「クリエイティブな仕事の博覧会。」をテーマに、ゲーム、アニメ、音楽、映像など、エンターテインメント分野の企業が一堂に会する就職イベント「クリ博就職フェスタ」が、2月26日(火)に都内の新宿NSビルにて開催された。当日は50社以上の企業がブースを出展。大学生や専門学校生に仕事内容を説明し、相談会も行われた。各ブースには開場後すぐに多くの学生が集まり、エンターテインメント業界を目指す熱意が伝わってきた。

同イベントでは、他にも「個別企業セミナー」と題し、各業界を代表する企業を招いて講演会を実施。中でも、日本を代表するゲームメーカーであるスクウェア・エニックスのセミナーには、300人以上の学生が参加した。ここでは、ゲーム業界の最前線を知る貴重な機会となった同セミナーの様子をレポートする。

TEXT&PHOTO_水溜兼一 / Kenichi Mizutamari(Playce
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

業界の変化に対応し、多彩な事業を展開

「スクウェア・エニックスのエンターテイメントな仕事たち」というテーマで行われた講演では、『ファイナルファンタジー』など人気タイトルの制作に携わってきたクリエイティブ・プロデューサーの時田貴司氏が登壇。チャレンジ精神を大切にしている同社の仕事を紹介し、自身の経験も交えながら、必要なスキルや求めている人材について熱弁をふるった。ゲーム開発のトップランナーである時田氏の話に、学生たちは皆、真剣に耳を傾けていた。

『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』をはじめ、多数の人気シリーズを手がけるスクウェア・エニックスは、日本のゲーム業界を牽引する存在で、コンシューマーゲーム、ソーシャルゲーム、アーケードゲームなどを幅広く開発。VRやARなどの分野にも注目している。さらに、ゲーム関連書籍やコミックなどの発行を行う出版事業や、IP(知的財産)を活用したキャラクターグッズ、音楽CDの販売、コンサートの企画運営等を行う「ライツ・プロパティ等事業」なども展開している。

  • 時田貴司氏(スクウェア・エニックス)
    プランナー、ディレクター、プロデューサーなどを歴任し、『ファイナルファンタジー』、『半熟英雄』『ナナシ ノ ゲエム』など、多数のヒット作を手がける。ゲーム環境が大きく変化する中で、30年以上ゲーム開発に携わっている

ゲーム開発に関わる職種紹介では、プロジェクト全体を指揮するプロデューサーから、ディレクター、プランナー、プログラマー、デザイナー、サウンド担当まで、1つ1つの仕事内容を解説。各職種が連携して作品がつくられていることを理解することができた。時田氏は、それぞれの職種の中で仕事が細分化されていることも伝えた。「例えばプランナーなら、シナリオ、システム、ユーザーインターフェイスを考える人はそれぞれ異なります。デザイナーは、キャラクターや背景、メカなど、各デザインのノウハウがちがうので、こちらも担当が分かれていることが多いです」。

また、デザインの領域では、爆炎や閃光など特殊なグラフィックであるエフェクトの重要性が増していることも強調。「例えば爆炎なら、炎や光、煙などを組み合わせて、いかに視覚効果を出すかということが求められます。 エフェクトは重要な演出要素ですが、入社前にエフェクトについて勉強している人は少なく、専門学校でもほとんど教えていません。興味がある人は今から学んでおくと、その知識が現場で大いに役立つと思います」。

さらに時田氏はゲーム開発以外の様々な部署について紹介。中でも、各国の文化や歴史などを踏まえてゲームの翻訳を行う「ローカライズ部」や、モノづくりの権利を守る「法務・知的財産部」の話は興味深い。「グローバル化が進み、世界を視野に入れてゲーム開発を行なっている弊社では、ゲームを全世界で同時発売することが増えています。国によって文化はちがいますから、ストーリーを大切にしながら、その国に合わせた表現をすることは重要です。また、これだけ世の中にゲームが溢れている今の時代は、新たにゲームを開発すると、他の作品とどこか類似する部分が出てくるケースも多い。その場合、ストーリーから技術的なつくり方の部分までチェックして、オリジナルであることをきちんと立証する必要があります」。これらの部署以外にも、スクウェア・エニックスには、宣伝や営業、品質管理など、たくさんの部署がある。そのような仕事にも目を向けて、ゲーム業界で自分が活躍できる分野を見つけて欲しいと時田氏は語った。


ゲーム開発の現場で一番求められるのは「個性」

ゲーム開発を志す学生にとって、現場で求められるスキルや経験は、気になるところだ。時田氏は次の3つを特に強調した。

1つめは、「共同制作の経験」だ。「ゲーム開発は様々な職種がアイデアを出し合い、協力してつくり上げていくプロジェクト、すなわち共同制作です。ですから、学生時代に共同制作の経験を積んでおくと必ず役に立ちます。僕の場合は、若い頃に声優になりたくて演劇をやっていました。当時は、演じるだけでなく、脚本、演出、音響、宣伝なども仲間と分担して行なっていました。共同制作の中でいろいろな役割を体験することで、1つのプロジェクトを様々な角度から考えることができました。みなさんも、演劇に限らずバンド活動や同人活動でも良いですし、学校なら文化祭や体育祭といったプロジェクトの委員に挑戦するのも良いと思います。もちろんアルバイトでもかまいません。他の人とチームを組み、目標に向かって共同制作を行う経験から学ぶことは多いと思います」。

2つめは「コミュニケーション力」だが、これについて時田氏は持論を展開。「コミュニケーション力とは、レスポンス力だと思います。仕事をしていく上で迷ったり困ったりしたら、こちらからの問いかけに黙らず、きちんとレスポンスをすることを心がけてほしい。多くの人が関わるゲーム開発では、1人の手が止まっただけでも様々な部署に影響が出ます。ですから、困ったら相談して連携することが大事です。迷っている時間はもったいない。常に動きながら、問題を解決していくことが大事」と語った。

そして3つめは「個性」で、時田氏はこれが一番必要だと言う。「プロジェクトを成功させるためには、様々な個性が必要です。個性と言うと、自分の得意な部分のことを考えると思いますが、意外と自分でコンプレックスを感じている部分や、ネガティブに捉えている性格が個性になることも多いのです。例えばせっかちな人はジャッジが早いということかもしれないし、臆病な人は慎重であるとも言えます。僕は天邪鬼なところがあるのですが、人とはちがうことをやってやろうという気持ちをパワーにして、様々な企画を生み出してきました。自分の欠点をいい意味で個性として活かしていくと、これからの時代を強く生き抜けるのではないかと思います。そして、粗削りでもいいから、丸まらないでほしい。これだけは他の人に負けないというものを磨いてほしいですね」。


さらに、求めている人材について時田氏は、ゲームが好き、スクウェア・エニックスで働きたいという以上に、自分はこういう企画をやりたい、会社をこう変えたいという意見を提案できる人を挙げた。「新しいモノをつくりたいという意欲に燃えている人がいると、僕たちも大変希望が湧いてきます。自分の提案がすぐには通らなくても、面白い企画には仲間が集まってきて、トライするチャンスがやってくるでしょう。ゲーム開発において、『やりたいこと』、『できること』、『求められるもの』が全て揃うことは、僕の経験をふり返ってもなかなかありません。でも、やりたいことができたり、自分にできることが求められたりしたら楽しいし、評価してもらえます。まずは、『やりたいこと』か『できること』のどちらかをつくっていくべきだと思います」。

時田氏の講演を通して、個性を大切に、粗削りでも良いから自分の提案をどんどん行なっていくことが、ゲーム開発において大切なことを感じた。トップクリエイターの熱のこもった話に、学生たちもゲーム業界で活躍したいという思いが一層強くなったことだろう。

  • 「クリ博就職フェスタ」
    開催日:2019年2月26日(火)
    時間:10:00~18:00(開場9:30)
    会場:新宿NSビル NSイベントホール(地下1階 全ホール)
    参加対象:2020年卒業予定の大学生・大学院生・専門学校生
    参加費:無料(事前登録制)
    www.kurihaku.jp/2020/event/show/id/59