2020年12月12日(土)、モーショングラフィックスファンが毎年心待ちにしているイベント「Motion Plus Design WORLD」が開催された。今回はコロナ禍において初の完全オンライン開催となり、6ヵ国語の字幕、全世界に向けた時間差配信、そしてDiscordのライブチャットによるアーティストとのコミュニケーションなど、オンラインのメリットを活かした工夫がなされた。また、イベント名が「Motion Plus Design Tokyo」から「~WORLD」へと刷新。その新たな一歩として、日本人作家が特集された。本稿ではこの日のために集った7名のスピーカーの講演内容の見どころを、Motion Plus Designのファウンダーであり主催者のクック・イウォ氏のコメントを交えながら前編・中編・後編に分けてレポートする。前編には佐藤隆之氏安藤北斗氏が登場!

TEXT&PHOTO_山本加奈 / Kana Yamamoto
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

Motion Plus Designファウンダーが語るオンライン開催の意義

Motion Plus Designは東京・ロサンゼルス・パリでメインイベントが開催され、そのほかにも小規模なミートアップイベントが世界中の都市で開催されている、世界最大級のモーションデザインの祭典だ。まずはイベント開催の前に、初の試みとなったオンライン開催についてファウンダーのクック・イウォ氏にたずねると、次のように語ってくれた。

「コロナ禍の中、ロサンゼルス・パリ・ベルリン・イスタンブール・バルセロナ、台北ではフィジカルイベントに加えオンラインでの参加もできるように改善を積み重ね、東京開催においては100%オンラインで開催する決断をしました。『Motion Plus Design World | Japanese edition』はこうして誕生したのです。オンラインならではの工夫を実行するために、パリと東京をつないで事前収録を行いました。東京スタジオではアーティストのプレゼンを、一方パリでは我々の部分を収録し、本番ではあたかも同じステージに共存しているかの演出を試みました。この取材にはイベントの数日前に回答していますが、現時点で世界中の243都市からチケットの購入を確認しています!」。

クック・イウォ/Kook Ewo
Motion Plus Design ファウンダー

ハリウッドクオリティのモーションデザインが百花繚乱。計画と行動力で叶えた夢/佐藤隆之氏

▲『REEL2020』

午前10時、Motion Plus Design Worldのトップバッターとして登場したのは、佐藤隆之氏。After Effects界では通称「TAKA」としてその名が知られている。佐藤氏自身もMotion Plus Designのファンで2018年、2019年に渋谷ヒカリエに足を運び、多くの刺激を受けてきたそうだ。現在はフリーランスのモーションアーティスト、アートディレクターとして日本在住だが、彼のショーリールは『キャプテン・マーベル』、『アクアマン』、『アイアンマン2』など、有名な映画作品のタイトルシークエンスで埋め尽くされている。そこにたどり着くまでの佐藤氏の道のりを、プレゼンから紹介したい。多くのクリエイターに勇気を与え、参考になる内容だろう。

佐藤隆之/Takayuki Sato
otas.tv/

「14才のときに見た『ターミネーター2』が、CGに興味をもつようになったきっかけです」という佐藤氏の人生を動かしたのは、カイル・クーパーが手がける数々のタイトルシークエンスとの出会いだった。「カイルの作品を何度か見ているうちに、いつか自分もこのような美しい映像をカイルと一緒につくれるようになりたいと思うようになりました」。

日本で6年間の実務経験を積んだ佐藤氏は、「OTAS.TV」というポートフォリオを完成させ、ロサンゼルスへの移住を決意。立ちはだかる語学の壁には大層苦労したようで、6年間積み上げてきたキャリアがガラガラと崩れていくような、焦りとプレッシャーの日々だったという。そこで佐藤氏がとった行動は「自分計画表」の制作。ゴール設定、スキル分析、制作環境や残された自己資金、それに業界の動向までもリサーチし、60ページを越えるものとなった。

計画に従い、焦りを行動へと転換していった佐藤氏は、その後、無事に就職を決めモーションアーティストとしての日々が始まったのだが、3年後にはリーマンショックの影響で状況が一変する。いよいよ、日本への帰国を覚悟せざるを得なくなったとき、友人から「今夜、カイル・クーパーがハマーミュージアムで講演するんだけど行きませんか?」とのお誘いメール。二つ返事で誘いに応じ、作品集と履歴書を引っさげ最後のチャンスへと賭けたそう。講演後「Prologue Filmsで一緒に仕事をしたいです」とカイルに直談判をした佐藤氏は、その当時をふり返り「僕の英語はそんなに十分ではなかったんですけども、約10年の思いと願いが叶いついにPrologue Filmsに辿り着くことができました」と語った。

Prologue Films時代の話では、世界トップクラスのアーティストの中で揉まれ、アーティストとしてのスキルアップや学びを得ていくエピソードが続いた。佐藤氏の行動力は帰国後も変わらず、オリジナル作品『PORTAL』に着手。制作秘話などは、モニタに向かって前のめりになるほど興味深いものだった。佐藤氏の公式サイトにはメイキングも掲載されているので、訪れてみてほしい。

クック氏のひと言:「Takaは信じられないような傑作を生み出し続けているアーティストです」。

物理空間とモーションの関係。自然から着想する"目置き"の動きとは?/安藤北斗氏

▲『Beauty Innovation』

続いて登壇したのはwe+の安藤北斗氏。安藤氏が探求する動きは、オンスクリーンではなく、実際の空間だ。we+はコンテンポラリーデザインを基軸とし、企業とのR&Dや空間デザイン、プロダクトデザインなど、幅広い活動を行うデザインスタジオ。安藤氏は、モーションを使ったインスタレーションの話を披露した。「物理空間で行われる物理的な素材を相手に、モーションを加え、鑑賞者のフィジカルな場での体験を重要視してモノづくりをしています」。安藤氏によるとモーションは作品と鑑賞者をつなぐ役割があると言う。資生堂(銀座)のショーウィンドウに設置した『Beauty Innovation』は、日本人の多くがもつ原体験を呼び起こす共感装置として制作された。

安藤北斗/Hokuto Ando
weplus.jp

安藤氏の手がける作品のインスピレーションの多くは身近なところからきている。例えば『Beauty Innovation』ならば、小さいときに遊んだ「あやとり」と「絵の具を混ぜると変化していく色」に見た不思議な感動、そういった感覚を拡張し、物理的に再現を試みる。

▲シミュレーションは、デジタル空間内ではなく物理空間にモックアップを使って検証するという安藤氏

プレゼンで面白かったのが、緻密にプランを立て、電子的な機構でモーション制御し、シミュレーションを重ねるが、制御した先の本番でのモーションは、「どういう挙動をするのかわからない」と語った場面。「見ていて、ときにはハラハラしたり感情移入をしてしまう」という言葉が腑に落ちた。"自然のもつ不確実性"――安藤氏の言葉で言う「物理空間に入り込んでくるノイズ」を積極的に取り込んだモーション作品ならではの視聴体験ではないだろうか。

自然のゆらぎや、ぼんやりと何時間も飽きずに見られる焚き火やキラキラした水面。安藤氏のスタジオではそれらを「目置き」と呼んでいる。『MOMENTum』という作品では撥水加工したお椀状の縁にある8点から水滴を出す。そのタイミングやスピードは制御しているが、その後の水滴のモーションは水滴におまかせだという。水滴は、自重でクルクルと転がりながら様々な模様を描く。「水滴と水滴が転がってぶつかるんですけど、普通はぶつかると、ひとつの玉になるという現象を想像すると思うんです。しかし、実際はぶつかってはじいたりと、まったく予期しえなかった現象が生まれるんです」。

▲『MOMENTum』。we+が参加するクリエイティブコレクティブKAPPESの作品。撥水加工したガラストップの上を、水滴が予測不可能な挙動をする「目置き」作品

物理的なモーションで体験の拡張や共感性を追求する安藤氏が重要視するのは、先ほども述べたように自然現象や子供の頃から馴染みのある素材だ。しかし、オンスクリーンの表現にも可能性を感じていて、将来的には物理空間とかけ合わせたコラボレーションで面白い表現を探求したいと語りプレゼンを終えた。

クック氏のひと言:「安藤氏がつくるフィジカルなインスタレーションは、シンプルで純金のような混じり気なしの美が存在しています」。

「登壇するアーティストの選出は直感に頼ることが大きい。最高レベルの多様な才能が今回も勢揃いしています」とクック氏が語るとおり、中編・後篇も多様な小宇宙をもつアーティストが登場する。

中編は1月22日(金)公開予定!