2017年7月31日(日)から8月3日(木)までの5日間にわたり、米ロサンゼルスで「SIGGRAPH 2017」が開催された。CGWORLD.jpでは、今年も数回に分けてレポート予定だが、まずは全体的なトピックをふり返る。

TEXT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)



SIGGRAPH 2017 - Conference Overview

<1>最新の英知をキャッチーに伝えるための取り組み

今年で第44回目をむかえた世界最大のコンピュータ・グラフィックならびにインタラクティブ関連技術のカンファレンス「SIGGRAPH」。ロサンゼルスでの開催は2015年以来の2年ぶりとなるが、昨年のアナハイムよりも様々なかたちで盛り上がりを感じることができた。近年、規模的には縮小傾向にあるSIGGRAPHであったが、そうした逆風の下、今年は学会/技術カンファレンスという核は堅持しつつ、コンテンツ制作の基礎となるファインアートを題材としたプログラムも用意することで、従来以上に幅広い層への参加を促していたようだ。
その代表と言えるのが、Production Galleryである。Computer Animation Festival(CAF)にならぶメインプログラムProduction Seesionsの一環として設けられたものであり、Production Seesionsの各講演で紹介される作品をはじめとする商業作品のアートや美術の展示が行われたのだ。

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

image courtesy of ACM SIGGRAPH

「Production Gallery」におけるSony Pictures Imageworks展示の様子。日本勢からは『FINAL FANTASY XV』のアートやマケットが展示された


基調講演にはディズニー初の黒人アニメーターとして知られるフロイド・ノーマン/Floyd Norman氏が登壇。そのほかにも実物の子供キリンを被写体にするドローイングのワークショップが目玉企画としてメディアに紹介された。
こうした一連の取り組みは、来場者数16,500名以上(8月3日(木)の速報値)という確かな成果につながったと言えよう(過去3年は1万4,000台にとどまっていた)。

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

image courtesy of ACM SIGGRAPH

SIGGRAPH 2017カンファレンス・チェアを務めた、ジェローム・ソロモン/Jerome Solomon氏(コグウェル大学学長)。ILM(Industorial Light and Magic)、DreamWorks Animation、Electronic ArtsそしてRhythm & Huesにおける20年近くのキャリアをもち、7月30日(日)の夜に催されたThe Foundryのユーザーミーティングにも登壇するなど、北米CG・VFX業界と強いコネクションを有していることが窺えた


各種プログラムでは、今年もVR/AR関連が目についた。VR Villageチェアを務めたデニス・ケネル/Denise Quesnel氏によると、応募総数149のうち114が一次選考を通過、最終的に18が選出。それにキュレーションによる5つを加えた23の展示が設けられた。審査の際は、多様性とアプリケーションのバランスを重視したそうだ。

その中で特に目を引いたのが、キュレーション展示の"MEET MIKE"だ。これはfxguide共同創設者であり、The University of Sydney Business Schoolの準講師も務めるマイク・シーモア/Mike Seymour氏が、Unreal Engine(UE)を開発するEpic Gamesと共同で研究開発したプロジェクトである。

Meet_Mike_PressPromo_WithGFX_073117_24_SUPER from fxguide on Vimeo.

Lightstageでシーモア氏の顔をスキャニング(Wikihuman Projectの一環として)。眼球のスキャニングとそのリアルタイムレンダリングはDisney Zurich Researchが協力。グラフィック描画とリアルタイム処理にはカスタマイズされたUEを利用。そしてフェイシャルトラッキングとその解析は、Cubic Motion、フェイシャルリグは、3Lateralという、昨年のREAL-TIME LIVE!で優勝した『Hellblade』チームの面々が名を連ねる。さらに、スキンシェーダには中国のTencentとのパートナーシップで開発された最新のものを用いるといった具合に、最先端のデジタルヒューマン技術が駆使されている。

MEET MIKEリアルタイムVRデモの様子。会期中は、マーク・サガー/Mark Sagar氏をはじめとする大物ゲストがLoom.aiが作成したアバターとなり、シーモア氏とのVR空間でのインタビューを連日披露するという力の入れようだった

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

MEETMIKEブース全景。機材としては、カスタマイズを施したHTC ViveとRAM32GB、NVIDIA GTX 1080Tiグラフィックスボードを搭載したPC 9台から成るシステムで運用したという

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

CAFプログラムとして今年新たに設けられた「VR Theater」。前回は「VR STORYLAB」という名でストーリー性のあるVR作品をOculus Riftで体験できるコーナーを、動線と視聴環境をシアターという名にふさわしく整備したものと言える。AとB、2種類のプログラムが用意され、今年のトライベッカ映画祭でも上映された『Under a Cracked Sky』(The New York Times)などを観ることができた

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<2>GPUとAIがデジタルコンテンツを進化させる

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<2>GPUとAIがデジタルコンテンツを進化させる

Technical Paperは、439の応募から126を採択(採択率28.7%)。今年も様々な研究成果が発表されており、Playful Palette: An Interactive Parametric Color Mixer for Artists(描いている絵の色調に応じてインタラクティブに使いやすいカラーパレットが生成される技術)のようなすぐに実用化を望むものに加えて、ディープラーニングに関するものも目についた。

SIGGRAPH 2017 : Technical Papers Preview Trailer

SIGGRAPH 2017 Technical Papers Image Texture & Completion
早稲田大学 利口学術院総合研究所のメンバーが発表した「Globally and Locally Consistent Image Completion」は、インターネット上の膨大な画像から機械学習によって欠けているイメージを再現するというもの。デジタルコンテンツに応用すると面白そうである(発表は、1:22:00過ぎから)


DCC(Digital Contents Creation)におけるAIの活用について積極的だったのがNVIDIAだ。全世界で2,500万人存在するデジタルコンテンツ制作者向けに提供するグラフィックスボードならびに各種SDKに対してAIを採り入れることで、より高いパフォーマンスを提供できるとして、今年も展示ブースにおける各種デモから技術論文の発表まで様々な動きをみせていた。

SIGGRAPH 2017: NVIDIA News Highlights

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

7月31日(月)午後に開催されたプレス向け発表会スライドより。(図・左)レイトレーシングエンジンOptix 5.0では、レンダリングにAI技術を採り入れることで高速化、NVIDIA DGX Stationで実行すれば標準的なCPUベースのサーバ150台分のパフォーマンスを発揮(※参考リンク)/(図・中)多人数同時参加型のVRコラボレーションシステムHolodeck。SIGGRAPHでは、ロボットAI学習シミュレータIsaacを組み合わせて来場者とVR空間でドミノで対戦するデモを披露した/(図・右)新製品のQuadroシリーズを外付けできるグラフィックスボックス「eGPU」(後述)

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(左)TITAN X並びにQuadroシリーズを搭載できるeGPU(External GPU)。MAGMAやSonnet Technologiesなどのパートナーから複数の製品が発売予定とのこと/(右)eGPUの開発根拠となるデータ。デスクトップ用GPUとノートブック用GPUとでは、2017年現在ではパフォーマンスに約7倍の差が生じているという

Audio-Driven Facial Animation by Joint End-to-End Learning of Pose and Emotion
Remedy Entertainmentが保有する膨大なアニメーションデータ、NVIDIAのGPUおよびディープラーニング技術を用いて、生身の俳優の動画から直接フェイシャルアニメーションを作成するためのトレーニングをニューラルネットワークに実行。約5分間のトレーニングが済んだネットワークでは、シンプルな動画ストリームからゲーム全体に必要な全てのフェイシャルアニメーションを自動的に生成できるとした


一方、ライバルのAMDは、SIGGRAPH初日の7月30日(日)夜に、ユーザー向けイベント「Capsaicin」(カプサイシン)を開催。NVIDIAが近くリリース予定の製品やサービスの紹介が中心だったのに対して、Radeon(GPU)とRyzen(CPU)の新製品を具体的に紹介していた。

AMD Capsaicin at Siggraph 2017

本イベントで興味深かったのが、メインパートのプレゼンテーションを務めたRadeon Technologies Groupのリーダーであるラジャ・クドリ/Raja Koduri氏が呼ぶかたちで主要DCCツールメーカーのトップが続々と登壇したことである。最初に登場したのは、Epic Games創業者であり、UEチーフアーキテクトのティム・スウィニー/Tim Sweeney氏。続いて、CINEMA 4Dを開発・販売するマクソン・コンピューター米国支社CEOのボール・バブ/Paul Babb氏、そしてRED RED Digital Cinema(以下,RED)のCEO、ジャレッド・ランド/Jarred Land氏が壇上に姿を見せた。

ティム氏とのやりとりは、ラジャ氏がリアルタイムグラフィックスで業界を牽引するEpic Gamesへの感謝のしるしとしてRadeon RX Vega 64のNano版(試作モデル)や当日に発表されたばかりのRyzen Threadripperをプレゼントするというパフォーマンスであったが、C4DとREDについてはAMD製品を用いることのメリットを具体的なデモを交えて紹介していた。

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

Ryzen Threadripperをプレゼントされ、笑顔をみせるEpic Games/ティムCEO

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

RED Digital/ランドCEOとのやりとり。当日発表されたSSD搭載グラフィックスボード「Radeon Pro Solid State Graphics(SSG)」を用いることで、8KサイズのR3Dファイルがコマ落ちせずに再生されるデモを披露した。SSGは、2TBという大容量SSDを搭載していることもあり、価格は6,999米ドルと、なかなかのインパクトだ

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<3>独Filmakdemie学生作品がCAF最優秀賞を獲得

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<3>独Filmakdemie学生作品がCAF最優秀賞を獲得

「Computer Animation Festival(CAF)」は、昨年の路線を継承するかたちだったと思う。CAFのメインプログラム「Electronic Theater(ET)」では、今年も昨年と同じく25作品を厳選し、各賞もデフォルトの3種類(最優秀賞、審査員賞、優秀学生プロジェクト)であった。ただ、例年は日中に上映されていたET選外から選ばれたデイリーが今年は行われなかった。その代わりにVR Theaterが新設されたと解釈できるが、VR Theaterで一度に体験できるのは20名ほどなので、CAF目当ての参加者は物足りなかったかもしれない。

SIGGRAPH 2017 Computer Animation Festival Trailer

そんなCAFで印象的だったのが、フィルムアカデミー・バーデン=ヴュルテンベルク/Filmakademie Baden-Wuerttembergの学生チームの作品が最優秀賞を獲得したことである。同校は、ドイツを代表する名門であり、ETの常連なのだが、改めて欧米の映像美術学校の教育水準の高さを実感した。
そう感じた背景には、日本勢が1作品も入選できなかったことがあるのかもしれない。もちろん、『FINAL FANTASY XV - Omen』トレイラーがETに選ばれたが、本作のアニメーション制作はハンガリーのDigic Picturesである。

今年の最優秀賞(Best In Show)に輝いた、『Song Of A Toad』のメイキング動画。キャラクターアニメーションやカメラワークのベースをあえてアナログのパペットアニメーション技法を用いて、それをデジタルで再現するというユニークなアプローチが採られた。Making Of - Song Of A Toad from Kariem Saleh on Vimeo.

審査員賞(Jury's Choice)に輝いた、John Lewis Christmas Advert 2016『Buster The Boxer』キャンペーン映像。MPCによる、躍動感あふれる動物たちのCG・VFXが実に見事だ

最優秀学生プロジェクト(Best Student Project)に輝いた、『Garden Party』Trailer。仏MOPAの学生チームによるブラックユーモアの効いた作品である

8月1日(火)から4日(木)までの3日間にわたり開催されたExhibition(企業展示)では、53の企業が初参加。そのうち、日本からの初参加は日本カーバイド工業、東京エレクトロン デバイス、そしてModelingCafeのバンクーバー支社の3社であった(後述)。

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

image courtesy of ACM SIGGRAPH

今年もNVIDIAがひときわ大きな展示スペースを設けていたほか、今年3月上旬にThinkbox Softwareを買収したAmazonが、同製品のブースに加え、ゲームエンジンLumberyardのブースもかまえており、存在感を放っていた。

SIGGRAPH 2017ダイジェスト

Amazon傘下としての初出展となったThinkbox Softwareブース。SIGGRAPHに合わせて、ディスパッチャーとして日本でも定評あるDeadline バージョン10の発表を行なった。新バージョンではAWSとの連携を強化し、クラウドレンダリング機能の利便性が向上する見通しだ

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(左)Exhibitionの新コーナー「THE GARAGE」。創立3年以内の企業を対象に(※その他にも規模、提供製品やサービス等が審査基準となる)、破格でスペースを提供するというもの。今回は13のプロダクションやベンダーが出展していた/(右)THE GARAGEで出展した、ModelingCafeバンクーバー。同社COOの長 勝博氏(向かって左)は、SIGGRAPHを通じて自分たちの表現・技術力を知ってもらい、北米の案件を日本でも手がけられるようにしたいと意気込みを語ってくれた

ちなみに日本人の活躍という意味では、Phase-Functioned Neural Networks for Character ControlというTechnical Paperも必見だ。現在はMethod Studiosで、Senior Character R&Dとして活躍する齊藤 淳氏が、エジンバラ大学 博士課程のダニエル・ホルデン/Daniel Holden氏、同大学のコムラ タク/Taku Komura准教授と共同で発表した、起伏の激しい地形上を自然な歩行/走行アニメーションを可能にするリアルタイム制御メカニズムに関する研究である

来年のSIGGRAPHは、2018年8月12日(日)から8月16日(木)にわたり、バンクーバーでの開催が決定している。ぜひ、今回の盛り上がりを持続させ、その先の発展へとつながることを期待したい。

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info.

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  • SIGGRAPH 2017
    会期:2017年7月31日(日)〜8月3日(木)
    場所:Los Angeles Convention Center
    主催:ACM SIGGRAPH

    公式サイト