2022年1月にボーンデジタルから発刊された『ゲームの衣装デザイン~歴史・文化から物語をつくる~』より第4章の部分を抜粋して公開。

記事の目次

    ゲームの衣装デザイン
    ~歴史・文化から物語をつくる~

    著者:Sandy Appleoff Lyons
    定価:3,520円(本体3,200+税10%)
    発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
    ISBN:978-4-86246-520-7
    総ページ数:152 ページ
    サイズ:B5判、4色

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    基本的なデザインの要素および原則

    デザインは衣装の心臓部であり、伝えたいあらゆる視覚情報を表します。2章「スタイルシート」では、レイアウトや情報の並べ方について見てきたので、ここでは、基本的なデザインの要素および原則を衣装に当てはめながら検討しましょう(図4.1)。

    図4.1
    Rachel Skinner
    古代ギリシャ(紀元前800 ~ 紀元前300 年)とスキタイ(紀元前600 ~ 紀元前300 年)

    私が初めて教鞭をとったのは、1983年のファッションイラストの講義でした。大学を卒業したばかりで、教職という新しいチャレンジに燃えており、3つの「C」という採点方式を使うことにしました(シラバス/講義概要の一部は、卒業生が教職に就く際に出版されたので、他のイラストやデザインの書籍でも目にする機会があるかもしれません)。この3つの「C」とは、コンセプトConcept)、構成Composition)、クラフトCraft)のことであり、最後にColor)も加えました。


    本書では、斬新な衣装デザインにつながる問題解決プロセスとして、「コンセプト」開発に焦点を当てます(「構成」はデザインのあらゆる要素と原則を衣装に適用することであり、「 クラフト」はそのデザインの実装レベルのことです)。


    3つの「C」の評価基準はその後も進化していき、時間と共に新たな市場やネットワークが登場すると、私の衣装クラスのターゲットはゲームや映画関連の業界にシフトしました。これは演劇にも応用できますが、舞台やコスプレの衣装を実際に制作するには、仮想ではなく、実物の制作知識が必要になるため、本書では触れていません(もし興味があるなら、現在は衣装をデジタルで作成し、3Dプリントするテクノロジーがあるので注目するとよいでしょう)。


    この章で取り上げる情報や衣装そのものを考察する前に、まず、衣装にまつわる「ストーリー」について見ていきます。


    革新的な衣装の優れたデザインには、さまざまな要素が含まれています。そして、デザインの基本要素と原則は、構造(仕組み)から2D/3Dに至るまで、どのようなデザインにも当てはまります(衣装の場合、一部の基本要素と原則をより多く取り入れてます)。


    最初に検討する4つの要素は「形とフォーム」「」「色/明度」「テクスチャ」、5つの原則は「プロポーションとスケール」「バランス」「統一感(調和)」「リズム」「焦点と動き」です。 最後に追加で検討するならば「動きとパターン」です。

    形とフォーム

    シェイプランゲージとは、さまざまなフォームに対する心理的な反応のことを言い、個性や外見と関連して考慮されます。その衣装を着ている人は、見る人に何を伝えようとしていますか? 観客が誰であれ、形とフォームは見る人の潜在意識に作用し、メッセージを伝えます。

    以下はその例です:

    円形:女性らしさ・愛情・友情・保護・思いやり

    縦方向の形と線:力・勇気・支配・男性らしさ

    正方形/長方形/三角形:力・安定性・強さ

    横方向の形と線:平和・落ち着き・静けさ

    鋭角の形と線:エネルギー・怒り・爆発・熱狂

    有機的な形と緩やかな曲線:幸せ・女性らしさ・動き・喜び(図4.2)

    図4.2
    Tayler Olivas

    衣装の線について考える場合、目の動きや衣服全体の印象を参考にすることが多いです。たとえば、ひだ・ディテール・パターン・トリム(縁飾り)に強い縦線があると、目は衣服を特徴づけているその方向を追いかけます。

    線そのものは、空間を移動する点によって定義されるアートの1要素ですが、衣装の線は「知覚における目の動き」や「衣装の属性」に関連しています。例を挙げると、直線・曲線・明確な線・薄い線・縦線・横線・斜線などがあります。衣装を描くときは、任意の幅やテクスチャを使ったり、制作者が伝えたいディテールを表すために実線・暗黙の線(implied line)・破線を使ったりします。

    テクスチャ

    衣装のテクスチャは表面の感じ方や知覚を司り、ある要素に注目させたり、遠ざけたりします。金属製のボタンの繰り返しは、視線を上下に引き付け、ゆったりしたスカートのベルベットの塊に見とれさせるでしょう。また、粗い/滑らか/金属/ベルベット/ガーゼ/革などの質感を表して、衣装にさまざまな特性を与えます(図4.3)。

    プロポーションとスケール

    要素同士の相対的なサイズを利用すると、焦点に注目を集めることができます。巨大な塊の隣に小さい平坦な形があると、最初に大きな塊を見る可能性が高いでしょう。ある要素が実物より大きくデザインされているときは、演出のためにスケールが利用されています(図4.4)。

    バランス

    バランスは、「均衡のとれた状態、張力が均等になっている状態」と定義されています(図4.5)。それは空間や形の区分によって対称にも非対称にもなり、デザインに安定感を与えます。ときには、多数の小さな形と1つの大きな形でバランスを取ることもあるでしょう。バランスの取り方によって、活力や落ち着きを生み出すことができます。もしデザインのバランスが取れてなくても、それはデザインが間違っているのではなく、着ている人の個性に関係しているかもしれません。

    図4.3
    Ryan Savas
    キエフ大公国と中世後期
    図4.4
    Bryant Koshu
    図4.5
    Grace Kim
    アシャラ - ペルシャとエジプト(紀元前3100 〜紀元前330 年)

    統一感(調和)

    これはバランスと結びついているので見極めが難しく、常に利用するものではありません。その用途を理解するには、形・パターン・モチーフ・ディテールを相互補完的に組み合わせ、デザイン全体のバランスを取ります。色に関しては、色彩理論で習うカラースキーム(配色)のいずれかになるでしょう。すべての要素が調和するとき、そのデザインは統一感があると見なされます。デザインにおいて、全体より個々のパーツが重視されることはありません。混沌としたデザインや活気のないデザインを避けるには、統一感と多様性の間でバランスをとりましょう。


    デザイナーが焦点をコントロールする場合、全体的な統一感を望まないこともあるかもしれません。たとえば、何らかの不調和音を求めて相反する色や形を使い、見る人を落ち着かない気分にさせるなど。

    リズム

    これはデザイン要素を繰り返して動きを感じさせることで、ムード(雰囲気)を作ります。リズムは目を誘導するのに最も効果的なツールの1つで、オブジェクト/ディテールの繰り返しや、布地のパターンの中にも存在します(図4.6)。

    焦点

    目を引きつけるものです。対照的なサイズ・配置・色・明度の範囲・スタイル・形で優位性を生み出します。焦点を設定するときは、全体の統一感を損なうことなく、スケールとコントラストでデザインを支配しなければいけません(図4.7)。

    動き

    これは衣装を見たときに感じられる(あるいは実際に衣装が生み出している)方向性・リズム・スピードのことです(図4.8)。たとえば、風の影響を受ける空中のオーガンザ(薄地で透けて見える平織物)は、デザインに動きを与えるでしょう。それは、目の通り道かもしれません。ジャズエイジに見られる動きを感じさせる衣装パターンや、古代ローマのトガに表れる垂れた縦線も、見る人の視線を導きます。

    図4.6
    Jino Rufino
    シャンデ – 中世後期と明朝( 西暦 1369〜 1644 年)
    シャンデはヨーロッパの悲惨な状況から海を渡って逃れ、明朝の最盛期に傭兵として生きることを選択。戦闘を続ける一方で、中国の文学、演劇、ハイカルチャーの世界に身を投じます。そして、神に頼らない文化や社会のあり方へ傾倒していき、出世街道を歩む軍人としてのキャリアを捨てます。彼は常人の4 倍の身体強度に加え、理解力と精神力の強さも兼ね備えています。軍隊よりも演劇や文学に親しんでいたため役人としばしば対立し、仲間になるか死ぬかのどちらかを迫られ、暴力を振るわれることもありました
    図4.7
    Talesin Jose
    イタリア ルネサンスとベトナム ル王朝
    図4.8
    Brittany Rolstad
    ルネサンスと中国(西暦1360 ~ 1600 年)

    それぞれのデザインは1つの「構図」であることを思い出し、基本原則を適用してください。私たちの目的は鑑賞者を「旅」に導くことです。あなたの星座の中で、星はどこにありますか? それらはデザインの中でどのような役割を果たし、多様性を生み出していますか? デザインの目的は何ですか? 身につけている人にどう役立ちますか? どんなメッセージを伝えるべきですか?

    ここで意味を持ってくるのが「ストーリー」です。だらしない・きれい好き・注意深い・冒険好き・恥ずかしがり屋・大胆・ずる賢いなど、キャラクターのあらゆる側面を考えてみましょう。衣装で見る人(プレイヤー)のモチベーションを上げたり、認識を変えたりすることができます(変装することも、しっかり目立たせることもできます)。

    レイアウトデザインに関する多くの原則や要素は、衣装デザインにも当てはまります。しかし、衣装には私たちが知っている/想像できる世界があり、それは衣装とそれを着る人物にも影響するでしょう。その「ストーリー」は衣服と同様に、手軽なツールの役割を果たすかもしれません。ここで重要なのは、衣装をまとったキャラクターがレイアウトの2D世界を飛び出し、ゲームや映画の3D世界に踏み出すことです。

    歴史を年代別に分けて作った最初の土台があれば、良いスタートを切るのに最適なたたき台となるでしょう。リズムをつかめれば、独自のデザイン制作を開始できます。

    制作プロセス

    リサーチを始めるときは、あなたが選んだ文化の衣服のモチーフ・パターン・形・影響・機能に特に注意を払ってください。本書で取り上げる文化とあなた自身でリサーチした文化との差異は、大きければ大きいほどよいでしょう。そして、リサーチした衣装を見ながら、それを分解します。ある文化からかっこいい胸当てや靴を選び、別の時代の衣服と組み合わせるだけではいけません。まずバラバラにして、できれば生地以外の素材にも目を向けましょう。そういった素材を繰り返し使い、まったく異なる物を作ることだってできます。

    たとえば、貝殻のネックレスやヤシの葉で織られた衣服といった「ポリネシアの文化」を考えてみましょう。葉の肩飾りの付いたシェルビーズのマントを分解し、1900年代初頭の衣装として再構築すると面白いかもしれません。このようにリサーチ・分解・応用していけば、どんな文化にも、独自デザインに取り込めるさまざまなシェイプランゲージやモチーフがあるとわかります。

    デザインにアクセサリーを足すことは「ケーキのアイシング」であり、衣装を華やかにしてくれます。そして、そのかわいい飾りには役目があります。ケーキのアイシングは食欲をそそるためのものですが、衣装のアクセサリーはストーリーを完成させるためのものです。ストーリーでキャラクターの役割をもっと明確に描写するには、何が必要ですか? その社会で、貴族や貴婦人にとってふさわしい装いは何でしょうか? スカーフ・ハンドバッグ・銃・剣・携帯用の櫛・タトゥーなどの装飾を用いて、見る人にキャラクターをもっと詳しく知ってもらいましょう。

    書籍情報

    ゲームの衣装デザイン
    ~歴史・文化から物語をつくる~

    著者:Sandy Appleoff Lyons
    定価:3,520円(本体3,200+税10%)
    発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
    ISBN:978-4-86246-520-7
    総ページ数:152 ページ
    サイズ:B5判、4色

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