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2012 年 12 月に発売された Autodesk Smoke 2013。ConnectFXによるノードベースのコンポジット環境の追加、大幅な価格改定などで大きな反響を集めている本ソフトウェアであるが、今回は "ノマドスタイルのポスプロ集団 " をコンセプトに掲げる DEFENSE の創立メンバー 格内俊輔氏の自宅にお伺いして、Autodesk Smoke 2013 を使用した、ゆず『REASON』MV 制作をふり返っていただきながら、DEFENSE が目指す Autodesk Smoke 2013 を中心に据えた新世代のポストプロダクション構想について大いに語ってもらった。
アドレスフリーのエキスパート集団
DEFENSE は 2012 年 10 月1日に設立された非常に新しい映像プロダクションである。長年にわたり VFX スーパーバイザー/コンポジターとして活躍してきた川村大輔氏が中心となり起ち上げられた DEFENSE であるが、設立の決め手になったのは Autodesk Smoke 2013 の登場だったという。
「デジタル化が進む中で以前から既成の枠を超えたまったく新しいスタイルで映像制作が行えるはずだと考えていました。Autodesk Smoke には、2009 年に最初の Mac 版が登場したときから注目していたのですが、バージョン 2013 で大幅な機能強化と価格改定がされたことで、"これでいけるぞ"と。実用できる機材さえあれば、何か仕事はとれるだろうと考え DEFENSE としての活動を始めたのです」(川村氏)。
2013 年3月下旬時点のメンバーは、オンライン・エディター/ VFX コンポジターが川村氏を含めた4名と、オーディオ/ミキサー1名という構成。いずれも大手ポスプロで活躍してきた精鋭揃いなのだが、おもしろいことに、DEFENSE そのものは株式会社としての法人格を有しているものの、代表取締役の川村氏以外はみなフリーランスなのだという。
「それだけではなく、DEFENSE は自前のオフィスも編集室もありません。エディターは Autodesk Smoke 2013、ミキサーは Avid ProTools のライセンスを自前で持ち、案件に応じて先方のスタジオ(あるいは用意されたポスプロ)にお伺いしてクリエイティブワークを行うというスタイルをとっているんですよ」(川村氏)。
スケジュール管理などのマネジメント業務は、 家元 の荒木洋平ポストプロダクション・プロデューサーが担当。元々はオフライン編集専門であった家元だが、数年前に Autodesk Flame を導入したのを機に川村氏らと親交を深めていったのだという。
映像とサウンド双方において、ポスプロの編集室で完パケ作業を行う直前までをカバーできる体制が彼らのワークスタイルだというが、その根底にあるのは、従来型のポストプロダクションがエディター/ミキサーと編集室(機材)をセットで考えることが前提のため、結果として予算やスケジュールとの兼ね合いの中でクリエイティビティを最大限に発揮することが難しい(限定化されてしまっていた)ことを打開したいという強い意志があるそうだ。IT の進化によって、製造業や流通サービスにおいて、クラウドやアドレスフリーといった概念が定着しつつあるが、DEFENSE の場合は フリー・エージェント 方式を導入することによって映像制作の効率化(転じて、さらなる画づくりの追求)を目指していると言えよう。
そして、その最先端をいくのが自宅に本格的なオンライン編集スペースを構築してしまった格内俊輔氏だ。作業卓の上には液晶モニタが3台設置されており、DEFENSE のメンバーがノート PC などを持ち込んできた際には直ぐに接続できるようにディスプレイケーブルが出してあり、ペンタブレットとキーボードも用意されている。「仕事としてだけでなく趣味としてもコンポジットワークが大好きなんです(笑)。だから、一番リラックスできる自宅にも映像編集/合成ができる環境を作りたいと思い、DEFENSE 設立を機に実現させました。自分の家なので、誰でも呼ぶというわけではなく、気心の知れた監督やエディター仲間が自然と集まって共同制作をしたり画づくりの研究をしたりと、たまり場的な環境を目指しています」(格内氏)。
自宅なので、部屋着そして裸足でのびのびとオンライン編集ができるというが、1人きりの作業は意外と寂しいそうで、Facebook などの SNS を常に起動させた状態でエディター仲間や友人たちとコミュニケーションをとりながら作業をするというからおもしろい。
「将来的には、オンラインストレージやクラウドサービスを導入して、いつでもどこでも好きなときに画づくりができるという環境を構築したいと思っています。仕事の場合は、守秘義務やセキュリティについても配慮する必要があるので、さすがに時代を先取りし過ぎかもしれませんけど(笑)」。
格内氏の自宅に設置された Autodesk Smoke 2013。向かって左端のモニタは外部から持ち込まれた PC を接続することが可能であり、普段は監督チェック用に右側の画面をミラーリング表示させた状態にしてある。中央のピボットさせたモニタは、メールやチャットなど外部との連絡やネット検索などのインターネットサービスを表示するためのものだ
Autodesk Smoke 2013 がインストールされた MacPro とストレージは机の左脇に設置されている(一番左はプライベート用 PC)
全編 3DCG とのハードな合成による
ゆず『REASON』MV
DEFENSE が初めて本格的に Autodesk Smoke 2013 を導入したプロジェクトが、格内氏がオンライン編集を担当した、ゆず『REASON』MV である。
「11 月上旬にオファーを頂きました。その頃、Khaki の水野(正毅)さんが、Autodesk Smoke 2013 のプレリリース版で仕事を納品させたという話を聞きまして、これは負けてられないなと(笑)。商品版の発売前だったので自己責任にはなりますが、うまく扱えば実用できるということがわかり大きな励みになりましたね」(格内氏)。
ゆず『REASON』MV
監督:TAKCOM/CD:ファンタジスタ歌麿呂/制作プロダクション:P.I.C.S. /ポストプロダクション:DEFENSE/3DCG:小張泰洋(Triple Additional)/テクニカル・ディレクター:真鍋大度(Rhizomatics)
© TOY'S FACTORY INC. / © SENHA & Co. All Rights Reserved.
本作の監督は TAKCOM 氏。3DCG は Triple Additional の小張泰洋氏。そしてテクニカル・ディレクターとして Rhizomatics の真鍋大度氏である。今注目のクリエイターたちと一緒に仕事ができるということもあり快諾したそうだ。
「今までモーショングラフィックス系の人と一緒に仕事することがなかったので、良い機会だと思いました。それにどうせなら、プロダクションにお邪魔して同じ環境で作業出来たら面白いかなと思い、先方に MacPro を持ち込んだんです。モニタやストレージも込みで作業環境を丸ごと持っていったんですごく重くて...... iMac だったら楽だったんですけどね(笑)」(格内氏)。
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Autodesk Smoke 2013 についてはプレリリース版の検証も行なっていたが、元々格内氏はバージョン 2012 からのユーザーであったため、アーカイブを持っていくことを考えると 2012 での作業が基本となったとのこと。バージョン 2012 での作業については、ノードベースの合成が出来なくても問題なく、レイヤーを縦に積んでいくというやり方も嫌いではなかったというが、本作のように 3DCG 合成を多用した作品になると、Autodesk Smoke 2013 の新機能である ConnectFX の恩恵は絶大で、2013 を使わなければ成し得なかった部分も多いという。
「2012 と 2013 の大きな違いに関しては、ConnectFX と素材のイン・アウトの強化だと思います。Autodesk Smoke 2013 が優れている点は、コンポジットも強いし、タイムライン編集にも強い、さらにはタイムラインの中に入って ConnectFX を利用することもできるということ。つまり"縦にも横にも中にも強い!"という点ですね」(格内氏)。
その他にも、これまでのバージョンにもあったソフトインポートの機能は、リンクで作業する部分が大幅に強化されており、Autodesk Smoke 2013 をハブとして静止画や実写、3DCG などの多種多彩な素材を取りまとめるには最高のツールだったという。
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MV 制作における
Autodesk Smoke 2013 の強み
『REASON』の映像に関しては、監督から世界観について「スペーシー(Spacy=宇宙空間的)で」というオーダーをもらっており、提案とディレクションを繰り返しながら画づくりが進められていった。基本コンセプトが通常の MV とは異なり「アーティスト(ゆず)をできるだけ見せない」というユニークなものだったため、今でこそそれなりにゆずの2人が見えているものの、当初はもっと加工して、よりスペーシーさを極める方向性だったという。
実際の制作において Autodesk Smoke では、背景を作成したり、Sapphire プラグインでレンズフレアや光のエフェクトを追加したり、3DCG データをアルファチャンネル付きの連番素材でもらい、被写界深度( 3DCG 側からデプスマップを書き出してもらい ConnectFX の Depth Of Field ノードで被写界深度を調整)を付けたり馴染ませたりといった作業に使われた。編集の作業を始めたのと同時に 3DCG 制作もスタートしていたため、一緒に作業して素材が出来上がれば直ぐに合成という、スピード感のある体制で作業が進められた。
予想外だったのは納品の 2 日前、格内氏がノロウイルスにかかってしまったこと。そのため、Autodesk Smoke 2013 を使える他のエディターを探してみたそうだが、当時はプレリリース版だったこともあり見つからず、結局、格内氏が自宅に引き篭もって必死の思いで仕上げたという。ちなみにその際、小張氏や監督とは Skype を利用して連絡をとっていたとのことだ。
Sapphire の使用例。Autodesk Smoke でも Sapphire プラグインを重宝しているとのこと。「基本的にはライトエフェクトの補助的な役割として Glow などを用いています」(格内氏)
タイトな制作スケジュールだったため、大サビパートの 3DCG 素材は3パターンしか用意することができなかったというが、そのデータに Autodesk Smoke 2013 上で各種加工を施すことにより、使い回しをまったく感じさせないバリエーション豊かな VFX に仕上げられている。
また、アーティストに対するエフェクト表現については、TAKCOM 監督から Trapcode Mir で作ったモーショングラフィックス素材を作ってもらい、それを Autodesk Smoke 2013 のタイムライン上で合成させている。このエフェクトは制作中に何度かバージョンアップされたそうだが、Autodesk Smoke 2013 の優れたデータ管理機能により、元素材を入れ替える(ノードを繋ぎ替える)だけで済んだという。
「Smoke は素材をすごく管理しやすいんです。誰が見ても修正できるようになっている点が、本当に優秀だと思います。素材の自動更新も可能ですし、ソフトインポートした素材は同じ名前で同じフォルダに入れ直せば、アップデートされますし」。
また ConnectFX の利点についても、「ConnectFX がかかっているカットは、そのカットの ConnectFX に入ると Media Library にフォルダができ、インポートした素材が全部収納されている。つまり 2013 ではカットに必要な素材を ConnectFX に入れておくだけで ConnectFX フォルダに収納でき、ライブラリが煩雑に成らないのが良いと思いました」と格内氏。
ConnectFX の使用例。被写界深度を調整するための Depth Of Field を調整している
また Autodesk Smoke 2013 を使った画づくりでは、合成中に枠(最終アウトプットのサイズ)の外まで見ることができるためレイアウトの調整が行いやすかったと言う。「2D をなるべく平面的に見せないという画を目指していたんですが、これはアニメからの影響が大きいです。現在のアニメは撮影技術がすごくて、ここ1~2年の間、2D の画を 3D 的に見せるという方法をアニメを見ながら勉強していました。言ってしまえば、僕の画づくりの良さはアニメが元になっているんです。ちなみに最後のカットは監督から "エヴァンゲリオンみたいな感じで" とオーダーされたので、セカンドインパクトのようなイメージを目指しました(笑)」(格内氏)。
このカットでは高解像度の背景素材に対して、Autodesk Smoke 2013 上でカメラワークを付けている。アニメ鑑賞が趣味という格内氏らしいアニメの撮影技法を実写 VFX に応用した好例だ
そのほかにも、アーティストの身体がパーティクル状に散っていく表現があるのだが、これは演奏中のアーティストを Kinect でモーションキャプチャし、それを、本作のテクニカル・ディレクターを務めた真鍋大度氏が作成したプログラムによって OBJ 連番として書き出し。そのデータをさらに 3ds Max で小張氏が加工して 3DCG 素材を作成し、最終的に Autodesk Smoke 2013 上でコンポジットするなど、技術的に面白い試みが随所にみられるので、そうした点にも注目してもらいたい。
より柔軟なクリエイティブワークを
実践するために
Autodesk Smoke のモバイル運用に関しては、既に MacBook Pro(以下、MBP)で使用しているという。MBP は 2011 年モデルの 17 インチを所有し、ネットワークライセンスを使ってモバイルでも運用できるようになっている。使用する MBP は、SerialATAIII の SSD を内蔵させているので、フル HD 程度であれば問題なく作業でき、実際に外へ持っていく機会が増えてきているのだとか。
最近のプロジェクトでは、Perfume『未来のミュージアム』MV のオンライン編集も、格内氏が Autodesk Smoke 2013 で仕上げたそうだ。本作では、漫画のコマのようなフレームをアーティストやキャラクターたちが次々と移動するというモーショングラフィックスが多用されているが、この表現では、フレーム内の VFX を ConnectFX で合成し、フレーム自体のアニメーション(視覚的には階段状のタイムラインになっている)はタイムライン上で加工しているという。そうした使い分けができるのも、Autodesk Smoke 2013 の強みで、同じようなことをレイヤーベースのコンポジットツールでやろうとすると、延々とレイヤーを積み重ねなければならず、とんでもないレイヤー数になってしまう。しかし Autodesk Smoke 2013 には ConnectFX が実装されていることで、比較的少ないレイヤー数に収めることができる。これこそ"縦にも横にも中にも強い"という同ソフトのアドバンテージと言えるだろう。
Perfume『未来のミュージアム』ダイジェスト
「先日、 Autodesk Smoke 2013 の 4K パフォーマンスを検証してみたんですが、その結果によると 4K でもリアルタイム再生できたんですよ。自宅環境のグラフィックスボードを GeForce GTX680 に変えたことで 8 ビットカラーであれば 4K でも再生できました。2K なら 16 ビット素材も再生可能で、自宅でこれほどのパフォーマンスが出せるのは本当に凄いことだと感心しました」(格内氏)。
ちなみにハードウェアはこの後、強化していきたいようで、今年の春に出ると噂されている次期 MacPro を狙っているのだとか。ストレージはモビリティ性を考えると PCI スロットに HBA(ホストバスアダプタ)を入れるようなタイプではバラして繋ぎ変えるのが大変なので、Thunderbolt のものにしたいと考えているという。
最後に、DEFENSE のメンバーに今後の目標を聞いてみたところ、次のような答えが帰ってきた。「DEFENSE メンバーにはミキサーもいるので、編集時には SE も音楽がついてないという仕事があるんですが、エフェクトを作る時に感覚が分からないことがあるんです。そんな時に、仮の画をクラウド上にアップして音を付けてもらうといったこともやってみたいな......と思っています」(格内氏)。また荒木氏は、今後、DEFENSE の中でクライアント試写ができる場所を作ったり、DEFENSE に限らず外のエディターとの交流も増やしていきたいと抱負を語ってくれた。
「Smoke は人とのつながりを増やすコミュニケーションツール。Autodesk Smoke 2013 のおかげで色々とつながりができました」とまとめてくれた格内氏。今回の取材を通して著者も、格内氏のサービス精神とアーティスト的な感覚に感銘を受け、彼等のようなアーティスト集団の可能性が、格内氏の言葉通り、Autodesk Smoke 2013 によって広がっていくのを感じた。次世代ポスプロという流れが確実に起きているということを実感する、とても刺激的な取材であった。
TEXT_小林正樹(WINK2)
PHOTO_大沼洋平
Autodesk Smoke 2013
価格:535,500 円(コマーシャル スタンドアロン版)
OS:Mac OS X 10.6.6、10.6.7、10.7.2 または 10.8.x ※64ビット Intel マルチコア プロセッサ
RAM:8GB 以上を強く推奨
※詳しくは 公式サイト を参照のこと
問:オートデスク 株式会社