERとの連携により、プレスコにも対応しています。モーションキャプチャの収録時にプレスコも同時に行うことによって、時間の短縮やクオリティの向上につながります。役者さんの演技とモーションがつながることは非常に大事だと思いますので、そういったことを考慮したパイプラインを構築しました。
当初は社内の一角で内部だけで運用していましたが、大きなプロジェクトで社外の方々にも使ってもらう機会があり、すごく使いやすいと評価していただいて、それならば社外向けにも貸し出した方が良いのではないかと考えまして。昨年末にサウンドチームとともに今の場所に移設し、当初から作りたかったエディティング・スイートなども整備しました。
CGW:モーションキャプチャのスタジオとして、物件選びにおいて、天井高や振動対策なども考慮されたのでしょうか?
由良:高さについては、天井の高い空間も検討しましたが物件的に難しいことと、9割がたのモーションキャプチャでは天井高はいらないということを踏まえ、今の物件を選びました。
また、当社で手がけている海外案件ではコンプライアンスの観点から大ジャンプや飛び降りなど危険なアクションの収録はせず、必要な場合はキーフレームでつくることになっているケースが多いので、今のところはそういった設備は用意していません。
簡単なクレーンを付けてほしいといった要望がお客さまから出ているので将来的には設置するかもしれませんが、ここの天井高は2.7m程度ですので、あまり大それたことをするつもりはないです。振動についても、この物件で問題ありませんでした。
OptiTrackカメラを54台設置
CGW:なるほど。カメラの密度を確保することでクリーンアップ作業の手間を減らし、クリエイティブな作業にできるだけ集中したいというスタジオの意図がよくわかりました。では、それを実現するための機材はどのように選定されましたか?
由良:光学式モーションキャプチャシステムで高いクオリティのモーションを得るためには、カメラの品質よりも数の方が圧倒的に重要だと考えています。多くのカメラを使い、とにかく死角をなくすことが大事です。そのため、この小規模な空間に対して通常の3倍ほどの密度になるよう、54台のカメラを配置しています。
カメラには、当社として最もコストパフォーマンスが高いと判断したOptiTrack PrimeX 13を採用しています。OptiTrack PrimeX 13は130万画素で、決して解像度が高いわけではありませんが、このスタジオのサイズでは至近距離からの撮影になりますから、このスペックで十分です。
由良:国内のスタジオではVICONの導入例が多いですが、その理由のひとつは日本語による知見の豊富さにあると思います。それに対してOptiTrackは日本語の文献がまだ少なく導入のハードルがやや高いですが、当社は外国籍スタッフやバイリンガルのスタッフも多く、その点は問題ありませんでした。
ソヘイルや当社のディレクターのエラスマス・ブロスダウは、リソース的に豊かなAAAタイトル開発の現場にいながら自主制作を行なってきた人たちなのでリソースの大事さを身に沁みて知っていますし、リソースが限られた状況での動き方を熟知しています。今回もスタジオの設計にあたり、最適な選択ができたと思っています。
CGW:フェイシャルキャプチャやハンドキャプチャなどにも対応しているのでしょうか?
由良:はい、対応しています。フェイシャルキャプチャはGoProカメラを使ったマーカーレスで、ハンドキャプチャはStretchSenseのグローブを使っています。
CGW:そのほか、DEFCON ZEROスタジオの特色があれば教えてください。
由良:そうですね、例えばモーション収録のときには、Unreal Engineを使ったリアルタイムプレビューを確認できます。デフォルトのマネキンモデルだけでなく、キャラクターや背景データを持ち込んでいただいてシーン全体をプレビューしてもらうことも可能です。
CGW:リモート撮影にも対応しているのですよね?
由良:はい、対応しています。4Kカメラ4台を使って遠隔地からスタジオの風景を見られますし、プレビューの画面をリモートで確認しながら収録できるようになっています。もちろん、直接スタジオに来られるときにもこれらの映像はリファレンスとして提供しています。
CGW:スタジオが完成して、使用感などイメージ通りですか?
由良:私よりもディレクターからの感想が良いかもしれませんね。公開予定の『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』で監督を務める、エラスマス・ブロスダウが映像作品で使用したのですが、特に高いクオリティのモーションに満足していると言っています。
イギリスやカナダ、ドイツなど世界中で撮影をしてきていますが、 7人同時に収録できる広さがあり、スタッフも対応力が高いので、彼のように現場でもアイデアが浮かぶタイプには良い環境のようです。
日本の需要に合わせてスタジオを育てていきたい
CGW:昨年末からDEFCON ZEROで社外向けにモーションキャプチャサービスを開始されましたが、反響はいかがですか? また、これからどんな方に利用していただきたいと考えていますか?
由良:DEFCON ZEROの開設については昨年12月にプレスリリースを出しまして、その後、ゲーム系のお客様を中心にご利用いただいています。特に時間を大事にしたい方、クオリティを上げたい方とは一緒に仕事をしたいですね。
また、海外のアクターを使うことができるのもユニークな点だと思います。もちろん国内のアクター手配もしていますが、当社はバイリンガル対応していますので、ハリウッドのアクターのコーディネート・ディレクションもできます。
加えて、モーションキャプチャだけでなく、SAFEHOUSEやグループのゲーム開発会社AREA35などでご提供できるサービスもたくさんありますので、それらを組み合わせることで、たいていのことは実現できます。当社の得意とするパイプラインの構築や、Unreal Engineを使った映像制作なども含めてお気軽にご相談いただければと思っています。
CGW:これから、DEFCON ZEROスタジオをどのように展開していく予定ですか?
由良:日本のゲーム業界、映像業界では、残念ながらまだまだ無駄なところに時間をかけてしまっている場面が多く、それによって本来やりたいことができないという現場をたくさん見てきました。
僕もアーティストだったので、アーティストがクリエイティブなことに集中できる環境、勉強できる環境がとても大事だと考えています。そこに注いだ時間は誰も盗めないんです。だからSAFEHOUSEもそういう環境をつくりたいという思いで設立したという経緯もあります。
先ほどもお話しましたが、モーションキャプチャにおいては、収録後のクリーンアップ作業というのは機械的でクリエイティブとは言えません。なので、DEFCON ZEROスタジオをご利用いただく方には、より時間を割くべきクリエイティブな作業に集中していただきたいです。
ひいては、それが日本のスタジオの国際競争力の向上に繋がると思いますし、そういった日本の需要に合わせてDefcon Zeroスタジオを育てていきたいと思っています。
CGW:そうですよね。クリーンアップ作業に工数がかかってしまうことは、スタジオを利用する方が負担するコストにも影響するでしょうから、DEFCON ZEROスタジオの設計思想はとても合理的だと思います。
単にお金をかけて高価な機材を導入するのではなく、SAFEHOUSEの世界レベルのノウハウを活かして最適なスタジオとして組み上げたのがDEFCON ZEROスタジオなのだなと感じました。ありがとうございました。
TEXT_川島基展 / Motonori Kawashima(もももワークス)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)