9月23日(土)、アニメ制作技術の総合イベント「あにつく2023」が東京・秋葉原のUDX GALLERY NEXT/UDX GALLERYにて開催された。4年ぶりのリアル開催となった同イベントでは全10セッションが行われ、現役のクリエイターから業界志望の学生まで多くの来場者で賑わいを見せた。
本記事ではセッション「『グリッドマン ユニバース』Blu-ray発売直前緊急座談会!!3DCG&撮影メイキング」の模様をレポートする。
イベント概要
あにつく2023
主催:株式会社Too
日時:2023年9月23日(土)
会場:UDX GALLERY NEXT/UDX GALLERY
参加料金:無料
www.too.com/atsuc/y2023/
フィギュア化も念頭に置いたキャラクターデザイン
同セッションには株式会社トリガーより雨宮 哲監督、アニメーションプロデューサー・志太駿介氏、株式会社グラフィニカより3DCGディレクター・市川孝次氏、モデリングディレクター・田口 愛氏、撮影監督・志良堂 勝規氏が登壇した。司会はグラフィニカの3DCGプロデューサー・白濵啓太郎氏が務め、2023年3月公開の映画『グリッドマン ユニバース』の制作秘話に迫った。
左から白濵啓太郎氏(グラフィニカ)、雨宮 哲氏(トリガー)、志太駿介氏(トリガー)
左から市川孝次氏、田口 愛氏、志良堂 勝規氏(以上、グラフィニカ)
まずは「3Dメイキング(モデル編)」と題して、本作のデザイン画とキャラクターモデルを紹介。最初に取り上げたグリッドマンの新形態・Universe Fighterは、TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』から引き続き、円谷プロダクションの後藤正行氏がデザインを担当した。
雨宮監督はUniverse Fighterについて、Primal Fighterという前形態の正統進化版であり、シルエットは大きく変えない方針だったとコメントした。実際のオーダーでは手足を青くするなどの大まかな指示だけを伝え、後藤氏の自由な発想でデザインを描いてもらったという。
完成したUniverse Fighterは顔や体に水色の円がデザインされているが、この円は横から見ると尖った円錐状になっている。ただこの円錐が合体の邪魔になるため、肘や膝にあるものは先端を丸くするなど調整が行われた。
デザイン画を見た田口氏は、Primal Fighterのバージョンちがいのような印象を受けたため、Primal Fighterのモデルを微調整するだけで済むのではないかと思ったそうだ。しかし細部をよく見ると、左腕に装着したアクセプターや手足以外はデザインが異なっており、モデルはほぼ新規に作成することになった。
モデリングで苦労した点については、体中にある発光ラインの溝を彫ったことが挙げられた。モデルに溝があるとシルエットに凹凸が出て格好良く見えるが、体のラインに沿って曲線状に溝を彫るのが難しく、ポリゴンの整理も大変だったと言う。
その苦労の甲斐もあり、デザイン画と見映えの変わらないモデルが完成した。白濵氏はデザイン画からパーツの位置も踏襲したことに触れ、「自画自賛にはなりますが、よくできたモデルだと思います」と太鼓判を押す。
続いて紹介された「ローグカイゼルグリッドマン」は、グリッドマンとダイナゼノン、ビッグゴルドバーンが合体した形態だ。こちらのデザインは、TVアニメ『SSSS.DYNAZENON』でダイナゼノンのデザインを作成した野中 剛氏が担当した。
『SSSS.DYNAZENON』には同じく3体合体の「カイゼルグリッドナイト」が登場したが、雨宮監督は反省点があったことを打ち明ける。というのもカイゼルグリッドナイトはダイナミックキャノンという巨大な大砲を右肩に背負っており、ビジュアルとしては迫力があったものの、商品化のために立体物にした際、重すぎて右に傾いてしまったそうだ。
そういったトラブルを防ぐため、今回はダイナミックビッグブレードとして武装を独立させて単独での自立を可能にした。さらに「尻尾を支えにするので、地面につけてほしい」というオーダーも加えて、倒れないようにした。
このようにローグカイゼルグリッドマンのデザインは、玩具になったときの出来映えも考慮されており、野中氏はデザイン画だけでなく、ギミックや合体構造まで細かく描き込んだ図面を用意した。
もはやアニメの設定画というよりは玩具の設計図のような内容で、雨宮監督も「アニメに必要がないのに、電池を入れる部分まで決まっているんですよ」と驚いた様子だった。
これらの資料はモデリング時に役立ったが、データが非常に重くなってしまい、ローグカイゼルグリッドマンはパーツとテクスチャが最も多い形態となった。特に肩回りにパーツが集中しているため、動かす際にも苦労したそうだ。
市川氏は腕が10度ほどしか動かせなかったため、パーツを外したり隠したりと、カメラからの見映えを重視しながらアニメーションをつけていったと話した。
雨宮監督は「ローグカイゼルグリッドマンは荒々しく動かすことをコンセプトとしていましたが、しっかりとアニメーションで表現できていたことに驚きました」と喜びのコメントを述べた。また『グリッドマン ユニバース』はローグカイゼルグリッドマンをやるための映画だったと語り、「最強形態に相応しい出来映えになったと思います」と絶賛した。
スタッフとの信頼が生んだ監督の想像を超えるアクションシーン
キャラクターデザインに続いて行われた「3Dメイキング(カット編)」では、フルパワーグリッドマンとカイゼルグリッドナイトが、ドムギランと激しいバトルを繰り広げるシーンを解説。中でも、街中のビルについて取り上げられた。
実は本作にはビルのモデルが8種類しか存在せず、あえて使い回しをすることで特撮らしい画面を生み出している。市川氏は「作業をしていると、だんだん好きなビルが出てくるんですよ」と語り、倒しやすいビルを前面に出したり、好みではないビルは後面に置いたりしたそうだ。ビルのモデルはTVシリーズから続けて使用しているため、雨宮監督も「確かに愛着が湧きますね」と同意する。
配置する際は同じビルを隣に置くとコピーしたように見えてしまうため、向きを変えたり、ズラすなどして対応している。地面についた裏側をあえて真っ黒にしてハリボテ感を出したことも、特撮風の画面づくりに貢献している。
次に紹介されたアレクシス・ケリヴが複数のノワールドグマを相手にするシーンは、雨宮監督自ら絵コンテを描き上げた。しかしバトル時のアクションについて細かな指示はしておらず、「好きにやってください」とCG班にお任せだったそうだ。
「こうしてスタッフにお任せできるのも、シリーズを重ねたゆえの強みだと思います」と、監督は言う。TVシリーズから培われた信頼があるからこそのオーダーであり、そのおかげで、監督の予想を超えるたくさんのアクションが生まれた。
アクションが増えたことについて市川氏は、アレクシスがタイツを履いたようなスラリとした手足のデザインだったことが原因だと回答した。他のゴツゴツとしたキャラクターよりも動かしやすいため、ついつい動きを入れすぎてしまい、結果的に雨宮監督の予想を超える仕上がりになった。
「日常パートは実写映画・戦闘パートはロボットアニメ」など、撮影による画づくり
「撮影メイキング」のコーナーでは撮影処理前と撮影処理後の映像を見比べつつ、効果のねらいを解説した。志良堂氏は本作の撮影の方針について「日常パートは実写映画らしく、戦闘パートはロボットアニメらしく盛り、落差をつけてほしいというリクエストを受けた」とコメント。そのためボケ表現は通常の作品よりも強めにして、被写界深度の浅い画面を目指していった。
特にパラと呼ばれる影付け処理は、セルと美術が馴染むように気を遣ったと言う。日常パートでキャラクターにパラをかけるときは、キャラクターのマスクを1枚1枚切り取り、意図しない部分にかからないようにしている。グラデーションで一気にかける場合に比べて時間はかかってしまうが、おかげで雨宮監督が求めるリアルな画面を実現できた。
同コーナーでは、ローグカイゼルグリッドマンの合体シーンについても紹介された。
このシーンは3DCGではなく作画だったため、撮影では別シーンとの繋がりで違和感が生じないように3DCGに近づける処理を加えた。さらにフィニッシュで画面全体にフィルタをかけたり、虹のリングを出したりと、カットごとに見映えを調整して派手な映像をつくり上げた。
なお、このシーンの原画はメカニックシークエンスディレクターの浅野 元氏が担当している。線が非常に多いシーンだったため作画だけでひと夏が過ぎるほどの作業量になったそうだ。
志太氏は「オーイシマサヨシさんの主題歌がながれる一番良いシーンだったので、ここを外すわけにはいきませんでした」と映画においてサビにあたる重要な場面だったとコメント。雨宮監督も「おかげですごいクオリティになりました」と感謝の言葉を述べた。
セッションではそのほかに版権イラストのメイキングも紹介。『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』の劇場総集編のキービジュアルでは、見下ろした街の風景が欲しかったため、志太氏のアイデアでヘリコプターに乗って写真を撮ったというエピソードも披露された。
シリーズ作品ならではのスタッフ間の強い信頼のもとに制作された『グリッドマン ユニバース』。その様々なこだわりが紹介された、充実のセッションとなった。
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada