「かんがえる、つくる、つづける、」。mount inc.が掲げるこの姿勢は、制作プロセスの一手一手にまで及んでいる。課題定義から設計、実装にいたるまで、その一貫した基準がどのように機能しているのかをアートディレクター、テクニカルディレクターのおふたりに聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 334(2026年6月号)からの転載となります。
mount inc.
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「全てに高い基準を求められる」mountらしさ
——mountさんらしさ、というのはよく聞かれると思いますが、改めてどう捉えていますか。
岡部健二氏(以下、岡部):ひと言でまとめるのは難しいんですが、確実に言えるのは「徹底的に高い基準を求められる」ことだと思います。
岡部健二 氏
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テクニカルディレクター
米道昌弘氏(以下、米道):そうですね。達するべき基準が高くて、そのために泥臭くものづくりをしている、というのが近いかなと思います。
米道昌弘 氏
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アートディレクター
——それは、クオリティ至上主義ということでしょうか?
米道:クオリティ至上主義、ともまたちがう気がします。もちろん最終的なアウトプットのクオリティも求められますが、それに限らず過程や進め方まで含めてひとつひとつが「ちゃんとしているか」を問われる感覚ですね。
岡部:どこかで妥協をすると、あとでしっかりそこを突っ込まれるような風土がある。
米道:デザインの一手一手について説明できる意図があるか、その結果までちゃんと見通していたかが求められるんですよね。考えが足りてない、スタディが足りてない、手数が足りてない、場合により様々ですが、足りていない部分があると必ず指摘される。
岡部:どの工程を切り取っても、その判断にしっかり理由がある状態にしていく、という感じですね。
米道:それは代表のイム(・ジョンホ氏)がずっと積み上げてきたものだと思いますし、僕も岡部も外部から転職してきて6年ほどになりますが、外から見ていても中に入っても変わらない印象です。
岡部:僕も外から見ていたときから、そういう会社だという印象はありましたね。
米道:前職で外部として一緒に仕事をしたときから、その厳しさも含めて魅力だと思っていました。「ここでやりたい」と思えた理由でもあります。
圧倒的なコミュニケーション量でクライアントの課題を導き出す
——普段はどのようなチーム体制で制作されているのでしょうか?
岡部:案件によって変わってきますが、ミニマムの場合はPM(プロジェクトマネージャー)、AD(アートディレクター)兼デザイナー、TD(テクニカルディレクター)兼デベロッパーの3人ですね。逆に大きな案件では、社員総出で取り組んだり他社と連携したりするものまで、数十人が関わるプロジェクトになることもあります。
ただ、当社の場合はWebディレクターというポジションがないので、1人がPM兼Dのような動きをする場合もしばしばあります。
——分業や分担が徹底されていないのは大変ではないですか?
米道:そこは良し悪しですね。もちろん分業が効果的なのは確かなんですが、一気通貫だからこそ出る良さもある。社内的にもどちらの意見もあります。だからというか、担当者間はもちろん、対クライアントにおいてもとにかくコミュニケーション量が多いですね。
——対クライアントのコミュニケーションというと?
米道:ワークフローでいう➀~➃の部分、相手について知り、制作方針を決定するまでの工程に時間も工数も厚めに割くようにしています。クライアントが課題として感じている部分から、クライアント自身も気づいていない魅力や強みにいたるまで、企業の商材だけでなく、歴史や文化、人も含めて理解する必要があるので、ヒアリングや調査を徹底的にしていますね。長いプロジェクトだとこれだけで1~2年かけることもあります。基本的に「わからない」という前提で入って、会話の中で仮説を立てていく感じですね。自分たちだけの頭で考えていても、そこにあまり答えはないので。
——それだけ密なやり取りをすると別の課題が見えてくることも?
米道:ありますよ。ヒアリングやコミュニケーションの結果、課題の再定義が発生して当初の要望から大きく形が変わるといったことはよくあります。過去に手がけた案件でも、クライアント側が説明された自社の強みについて、同業他社もリサーチした上で「本当に訴求すべきあなた方の強みはここです」、と提案したこともありました。
依頼されたものをそのままつくるというよりは、課題をどう設定するかから考えていく感覚ですね。また、会話から引き出した情報をどう整理して設計すればよりよくなるかという、編集的な視点も意識しています。mountは割とそういったエディトリアル的な視点や考え方でWebを見ている側面が強い会社だと思います。
岡部:例えば、一般的なワイヤーフレームは、画像のところがバツ印になっていたり、ここに文字が入りますという仮の表記になっていることが多いですが、それだとページを見たときにどういう印象を受けるかイメージがつきにくい。mountの場合は、文字も画像も入れられるものは全て入れた状態で確認できるようにしています。ただ情報を並べるだけでなく、時間軸も含めて、見る人がどういう印象を受けてどういう感情になるかまでをきちんとシミュレーションしたいんですよね。
「見たことないものをつくる」ために「わからない」状態から始める
——技術との向き合い方についてはいかがでしょうか。
米道:あまり技術の話をしないんですよね。意識的に避けているわけではないんですけど、制作のプロセスとしては見た目やコンセプトの方から入ることが多いです。細かい動きの指示をこちらから出すとアウトプットが固定されてしまうので、「こういう感じでお願い」というようなことはせず、余白を残すような進め方をしています。
逆に、「こういったことを伝えたいから、そのために必要なことを提案してほしい」というスタンスでいることが多いですね。そうするとエンジニア側から返ってくるものに刺激を受けて、そこからまた発想が広がることもあります。
岡部:つくり方自体を考えていく、というのがmountの特徴のひとつだと思っています。➆の時点で動画や指示書で動きを決め込んで、➇でそのまま再現するというつくり方もよく聞きますが、mountの場合は➆の段階では見た目が決まっていても、Webならではの動きや遷移などの最終形は見えているようで見えていない。その余白をデザイナーとエンジニアで、➆と➇を往復しながら練っていくイメージです。
米道:最初からつくり方がわかっているものは見たことがあるものにしかならないので、「見たことないものをつくる」ためには、「できるかわからない」状態でいる方がむしろ健全で、最終的にいいものができるんじゃないか、という感覚はあります。
「Web制作会社」から「デザインプラクティス」へ
——3月に、公式サイトをリニューアルされましたね。
岡部:こうしたインタビューでこそ制作理念や姿勢をお話ししていますが、これまではあまりにも外向きの発信や言語化をしてこなかったので、それを改めてやろうという部分が一番大きいです。
米道:実績が並んでいるだけの以前の公式サイトでは単なるWeb制作会社のひとつに思われてしまっていたので、今度こそはデザインで課題の解決とものづくりをしていく「デザインプラクティス」として、正しく知られたいと考えています。
▲2026年3月にリニューアルされたmount inc.の公式サイト。これまで外向きに言語化されてこなかった制作思想やプロセスが整理され、「デザインプラクティス」としての立ち位置が明確に示されている
——「Web制作」ではなく「デザインプラクティス」の会社であるとのことですが、今後はWeb領域以外での活動も考えられているのでしょうか?
米道:これまでのアウトプットはWebが中心でしたが、課題解決の考え方自体は領域に依存するものではないので、機会があれば映像や空間など、他領域にも広げていきたいと思っています。
岡部:その上で基準を高くもつこと、一挙手一投足にまで意図を通したものづくりをすることは変わらないですね。フィールドが変わっても、mountらしさは維持していきたいと思います。
Information
6月1日(月)〜5日(金)に開催されたオンラインイベント「CGWORLD Web Design Week」にて、本記事でご紹介した仕事術について改めて語っていただきました。こちらもぜひご覧ください。
CGWORLD 2026年6月号 vol.334
特集:WEB ✕ 3DCG
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年5月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_稲庭 淳 / Jun Inaniwa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada