2021年7月15日(木)、建築、製造、アパレルなどのデザインビズが学べる「CGWORLD デザインビズカンファレンス」が開催された。本稿では、株式会社日建スペースデザインによるインテリア設計事務所の建築ビジュアライゼーションに関する取り組みをレポートする。

TEXT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura、山田桃子 / Momoko Yamda

インテリアのビジュアライゼーションには建築と異なる要素が必要

▲石井雄太氏のプロフィール

本セッションでは、日建スペースデザインデジタルデザインチームテクニカルマネージャーの石井雄太氏が登壇し、建築・インテリア分野における3DCGと実写によるビジュアライゼーション(可視化)について詳しく解説した。石井氏はもともと建築デザインを専門領域としていたが、インテリアデザインを担当するようになってからそのちがいに驚かされたと言う。

▲建築とインテリアの考え方のちがい

建築は太陽光を外部から取り入れることが一般的だが、インテリアは内部から光を生み出し、陰影を見せることが重要だと言う。また、両者ではビジュアライゼーションの思想も異なっている。建築では都市や景観と一体化した哲学性が重要視されるのに対し、インテリアではその場でつくり出される刹那的な感情が重要になるという。このように、インテリアのビジュアライゼーションのためには建築とは異なる独自の要素を取り入れる必要がある。その3要素が「ライティング」、「マテリアル」、「ディテール」だ。

「この3つは建築分野ではなかなか徹底できない部分なのですが、インテリアではこれらの要素が目に見えてビジュアルに反映されるんです。また、インテリアのビジュアライゼーションは建築に比べてプロジェクトの進行スピードが早いので、そこについていく必要もありました」。

▲スペースごとに照度を細かく計測

例えば、ライティングについては、照度計を用いて各スペースで細かく照度を計測し、ビジュアライゼーションの際に光の濃淡を出すために活用している。また、インテリアのビジュアライゼーションでは何よりも実際に自分が体験することが大事だと石井氏は語る。「ホテルのビジュアルを担当するのであれば新しいホテルを見に行って、そこにある光や影の雰囲気、心地よさなどを実際に肌で感じることが大切です」。

実際に作成したビジュアルには、かなりハイメッシュなモデルが使われている。インテリアのスピーディーなプロジェクト進行に対応しながらクオリティの高い画像をつくり続けるために、制作にはRailCloneを取り入れる必要があったそうだ。

▲RailCloneを使うことによりハイメッシュなモデルを使用したビジュアルをスピーディーに制作

▲素材やインテリアの配置場所などもノード操作することで変更可能

LUMIONを用いたリアルタイムレンダリングでプロジェクトを加速させる

日建スペースデザインでは、LUMIONを用いたリアルタイムレンダリングも行なっている。「LUMIONを用いる理由としては、リアルタイムレンダリングで光の強弱などがすぐに調整できる点です。写真のように写実的な表現もできるので、今では手放せないツールになりつつあります」。

▲LUMIONを用いた写実的な表現

また、LUMIONは4Kに近い水準の画像13カットを35分でレンダリングできてしまうスピードに加え、プロジェクトを進める際の連携もしやすいところがメリットのひとつだという。「今回の例では、デザイナーが外形の建築のスケッチとモデリングをし、僕らが3ds Maxで細かいテナントの内装とハイメッシュな家具を制作します。これらをLUMIONに統合することで、プロジェクトの進行がスピーディーになりました」。

実写映像の撮影は手探りで、培った3DCG技術との調和をはかりながら進める

日建スペースデザインはここ2年ほど、実写映像の制作にも力を入れている。撮影対象はホテル、チャペル、オフィスなど多岐にわたる。最近の実写映像の取組は、もともと計画されていたものではなかったという。「たまたま僕がカメラをやっていて、会社の行事で写真などを撮影していたことがはじまりです。あるとき社内のリクルート動画を撮れないかと相談され、撮影したことが現在の取組のきっかけになりました。このときはデザイナーの卵を募集するわけだったので、シンプルにキービジュアルを卵にしました」。

NIKKEN SPACE DESIGN_People



この作業で石井氏は、コンセプトメイキングや企画、監督、撮影、編集まで一貫して携わり、実写映像にはストーリーが大事であると感じたという。

▲石井氏はコンセプトメイキングから撮影、編集まで全ての工程に携わった

その後、石井氏は竣工動画を撮影することになる。リアルな映像を撮影することで、3DCG制作のヒントになる学びも得られたという。実写映像には絵コンテをいっさい使わず、アドリブでその場で撮影する面白さや発見も体験することができた。

InterContinental Yokohama Pier 8/インターコンチネンタル横浜Pier 8

また、3DモデルをLUMIONでプレビズし、その後現地に足を運び撮影を行うこともある。3DCGと実写映像をうまく取り入れながらビジュアライゼーションを進められるのは、技術が蓄積された同社ならではと言えるだろう。

▲LUMIONと実写映像

最後に石井氏が、今後の事業の方向性について語ってくれた。「バーチャルな領域では3DCG画像やムービー、VRの制作をはじめ、フィジカルな領域では竣工動画など実写映像に関する取組もここ数年で進めてきました。両者の中間的な領域にデジタルアートやインタラクティブアート、モーショングラフィックスなどがあると思っていて、これらの領域にもゲームエンジンや様々なツールを使って手を広げていきたいと考えています」。

▲今後着手したい領域はバーチャルとフィジカルの中間領域だと語る石井氏