ゲームファンから根強い人気を誇る「真・女神転生」シリーズの最新作『真・女神転生V』(Nintendo Switch)。昨年11月に発売された本作について、今回は特にキャラクター制作に注目。主人公から悪魔たちに至るまで、アトラスこだわりのキャラクターのメイキングをお届けする。

※本記事はCGWORLD283号(2022年3月号)の記事を一部再編集したものです

記事の目次

    『真・女神転生V』

    開発・発売:アトラス
    リリース:発売中
    価格:9,878円(通常盤)、16,280円(初回限定版)、9,878円(DL版)
    Platform:Nintendo Switch
    ジャンル:RPG
    megaten5.jp
    ©ATLUS ©SEGA All rights reserved.
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    Nintendo Switchのロゴ・Nintendo Switchは任天堂の商標です。

    UE4で突き詰める「メガテン」らしい3D表現

    1992年の初代『真・女神転生』リリース以来、多くのファンに支持されてきた人気RPGシリーズの最新版『真・女神転生V』が昨年11月に発売された。Nintendo Switch用タイトルである本作は、開発環境としてゲームエンジンUnreal Engine 4(以下、UE4)を採用。「この作品のキャラクター制作で目指したのは、『真・女神転生』シリーズらしいダークな雰囲気を継承しながら、キャラクター原画のイラストを3DCGで再現することです。イラスト的な表現に3DCGのフィジカルベースでレンダリングされた表現をプラスすることで、現世代のゲーム機でプレイするゲームとしてふさわしい表現を模索しました。そのような表現にあたって、UE4は最適なゲームエンジンだと思います」とリードモデリングデザイナーの芳原 匠氏は語る。

    右より、リードモデリングデザイナー・芳原 匠氏、モデリングデザイナー・針谷美雪氏(以上、アトラス)
    www.atlus.co.jp

    キャラクターは主にMayaZBrushでモデリングし、テクスチャ制作はSubstance 3D PainterPhotoshopを使用。UE4にもち込んでから細かなルックデヴを行なっている。「原画イラストそのままの雰囲気をゲームキャラクターとして再現するために、開発環境が整ったところで、UE4上で表現の幅を突き詰めていく方針でルックデヴが進んでいきました。原画のイラストでは素材感やディテールなどの細かい設定がデザイナーから指示されていますが、あまりやりすぎてしまうとリアルになって原画に忠実ではなくなってしまうので、情報過多にならないように適度にディテールの情報を抜きながらルックを決めていきました」とモデリングデザイナーの針谷美雪氏。UE4のPBR的表現とイラスト的表現を上手く擦り合わせることで、一般的な3DCGゲームのキャラクターとはひと味違ったルックを導き出した本作。今回はその詳しいメイキングを紹介しよう。

    <1>原画イラストを忠実に立体化したキャラクター

    原画イラストをUE4 上で忠実に再現することを命題にスタートしたモデリングとルックデヴの工程。モデルとテクスチャの完成後、UE4 にもち込んでのルックデヴに心血を注いだ。

    原画イラストの再現を追求したキャラクターモデル

    • 主人公キャラクターの原画
    • 主人公と「アオガミ」が融合した「ナホビノ」の原画
    両キャラクターのモデルをUE4で表示したもの。「原画イラストを忠実に3DCGのゲームキャラクターとして再現する」というコンセプトを見事に具現化したルックとなっている。各キャラクターについては、原画イラストだけでなく、衣装の素材や金属の質感などを詳細に説明した設定資料も用意されている。UE4における各キャラクターのルックデヴは、こうした資料をベースに検証しながら進められた

    UE4で最適な見え方になるように調整されたモデルとテクスチャ

    「アオガミ」のモデルとテクスチャ。キャラクターモデルは基本的にMayaやZBrushで制作し、輪郭やシルエットを細かく調整して、UE4で最適な見え方になるよう調整している。各キャラクターモデルの制作には2~3ヶ月程度が費やされているという

    • Mayaで表示したモデルのワイヤーフレーム
    • ZBrushでスカルプトされたグレーモデル
    UE4によるレンダリング画像
    Substance 3D Painterで制作したテクスチャ群。アルベド、ノーマル、疑似光沢用、フレネルマスク用、メタリックやスペキュラ、ラフネスのマスクをRGBの各チャンネルに割り当てたテクスチャなど、基本的に5枚のテクスチャで構成されている

    <2>キャラクターに命を吹き込むシェーダとテクスチャ

    アングルやモーションによるルックの変化は3D ゲームの宿命。それでも本作では原画イラストのルックを保つための調整を重ね、「メガテン」らしい独特なルックを生み出した。

    シェーダでアルベドに陰影を焼き込む

    原画イラストに寄せたルックのキャラクターに単純にPBRのシェーダを割り当ててしまうと、人形的なルックになってしまう。その回避策のひとつとして、アルベドにあらかじめシェーダで陰影を焼き込んでいる。シェーダはピクセルの法線とカメラのベクトルの内積から求めたフレネル情報をマスクとして利用し、陰影とリムライトを追加しているという

    原画イラスト
    • 【A】アルベドのみの状態
    • 【B】シェーダを適用
    • 【C】【B】にライティングを追加
    • 前述の【B】の疑似光沢用テクスチャをOFFにした状態
    同じく【B】のフレネルマスク用テクスチャをOFFにした状態。フレネルを部分的にOFFにすることで、陰影の入り込みやすい部分と入りにくい部分をコントロールできるようにしてある

    目鼻立ちを良くする法線調整

    原画イラストの3DCG化で特に難易度が高いのが顔の表現。一般的には顔のポリゴンの法線を平らに調整し、メリハリのある目鼻立ちにする。しかし本作の場合、キャラクターのシェーダにフレネルを使って陰影を生成しているため、角度によって綺麗な陰影が出ない箇所が生じてしまった。そこで、あらかじめ顔の頂点法線の方向を調整してテクスチャにベイク。これにより鼻筋などに綺麗な陰影を生成でき、メリハリのある顔立ちとなった

    • Mayaでの法線調整。左が調整前、右が調整後
    • Mayaで調整した法線をベイクしたテクスチャ
    【左】UE4で表示した頂点法線を直接調整したもの/【右】法線をベイクしたテクスチャで調整したもの。鼻筋が綺麗に通っている

    シェーダで描画する天使の輪

    本作のキャラクターモデルは頭髪のハイライト、いわゆる天使の輪が非常に印象的だ。髪の毛の描画には専用のテクスチャを使用しているわけではなく、髪の毛のメッシュの法線を利用してシェーダで描画している。ギザギザとした不揃いの天使の輪の形状もテクスチャではなく、メッシュのUV情報から縞模様を生成。処理負荷も考慮に入れ、こうした効果はなるべくシェーダで表現するようにしているという

    頭部に現れる天使の輪
    メッシュのUVから縞模様のマスクを生成するためのブループリント

    閉じたまぶたの陰影はテクスチャで回避

    キャラクターのシェーダはアルベドに対して陰影をベイクする仕様。これはボディなどの陰影には非常に効果的だが、例えば、まぶたを閉じたときなど、本来陰影を表示したくない部分にも陰影が出てしまう。そのため、そうした箇所にはピンポイントにマスク用のテクスチャを適用している

    • まぶたを開いた状態であれば問題はない
    • まぶたを閉じた際に陰影をつくりたくない部分に用意したマスク用テクスチャ
    【左】テクスチャ適用前、まぶたの部分に陰影が表示されている/【右】テクスチャ適用後。陰影の表示がなくなった

    髪の毛束はノーマルで補正

    特にボリューム感のある髪型のキャラクターについては、その毛束の表現に苦労した。単純にノーマルマップを作成・適用するだけでは、触手のような形状になってしまったという。そこで、これまでのようなノーマルマップでも頂点法線を使う方法ではなく、シェーダ内で球体状のノーマル情報を作成し、それをブレンドすることで毛束を表現することにした。また、毛束の筋は、髪の筋模様のタイリングテクスチャをブレンドして情報量を増やした

    長髪でボリュームのあるキャラクターの髪の毛
    シェーダによるノーマルの補正前【左】と補正後【右】
    情報量を増やすために使用された筋模様のタイリングテクスチャ
    タイリングテクスチャのブレンドなし【左】とあり【右】
    長い髪のカーブに応じて入る明るいハイライト。Mayaで頂点カラーを設定して分類し、頂点カラーごとに別々のシェーダを設定している

    「Kawaii Physics」プラグインで自然な髪の動きを表現

    ボリュームのある髪については、単純に物理シミュレーションで動かすと髪の毛が暴れやすくなるため、国内開発者である岡田和也氏の開発したUE4で使用可能な疑似物理ホネ揺れプラグイン「Kawaii Physics」(github.com/pafuhana1213/KawaiiPhysics)を採用。これにより移動スピードが速い場合は斜め方向に引く力を加えるなど、リアルな物理法則をベースに意図的な力を加え、自由に髪の毛の動きを演出できるようになった

    • キャラクターが走っているときの髪の毛のふるまい
    • ジャンプしたときの状態
    「Kawaii Physics」の作業画面

    <3>仲魔にしたくなる多彩で個性的な悪魔たち

    ときには敵に、ときには味方となる悪魔は本作シリーズの重要な要素。各悪魔の持ち味となる個性的なフォルムとルックの最適解を探るため、試行錯誤と調整をくり返した。

    悪魔の制作フロー

    悪魔キャラクターの制作フローは、基本的に前ページまでで紹介した人型キャラクターと同様だ。ただし、悪魔は形状から質感まで個性的でイレギュラーな要素が多いため、最適な形状を探るための試行錯誤に時間を費やした

    悪魔「ヒュドラ」のメッシュ。ボーン変形前の状態はこのように胴体から枝状に胴体が分岐するという形状になっている。頂点数は4万程度で、ほかの悪魔もおおむね4万頂点以内
    UE4で表示したヒュドラの完成形。解像度を出すために身体の模様はタイリングで作成されている

    LODは一段階用意

    ハイポリゴンのキャラクターデータは約4万頂点だが、部分的にLODも用意し、使用している

    • ゼウスとのバトル画面
    • 赤く表示された部分は【左画像】の中でLODに差し替わっている箇所。通常ではこれくらいの距離感でLODに切り替えることは少ないが、LODを一段下げても見た目にクオリティの低下がないキャラクターは、このようなバトルステージでもLODを下げて表示している

    悪魔専用マテリアルによる表現

    多種多様な悪魔の特性上、各悪魔専用のマテリアルも多数用意した。これらの表現にはシェーダを活用しているが、こうした個々のシェーダはアイデアをキャラクターに直接反映させることを目的に、モデラーが自ら作成している

    「アナーヒター」の例。水のような質感の髪の毛を表現するにあたり、透過表現を使うと処理がとても重くなるため、テクスチャマッピングで歪めて水が透過しているように見えるよう処理している
    アナーヒターの毛の動きの例。水がうねるような動きはボーンや頂点アニメーションで実現している
    「アモン」の例。目の模様が妖しげに動く
    目のテクスチャ。これをアニメーションさせている

    潜水移動をシェーダで表現

    「マーメイド」には特殊なエフェクトが使われている。水面上に現れているときは岩に座っているが、移動する際には岩が消え、潜水し魚のような影を見せながら泳ぐ

    • マーメイドが水面から出ている状態。岩に座っている
    水中に潜り、移動する際には、岩が消え、魚影が現れる
    移動時に使用するマスク素材。これを地面にデカールして潜水時の影を表現している

    多彩な死亡の演出

    バトル時の各キャラクターの死亡演出は8種類のバリエーションを用意。汎用エフェクトがひとつ用意してあり、消え始めの位置や色などを調整してバリエーションを設定できるよう、マテリアルファンクションが組まれている

    汎用エフェクト
    死亡演出を行うマテリアルファンクションのブループリントノード
    • 「氷結」という死亡演出。汎用のエフェクトに砕けた氷のモデルを加えてあり、瞬間的にモデルを差し替えることで砕け散りながら消えていくというエフェクトになっている
    • 「呪殺」。上から下にキャラクターが消えるよう設定されている
    • 「破魔」。【左画像】とは逆に下から上に向かって消えていくようなエフェクトだ。それぞれの死亡時の属性に応じてエフェクトの設定を変更している

    悪魔の攻撃回避表現

    悪魔キャラクターが攻撃を素早く回避した際には、特徴的なエフェクトが表示される

    • 「ジョカ」の通常の状態
    • シェーダ内に追加された、回避エフェクトが発動した状態
    回避エフェクトの内部。ワールド空間のピクセルの位置からこのようなマスクを作成し、そのマスクに力を加えることでランダムにピクセルを伸ばしている

    TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada