近年、政府によるゲーム開発支援が本格化している。かつては、ゲーム産業と行政との間に温度差があり、支援の機運も限定的だったが、現在は状況が大きく変わりつつある。
そうしたながれのなか、支援施策の一環として新たに立ち上がったのが一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が主催する「トップゲームクリエイターズ・アカデミー」(以下、TGCA)である。2025年4月25日(金)、ベルサール八重洲にて、育成対象となるクリエイターと関係者が一堂に会し、本格始動に向けた入学式が開催された。
多様な支援事業が展開される中で、TGCAは人材育成に特化した施策として位置づけられている。本稿では、その概要と入学式当日の模様をレポートするとともに、政府がゲーム産業への支援を強化する背景についても掘り下げていく。
政府がゲーム産業を支援する背景
まず、TGCAが設立された背景を見ていきたい。
近年の代表的な政府支援のひとつに、「創風」が挙げられる。がある。本プログラムは、作品の制作から展開までを約1年かけて伴走するアクセラレーション型の取り組みで、ゲームクリエイターも支援対象に含まれている点が特徴だ。
既存の施策では、「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」が挙げられる。ゲームは当初から対象分野に含まれており、メディアアートや映像作品などと並んで支援されてきた。近年は個人制作によるゲームの応募も増加しており、今年度は複数の個人クリエイターが採択された。成果発表イベント「ENCOUNTERS」ではゲームを含む多様な表現が並び、メディア芸術全体の広がりを体感できる場となっている。
TGCAも、こうした支援の流れの延長線上にある。近年、文化庁の補助金によって設立された「文化芸術活動基盤強化基金」を原資に「クリエイター等育成プログラム」が開始され、その一環として、CESAがゲーム分野の育成を担っている。TGCAは、CESAがその専門性を活かして独自に設計した人材育成プログラムである。
今回の公募では、日本在住の30歳以下の個人、または個人によるチームを対象に、未公開のゲーム作品を保有または開発中であることを条件として実施。選考の結果、10名のクリエイターが育成対象者として採択された。
育成対象者は、業界の第一線で活躍するクリエイターから直接指導を受けることができる。プリンシパルには、株式会社レベルファイブ 代表取締役社長/CEO・日野晃博氏が就任。
さらに、専任メンターとしては、スクウェア・エニックスのプロデューサー岡谷洸佑氏や、セガのテクニカルディレクター矢儀篤樹氏など10名が参加。創作面で支援を行うスペシャリティアドバイザーには、カプコンのアートディレクター奈良裕之氏やコーエーテクモゲームスω-Forceのプランナー山田道夫氏ら16名、ビジネスアドバイザーには、DeNAゲームサービス事業本部長の井口徹也氏やコナミデジタルエンタテインメント プロダクト推進室の稲垣達朗氏ら9名が名を連ねている。
入学式の冒頭では、CESA理事・CSR委員会委員長の岡村信悟氏が登壇し、「日本にとってゲームは重要な産業であり、常に次世代のクリエイターが育たなければならない。今回、強い意欲を持った皆さんが応募してくれたことを嬉しく思う」と語った。また、「様々な目標を持つ皆さんを、メンターやアドバイザーが支えていく。第一期生としてのつながりも大切にし、切磋琢磨して成長してほしい」と、期待を寄せた。

続いて、政府側から内閣官房内閣審議官(文部科学戦略官・文化戦略官)の中原裕彦氏が登壇。「コンテンツ産業は、政府にとって大きな成長産業。海外における売上は鉄鋼や半導体を上回り、その約6割をゲームが占めている」と述べ、ゲーム産業が日本の基幹産業のひとつとして捉えられていることを強調した。
こうした発言からも明らかなように、現在のゲーム産業支援の背景には、コンテンツが国外で確かな経済成果を上げているという事実がある。昨年には、総理大臣官邸にて「コンテンツ産業官民協議会・映画戦略企画委員会」が開催され、当時の岸田首相も議論に参加。コンテンツを国家の成長戦略の一角として強化する姿勢が鮮明になっている。
TGCAの立ち上げもまた、そうした国家的な方針の中で推進された取り組みといえるだろう。

最前線のクリエイターが、育成対象者に最も学んでほしいこと
最後に登壇したのは、本プログラムのプリンシパルを務める日野晃博氏。「世界に羽ばたけるクリエイターが出てほしい」とエールを送りつつ、これからの時代にクリエイターが最も必要とする力として「審美眼」を挙げた。

「いま、AIがクリエイティブを侵食しています」と日野氏は語る。実際に、現在の開発現場では、プログラマーが生成AIにコードを出してもらい、それを修正するかたちで作業を進めるのが当たり前になりつつあるという。AIの力を活用することで、作業時間の短縮やクオリティの向上が図れる時代がすでに訪れている。
そうしたなかで、クリエイターに求められる「審美眼」の意味を、日野氏は次のように説く。
「AIに抵抗があるかもしれませんが、いまはそれを利用して、よりよいものを作る時代です。AIでも、人間が作ったものでも、いいものを選んで作品に取り入れていく目が必要になってくるのではないかと。その意味で、このプログラムは審美眼を磨くのに最適ではないでしょうか」。
さらに日野氏は、「これから活躍するクリエイターは、AIを手足として使いこなし、審美眼をもって取り組む存在になる」と語り、育成対象者に向けた提言を締めくくった。その言葉の背景には、ディレクターとして各部門の成果物をジャッジしてきた自身のキャリアが色濃く反映されていると言えるだろう。
入学式後の懇親会では、DeNA ゲームサービス事業本部長であり、CESA CSR委員会で副委員長を務める井口徹也氏も、育成対象者に向けてエールを送った。

「ここでお話したいのは、“打席”の話です。ゲームを制作する上で、これまでに何打席あったか──皆さんご自身にも、その実感があるのではないでしょうか」。
井口氏によれば、クリエイターにとって「打席」に立つ感覚が極めて重要だという。ただ成功を収めることだけでなく、次の挑戦へとつながる「経験」を積み重ねることこそが、本当の意味での財産になると強調する。
「ゲーム制作において、自分がどんな経験を積んできたかが非常に重要だと思います。今回、TGCAという狭き門をくぐり抜けて選ばれた皆さんは、まさに“ゲーム開発の一打席目”に立っていると思います。自分の納得いくものを作る、あるいはこのプログラムの中で成長していくということを、ぜひ実感していってください」。
井口氏はそう語り、初期段階にある彼らの挑戦にエールを送った。
懇親会では、育成対象者が現在開発中のゲームをそれぞれ紹介する場も設けられた。ここで披露された作品群が、TGCAという育成プログラムを通じてどのように磨かれていくのか。そして、いずれ世界のプレイヤーに届くタイトルとなり得るのか。その答えを形にしていくのは、これからの取り組みを担う彼ら自身である。

TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)