2025年7月30日(水)荏原製作所は、ゲーミフィケーション技術を採用した製造DXプロジェクト「EBARA-D3™(エバラディースリー)」を発表した。本プロジェクトでは、『首都高バトル』シリーズなどで知られるゲーム開発会社・元気が実装支援を担い、「人を主役としたデータ化」に関する技術協力を行っている。
製造業におけるDX推進の中で、ゲーム開発の技術や知見を取り入れる点が特徴であり、その取り組みは高く評価されている。今回、「データマネジメント賞2026」(一般社団法人 日本データマネジメント・コンソーシアム主催)および「DXイノベーション大賞2025」(一般社団法人日本オムニチャネル協会主催)を受賞した。
なぜ製造業にゲーム開発の力が求められるのか。その背景や狙いについて、中核メンバーへの取材から探る。
プロフィール
佐藤貴之氏
事業本部長/CTO
佐藤孝年氏
新規事業部長
関口和男氏
エンジニアマネージャー(フロント)
窪田光紘氏
エンジニアマネージャー(サーバ)
工場内のあらゆるデータを 収集・管理し、UE5で再現
「EBARA-D3™」は、ナレッジ統合基盤「Beyondverse™(ビヨンドバース)」と、技能伝承・教育体系システム「DOJO™(ドウジョー)」という2つの中核プラットフォームで構成され、工場全体の3D化、ロボットアーム操作UIの統合、遠隔視察などの実現が目的のプロジェクトだ。元気では「Beyondverse™」の開発と「DOJO™」のUnreal Engine(以下、UE)に関わる部分を担当している。
「工場のあらゆるデータを集約して危険を予知したり、作業の無駄を省いたりすることを目的としています。収集した細かいデータを分析し、UEに集約することでメタバースとして再現が可能になります」と語るのは、事業本部長/CTOの佐藤貴之氏。
ゲーム開発会社の元気がデジタルツイン事業に乗り出した理由について、「市場の変化に伴い、ゲームの受託開発だけではラインが止まるなどの問題がありました。そこで安定的な収益構造をつくれないかと考えていたところ、荏原製作所さんとご縁があり、デジタルツインに参画したという経緯です」と新規事業部長の佐藤孝年氏は語る。
実際、ゲーム開発と製造業のデジタルツインにおいて、開発フローにちがいはほとんどなく、ゲーム開発で培った技術を十分に活かせたという。ただ、「前提となる知識がまったくちがうので、丁寧に情報を収集し、慎重に作業する必要がありました」とエンジニアマネージャー(フロント)の関口和男氏。また、エンジニアマネージャー(サーバ)の窪田光紘氏は「機器ごとに使っている通信規格が異なる上、ロボットアームの滑らかな動きの再現など苦労が多かったです」と語った。
約100名が在籍する元気だが、デジタルツイン事業には20名ほどが関わる。「生産ラインをメタバース空間で再現することで、かなりの効率化が図れます。今回の実績を基に製造業に限らず、何でも挑戦していきたいと思っています」と佐藤貴之氏は今後の展望を語った。
「Beyondverse」のデータフロー
「Beyondverse」のおおまかなデータフローを示す。6軸ロボットアームなど工場内のFA(Factory Automation)機器の情報をIoT Data Share経由で収集し、UEで再現する部分を元気が担当。そのほか姿勢推定AIを用いて映像から作業姿勢の骨格認識を行なったデータや、リアルタイム位置測位システムで取得した、工場内の人の位置情報もUEに反映できるしくみとなっている。
工場のFA機器のデータ集約
工場内FA機器のデータ可視化のながれ。各種FA機器の情報をIoT Data Shareで収集し、MQTTという通信プロトコルを通じてオープンソースのデータ可視化プラットフォームで可視化する。工場内では複数メーカーの6軸ロボットアームが使われているが、メーカーごとに通信規格が異なる。その上、角度の情報を高頻度で転送する規格ではなかったため、6軸アームの動きがコマ落ちしてしまうという問題があった。荏原製作所側からは正確な動きの再現を求められていたので、工場のシミュレータ(各メーカーが用意している6軸アームの動きを設定するためのソフトウェア)と同じPC上で独自開発のデータ収集用ソフトウェアを実行し、そこからIT基盤へ高速な産業プロトコルを使ってデータを送信するように処理を変更して解決した。
工場内の3Dモデル化
工場内の3Dモデル化のながれ。今回対象となった工場は300m×200m以上の広さがあり、なおかつ複数フロアに及んだ。工場の稼働を止めてレーザースキャナで測量することは現実的ではなかったため、CADデータを使って3Dモデル化を実施。しかし、CADデータの種類が多かった上、元気ではDCCツールとしてMayaを主に使っているが、非対応のファイル形式があったため、一部3ds Maxを使わざるを得ないという苦労もあった。制作に使用したPCはゲーム開発と同程度(RTX 5060、4060など)のスペックで問題なかったという。クライアント側はクラウドを使用するならば同程度のスペックは不要だが、将来的にはアセットの最適化も考えているとのこと。
TEXT_園田省吾(AIRE Design)